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     白の記憶 -第4話-
作者:鏡裏さん

 二人だけの新しい日常は大きな問題もなく、過ぎていった。
 由美の態度がときどき妙によそよそしくなったりしたが…

 由美の記憶は相変わらず戻っていないように見える。
 少なくとも俺にはそう見える。

 コンコン
「由美、入っていいか?」
「どうぞ〜
 なに?ひろちゃん」
 前はお兄ちゃんって呼んでくれたのにな…

「ん?どうしたの?」
「イヤ、別に…
 ところで、どこか遊びに行かないか?」
「どこかに連れてってくれるの?」
「うん、たまにはね」
「うれしいな〜」

「で、何で買い物なんだ?」
「ひろちゃんはこういうの嫌い?」
「そんなことないけど…」
「私は好きだよ、こういうの。
 二人で買い物って楽しいじゃない」
 そう言って俺に微笑みかける。
「あ、うん、まあな…」
 なんか久しぶりにまともに顔見たような気がするぞ。
 不覚にもドキッとしてしまうし…
 どうなってんだ、俺?

 そう言えばこの頃あんまり目を合わせてくなかったような…
 俺何かしたかな?

「どうかしたの?」
「ん?秘密」
 どうも物思いにふけてしまうな…
「なにそれ〜」
「秘密は秘密だ」
「もう」
 由美はすねたような表情を見せる。
「そんなところで立ち止まってると置いてくぞ」
「わっ、待ってよ〜」

「ねえ、なに買うの?」
「さあ?由美が来たいって言ったんだろ」
「あれ?弘じゃない?」
「あ?」
「ひろちゃんガラ悪い…」

「ん?なんだ美紀か」
「なんだはないんじゃない?
 あれ?えーと、こちらは?」
「柄にもない言葉使うなよ」
「うるさいわねっ」
「妹だ」
「ふ〜ん、あんたに似てなくてかわいいわね」
「やかましい」

「あの…」
「ああ、ごめんごめん。
 これはバイト先で一緒の美紀」
「これってなによ…
 え〜と…」
「由美です」
「由美ちゃん、はじめまして」
「初めまして」

「で、何してたの?」
「何って買い物だよ」
「ああ、由美ちゃんとデートね」
「バッ、由美は妹だぞっ」
「なに動揺してんのよ。
 もしかして図星〜
 じゃあ、邪魔者は去るわ〜」
「いったい何なんだよ…」
「………」

 その後の由美はなぜかあまりしゃべらなくなってしまった。
 いったいどうなってるんだ…

 結局夕食のあと由美は部屋にこもっている。

 コンコン
「ゆうちゃん…いい?」
「ああ」
「………」
「………」
「………」
「どうしたんだ?」
「うん…」
 話しにくい事なのか?

「私って何なのかな…」
「え…」
「ひろちゃんにとって私って何なの?」
「何って…妹だろ…」
「……じゃあ、あの美紀って人は?」
「あいつは…一緒のバイトしてるだけだよ」
「…仲良さそうだね」
「そうか?」
「そうだよ!」

「どうしたんだ…由美…」
「私胸が苦しいよ…」
「………」
「ひろちゃんのこと考えると胸が苦しいんだよ…」
「………」
「妹だっていわれてもわからないよ。
 私には記憶がないし、未だにひろちゃんをお兄ちゃんだとは思えない。
 強くなっていくのはこの想いだけ…
 ねえ、ひろちゃんにとって私って何なの?」
「………」
「………」

「俺は…」
「あはは…冗談よ、冗談。
 真面目に考えないでよっ」
 そう言って由美は部屋を出ていこうとした。
「由美」
 由美はビクッと過剰な反応を示す。
「…な、何?」
 そのまま背を向けて聞いている。
「……イヤ、いい」
 それを聞くと由美は部屋を出て行った。

 なあ、由美…
 冗談ならどうして泣いてるんだ…

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