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     メークアップ! Y・U・K・I 第4話(最終話)「そして、新たなる戦いへ」
作者:MIDI木魚さん

 ともやの様子がおかしい。
 いつもなら学校を休むことなんてなかったのに。
 朝のホームルームの時間、先生は、ともやは風邪で休みだと言っていた。
 でも、ともやは風邪はひかないのだ。
 ゆきは、隣の席の女の子に何か知っているか聞いてみた。

「ああ、なんか昨日からおかしかったわよ、ともや君。思いつめたような表情してた」とその女の子が言う。
 ええっ、と驚くゆき。
 女の子は、続けてこうも言った。

「なんか“俺もうだめかもしれない”みたいなこと言ってたのよ」

(あの変態ともやが!?あのボクのお尻をさわる変態ともやがっ!?)
 一体どういうことだろう。
 風邪でないとすると、何がともやに起こったと言うのか?

 その日の夜、ゆきはいつものように自分の部屋でネットを楽しんでいた。
 すると、突然ウィザードが現れて叫んだ。

「ゆきクン!この地方でスパイウェアの感染が広がっているようだ!今、ゆきクンのPCはボクが食い止めたけれど用心した方がいい!これがデビルウエッブによるものかどうかはわからない」

 ちょうど同じ頃、ゆきのクラスメイトのかおるも、やはり自分の部屋でPCを見ていた。
 一週間のスケジュールを確認しているところだった。
 明後日のところに、“ゆき君と総合病院へ安西先生のお見舞い”と書いてある。
 この時、かおる自身は気づいていなかったが、かおるのPCはネットを通じてスパイウェアに感染していた。

 次の日、学校で、ゆきとかおるは小学校の頃の担任の安西先生のことについて話していた。
 安西先生はだいぶ前、のどにあまり良くない腫瘍ができて入退院を繰り返している。
 それで、ゆきとかおるのように当時お世話になった生徒達は、今でも定期的にお見舞いに行っているのだ。

「今度、退院できるみたいよ?」とかおる。
「へえ、そうなんだ。再発さえしなければ元気なのにね・・・」と言いつつ、ゆきは、ともやの席を見た。
 今日も休みだ。
 こんなこと今まで絶対になかったことだ。
 おかしい。
 一体どうしたと言うのだろう? 
 放課後になると、かおるとよく話をしている山口由香が、ゆきに話しかけてきた。

「ゆき君。さっき、かおるちゃんが先に病院行ってるから伝えておいてって・・・」
 ゆきは、思わず「え?」と聞き返した。

(おかしいな、お見舞いに行くのは明日じゃなかったっけ)
 しかし、すぐに自分の勘違いかもしれないと思い直した。
 今日、かおるはあんなに安西先生のことを話していたではないか。
 それで、ゆきはとにかく病院に行くことにして、由香にもそのように返事をした。

 山口由香が自分も帰ろうとしてかばんを持った時、目の前にかおるが現れた。
 由香は声をかけた。

「あ、かおるちゃん。まだ病院行っていなかったの?」
「病院?ああ、明日行くわよ」
「えっ!明日?さっき、今から行くって・・・?」
「わたし、そんなこと言ってないわよ!」驚くかおる。
 続けざま由香に聞いた。

「それ・・・それ確かに私が言った?」
「う・・・うん。言ったよ?そんな風に。それで、そのことをゆき君に言ったら、彼も今から病院に行くって・・・」

 訳がわからず動揺する由香。
 かおるの顔色がみるみる変わっていく。
 由香はうそをつくような子ではない。
 自分を見間違える事も絶対にないはずだ。
 と言うことは、つまり、信じられないが、自分のニセモノがいて、ゆきを何故か病院へ誘導しようとしているのだ!
 何の目的かはわからない。
 ただ、ひょっとして、このところ周囲で起こっている不思議な事件と何か関係があるのではないか? なにか・・・なにか、ゆき君に危険が近づいている!
 彼を助けなくては!

「あっ、かおるちゃん!」
 呼び止める由香をふりきり、かおるはまるで矢のように飛び出していった。
 そして、その背後にそれを見てニヤリと笑う人影がいた。
 かおるにそっくりなその人影は、しばらくすると静かにPCルームの方へ消えていった。

 ゆきが病院に着いた頃、周囲はもう真っ暗だった。
 総合病院は、近代的な設備の整った大病院である。
 その広い、吹き抜けの上品なエントランスは、まるで都心のホテルを連想させた。
 診療時間はとうに過ぎていたため、受付には誰もおらず、見舞い客は自由に出入りできたが、院内は 一部消灯しており、人気がなくがらんとしていた。

「病院だから・・・しばらくケータイの電源は切るね。でも、もしバーチャルウイルスが出て来ても、ウィザードも一緒に出て来れるんだったよね?」とゆき。
 ゆきがケータイの電源を切るとウィザードも消えた。

「安西先生の病室は、たしか第3病棟だったな・・・」
 ゆきは第3病棟に向かった。
 薄暗く無人の廊下を歩いていく。
 ふいに、ゆきは誰かに呼び止められた。

「寝華麻さん」
 振り向くゆき。
 すると、いきなり棒のようなもので頭を殴られた。
 ゆきは、よろめいて倒れてしまった。
 そして、気絶して廊下に横たわるゆきの首に何者かの両手が伸びた。
 まさに、その時である。

「何やっているのッ!!人を呼ぶわよ!!」
 廊下中に響くかおるの声。
 ちょうどゆきを追って今しがた病院に到着したのだ。
 走ってきたらしく、まだ息をきらしている。
 その声にびっくりして、ゆきの首から両手を放す男。
 男は、あわてていたせいか、かおるにぶつかって急いで逃げていった。
 ゆきを殴って気絶させた人物である。

「ゆきクン、ゆきクン、大丈夫っ!?」
 ゆきの体を懸命に揺するかおる。
 ゆきは、すぐに気がついた。

「あの男っ!!」
 立ち上がって男を追うゆき。

「ゆき君っ」
 かおるはゆきの後を追う。

 ゆきは病院の外に出た。
 すると、正面のビルの屋上に、まっすぐこちらを見下ろして立っている一人の男がいた。
 それがさっきの男であることは、すぐにわかった。
 男は高らかに言った。

「ふふ、わたしがメイト・アロゥだ!寝華麻ゆき君。君には世話になっているね。いっそオフラインで始末しようとしたが、うまくいかなかったようだな。まあいい、さあ変身したまえ!」

 月明かりに照らされた男。
 驚いたことに、それはまだ中学生位の子供だった。
 不敵に笑っている。
 顔立ちは日本人だが、喋り方は日本語慣れしていない外国人のようだった。

「あれが・・・メイト・アロゥ・・・!!似ている!?ともやに!!・・・」
 その頃、ともやは、自宅の床で苦しんでいた。

「う、ううっ!!」
 脂汗を流して苦しむともや。
 全身を邪のエネルギーに蝕まれたかのように、顔をゆがめて身もだえしている。
 その様子は、まるで必死に何かに抵抗しているかのようだった。

 ゆきは、ケータイの電源を入れた。
 ウィザードが現れる。

「いっつ☆ちぇんじんーぐ!!」
 ゆきが右手を高く上げると、空中にまばゆいばかりに輝く銀色のデジカメが出現して、手の中にすべりこんだ。
そして、目を閉じたゆきがデジカメを自分の方へ向けてシャッターを押すと、周囲は一瞬にしてきらきらと光の輝く異空間となった。
 そして、シルエットのゆきが「めーくあーぷっ!!」と叫ぶと、髪の毛が一気に腰の辺りまで伸びて、目の覚めるようなピンク色にかわった。
 閉じていた目を開くと瞳の色も深いグリーン色にかわっている。
 そのまま大きくウインクをして一回転すると、光のヴェールにつつまれていた全身が、白ロリ姿にかわった。

「ネットもリアルも、ゆきにおまかせ!!」
 笑顔でびしっとポーズを決めるゆき。

「ゆきクン・・・!」
 ゆきの変身を初めて見て驚くかおる。

 メイト・アロゥが叫んだ。
「やはり都心の破壊神といったらこれしかないだろう・・・出でよ!!ゴジラ!!」

 その瞬間、背番号55番のユニフォームを着た、身長50メートル位の野球選手が辺り一面の煙とともに現れた。
 頭にヘルメットをかぶり、右手に特大のバットを持っている。
 メイト・アロゥは、その肩に飛び乗った。

「行け!!あの小娘を叩き潰せ!!」

 ゴジラは、バットをふりまわしてゆきに攻撃してきた。
 野球選手らしくない、めちゃめちゃなスイングだ。
 ジャンプして難なくその攻撃をかわすゆき。
 むきになるゴジラ。
 しかし、その攻撃は少しもあたらない。

 そして、ゆきはただ単にかわすだけでなく、何度もゴジラの足に蹴りを入れていた。
 野球選手は、足元がおろそかになってよくデッドボールをもらうものだ。
 やがて、ゴジラはゆきの攻撃に耐えられなくなって膝をついた。

(強い、強いぞ、ゆきクン・・・こんなに成長するなんて・・・)
 ウィザードは、ゆきに感動していた。

「ウィザード!」
 ゆきが叫ぶ。
 いよいよ、とどめの必殺技だ。
 ウィザードは、ゆきの前にピンク色の害虫駆除機を出した。

「とらんす☆らぶ☆あたーっく!!」

 ゆきが握りしめたノズルから、7色の光線がゴジラに向かって発射された。
 ゴジラは逃げる間もなく、あっという間にその光線を全身に浴びてしまった。
 ゴジラの体はオレンジ色に変わり、あっけなく消滅するかに思われた。

 しかし――

(なにっ!?)

 異変に気づくゆき。
 いつもならこのパターンで敵を粉砕しているはずだ。
 しかし、ちっともゴジラは消滅しようとしない。
 一体どうなっているのか?

(とらんすらぶあたっくが効かない!?)

 それどころか、ゴジラはさらに一回り、いや二回りくらい体が大きくなってしまった。
 全身に力がみなぎり、まるで体中からオーラを発しているかのようだ。
 目つきもさっきより鋭くなっている。
 にやり、と笑うメイト・アロゥ。

「エナジーが・・・!エナジーがあふれてくるっ!!」

「うわぁぁあああああぁっ!!」
 自宅の床で雄叫びを上げるともや。

「はっはっはっ・・・楽しいねえ!!悪いけど、今日は負けるわけにはいかないんだ」
 叫ぶメイト・アロゥ。

 とたんにゴジラの攻撃ラッシュが始まった。
 まるで、ゆきのエネルギーを吸い取って、逆にパワーアップしてしまったかのようである。
 一気に形勢が逆転してしまい、逃げるのが精一杯なゆき。
 必殺技を出して疲れきっているため、攻撃を出すことができない!

「駄目・・・もう動けない」
 ゆきはうずくまってしまった。

「ゆきクン頑張って!!」叫ぶウィザード。
「とどめだ」とメイト・アロゥ。

 ゴジラがゆっくりゆきに近づいていく。
 ウィザードはゆきをかばうかのように、ゆきの前に移動した。
 真正面のゴジラをキッと見すえている。
 一方、ゆきはうなだれたまま動けなくなっている。

(もうダメ・・・)

 その時、突然ウィザードの体が光りだした。
 ぎょっとするメイト・アロゥとゴジラ。
 そして、どこからか声が聞こえてきた。

”ゆき君。負けてはいけない。君は、この世界を守らなくてはいけない”

(え?)
 驚くゆき。

(誰、今の声・・・?)
”今、ウィザードに君の新しい変身プログラムをアップロードした。さあ、もう一度変身するんだ”

(プログラム?・・・アップロード?・・・ひょっとして・・・・ドクター@・・・?)

 その瞬間、ゆきの体がまばゆいばかりに輝きだした。
 目のくらむメイト・アロゥとゴジラ。
 ゆきは、体操の選手のように、体を空中でえびぞりにして飛び上がった。
 すると、光に包まれた今までの服が消えた後、新しい白ロリが出現した。
 今までよりフリルが大きくゴージャスになっている。
 そして、手と首にアクセサリー、前髪には黄金の髪飾りが出現した。

「ざ・ねはん・あらいぶど・めたもるゆきにゃん参上!!」

 高らかに叫ぶゆき。
 ゴジラは一瞬息を呑まれたものの、かまわずゆきに襲い掛かろうとした。
 すると、ゆきの頭上に新しいタイプの害虫駆除機が出現した。
 今までのものより大きく、タンク部分に天使の羽がついている。
 ノズルをかまえるゆき。

「とらんす☆らぶ☆あたーっく☆ねはんすぺしゃる!!」

 その瞬間、ノズルから目もくらむようなゴールドの光線が発射されて、ゴジラに浴びせられた。
 そして、それはすさまじい圧力で、何度も何度も繰り返しゴジラに浴びせられた。

「あんぎゃぁぁぁぁああぁぁぁあぁ」
 たまらず叫ぶゴジラ。
 苦悶の表情を浮かべて、大きく体をゆすぶった後、ついに口から火を吹いて消滅してしまった。
 あとには何も残らず、ただ煙だけがもうもうと立ち込めていた。

 そして、その中にがっくりとうなだれているメイト・アロゥが独りいた。
 怪我をしているようだった。

「さあ、殺せよ・・・。俺なんか死んだ方がいいんだ」とメイト・アロゥ。
「何を言ってるの!?」ゆきが大きな声で言う。
「確かにバーチャルウイルスは、各地で被害を出したり怪我人を出した。
しかし、死者は一人も出していない・・・」とウィザード。

 そこに一人の初老の男が現れた。
 男は言った。

「メイト。父さんと一緒に警察に行こう」
(その声は?)

 はっとするゆき。
「あなたはドクター@ですか?」

 ゆきの問いかけにうなずく男。

「もともとバーチャルウイルスの原型は、わたしが発案したものです。
 実体化するプログラム、私はそれを世界の平和や福祉のために使うつもりでいた。しかし、完成途中だったそのプログラムを息子のメイトが持ち出して、そのまま家出してしまった。
 そして、悪友と怪しげな組織をつくった息子は、プログラムを完成させ、それを使って世界征服などというとんでもない野望を持ってしまった・・・」

「ドクター@・・・」
 ゆきが何か言おうとした時、ドクター@が続けた。

「もともとは私が悪かったのです。来る日も来る日も研究にあけくれ、世界中を転々とし、肝心の家族をないがしろにしていたのですから。世界平和をとなえておきながら、自分の家族のことも、息子が暴走していることにも気づいていなかった」

「ネットでも・・・リアルでも・・・オレの活躍する場所なんかなかった・・・」とつぶやくメイト・アロゥ。

「おまえは勉強不足だ!!バーチャルウイルスなど、ウイルスとしてのランクも低いし、実体化してもたいしたことはできない。ペンタゴンにハッキングでもした方がよほど世界にインパクトを与えることができただろうに」とドクター@。

(ドクター@、それはどうかと思う・・・)
 心の中でつっこむゆき。

 ドクター@は、振り向いてゆきに言った。

「ゆき君。今まで戦ってきてくれて本当にありがとう。礼を言います。それで、今後のことですが・・・」

ドクター@は続けた。

「今、世界では様々なところで紛争が起こっています。
 お互いの価値観にしばられ、相手を理解しようとしない、全てはそこから始まっています。
 そんな中、宗教、人種、民族、そして男だとか女だとか全て超越した君のような存在が必要なのです。
 どうか、このまま世界平和のために戦ってもらえませんか」

「わ、わたしは・・・」とまどうゆき。

「もちろん、君には君の人生があるからそれは最優先しなければいけない。
 しょせん、戦争は人類にとって永久になくならないものです。
 100年たっても1000年たっても・・・。
 しかし、それを食い止めようとする人が必要なのもまた事実なのです!」

 ゆきは、黙ってドクター@の言葉を聞いていた。

「それで?ともやはなんで学校休んでいたんだっけ?」

 次の日、学校で、怒ったような表情で、ゆきはともやを問い詰めていた。

「何度も言わせないでくれよ〜。だから・・・」
 その後、ともやは小さな声で付け加えた。

「だから、痔が悪くって・・・」
 めずらしく照れたような表情でともやは言う。

「ホント、立ってても痛いし、寝てても痛いし、こんな苦しみは生まれて初めてというか・・・。でも、一番の地獄はやっぱり用を足す時だったなあ。そもそも、こういうことになったのは、でっかい氷山みたいヤツが出そうだったからで−」

 そこまで言った時である。

「ばかあッ!!」

 ゆきの強烈なパンチがともやの顔面に炸裂した。
 ともやは、その勢いで飛んで行って星になった。
 ゆきは、ひょっとしたら、ともやはメイト・アロゥとなにか関係あるのではないかと心配していたので、そのばかばかしい理由に腹が立ったのだ。
 その時、かおるがゆきに声をかけてきた。

「ゆき君!!昨日はお疲れ様!!」

 今までに無いくらい、生き生きと明るい表情をしている。

「すごいよね。ゆき君の正体がめたもるゆきにゃんだったなんて・・・わたし、びっくりしちゃった」「いやぁ、その・・・そんなにすごくないよ」
 照れるゆき。

「・・・それで、どうするの?ドクター@の提案」と、聞くかおる。

 ドクター@の提案とは、世界平和のために戦ってくれないかというものだ。

「うん、受けてもいいと思ってる」
 ゆきのその答えに迷いはないようだった。
 その後、ちょっと顔を赤らめてかおるが言った。

「あのさ・・・ゆき君。今度の日曜日あいてる?」
「え?どうして?」
「知り合いからもらったコンサートのチケットが2枚あって・・・。
それで、もし、ゆき君さえ良かったら一緒に行きたいな・・・なんて」
「いいよ」

 さりげなく答えるゆき。
 その横顔は、以前よりほんのちょっぴりだが男っぽくなっていた。




 ボク、寝華麻ゆき、14歳。
 ホームページやってるんだ。
 いろいろあったけど、世界平和のために戦います!
 世界中のみんなを救うことができるなら、ゆき、がんばる☆ネットエナジー発動!!



「ネットもリアルもゆきにおまかせ!!」


おしまい




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