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     メークアップ! Y・U・K・I  第1話「誕生!新世紀ヒロイン?」
作者:MIDI木魚さん

[登場人物]

寝華麻ゆき

 都内に住む14歳の男子中学生、超人気サイトの主催者。
 サイト内では自らの女装写真を公開している。
 ドクター@のプログラムと”ネットエナジー”で、
 女装戦士「メタモルゆきにゃん」に変身する。

井口ともや

 ゆきの友達、ややヲタの気あり。
 「メタモルゆきにゃん」の正体が、ゆきであることを知らない。

相沢かおる

 ゆきがひそかに想いよせる同級生の女の子。
 クラスのマドンナ的存在、スポーツ万能で成績優秀。

ドクター@

 自ら正義の士と名乗る。
 バーチャルウイルスに対抗できるのはネットエナジーを発動できるゆきしかいない、とゆきのサイトにメールを送ってくる。

ウィザード

 ドクター@のつくったバーチャルマスコット。
 リボンを付けた、かたつむりのような形をしている。
 ゆきをアシストする。

デビルウエッブ

 メイト・アロゥの支配する、世界征服をたくらむ地下組織。
 その本拠地はどこにあるのか誰もわからない。

バーチャルウイルス 

 世界征服をたくらむ地下組織、デビルウエッブの作り出すウイルス。
 特殊なプログラムで、PCから飛び出してリアル世界を破壊していく。
 ネットにつながったPCのある場所(学校、図書館、ネットカフェetc)なら
 どこにでも出現する! 


*この物語はフィクションです。登場する人物、団体名はすべて架空のものです。


「よし・・・と」

 パソコンのエンターキーを押して、少年はつぶやいた。
 今しがた自分の運営するホームページの更新を終えたところだ。
 彼の名前は、寝華麻ゆき。どこにでもいるような14歳の中学2年生。
 ただ、ちょっときゃしゃで色白な感じだ。

 彼のホームページには、アニメレヴューやCG、小説など様々なコンテンツがあり、どれもそのクオリティは高い。
 累計400万HITを誇る超人気サイトだ。
 最近では、自分の女装写真を公開するのが主要コンテンツの一つにまでなってしまった。
 もともと遊びでやっていた女装を公開してしまったのがきっかけだ。
 しかし、その女装が魅力的で予想以上に反響があったということと、やはり、女の子になってみたいという本人の願望そのものがこの意外な企画を継続させている。

 今日もさっそく彼は新作写真をUPした。一通り作業を終えた後、彼はメールチェックをしようとアウトルックの送受信ボタンをクリックした。

(あ、メールが来てる。なんだろ・・・)
  ――ゆきさん、はじめまして。私はドクター@と申します。
(ドクター@?、変なHNだな・・・)
  ――今、実は私達の住む世界は危機に瀕しています。
(環境関連の団体の人・・かな?)  
  ――あなたは選ばれた人です。どうかこの世界を救って下さい。
(はわわ・・何だこれ?・・・)
  ――恐ろしい敵からみんなを守って下さい。

 …その後、文章は延々と続くのだが、ちょっと今1人で読む気はしなかった。
 例のウイルスメールというやつか?
 ゆきは気味が悪くなって、メールを閉じてしまった。
 明日にでも誰かに相談した方が良い。
 そして、奇妙なメールはそのままにして寝てしまった。

 翌朝、いつものように学校に向かう途中、「ゆき〜」と背後から彼を呼ぶ声が。
 彼の名前は井口ともや。
 ゆきの友達で同級生、陸上部に所属している。ちょっと背が高くて、これといった特徴もない顔だ。
「あっ、ともや☆」

 ゆきが気づいてふりかえると、ともやは駆け寄って来た。
 そして横に並んだと思った瞬間、ともやの右手がゆきのお尻に伸びた。

「ひゃああ」
 女の子みたいな悲鳴をあげるゆき。

「あらら、つい手が」
 と言いつつ、笑うともや。

「それはやめてって言ってるだろ」
 ゆきのこぶしがともやの顔面にめりこんだ。「・・・すまん」

「ボク男だよ?女装はするけど、好きなのは女の子なんだから!」とゆき。

 ともやは(ホントは女装の時に触らせて欲しい)と言おうとしたがやめた。
 そこへ「ゆきクン!」と一人の女の子が現れた。

「あっ、かおるちゃん」

 彼女の名前は、相沢かおる。
 ゆきがひそかに想いをよせている同級生だ。
 クラスではマドンナ的存在である。
 サラサラのショートヘアーで頭の良さそうな顔立ちだ。

「ゆき君、見たわよ!昨日の新作写真。まだまだ化粧が甘いわね☆」
「だってあんまり化粧品の種類とかわかんないし・・・」
「じゃあ放課後、一緒に化粧品買いに行こうか、選んであげる」
「えっホント?」
「わたし一度家に帰るから、新宿駅の南口で待ち合わせってのはどう?デパートなら何でもあるし」

 しばらく話した後、かおるは他の女友達と合流して「じゃあ、学校でね」と言い残し、行ってしまった。

「くっそ〜いーなー!相沢かおるとデートかよ!」
 ともやが吐き出すように言った。

「そんなんじゃないよ・・・」
 ゆきは、彼女が自分に恋心とか抱いているわけではないということを知っていた。
 あれは、女の子のお節介ってやつだ。
 ただ単に、変わったことに興味しんしんなのだ。

「だったら俺も女装するかなー!ちくしょーって言うかまずHPつくらなきゃならんのかぁ。はあぁ・・、俺そんなセンスないしな。モテル男はいいよなー」
 ともやは未練がましく言った。

(だけどこういうのってモテルって言うんだろうか?
 ちょっと違う気がする・・・。
 たとえボクがどんなに一生懸命HPつくったところで、それが何になるというんだろう?
 女の子というのは、やっぱり強い男に魅かれるに決まってる。
 たとえば暴漢に襲われそうになったところを助けに来てくれるナイトのような・・・。
 ともやだったらそれ位するかもしれないけど、ボクには無理だ。
 かおるちゃん、君はどうやったら本当の意味で、ボクの方をふりむいてくれるんだろう)

「まあ、頑張ってくれや。どうせ俺、放課後は部活でデートなんて行けないし」
 ぶつぶつと、ともやはぼやき続けた。

 夕方6時、新宿駅はいつものように人ごみでごったがえしていた。
 少し早めに着いたゆき。まだ学生服のままだ。

「あれ?」
 ゆきは柱の影に、見慣れた姿を見つけた。

「ともや?あいつ部活だとか言っときながら・・・。さては偵察に来たな!なんてやつだ」
 ともやは、変装しているつもりなのか、伊達めがねをかけて雑誌に目を落としている。
 ゆきは呆れてしまったが、こちらも気づいたふりはせず、その場でかおるを待った。

 その時である。突然、デパートの6階のネットカフェから爆発が起こった。
 ものすごい爆音、そして、それに驚いた群集からざわっという声があがり、周囲は煙につつまれた。

 そして、煙がおさまるとそこには巨大な豚が出現していた。デパートと同じくらいの大きさはあるだろうか。
 マンガのような姿をしている。

 そして、”ヤッホーヤッホー”と甲高い声で叫びながら、その巨大豚は目からビームを発し、道行くもの全て、車もオートバイも人も全てを豚に変えていった。

「な、なに〜ぃ!」
 辺りは完全にパニック状態だ。
 “ブー・ブー”という鳴き声で埋め尽くされる新宿。

「あっ、ともや!!危ない!!」
 ゆきは叫んだが遅かった。ともやは巨大豚のビームを浴び、一瞬にして豚になってしまった。

「ブー・ブー」
 困惑気味に走り回る豚ともや。

「いやぁぁぁ」
 ゆきは恐怖でその場に立ちつくしてしまった。

 その時、爆発のあったネットカフェから小さなハンドボールほどの物体が、ゆきの傍まで飛んできた。
 リボンを付けたかたつむりのような形をしている。

「かたつむりがぁぁぁ、リボン付けたかたつむりが空飛んでるぅぅぅ」
 ゆきは叫んだ。 
「なんなのぉぉもぉいやぁぁ!!」

「落ち着いて!!ボクは君の味方だよ!!ゆき君!!ドクター@からのメール読んでなかったの?」とかたつむり。

「かたつむりがしゃべったぁぁぁ」とゆき。

「ゆき君!!お願いだからボクの話を聞いて!!時間がないからあまり話せないけど、最近ネットをしてる人が急に死ぬとか、行方不明になるとか、不可解な事件が増えてるよね!!」
「?」
「あれは地下組織”デビルウエッブ”の仕業なんだ。やつらは特殊なプログラムで、ネットから飛び出て現実世界に実体化する”バーチャルウイルス”を開発したんだ。あの巨大豚もそうだ。そして、それで世界征服をしようとたくらんでいるんだ。ドクター@は、いち早くその事に気づいて、対抗すべく同じプログラムをつくりあげた。ボクも、そのプログラムで動いている。だけど、ウイルスを駆除するためには戦ってくれる人が必要だ。ドクター@はもう年で、戦うことはできない。そこで適任者を探していたんだ」
「なんでそれがボクなの?」
「累計400万HITのサイトなんてめったにあるもんじゃないからね!君なら敵を倒すネットエナジーを発動することができるからさ」かたつむりは言った。
「さあ変身して戦うんだ!」
「変身?」
「君が一番輝いた時にエナジーも最高潮になる。さあこれを使って」

 次の瞬間、空中に光を放って銀色の物体が現れた。

「何これ・・・?デジカメ?」
「自分に向けてシャッターを押すんだ、さあ早く」

「いっつ☆ちぇんじんーぐ!!」

 ゆきは、まるでそれまで何回もそうしているかのように、デジカメを自分の方へ向けて、シャッターを押して叫んだ。
 瞬間、周囲はきらきらとまばゆいばかりの光が輝く異空間になって、シルエットのゆきが「めーくあーぷっ!!」と叫ぶと、髪の毛が一気に腰の辺りまで伸び、目の覚めるようなピンク色にかわった。
 閉じていた目を開くと、瞳の色も深いグリーン色にかわっている。
 そして光のヴェールにつつまれたゆきが、そのまま大きくウインクをして一回転すると、白ロリ姿のゆきとなった。

「ネットもリアルも、ゆきにおまかせ!!」
 笑顔でびしっとポーズを決めるゆき。
 しかし…

「なにっ?なにっ?なにぃぃぃ〜?」
 自分で言って驚いている。

「女の子に・・なってる・・」
 普段の女装姿より全然いいのだ。

「あ・・でも、ついてる・・・・がっかり」
「どこ触ってんの・・・」
 呆れるかたつむり。

 その時、かおるが時間に遅れてやってきた。

「あっかおるちゃん?」
 周囲の惨状を見てびっくりしているかおる。
 巨大豚はそれを見逃さなかった。
 そして”ヤッホー”と叫んで目からビームを発した。
 運動神経の良いかおるは、すんでのところでそれをかわしたが、巨大豚は怒って今度はすごい息を鼻から噴きだした。たまらず吹き飛ばされるかおる。

「かおるちゃんッ!!」

 ゆきは憤然とかおるの前に立ちはだかった。
 キッと巨大豚を見据え、口は一文字に結んでいる。

「誰・・?あの娘・・・・・・すっごい綺麗・・・」
 薄れ行く意識の中でかおるはつぶやいた。



 巨大豚は今度はゆきに攻撃してきた。
 反射的にジャンプしてかわすゆき。
 すごい跳躍力だ。10メートルは飛んだだろうか。
 続いて、巨大豚の攻撃第二段。今度もかわした。

「ヤッホーゥ!!ヤッホーゥ!!」
 巨大豚の攻撃ラッシュが続く。

「かわしているばかりじゃだめだよ!」
 叫ぶかたつむり。

「でも近づけない!」とゆき。

「そうだ!」
 ゆきはひらめいた。

「さあ、こっちにおいで豚ちゃん」
 ゆきは笑顔で巨大豚の方にお尻を向けて、ペンペンと叩いて見せた。
 挑発されて顔を真っ赤にして怒る巨大豚。
 猛烈なスピードでゆきを追いかけてきた。
 それに対して、ゆきは逃げる。どんどん逃げる。
 巨大豚はさらにスピードを上げて追いかける。ゆきもスピードをあげる。

 突然、ゆきは横に飛んで巨大豚をよけた。

「ヤッホ?」 
 巨大豚は止まれない。
「豚の祖先は猪でしょ?猪突猛進っていうからね☆」

「今だ!ゆきクン!」
 かたつむりは叫んだ。

 空中に、タンクにノズルのついた形の害虫駆除器のようなものが現れた。
 綺麗なピンク色をしていて、タンク部分にはハート型の車輪がついている。
 背後から巨大豚に接近したゆきは、それを受け取ってノズルをかまえた。おびえる巨大豚。

「とらんす☆らぶ☆あたーっく!!」
 ゆきが叫ぶと、ノズルから7色の光線が出て巨大豚にふりかかった。たまらず身もだえする巨大豚。
 そして・・・

 
「ヤッホォー・・・」
 それが巨大豚の最後の言葉だった。
 まるでテレビの画面が消えるかのように、巨大豚は消えていった。
 すると、豚になっていた車もオートバイも人も全て、まるで魔法がとけるかのように元の姿に戻っていき、街は元通りになっていった。
 ともやは元の人間の姿に、そしてかおるも意識を取り戻して立ち上がろうとしていた。

「よかった、みんな無事みたいだね」
 かたつむりは言った。

「あっそれからボクの名前はウィザード。かたつむりじゃないよ!これからゆき君のお手伝いをします。よろしくね!」

「メイト・アロゥ様、申し訳ありません。失敗いたしました」
 暗い宮殿の内部のようなところで、青白い顔の男が玉座の前にひざまずいている。

「なぜだ?なぜ失敗した?今までで最強のバーチャルウイルスだぞ」
 玉座のシルエットの男が叫んだ。

「それが・・ゆきという邪魔者が入りまして・・・。おそらく同じプログラムをあやつる者かと・・・」
 空中に浮いたスクリーンに、巨大豚に攻撃を仕掛けるゆきの姿が映し出されている。

「ゆき・・・・、ゆきというのか、あの小娘。今度はひねりつぶしてくれる」
 メイト・アロゥの強く握られた拳が、小刻みに震えた。

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