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メークアップ! Y・U・K・I 第2話「ベートーベンおじさん」
作者:MIDI木魚さん
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いつもと変わらない朝。
「あれは夢だったんだろうか・・・」 ゆきは、自分の部屋で学生かばんに教科書を入れながらつぶやいた。 昨日、新宿での戦闘のあと、 「ついにデビルウエッブが本格的に動きだした。ぼくはいったんネットの中に戻って偵察してくる」 ウィザードはそう言って消えてしまった。
「ネットから現実世界に出てくるなんて・・・」
常識で考えてそんなことあるわけない。 ネットからウイルスやら何やら出てくるなんて。 しかし、確かに昨日、自分は変身してあの巨大豚の姿をしたバーチャルウイルスと戦ったのだ。
ゆきは学校に向かった。 ゆきが教室に入ると、クラスメイトのともやが大声で話していた。
「おれあの時、新宿にいたんだよ!それで豚になっちゃった!」 昨日のことを話しているのだろう。 そう言えば、今朝のニュースでも繰り返しやっていた。 確かにあれは現実のできごとだったのだ。 数人のクラスメイトが話を聞こうとして、彼の周りに集まっている。 激しく興奮気味のともや。
「豚ってほら…、首がないじゃん!それで、なかなか後ろ向くことができなくてさあ!!」 (豚になった感想がそれですかっ?もっと驚くとか何とかないんですかっ?) ゆきは心の中で突っ込みを入れていた。 誰もそんなことが聞きたくて集まっているわけではないだろう、この男はきっと長生きするに違いない。
(と言うか、なんであなたはあの時間に新宿にいる必要があったのですかっ?) ともやは、ゆきが新宿でかおると会うのを尾行していたのだ。 自分でばらしてしまっている。 ゆきにとって、もうどうでもよいことではあったが。
「ねえねえ、ともや君。その時すごい美少女がいたってホント?」 一番前にいた二人組の女の子の一人がともやに聞いた。 くり色の巻き毛の女の子だ。
「それは見てなかった」 「その娘が巨大豚を退治したって・・・」 「う〜ん、見てなかったな。ははは」
それが一番肝心なことなのに、とみんなは呆れて行ってしまった。 そんなともやを横目に自分の席につこうとした時、ゆきはふと強い視線を感じた。 振り返ると、かおるがこちらをじっと見ている。 まるで怒ったような表情だ。 うろたえるゆき。
「ゆきクン!!」 「は、はい?」
あせったゆき。 すると、突然かおるは目の前まで近寄ってきて、ゆきの顔を両手でそっとつかんだ。
「・・・え?」 驚いて何も言えないゆき。
何も言わず、じっとゆきの顔を無表情で見つめるかおる。 しばらく、その状態が続いた。 まるで時間が止まってしまったかのようだ。 官能的な空気が流れる。
「・・・似てると思ったけど、違うわね・・・」 かおるは言った。 ほっとするゆき。 何かされるかと思ったが、何もなかった。 一体、彼女は何をしたかったのだろう?
「あ、あの・・・」 ゆきは、恐る恐るかおるに声をかけようとした。 するとその時、今度は一人の男子生徒がつかつかと教室に入ってきた。 坊っちゃん刈りのようなヘアースタイルでめがねをかけている。 その男子生徒は、わき目も振らず、まっすぐゆきの席の前まで来て、おもむろにゆきの前に立った。 背はゆきより少し小さい位だろうか。 真剣な表情をしている。 心なしか体も震えているようだ。 顔を真っ赤に紅潮させて何か言おうとしていたが、しばらく躊躇した後、彼は大声でこう言った。
「ゆ、ゆきクン・・・。あ、あの・・・ぼ、僕とつきあってもらえませんか!?」 「はあ?」
目が点になるゆき。 一瞬、教室中の空気が凍りついた。 ガーン!という感じだ。 クラス中の視線が、この二人の男子生徒に集まった。
「おかしいよー。いろんな意味でおかしいよー、それ」 ナインティナイン風に突っ込むともや。 そして、その後ろでは歓声が・・・。
「きゃあ☆」 「電撃告白ゥ!」 さっきの二人組の女の子だ。 予期せぬ出来事に大喜びしている。 男子生徒は、興奮冷めやらぬ調子でこう続けた。
「ゆきクンのホームページ見たんです。それで女装写真見て、好きになっちゃったんです。もう一目でやられちゃったと言うか、とりこになっちゃったと言うか・・・。こんな気持ち初めてです。 もう君のことが忘れられません。大好きです!僕とつきあってもらえませんか?」
その時、始業のチャイムが鳴った。
「すぐでなくてもいいです!返事教えてください!」
男子生徒は、そう言い残して行ってしまった。 周りのことは気にしないタイプなのか。 まるで嵐か竜巻が去って行ったかのようだった。 教室の中にはまだ何が起こったのかわからない人もいた。 放課後、ともやがゆきに聞いた。 「なあ、ゆき、今朝のあいつって・・・」 ゆきは一瞬何のことかわからなかった。 しかし、すぐに思い出してちょっと嫌そうな顔をした。
「今朝の?ああ、あの子ね。隣のクラスの健一君」 「話とかしたことあんのか?」 「全然・・・いやちょこっとあるかな。クラス合同行事の時、一言か二言・・・」
その時である。 「ゆきクン」 いつのまにか本人がゆきの後ろに立っていた。
「わああ」 驚くゆきとともや。
「あの・・・返事を・・・」 と健一。
「あ、ああ・・それがその・・・ゴメンナサイ」 「え?ああいいんですよ!まだ答出てないんですね!また、明日にでも・・・」 「いやそうじゃなくて」 ゆきはあわてて言いかけたが、健一は行ってしまった。 どういう神経をしているのだろう? 返事なぞどうでもよかったのかもしれない。 あまりのことに唖然とするゆき。 それからというもの、健一は毎日のようにゆきにつきまとうようになった。 学校の行き帰り、教室、トイレ・・・。 今日も学校からの帰り道、健一はゆきを追っかけていた。
「ゆきク〜ン」 「うわぁぁついてくんな〜」 「あいつオレ以上だなー」 ともやも一緒に逃げる その時、道路脇の一軒の民家から爆発が起こった。 ものすごい爆風で、周囲にもうもうと煙が立ち込めている。 窓ガラスは割れて砕け散っていたが、その窓越しに、太った眼鏡のお兄さんがパソコンの前で気絶しているのが見えた。 そして、あたり一面の煙が消えた後、そこには背丈50メートルくらいのスーツ姿の巨人が現れていた。
「バーチャルウイルス!」 ゆきは叫んだ。
「こんな街中で!」 周囲はすでにパニック状態だ。 そこにウィザードが現れた。
「あっ、ウィザード!」 ゆきとウィザードは路地に隠れた。
「ゆきクン。デビルウエッブのバーチャルウィルス第2段だ。あれは”ベートーベンおじさん”だよ ウィザードは言った。
「ベートーベン!?」 ゆきは見上げた。
「でも、ちょっと和風な顔立ちだ!・・・どこかで見たような・・・」 「ブッコワスーッ、ブッコワスーッ」 スーツ姿のベートーベンおじさんは、がに股で歩きながら長い手を振り回して街中をこわしていった。
「はわわ、本当にぶっこわしてるよ、あの人・・・」 うろたえるゆき。 そしてベートーベンおじさんの通ったあとには、何かの芽のようなものがたくさん顔を出していた。 「はわわ、なんか芽が生えてきた!」とゆき。 「あれは”カイカクの芽”だよ!あれを踏んじゃ駄目だ!体がしびれて動けなくなるよ」
説明するウィザード。 前の方には、それを踏んでしまって全身しびれているともやがいた。 その様子は、まるで阿波踊りを踊っているかのようだった。
「ゆきクン、変身だ!」 ウィザードが叫ぶと、ゆきもうなずいた。 「いっつ☆ちぇんじんーぐ!!」 ゆきが右手を高く上げると、空中にまばゆいばかりに輝く銀色のデジカメが出現して、手の中にすべりこんだ。 そして、目を閉じたゆきがデジカメを自分の方へ向けてシャッターを押すと、周囲は一瞬にしてきらきらと光の輝く異空間となった。 そして、シルエットのゆきが「めーくあーぷっ!!」と叫ぶと、髪の毛が一気に腰の辺りまで伸びて、目の覚めるようなピンク色にかわった。 閉じていた目を開くと瞳の色も深いグリーン色にかわっている。 そのまま大きくウインクをして一回転すると、光のヴェールにつつまれていた全身が、白ロリ姿にかわった。
「ネットもリアルも、ゆきにおまかせ!!」 笑顔でびしっとポーズを決めるゆき。 戦闘準備完了だ!ゆきは、憤然としてベートーベンおじさんの前に立ちはだかった。 「お待ちなさい!」 ベートーベンおじさんは、ゆきに気づいて立ち止まった。
「あなたの好きにはさせない!」 ゆきはこぶしを握って叫んだ。
「テイコースルナ!」 ベートーベンおじさんは長い腕を振り回して攻撃してきた。 ゆきは、すばやくジャンプしてその攻撃をかわすと、ベートーベンおじさんの後頭部に蹴りを一撃浴びせた。
「いいぞ!ゆきクン!」 叫ぶウィザード。
しかしベートーベンおじさんには全くダメージがないようだ。 (えー、どうしたらいいの!) 着地した瞬間、ゆきは危うくカイカクの芽を踏みそうになってしまった。 (わっ危ない!) あちらこちらにカイカクの芽が生えている。 この状態では移動範囲がせまいので、こちらの攻撃も出しにくい。 せまりくるベートーベンおじさん。
「いつのまにか”カイカクの芽”があんなに大きくなっている!」 後ろを振り返るゆき。 そこには人の背ほどにも大きくなっていた”カイカクの芽”がびっしりと生えていた。 ニヤリと笑うベートーベンおじさん。
「オイツメタ」 一見、状況はゆきにとって不利に見えた。 しかし、ゆきは不意をついてベートーベンおじさんの股の下をくぐって後ろに出た。
「がに股があだになったわね☆」 「ウィザード!」 ゆきが叫ぶと、ウィザードはゆきの目の前にピンク色の害虫駆除器を出した。 つかさずノズルの先端をベートーベンおじさんに向けてかまえるゆき。 驚いて固まるベートーベンおじさん。
「とらんす☆らぶ☆あたーっく!!」 その瞬間、ノズルの先端から7色の光線がベートーベンおじさんに向かって発射された。 ベートーベンおじさんは光線を浴びて消えていった。 そして”カイカクの芽”も枯れてなくなっていき、戦いは終了した。 街はかなり被害が出たようだが、たいした怪我人はいないようだった。 そして、電柱の影に隠れて、それを一部始終見ていた少年がいた。 健一だった。 翌日から、健一はゆきのところには来なくなった。 ゆきは不思議だった。
「どうしちゃったんだろう、あきらめてくれたのかな?それだったらいいんだけど」 「ゆきクン、この前の話だけど・・・」 やはり、突然現れる健一。
「わああ」 驚くゆき。 「なかったことにしてもらえませんか」 ゆきは唖然とした。 言葉が出ないとかそんなレベルではない。
(だったら最初からそんな話してこないで下さい) 怒り心頭に発しそうだったが、彼にどんな心変わりがあったのか確認しておかなければならない。
「その方がいいよ、ボク男だからね。好きな女の子でもできたの?」 「うン、名前はわかんないんだけど・・・ピンク色の髪の毛で緑色の目をした女の子。白ロリがよく似合ってたなあ」
苦笑いするゆき。 (やっぱり、そーなるんですか)
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