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     Wedding Anniversary -第2話-
作者:鏡裏さん

「あ、お兄ちゃん、おはよう。今日は早いね」

俺が起きると清音はすでに台所で朝ご飯を作っていた。

「ああ、おはよう」

キスのこと考えてたらあんまり眠れなかったなんて言えないな…
俺はそのまま食卓の椅子に腰掛ける。
そこにはすでに焼き魚などいろいろ並んでいる。
後はみそ汁…は今清音が持ってきた。
で、今度はご飯をよそっている。
む、動きに無駄がない。
って俺はアホか…

「いただきます」

「いただきます」

「お兄ちゃんは今日何か予定あるの?」

「イヤ、全然いつも通りゴロゴロと」

清音は苦笑している。
大学生である俺はすでに休みなのだが、清音はまだ学校がある。
ということで目の前の清音は制服を来ている。
一部の人間が泣いて喜びそうシチュエーションだな。
制服姿の女子高生が朝ご飯作ってくれるなんて。
俺には日常の一風景でしかないのだが…

「何でそんなこと聞くんだ?」

「うん、別に意味はないけど」

ちょっとした間が気になってしまう。別に気にするようなことじゃないのに、
昨日はまでは気にもしなかったのに、それでも今は何かしゃべっていなければ
ならないような気がしてならない。

「今日は何時ごろ帰って来るんだ?」

「いつも通りだよ。そんなに遅くはならないと思う」

「………」

「………」

やっぱり意識してるんだよな…
俺も…清音も…
さっきからほとんど目を合わせないし。

「清音…」

「あ、もう学校行かないと」

清音はいつの間にか食べ終わっていた。
というより俺がぼーっとしてたのかも知れない。
清音が話を切り上げるために早く食べたという可能性もあるが…

「それじゃ、いってくるね」

なんて事を考えてる間に清音はさっさと準備を済ませている。
おいおい、これじゃまるで俺がとろいみたいじゃないか。

「ああ、いってらっしゃい」

「いってきま〜す…あぅ」

どうやったら玄関のドアに頭ぶつけるんだ…

「い、いってきます」

清音は半泣きのまま出て行った。
なんか心配だな…

いつも心配している…
いつも心配してた…
俺達はいつも一緒だった。
小さい頃はそうでもなかったが、清音が中学上がった年、
うちの母親は海外を飛びまわっている親父のもとに行くといった。
それからはずっと二人で暮らしている。

俺には単に海外に行きたいだけとしか思えないが、それを言うと清音が

『お母さんはお父さんのことが心配なんだよ』

という事は分かっている。真実はいったいどうなのかわからない。
両親ともかなりとぼけた性格だからどこまで本気なのか俺にはさっぱりだ。

だから、俺達はお互いに助け合って暮らしている。
二人で暮らすようになった時点ですでにほぼ完璧に家事をこなす
清音にはずいぶん助けられた。というより、母親がいた時から清音が
家事のかなりの部分をこなしていた。

料理研究家という職業ながら、家ではほとんど料理をしているのを見たことがない。
夜帰ってくるのが遅いということもあって、俺の夕食はほとんどいつも
清音が作っていた。今思えば、これが母親の作戦だったのかも知れない…
もともと料理することが好きだった清音の料理の腕はどんどん上達していった。
そして、必要に迫られて掃除・洗濯もよくした。
俺もたまに手伝ったが、清音には比べるべくもない。

その当時、俺は学校帰りに夕食時間をはるかに過ぎる遅くまで寄り道したことが
あった。もう夕食は食えないだろうと思った俺は外で食べて帰った。
しかし、清音は待っていた。俺が帰ってくるまで食べずに…
そんな清音が愛しくて……
愛しくて…なんだ?
…何かが引っかかる。

とりあえず片付けでもするか…
洗い物は俺の仕事だ。二人で暮らしている以上、全面的に清音に
頼るわけにはいかない。これはいくつかある俺の仕事のうち一つだ。
と言っても、調理に使ったものは清音が洗っているので、そんなに
時間のかかるものではない。

さて、終わったが…
………することがない。
窓の方に目をやる。
良い天気だな。
こうやって寝転がってると眠たくなって…





俺は夢を見ている。
夢を見ているにも関わらず俺には不思議とそれが分かった。

清音が寝ている。
机に伏して…

これは過去の記憶…
あのときの…

「清音…」

「あ、お兄ちゃん…お帰り。今ご飯の準備するね」

「清音…」

「お、お兄ちゃん…」

俺は清音を抱きしめていた。

俺は自分が許せなかった。自分の勝手な思いこみで清音を待たせて…
それでも清音は何も言わずに、オレの飯の準備をしようと…
そんな清音が愛しくて…
俺は清音が好きだった。

でも、それは禁じられた気持ち。
だから、この気持ちは俺の中で眠らせる。
できるなら目覚めることのないように…





「…いちゃん、お兄ちゃん。こんなところで寝てると風邪引くよ」

「…そうか」

「え?」

清音は俺の側に正座している。
俺は上体を起こした。

「もしかしてずっと寝てたの?」

俺は清音を抱き寄せた。

「お、お兄ちゃん…」

突然こんなことしたんだから驚いて当然か。

「清音…俺は清音とキスしたい」

「え?え?」

肩に手を添えて、ゆっくりと唇が重ねる。

「ん…」

清音はちょっと抵抗を見せたものの、すぐに体の力を抜いてくれた。

「チョコの味がする」

清音は顔を真っ赤にして俯いた。

「か、帰りにちょっと…」

俺は再び清音を抱きしめる。

「あ…」

「俺…どうやら清音のことが好きみたいだ」

「お兄ちゃん…私もお兄ちゃんのこと好きだよ…」

「ホントか!?」

俺は清音の目を見た。

「…うん」

この前と同じ優しい微笑み…
この表情を見ると不思議と安心できる。
そして、俺は三度清音を抱きしめた。

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