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     白の記憶 -第3話-
作者:鏡裏さん

 検査の結果で新しく分かったこともほとんどなく、私は退院することになった。

「さあ、ここが由美の部屋だ。
 って言うのも変だけどな」
「ここが私の部屋…」
 私は部屋の中のものを見てまわる。
「じゃあ、俺は自分の部屋にいるから」
 部屋を出ていく前にもう一度振り向って弘さんが言った。
「あっと、俺の部屋は隣だから」
「うん、わかった」

 これは学校のノート…
 確かに私の字だ…
 やっぱりここが私の部屋なのかな。
 自分の部屋なのに何があるのか分からないなんて変な感じ。

 あ、本がいっぱいある。
 これって読んだことあるんだよね…
 でも全然覚えてない…

 最近記憶がないという状態に慣れて来たような気がする。
 だけど、こういう自分の知らない自分に触れると自分は記憶がないんだって実感する。

 記憶がないか…
 弘さんは自分は私の兄だって言ってたよね…
 初めて会ったとき…こういうふうに言うのは変なのかもしれないけど…
 なんか懐かしい気がした。
 初めて会ったはずなのに、ずっと前から知ってるような不思議な感じ。

 やっぱりお兄ちゃんなのかな…
 記憶はなくても身体が教えてくれる。
 でも頭では理解できない。

 お兄ちゃん…
 私と弘さんって仲良かったのかな?

 あれ?これって…
 一冊のノートが引出しの中を見ていた私の目に止まる。
 日記?

 私はそのノートを読み始めた。
 自分という人間の過去が蘇ってくる。
 なんだか変な感じ。
 自分がしたことのはずなのにひどく客観的に思える。

 日記を読み進めていくうちに私はあることに気がついた。
 弘さん、すなわちお兄ちゃんについて書いてあることが多い。
 もしかして…
 私は頭の中で本来あるはずのない仮定を作りだす。
 そして、その仮定はすぐに確信へと変わった。

『私はお兄ちゃんのことが好き』

 私は弘さんのことが好きだった…
 イエ、お兄ちゃんのことが好きだった…
 私は…

 コンコン
「入るぞ」
「え、あ、うん」
「ん?どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない…」

「ま、いいか…夕御飯何がいい?」
「え?弘さん作れるの?」
「ん?ああ、まあね」
「う〜ん、私の好きなものって分かる?」

「………」
「ん?どうしたの?」
「いや、口調が変わったなと思って」
「え?あ、ごめんなさい」
「ううん、そっちのほうが自然だよ」
「うん…」

「ああ、分かるよ。
 じゃあ、由美の好きなものね」
「う、うん」

 弘さんがいなくなった部屋を再び静寂が支配する。
 まともに顔見れないよ〜
 なんか変に意識しちゃうし…
 私どうなっちゃうんだろ…

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