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     白の記憶 -第5話-
作者:鏡裏さん

『ひろちゃんにとって私って何なの?』
 妹…
 妹なんだよ。
 あの時誓ったじゃないか。
 でも、同時に前より意識している自分がいる…

『ひどかったらしいわよ、事故』
『まあ』
『どうしてこんなことになったかねぇ』
『ところであの二人はどうするの?』
『え?』
『ほら、子供達だけになっちゃったでしょ』
『ああ、あの子達ね』

『誰かが引き取るのかしら?』
『うちはイヤよ。
 うちの子、今年受験なんだから』
『うちだってイヤよ…』
『やっかいなことになったわねぇ…』

 両親が死んで、俺達兄妹は親戚の間で厄介もの扱いされるようになった。
 しかも由美は記憶喪失だ。
 普通以上に疎まれる。
 俺はそんなこと一度も思ったことないが…

 こういう理由から俺は由美と二人で暮らすことにした。
 そしてその時誓った。
 妹を…由美を守って行こうと…
 たった一人の家族だから。

 こんなこと思うのは単なる自己満足なのかも知れない…
 そう思いもした。
 それでもやはり由美にはこれ以上悲しい思いはして欲しくない。
 俺が守ろうとする事がどれほどの力になるかはわからない。
 それでも俺は…
 やはり自己満足かも知れない…
 思考は回り始め、結論は出ない。

『ねえ、お兄ちゃん…』
『ゆうちゃん…』
『お兄ちゃんっ』
『ゆうちゃん?』
『お兄ちゃん…』
『ゆうちゃん…私ね…』
『お兄ちゃんのこと…』


 ジリリリリリ……
 ?!
 寝てたのか…
 全然寝た気がしない…
 とりあえず起きるか…

 台所に行くと由美がいた。
「あ、おはよう、お兄ちゃん」
「………」
「御飯すぐに出来るから座ってて」
「………」
「どうしたの?」
「…ああ」

 間もなく食事ができあがる。
「お兄ちゃん、おいしい?」
「あ、うん」
「なんか様子が変だよ」
「……演技するならもうちょっとうまくしろよ」
「あっ、ひどーい。
 これでも中学の時は演劇…あ」
「単なる演技でもなさそうだな」

「どうしてだ?」
「うん…」
「……」
「えっとね…」
「昨日のことで俺の態度が変わるのが怖かった」
「うん…」
「それなら記憶が戻ったふりをして、昨日のことはよく覚えてないと言うつもりだった」
「うん…」

「さっきの中学の時っていうのは?」
「思い出したわけじゃない。
 日記を読んで知っただけ」
「………」
「私は逃げたの」
「?」
「例え冗談でもあんなこと言って、ひろちゃんの態度が
 変わっちゃうんじゃないかって怖かったの。
 私にはひろちゃんしかいないから…」
「冗談じゃないだろ」
「………」
「どれだけ一緒にいると思ってんだ。
 冗談か本気かぐらい分かるよ」

 由美はそれっきり黙ってしまった。
 やがて食事は終わり、それぞれの部屋に戻る。

 俺はどうするべきなんだ…
 俺はどうしたいんだ…
 俺がしたいのは…

 コンコン
「どうぞ……ひろちゃん…」
「………」
「………」
「…由美…今でも俺のこと好きだと言ってくれるか?」
「…好きだよ…」
「………」
「でも、それでひろちゃんが困るなら私は…」

 俺は由美を引き寄せた。
 そして、そのまま抱きしめる。

「俺のことはいいんだ。
 由美の正直な気持ちを教えて欲しい」
「私は…好きだよ。
 すごくすごくひろちゃんのことが好き」
「ありがとう…」

「俺はおまえを守ることにこだわりすぎていたのかも知れない」
「………」
「これからは守る守られるじゃなくて、対等な立場で一緒に過ごしていきたい」
「…うん」

 由美がぎゅっと抱きついてきた。
「ひろちゃん、一つお願いがあるんだけど…」
「ん?なんだ?」
「あのね…」
 由美が俺を見つめてくる。
 そして、ちょっと背伸びをして、二人の唇が触れる。
「えへへ」
 自分のしたことに照れている由美の態度が印象的だった。

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