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     メークアップ! Y・U・K・I 第3話「シンジルキモチ」
作者:MIDI木魚さん

「ゆきクン、ケータイは持ってるよね?」
 ウィザードが聞いた。

「うん、いつもポケットに入れてあるよ」
 答えるゆき。
 ちょうど学校に行くために家を出るところだった。

「OK、それならボクはいつでも常駐できる」
 ウィザードはそう言って、ゆきの学生かばんにくっついた。
 ぱっと見た感じ、何かのぬいぐるみのようだ。

「何か起こった時、すぐ対処できるようにね」
 ウィザードは続けて言った。

「何か起こった時?」
 ゆきが聞く。

「うん、最近ウイルスがゆきクンのすぐ近くで出現しているような気がするんだ」
 そういえば確かにそんな気がする、とゆきは思った。
 前回の“ベートーベンおじさん”もそうだった。

(それはそうと、ウィザードってオスなのかなメスなのかな?リボンなんかつけてるけど・・・。
あっ、かたつむりはオスとかメスなかったんだっけ・・・?)

 教室に入ると、早速かおるが声をかけてきた。
「あれっ?ゆきクン、このかたつむり・・・」
 学生かばんにくっついたウィザードを指して言うかおる。
 ゆきは、一瞬ウィザードの体がピクッと反応したような気がした。
 心なしか、目元がつりあがっているような気もする。

「こんなかたつむりのぬいぐるみ持ってたっけ?」
 ウィザードの体がピクピクと震えている。
 何か必死に我慢に耐えているような感じだ。
 まるで、こみあがる感情を懸命におさえているかのような・・・。

「・・・カワイイわね☆どうしたの?」
 ウィザードの震えが止まった。
 目元もいつのまにか元に戻っている。
 そこへ、今度はともやがひょっこりと現れた。

「ゆき〜。なんだその変なかたつむり!」
 いきなり無遠慮にそう言うともや。
 すると、その瞬間、空中に稲妻が走った。
 
「まぎゃああぁぁぁぁぁ!!!」
 絶叫して黒こげになるともや。
 ゆきはすぐに察知した。

(い、今のひょっとしてウィザードがやったの?す、すごい力だ・・・。そうか、かたつむりって言われるのがイヤだったんだ・・・)
 ウィザードの方を見ると、目をつりあげてフーフーと息を荒げている。

(そうか、ウィザードもバーチャルウイルスと同じプログラムで動いているんだ。
だから力が発動できるんだ・・・)
 気絶しているともやに、クラスメイトが「お〜い、そんなところで寝てると風邪ひくぞ」とクスクス笑いながら声をかけていった。
 
 ゆきのクラスに山口由香という女生徒がいる。
 色白で眼鏡をかけていて、成績は上位。
 無表情であまりしゃべらず、どういうわけかいつも一人でいる。
 髪の毛を後ろでしばっているところが少し時代遅れな感じだ。
 どのクラスにも他の生徒とうまくなじめない生徒がいるものだが、彼女はちょうどそんな感じだった。
 そんな由香に一人の女生徒が声をかけてきた。

「由香さん、ちょっといい?」
 彼女の名前は、新谷ひかる。
 バスケット部で背が高く、目の細い女の子だ。
 彼女もゆきと同じで、自分のホームページを持っている。
 ホームページづくりは、校内でちょっとしたブームになっているのだ。

「あなた昨日、私のホームページのBBSに変な書き込みしたでしょ!?」
 由香は一瞬、はっとした表情をした。
 しかし、すぐこう言った。

「してないわ」
 ひかるは間髪いれず続けた。

「はっきり言ってあんたとは気が合わないわね。でも、文句があるんだったら目の前で言って欲しいわ」
 まるで、由香が犯人だと決めつけたような口調で言うひかる。
 そこに、ひかるの連れが口をはさんだ。

「無理だってー、ハハハ。この子人付き合いできないんだから。友達いないし」
「・・・うっとうしい」
 つぶやくように由香は言った。

「何ですって!?」
 声を荒げるひかる。
 一瞬、教室中の視線が彼女に集まった。
 はっとして我に返り、思わずたじろぐひかる。
 しばしの沈黙があった。

「いいわ、今回は許してあげる。言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのに」
 ひかるは、まるで勝ち誇ったようなそんな言い方をした。
 話はそこで終わったかに見えた。
 そして、ひかるがその場を立ち去ろうとした時である。

「・・・ちょっと、いいかな?」
 いつの間にか、かおるがそこに立っていた。
 クラスのマドンナ登場である。

「なに?かおるさん?」
 はっとして振り返るひかる。
 同時にみるみる間に顔が紅潮した。

「なに、あなたひょっとして由香の味方?なにか文句あるわけ!?」
 相手が誰であろうと歯に衣着せず言うひかる。

「そんなんじゃないけど。ただ、私もそのホームページ見たい。本当に彼女がやったのかどうか確認しておくのも悪くないでしょ」
 落ち着いてかおるは言った。

「この子、前にも私のホームページに書いてるのよ。それで調べたらIPが全く同じだった」
 興奮気味に返すひかる。

「前にも?その時も変なこと書いてあったの?」
「いや、その時は・・・私のポエムがよかったとか、そんなことが書いてあったんだけど」
「PCルームで、それ見ることできないかな?」

 ゆきの学校には、数台のパソコンが設置されたPCルームがある。
 生涯学習の科目の実習で、パソコンを使用するためだ。
 ちょうど廊下をはさんで、ゆきの教室の斜め向かいにある。
 結局、由香をおいて、ひかるとその連れ、かおる、そしていつもかおると一緒にいる2人組の女の子の計5人でPCルームに行ってホームページの確認をすることになった。
 一方、当人の由香は、まるで他人事のように頬杖をついて窓の外を見ていた。
 事の成り行きをずっと見ていたゆきは、そんな由香に少々腹立たしさを感じた。

「いい?HNの騙りじゃないのよ?IP自体が同じなんだから。私が管理者だからわかるの!」
 確信に満ちたひかるの言葉に、かおるが緊張している様子が、ゆきにもわかった。

「かおるちゃん・・・」
 PCルームに向かうかおる達を心配そうに見つめるゆき。
 その時、由香が一瞬だけかおるの方をちらっと見たことに、ゆきは気がつかなかった。

 PCルームでは、慣れた手つきでひかるがPCを操作していた。
 自分のホームページを管理者モードにして皆に見せている。
 画面には、BBS閲覧者の書き込みとそのIPが同時に表示されていた。

「これが前の書き込み、そしてこれが昨日の書き込み」
 前の書き込みは由香の本名で書いてあった。
 ひかるのポエムについての感想が書かれている。
 これは本物だろう。
 そして昨日の書き込み。
 名前がなく、淫猥な言葉が並んでいた。
 それぞれの書き込みに対してIPが表示されている。

「こ、これは・・!!」
 その時、PCルーム全体に閃光が走った。
 きゃあという数人の女生徒の声。
 何か異変が起こったことは、斜め向かいの教室にいたゆきにもすぐにわかった。

「ゆきクン!!バーチャルウイルスだ!!」
 叫ぶウィザード。
 まさか、こんなところで出現するとは!やはり、バーチャルウイルスはゆきの身近まで迫っていたのだ。
   
「ここだとまずい!!トイレかどこかで変身しよう」
 ゆきとウィザードは教室を出てトイレに向かって走った。
 トイレは廊下のつきあたりにある。
 PCルームが気になるが、仕方がない。
 ゆきとウィザードは男子トイレに入った。

「いっつ☆ちぇんじんーぐ!!」
 お決まりのセリフとともに、ゆきが右手を高く上げると、空中にまばゆいばかりに輝く銀色のデジカメが出現して、手の中にすべりこんだ。
 そして、目を閉じたゆきがデジカメを自分の方へ向けてシャッターを押すと、周囲は一瞬にしてきらきらと光の輝く異空間となった。
 そして、シルエットのゆきが「めーくあーぷっ!!」と叫ぶと、髪の毛が一気に腰の辺りまで伸びて、目の覚めるようなピンク色にかわった。
 閉じていた目を開くと瞳の色も深いグリーン色にかわっている。
 さらに、そのまま大きくウインクをして一回転すると、光のヴェールにつつまれていた全身が、白ロリ姿にかわった。

「ネットもリアルも、ゆきにおまかせ!!」
 お決まりのポーズをびしっと決めるゆき。
 今回は時間がない!!

 ゆきとウィザードは、男子トイレを飛び出して、急いでPCルームに向かった。
 入口では、ちょうどトイレに入ろうとしていた男子生徒とぶつかりそうになった。
 白ロリの美少女が男子トイレから走り去っていく様子を、唖然として見つめる男子生徒。
「はう〜女子トイレで変身するんだった〜」とゆき。
 そりゃそうだ!

 ゆき達がPCルームの前まで戻ると、廊下に黒板消しのようなものがたくさん飛び交っていた。
 どうやらPCルームの方からわき出ているようだ。

「なんなの、あの黒板消しの大群!PCルームにあんなのなかった!」とゆき。
 その黒板消しは、まるで一つ一つが意思を持っているかのように、生徒めがけて飛んでいき、その頭をごしごしとこする。
 その様子は、まるで何かのイタズラをしているかのようだ。
 生徒達は、頭がチョークのほこりまみれになって大騒ぎをしている。
 そして、黒板消し達は、一人の生徒の頭をこすったら次々と標的をかえて、今度は別の生徒めがけて飛んでいく。
 ウィザードが叫んだ。

「あれは”消し消し君”だ!ハードディスクのデータを消してしまうように、人間の記憶を消してしまう恐るべきバーチャルウイルスだよ!」
「人間の記憶を!?」

 その時、それまで大騒ぎしていた生徒達が急に静かになり、何事もなかったかのように歩き始めた。
 その目はうつろで、まるで生気を失った人形のような表情だ。
 ゾンビのような、と言ってもよい。

「あの黒板消しで頭をこすられると、その人の記憶は消えてしまう!」とウィザード。
 周囲はあっという間に、記憶のない、魂を抜かれたような生徒だらけになってしまった。

「あんなにたくさんの敵・・・、どうやって倒すの!?」
 黒板消しの大群に焦るゆき。

「親玉がいるはずだよ!!そいつをたたくんだ!!」とウィザード。
 すると、ウィザードは「あそこに妙な気配がする!!」と言って、PCルームの隣の教室の方を見た。
 そして、自分の能力で扉を開けて中に入ろうとした。
 ・・・が、その扉の上の方には、黒板消しがはさんであったのだ。
 あっという間に、黒板消しが落ちてきてウィザードの頭を直撃した。
 チョークのほこりまみれになるウィザード。

「ウィザード!!あんな古い手にひっかかるなんて!!」とゆき。
 ウィザードは目がうつろになって、動きが止まってしまった。
 プログラムが停止してしまったのだろうか?ゆきの変身は解けていないが、ウィザードが起動しなくては、ゆきの必殺技「とらんす☆らぶ☆あたっく」が出せない!!
 そこに、教室から大きな黒板消しが現れた。
 大きな体で、相撲取りのような体格をしている。
 特徴的なのは、そのつりあがった目。
 鼻や口はなかったが、両端からワイヤーのような手と足がにょきっと生えていた。
 これがどうやら親玉のようだ。

「貴様がめたもるゆきにゃんか」とその黒板消しが言う。
「今、私のジュニア達が、この世界のあらゆる人間の記憶を消去している。しかし、これだけではない。記憶を失った人間は、私が自由にあやつることができるのだ。征服とは滅ぼすことではなく、生かしあやつることを言うのだ。これぞデビルウエッブ総裁、メイト・アロゥ様の望まれる世界。
真の世界征服!!」
「そんなことさせるもんですか!」とゆき。

 その時、PCルームからかおるが出てきた。
 その顔はこわばり、額にあぶら汗がにじんでいる。
 頭にはバケツをかぶっていた。
 黒板消しが頭ばかりねらうのをおかしいと思ったかおるは、PCルームにあったバケツをヘルメットのようにしてかぶっていたのだ。
 どうやら、そのおかげで記憶は奪われていないようだ。

(かおるちゃんッ!?)
「そうだ、実験をしよう」

 黒板消しの親玉はかおるをちらっと見るなり、ジュニアに合図した。
 すると、黒板消しの一つが矢のように鋭く飛んでいき、かおるのみぞおちを直撃した。
「ぐぅ!」崩れ落ちるかおる。

(かおるちゃんっ!!かおるちゃんっ!!)
 急いで駆け寄ろうとするゆき。
 すると今度はゆきの方に、ジュニア達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
 まるでマシンガンのようなジュニア達のタックルがゆきを襲う。
 両手で頭をガードしているので、反撃ができないゆき。
 やはり、腹部にもろにくらってしまい、その場に崩れ落ちてしまった。
 そこでジュニア達は攻撃をやめた。

「めたもるゆきにゃん。よく見るがよい。今からこの娘を、別の娘の手によって殺させることにする」
「・・なんです・・って!!」
「出でよ、バーチャルソード”ユートピアの剣”」
 すると空中に、まるで中世の騎士が使うような大きな剣が現れた。

「そこの娘よ。この剣を使って、ここにいる動けない娘を殺すのだ!」
 叫ぶ黒板消しのボス。
 剣を渡された相手は・・・由香だった!いつも無表情で冷たい感じだが、記憶を失った今の彼女はさらに冷たくみえる。
 両手で剣を握りしめ、ゆっくりとかおるの方に近づいていく由香。
 一方、動くことも技を出すこともできないゆき。
 絶体絶命!!

「由香さん・・・由香さんッ!!」
 涙を浮かべるかおる。
「由香さん、お願い!!起きて!!目を覚まして!!あなたは操られているの!!」
 なおも近づく由香。
 渾身の力をこめ、その剣を思い切り振り上げた。
「由香さん!!、由香さん!!、由香さん!!気づいて!!お願い・・・」
 そして、まさにその剣が由香の頭上に達した時である。

「・・かおる・・・ちゃん・・・・・」
 はっと気づく由香。
 奇跡の瞬間だった。

「初めてだね☆・・・私の名前呼んでくれたの」にこりと笑うかおる。
「わたし、わたし何も覚えていない!何をしていたの?」
「でも、私の名前は覚えていてくれた」
 顔を赤らめてうつむく由香。
 いつのまにか、剣は消えていた。
 由香自身、完全に元の姿に戻っている。

「ば、ばかな!人間ごときに・・・!!」
 動揺する黒板消しの親玉。
 由香をきっかけに、うつろな表情をして歩いていた生徒達が皆、元の姿に戻った。
 記憶を取り戻したのだ。
 全てが元に戻っていく。
 皆、何が起こったのかわからず首をかしげている。
 ウィザードも再起動した。

「ゆきクン!」
 よろめきながらも必死の思いで立ちあがるゆき。
 瞬時に、ピンク色の害虫駆除機が現れ、ゆきはそれをかまえた。

「ま、まさか」
 おびえる黒板消しの親玉。

「とらんす☆らぶ☆あたーっく!!」
 その瞬間、ピンク色の害虫駆除機から7色の光線が発射され、廊下中がおおいつくされた。
 ぎええ、という断末魔の叫び。
 勝負はついた。
 勝敗を決するのは、いつも微妙なタイミングだ。
 たとえピンチに立たされても、勝負は最後までわからない。
 黒板消しの親玉、そしてそのジュニア達は、全て一掃された。
  
「よかった・・・」
 胸をなでおろすゆき。

 数日が過ぎた。
あの日の校内での出来事は、皆、違和感は感じていたのだが、記憶を失っていて何が起こったのかわからなかったため、それが騒ぎを引き起こすことはなかった。
 そして、あいかわらず由香はクラスでは孤立しているかのように見えた。
 ウィザードが小声でゆきに言った。

「あの子、まだ孤立しているみたいだね」
「でも、いじめみたいのは無くなったよ?まあ、人それぞれの生き方があるからいいんじゃないかなあ?」

 ただ、かおるとは数回話をしていたようだ。
 普段あまり見せない笑顔を見せながら・・・。

「誤解も解けてよかったじゃない。IP一文字違いだったんだね」
 ゆきの言葉に、ウィザードもうなずいた。
 しかし、疑問がまだゆきにはあった。
(あの荒らしって一体誰だったんだろう)

 その日の夜、いつものように自宅のPCに向かうともやがいた。

「くそう、誰かエロエロ画像とかはってくれよー!!」
(エロエロ〜!!ロリロリ〜!!いろいろな無修正画像キボンヌ☆)
 いろいろなホームページのBBSに、片っ端から書き込むともや。
 ひかるのホームページに書き込んだのも彼の仕業だった。
 そう、彼は典型的なクレクレ君だった。



ゆきのネット☆ワンポイント

「ともやみたいな人のことを”荒らし”て言うんだ。
 本人に自覚がないから全く困ったもんだよね。
 迷惑だから、みんなは変なカキコは絶対にやめようね!!」

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