伝統的町家と建具

 伝統的町家の古い形と言えば、まず思い浮かべるのが絵巻や絵図などに描かれている町家です。古代の町家が描かれている年中行事絵巻や信貴山縁起絵巻、中世の町家が描かれている洛中洛外図(歴博甲本)、近世であれば洛中洛外図(舟木本)など時代時代で町家が変化し発展してきているのがよく分かります。 信貴山縁起絵巻には12世紀頃の庶民の家が描かれています。屋根は板葺きで壁は土壁。戸口は大きく開かれ、土間では家人が糸を紡ぎながら敷居に腰掛けている人と何やら会話をしています。その戸口は片引きではなく、おそらく昼間は開け放してのれんを掛け夜は閉めるという跳ね上げの板戸、いわゆる大戸と呼ばれているものであろうと想像できます。そして、横の居室の窓からは母親と子供達が外の吠える犬を覗き、父親であろう主人が犬をなだめるている様子が描かれています。その窓の建具は廻りの桟に縦横十字に組子を通しその裏に薄い割板を貼った木連格子の板戸で非常に簡単な構造になっています。上部の吊り元を突き上げ棒で支えてある、いわゆる蔀戸を吊った高窓になっています。昼間は外へはね上げ棒で支えている突き上げ窓です。夜はその棒をはずし、雨戸、板戸として防犯の役目も果たしています。また、内部には横桟の舞良戸がはめられており、総じて簡単で経済的な造りに感じられます。通りに面した壁は、開口部分より多くわりあいに閉鎖的な町家に感じられます。


信貴山縁起絵巻

 次に近世初頭17世紀の洛中洛外図(舟木本)の町家の姿を見てみると、前述は郊外の街道沿の素朴な情景の町家であったのに対して、都の町家で人々や往来の様子も活気にあふれています。ここに描かれている町家は商家で、戸口には大きなのれんを掛け、床几を店先に出して商品を陳列し掃き出しの状態になっています。そこに腰を掛けた客と店主が商談をしています。床几をよく見ると柱に穴をあけた座を取り付け、床几の横桟を丸く通しているのがわかります。いわゆる揚げ見世ですが、夜になると横桟を軸に床几を上に上げ、防犯を兼ねた雨戸や板戸になるという実用的かつ機能的な装置であることがわかります。その上部は描かれていないので分かりませんが、おそらく蔀戸ではね上げになっていると思われます。見世の間には腰高障子がはめられています。
 こうして見てみると構造と意匠が一体となっていることがよくわかります。


洛中洛外図(舟木本)