昔、一匹の猫のお陰で大富豪になったという半ば伝説上の人物、 Dick Whittenton(1358?−1423)は、ロンドンの市長に三度も就任したという。そこで、見習うべき立身出世の典型として、よく引き合いに出される。Dickensの著作にも、このウィッティントン氏は何度も引用されている。ガイドブックによれば、ウイッティントンの石があるという。一体、それはどんなものか、どこにあるのか知りたくなったのである。
この石に会うには、ロンドン地下鉄ノーザン・ラインのArchway駅で下車する。駅を出て、ハイゲートへの坂(ハイゲート・ヒル)をすこし登ると、Whittenton病院に至る。石は、病院の手前、歩道の真ん中を占拠している。問題の猫は、石碑の上で、ロンドンのシティの方角を振り返っている。
ウイッティントンの石は、さだめし大きなものだろうという先入観があり、どうもそれらしいものが見当たらないので、通行人に訊ねたのであった。由来を知らなければ、うっかり見過ごしてしまうかも知れない。
この碑の由来は有名である。中西敏一著:「チャールズ・ディケンズの英国」[3]から、該当部分を引用すると、ウイッティントンは、「ロンドンに出て商人になる修行をつんでいた。」ところが、「修行にたえかねて故郷に帰る途中その(石の)上で休んでいると、シティーのボウ教会の鐘が、"Turn
again, Whittenton, thrice Lord Mayor of London"と聞こえ、彼は新たな希望を抱いたという。」
ここは、ロンドンの中心部に比べて、かなりの高度があり、シティの方向を見渡すことができる。実際に、Bow教会の鐘が聞こえたのだろうか。[14]
ウィティントンの石が、デイケンズの小説に引用されている箇所は、上記の書物に詳しい。今では、ディケンズの数々の小説その他の電子テキストが、WWW上に公開されている。そこで、それらを検索すれば、記憶力が乏しい私でも、調べるのが容易である。
小説以外のディケンズの著作、例えば無商旅人(Uncommercial
Traveller) では、IX(City of London Churches), XXI (The City of the
Absent)に、ウイッティントンが引用されている。これを調べたのも、電子テキストのお陰である。幸い、無商旅人には、邦訳がある。[4]
修行を一旦あきらめたものの、故郷へ帰路の途中で思い直して修行に戻る話は、日本にもある。滋賀県彦根の東北にある、磨針峠で、老婆が斧を研いで針を作る姿を見て、修行に立ち戻ったという話である。時と所が変わっても、人間は全く独立に、同じような発想をするものである。[15]
ウィッティントンの石には、
WHITTINGTON STONE
SIR RICHARD WHITTINGTON
THRICE LORD MAYOR OF LONDON
1397 - RICHARD II
1406 - HENRY IV
1420 - HENRY V
SHERIFF - IN 1395
の文字が刻まれている。
この坂をさらに登って行くとまもなく、Waterlow Parkに着く。小さいが、起伏に富んだ綺麗な公園である。秋には紅葉が美しい。また行ってみたい所である。
昔、ここを訪れた際に撮影した写真と比べてみた。[16]樹木が繁ったり、枯れたりしたせいか、撮影位置が分からなくなっているものもあった。水呑み場にあった、球形の石の飾りは既になくなっていた。
ちょうど、二人の上品な老人が、のんびり散歩していた。写真をみせて、このことを訊ねてみると、狼藉(vandalism)のせいだと嘆いて居られた。ついでに、フィンズバリー・パークの近くに泊まっていると云うと、フィンズバリー・パークは行ったことがないということだった。何しろ、ここはハイゲートなのだ。[20]
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d on 13 April 1999.