近世初期にみる奈良町の町家


 奈良町を描いた風俗屏風絵図はあまり知られていませんが、この「奈良名所図」は17世紀の制作だと言われています。これは六曲屏風一隻で大仏殿のある東大寺とその下に位置する興福寺、その右横に猿沢池から春日大社、そして、奈良の町並みが描かれています。これを見るとその当時の奈良町の様子がよくわかります。通りには2、3人の僧侶がいて行商する物売り、また犬と遊ぶ子供達がいます。ここに描かれている町家は木造平屋建ての平入で、板葺石置き屋根に土壁が塗られ間口2間〜2間半程の家が並んでいます。間口2間のうち1間は太い材で縦横に組んだ窓で、前には揚げ見世を降ろして商品を並べています。もう1間は小壁と大きくとられた戸口にのれんが掛かっています。戸口から内部に入ると土間とミセノマの床張り部分があり、ここで接客している様子が伺えます。これは前述の洛中洛外図(舟木本)に描かれた町家によく似ています。


奈良名所図