B&Bの御夫妻は、快活なアイルランド出身の人であった。フィンズバリー・パークは、ロンドンの中心部に出るにも、ハムステッド・ヒースの丘に行くにも便利である。観光客が多い所には、あまり行かなかったものの、ロンドン市内に行ってみたい処が色々あった。ハムステッド・ヒースの丘に寝転がったり、キュー・ガーデン王立植物園に行ったり、チャリング・クロスロードのフォイルズ書店や、コヴエント・ガーデンのフタンフォーズ(地図屋さん)にも行った。とても快適に毎日を楽しんだ。
その中から、ここに紹介するのは、Charles Dickensに関連する三つの場所である。
ディケンズに関連する場所は、とても多いが、これがまず小手調べである。なお、食事は、B級グルメの本[13]が大いに役立った。
B&Bでは、早朝に、決まって美しい鳥の声がする。声の主は定かでない。それ以外は、全くの静寂である。これが果たしてロンドンなのだろうか。
近くのバス停に、いつも閉まっているパブがあった。入口のドアの上に、「ニコラス・ニクルビー」(Nicholas
Nickleby)の大きな文字。これが、パブのの名である。ニコラス・ニクルビーは、ディケンズの同名の小説の主人公で、正義感に燃えた格好良い若者である。この庶民の街に、今もデイケンズが生きているのだ。この小説は、痛快な場面もあって、とても面白いのだが、どういう訳か、日本語に完訳されていない。
かつて訪れたことがある小学校に行ってみた。昔に比べて、学校はきれいになっていた。この写真は、教室のドアの小窓を通して、撮影した授業風景である。手早くカメラを構えてシャッターを切った筈なのに、もうこちらを見ている生徒がいる。
窓際には、一台のパソコンが見えている。生徒は、一斉に同じことをしているのでないから、パソコンは、別に人数分なくてもよい筈である。
案内して下さった秘書さんに感謝したい。
なお、この小学校の外観や周囲の住宅の様子には、昔と何も変わったように見えなかった。
宿泊しているB&Bのあたりの住宅や街路は、1894年、即ち百年あまり前の地図[1]と寸分変わっていない。鉄道線路は別として、この地域が開発された当時の景観が、そのまま保存されているものと見られる。二十年もすれば、随分景観が変わる日本の大都会に慣れている私にとって、全くの驚きである。これが、私をロンドンに惹きつけるもとでもある。ただし、ロンドンの中心部は、随分最近変わってしまったようだ。
かつて、B&Bの近くを通っていた鉄道の堤は、すでに線路が撤去されて今はなく、人や犬の散歩道になっている。上述の地図には、一本一本のレール、信号灯、駅舎などが、詳しく記されている。駅があった処には、木製階段の残骸が草の間に見えている。この鉄道線路が、本線に合流する地点にあったブリッジは、既にない。急に鉄道ファンになって、この百年前の地図と地形を比べては、「なる程、なる程」などと頷いたことであった。
我々は、イズリントン区の、ある公共図書館にも行ってみた。写真は、語学の学習用カセットが並んだ書棚である。みたところ、よく利用されているようだ。
英語を母国語としない人々にとっては、カセットが役立っているのだろう。
私は、街路の名の由来を知りたいが、何かよい本がないかと訊ねてみた。そして、出して下さったのが、The
Book of Islington STREETS WITH A STORYという書物[2]であった。これは、イズリントン区内の各街路について、その由来を述べた本である。即ち、由来の解釈には、根拠を提示し、街路の名前を何時まで遡れるかを示した労作である。さすがに、ロンドン研究が進んでいることを知ったのである。
というのは、泊まっていたB&Bの近くに、Japan Crescentという名の街路があり、その名の由来を知りたかったからである。この本から、該当部分を引用すると、
Not in directories until 1888.
The 'Japan House' stood next to the former Stapleton Hall, Stroud Green
and in T. Cromwell's Walks through Islington(1835), the author said that
when the boundaries were beaten 'it had been customary for the Church warden
....to provide rolls, cheese and ale for the refreshment of the parochial
procession, including the charity children.'
と記されている。
つまり、この付近にJapan Houseと称する建物があったのが、街路名の起源らしい。ロンドンの開発がここに及んできた頃の様子が偲ばれる。
各公共図書館のサービス、開館日・時間、図書館の場所などは、インターネットで知ることができる。そこで予め日本で調べておいた。それによると、質問には、アポイントメントをとると、係りの人が対応してもらえるようだ。
この図書館では、女子用トイレは、パスワードを知らないと戸が開かないようになっている。パスワードは、係の人に、そっと訊ねるのである。男性トイレ(小)は、ちょうど横に長い洗面所から蛇口を外したようなもので、いささか面食らってしまった。高すぎるのも困ってしまう。
Last updated on 13 April 1999.