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     白の記憶 -第2話-
作者:鏡裏さん

 由美は検査が終わるまでしばらく入院することになった。
 怪我のほうはそんなに酷くないので出歩くことは出来るが、
 由美は部屋で本を読んでいることが多いそうだ。

 コンコン
「入るぞ」
「は〜い」
「なんだまた本読んでるのか?」
「はい…」
「たまには外に出よう」
「外に?」
「外って言っても中庭だけどな」

 この頃は少し前までの暑さが嘘のように秋の気配が濃くなっていた。
 それでも暑い日はある。
 今日は比較的涼しかった。
「どうだ外もたまにはいいものだろ?」
「うん…」
 お?少しは打ち解けてくれたかな?

 秋の日差しが優しく身体を包み込んでくれる。
 日の光を浴びて由美の髪が輝いて見えた。
 二人で木々の並ぶ通りを歩く。
 それにしてもここの中庭でかいな…

「そこに座らないか?」
 俺は木の側にあるベンチを指差す。
「うん」
 少しの間の沈黙…
 自分からはなかなか話しかけてくれないか…

「どんな本読んでるの?」
「う〜ん、この頃は恋愛小説でしょうか?」
「恋愛小説ねえ」
「看護婦さんが買ってきてくれたんです」
「おもしろい?」
「はい」

「そっか」
「弘さんはどんな本を読むんですか?」
「俺?俺はあんまり本を読まないんだ」
「そうですか。残念」

「残念?」
「本貸してもらおうかなって思ったんですけど…}
「それだったら買ってくるよ」
「ええ、いいですよ。悪いですし」
「遠慮なんかしなくていいよ、家族なんだから」
「…じゃあ、お願いします」

「で、どんな本がいい?」
「それは任せます」
「わかった。由美に合いそうな本を選んでくるよ」
「楽しみにしてますね」
「ああ」

 いつものように時間が過ぎるのは早い。
 ほとんど毎日来てるけど、少しは慣れてくれたかな?
 まだ敬語で話してるのが気になるな…
 時間を懸けるしかないか…

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