崩壊する大地を見て湧き上がるのは 哀しい記憶

美しく暖かな作り物の世界が見る影もなく宇宙のデブリに変化する瞬間

それは 大事な人たちの場所が失われた瞬間でもあって

どうして どうしてとループする遣る瀬無さの渦は

蟻地獄みたいに思考の端で澱み続ける












<8>





戦闘開始からコロニーの崩壊まで余す事無くモニターをで見てきた学生たちは、どこかしら痛みを伴った表情で戻ってきたが、事の顛末を医務室で待機していたミゲルとラスティに話していく内に元の調子に戻っていった。
自分たちの襲撃の所為で家を失くした彼らへの申し訳なさから苦い顔をしていた怪我人組み二人は、あっという間に立ち直る彼らにもしかしてこんなことも覚悟していたのかと子供なのに割り切ってしまった彼らに別の意味で苦味を噛み締めたが、

「そういえば・・・」

とミリアリアがついでのように付け足した彼らにとっての重要事項にぎょっと目を瞠らせた。

「「新型が一機撃墜!?」」
「や、撃墜じゃねぇよ、両腕無くなってたけど」
「ジンに拾われて飛んでったしな」

そこから先は気流で画像が乱れて判らなかった、と一応生きていることだけは判ってほっと息を吐いたが、しかし新型に乗っているということは、パイロットは紅服のはずだ。
紅服といえばザフトのエリート。腕はいいとはいえ、民間人に落とされるのはあまりに不自然ではないか。

「それってどんな奴だ?」
「詳しくはわかんねぇけど、赤かったような・・・」

そう思っていたのだが、トールの返答に更に息を詰める。赤い機体といえば――ラスティは知らないだろうが――ミゲルが知る限り、1人しか乗り手が思いつかない。

「・・・アスランが・・・」
「うっそ、アスラン負けたわけ!?あいつ一応うちの隊のエースだぜ!?」
「まぁあいつは奪取の時からちょっとおかしかったしな」

自分がジンでストライクと対峙した時、何故か去り際に「絶対中の人間を傷つけるなよ!!」と釘を刺してきたのだ。
敵と相対した時の軍人の対応としてはおかしすぎる言動である。あの口ぶりは“外身は良いからパイロットだけでも連れて来い”とまで言い出しかねない勢いだった。

「エースなの?ハエ叩きみたいだったけど」
「ハ?」「え?」

若干怒りの気配を漂わせるミリアリアの一言に間抜けた――しかし妙に息の合った――返答をした二人は、一体どんな無様な戦闘をしたのかと大いに呆れ――

「確かに、あれはハエ叩きだよな」
モグラでもいいけど、そんなに可愛くないし
「群がるハエをいくら叩いても追い払えなくて、ついには殺虫剤使っちまった感じ」
「そうそう、まぁ“叩く”じゃなくて“蹴る”だったけど」

いやぁ、いいドロップキックだったと、予想以上の酷い言われように頭を抱えた。


ザフトの恥だ・・・
アスラン・・・友達やめよっかな・・・


関係ない自分たちまで恥ずかしい。ザフトが皆そんなだと思われたら非常に心外である。
内心で友情の見直しまで図っていたラスティは、深〜く溜息を吐いて、今自分たちが生き残っている最大の功労者の不在の不自然さに気づいた。
戦闘は終わったはずなのに、自称民間人の彼女は帰ってくる気配もない。
そういえばずっと会話に不参加のカズイがキラのパソコンを使って何かしているようだ。

聞いてみた方がすっきりするだろう。妙に落ち着いて先程の戦闘を分析している彼らにキラの所在を訊いてみると、

「ああ、今カズイが・・・」
「かかったよ〜!まだ圏内だった」

答えようとしたサイの言葉を遮って、カズイがほっと気の抜けたような声を上げた。それにミリアリアがすぐさま反応し、パソコンに飛びつく。

「ホント!?通信は!」
「そ、それは電波障害が激しくて無理だけど・・・発信機はなんとか!」
「これは・・・ヘリオポリス圏外か。そんなに離れてないな」
「キラだし、損傷なんかはない見たいだけど・・・もしデブリに当たったりしたら・・・」
「だ〜いじょうぶだって!ストライクは元々宇宙用だし、キラはそんなへましないって!」
「ちょ、ちょっと、見せてもらっていいか?」
「俺も俺も〜」

飛び交うどこか犯罪職の濃い彼らの言葉に、ついつい身を乗り出してミゲルが聞くと、トールがパソコンをベッドに持ってきてくれた。全員が怪我の重いミゲルのベッドに集まる。

モニターを見ると、ヘリオポリスの近域図が映っており、中央に大きく写るヘリオポリスの近くに点が一つある。近く、と言っても多少は離れているので、意識と機体のエネルギーさえあればデブリに当たることはないだろう。
だが、安堵する一方で、

「なぁ、これって発信機だよな・・・?」
「そうそ、緊急時用のな〜」

なんで友達にこんなもん付けてんだよ、という意味も込めて恐る恐る尋ねた問いだったが、全く悪びれもなくトールに返された。
更には、どこか得意げな顔で自分の腕に巻いたブレスレットを指差し、

「カズイが作ったんだ♪俺ら皆持ってるんだぜ、もちろんキラも」
「まだ試作品だけどね」
「郊外の街で迷子のキラを探した時以来だな、これ使ったの」
「カズイは通信専門だからね〜」

極当たり前と言うようにうなずき会う“自称”民間人の学生たちを呆気にとられて眺める。
だからなんで民間人がそんなスキルを蓄えてんだよ。
問い詰めてみたいが、彼ら相手ではきっと意味がない気がする。トールとミリアリアの医療技術もカズイの通信技術も、附属される具体例は大概キラのためで。彼等がそれを得るための理由もまた「キラのため」と断言されそうだからだ。
なんとなしに予測をつけてしまったラスティはガクッと肩を落とした。大仰な溜息を吐いて、一向に動かない画面上の点を見ていると、ピコンッと不意にもう一つ別の点が表れた。

「へっ?もう一個・・・?」

虚を衝かれて声を上げたラスティは学生組みを伺ったが、彼らも心当たりがないらしくしきりに首を捻っている。

「俺たち以外でこれ持ってるやつっているっけ?」
「一人一個ずつだよ?出回らせるつもりないし。・・・あ、」
「なに?」
「キラに、もう一個上げた。カナードさんに渡したらって。・・・僕、あの人苦手で」
そういえば誰に渡したか聞いてないや。
「カナードさんって今仕事って言ってたから、別の人じゃね?」
「そうよね、・・・じゃあ誰なのかしら・・・?」

キラの謎な交友関係の片鱗を知る少年少女は揃って首を傾げ、彼等が知らなければ判りようもないラスティとミゲルはのんびりと肩を竦める。

画面上の“キラ”の点が、正体不明のブレスレットの持ち主に向かっていくのを見つめながら。










































ピッと小さな電子音が耳を掠めて、キラは静かに目を開いた。
音源の華奢な手首に巻かれたブレスレットを見ると、丁度手首の裏側に位置する辺りが青く点滅を繰り返している。

「受信反応・・・?アークエンジェルからじゃない、よね」

ヘリオポリスの残骸がゆっくりと分解して四方八方に散っていく中を見回すが、発信源らしきものは見当たらない。
兎に角それでも捜索に当たろうとグリップを握りなおしたが、

『ストライク!無事なら応答しろ!・・・キラ・ヤマト!』

ペダルを踏み込む直前に、切羽詰った声音でアークエンジェルから通信が入ってしまった。
戦闘中は面倒で遮断していたのだが、オーブ管制にハッキングしたときに回線が開いてしまったらしい。
こんな所で生死不明の判定をされても面白くないので、ストライクをデブリの合間に滑らせながらも通信に応じることにする。

「キラです。・・・無事ですよ」

レーダーの感度を上げてみると、案外近い所から反応があった。どうやらデブリに隠れて視認出来なかっただけらしい。

「そうか・・・こちらの位置はわかるか?」
「はい」

反応があった方に近づいてみると、やや大型の救命ポットが弱々しく信号を発しながら漂っている。推進部が故障したらしい。

これでは本土に帰るのは無理だろう。故障が推進部だけで済んでいるかも判らないし、あちら(本土)からの救援を待つよりは今ここで助けてしまった方が安全性が高い。
アークエンジェルの方も、折角繋がっているのだからついでにごり押ししてしまおう。

『では、速やかに帰還しろ』
「はい。あ、お土産拾って戻るんで、ちゃんと丁重に受け入れてくださいね」
『なんの事だ!?何を勝手なことを・・・!』
「救命ポットを発見しました。推進部が壊れていて、このままじゃデブリに当たって更に破損する可能性があります」
『本艦は戦闘艦だぞ!じきにオーブからの救援が来る!』
「じきっていつです?一時間後?二時間後?明日になるかもしれませんよね。その間にこのポットがヘリオポリスの残骸に当たって宇宙のデブリの仲間入りしないってあなたは断言できるんですか。僕はあなた方の乏しい人道的精神”ってやつをフル稼働させてでも今ここでこれを保護すべきだと言ってるんです」
『だが、現在は任務中で・・・!』
『いいわ、許可します』
『艦長!』
「ありがとうございます、ラミアス大尉。・・あ、艦長

ブチッ。向こうの気が変わらない内に通信を終了させて、早速ポットを回収しアークエンジェルへ向かう。通信の向こう側でどんな皮肉ったやり取りが交わされているかなんて知ったことではないが――

“見捨てろ”発言をした人物――おそらく、ナタル・バジルール少尉の声だろう――をしっかりと脳内ブラックリストに突っ込んだ。







































クルーゼへの報告を済ませたイザークは、結局払拭されなかった迷いを抱えたままガモフに戻り、パイロット控え室に向かった。
ヴェサリウスを去る間際、緊急の通信でモニターに映っていたコロニー崩壊の映像が、ぐるぐると頭の中を回って重く溜息を吐く。

原因は知らないが、少なくとも自分たちの襲撃が切欠で誰かが――彼女が守ろうとしていたものが無くなってしまったことは確かだ。

『こんなことになってしまったが、あの戦艦を追う方針に変わりはない。君たちにはあの機体を任せよう。一応、命令として“撃破”の指示を出すつもりだが・・・そうだな、君については、その場の判断に任すことにしようか』

顔の半分を覆う仮面の所為ではっきりとした表情は判別できなかったが、凄惨な状況を映すモニターを眺めながら話す口元は、微かに笑みの形をつくっていた。
この事態を楽しんでいるようにも怒りを抱いているようにも見える姿に、背筋が寒くなるのを感じながらイザークはその場を辞したのだが・・・




シュッと空気が擦れる音がして、控え室のドアが開く。そこには変わらずニコルとディアッカが軍服に着替えた状態で待機しており、そういえば口止めされたから事情は話せないなと思い出す。
しかし彼らは特に言及するでもなく、ニコルはやけに心配そうに顔を歪めており、ディアッカはそれ以上に面白いことを見つけたといわんばかりの企み顔でそれぞれ格納庫を見つめていた。

「いいトコに戻ったな〜イザーク」
「なにがいいところですか、あんな・・・っ!」
「何があった?」

自分がこちらに戻る僅かな間にそんな大仰なことが起こったのか。少なくとも、今自分が抱えている問題よりはマシだろうと、大窓に歩み寄りながら気軽に構えて尋ねたが、

「アスラン、無理矢理くっついてったクセにボコボコにやられて戻って来たってよ」

今下で主任に説教喰らってる。

嘲笑の色合いを強くして返された答えに、いつもなら「無様なヤツだ」と嗤ってやるところだったが、眼下に広がる惨状と別の懸念に思考を硬直させてしまった。

アスランはアカデミーでも総合一位の成績で卒業し、特にMSの操縦と機械工学では群を抜いていた男で――しかもそれを涼しげにこなすものだから余計気に食わないすかした野郎で――こんな所での戦闘で自分の機体を破損させるなど考え付かないことだったが・・・
収容された期待は本当にボロボロを通り越してあちこち凹んでボコボコしており、両腕まで損失しているという無残な姿になっていたのだ。

「・・・・・・相手は」
「はぁ?」
「相手は誰だと聞いてる!」
「なんだよ怒鳴るなよ!・・・相手は確か、あっちに残っちまった新型だってさ。殆んど攻撃もせず滅多打ちにされたってオロールのやつが・・・」
「新型・・・」
「どうしたんです、イザーク?」
「どうしたんだよ、アスランの敵討ちでも考えてんのか?」
「誰があんな間抜けの敵討ちなんぞするか馬鹿者っ!

ディアッカの馬鹿馬鹿しいくだらない質問を容赦なく切り捨てて――ニコルが若干不満げな顔でこちらを見てきたが構うことではない――思い当たってしまう“節”に混乱しそうになる思考を巡らす。

アスランをここまでボコボコに出来るほど、動けている機体――そういえばミゲルも墜としているし、隊長機も破損させていた――のパイロットがナチュラルだとは到底思えない。
少なくともナチュラルが作ったOSでは戦うどころか歩くことすら難しいはずなのだ。
コーディネイターで、OSを短時間で書き換えられて、かつ機体を乗りこなせるだろう人物――ついでにこちらに銃口を向ける理由がある者とくれば。

他にもいる可能性もあったが、印象が強烈過ぎて1人しか思いつかない。しかしこの予測が正しいとなると――

(何故敵視していた地球軍の支援なんぞをしている?コロニーを守るにしても、もっと他に方法はなかったのか・・・いや、それよりあいつが“オーブの影”なのかどうかもはっきりしないし・・・)

黙り込んだ彼を訝しんで見る二人の視線に気づいていたが、次々に湧き上がる疑念に真剣に頭を抱えたくなったイザークである。

彼の予測はほぼ的をいており、件の新造艦に乗り込んだ彼女があの機体に乗っていることまでは当たっていたが、流石に彼女以外でもオーブの民間人や自軍のパイロットがまで乗っていて、“地球軍を敵視している少女”が艦内部から軍人たちを口撃していることなど知る由もなかった。






































ストライクとポットを収容し、コックピットから出てきたキラは、何故か陽気な整備チーフ――マードック軍曹に肩を叩かれながら、無事な様子でポットから順に出てくる人々にほっと一息吐いていると、案の定と言うか、ポットを拾う前に発信機に反応した元の持ち主が不安げな顔で出てきた。

ハッチを蹴ってそちらに近づいていくと、こちらに気づいたらしい人物がぱっと顔を輝かせた。

「キラ!」

ハートマークでも飛んでいそうな声音で自分を呼び、低重力の中を文字通り飛んでくる少女――フレイ・アルスターをキラは微笑でもって迎え、傍から見れば物凄く熱烈な――実際クルーの何人かがギョッとこちらを見ているが本人たちは全く気にせず――抱擁を交わした。

「フレイ・・・良かった、ちゃんと覚えててくれたんだね」
「もちろんよ、キラとの約束だもの!」

再開の安堵と歓喜に声を弾ませながら、フレイは手首に巻きつけたブレスレット・・・カズイ特製の通信機付発信機を指した。

キラが呼びの通信機を渡した相手は、兄のカナードではなくフレイだったのだ。それは彼女がサイの思い人で将来を約束された婚約者だということもあったが、何よりもフレイがアルスター家の一人娘であり――

「ねぇ、これって・・・オーブの艦じゃないの?」
「・・・これは地球軍の艦だよ」
「でも・・・キラがいるのに」

オーブの民間人に紛れて見える地球軍の軍服を見て明らかに不満そうな顔をした彼女が、大の地球軍嫌いだからだった。
その理由は複雑で様々な事情が絡み合っているのだが、なんにしても悪感情は変えようもないもので。
しかし彼女自身は大西洋連邦事務次官の娘であり、こんな戦時中のゴタゴタに巻き込まれれば父親の立場からも大嫌いな地球軍に利用されかねない。
そうされる前にオーブ側が先手を打って保護するために渡したブレスレットだったのだが、本当に使う日がくるとはあまり思ってなかった。

信頼の色を濃く滲ませた目を見て内心安堵しながら、そっと人差し指で彼女の言葉を遮り、白くて華奢な手を引いて床に降り立った。

「また後で説明するよ。今はみんなの所に行こう?・・・サイもいるよ」

悪戯めいた笑みで思いついたことを告げると、上機嫌に頷いたフレイの白い頬がほんのり赤く染まり、

「もう、キラまでからかわないでよね!」

と怒った様子で睨まれたが、照れ隠しなのが丸わかりなのでちっとも迫力がなかった。

トールと付き合いだした頃のミリアリアも可愛かったが、こんなフレイも初々しいなぁ、と他人事だからこそ暢気に微笑み、拗ねてしまった彼女を促して友人たちが待っているはずの医務室へと歩き出す
二人の空気を構築されて呼びかけたくても出来ない様子のマードックを完全に無視して。









































救命ポットに乗り合わせたらしい医師に医務室から追い出され、談話室に場所を移した学生たちは、そわそわと戦場から戻ったはずの友人を待っていた。
ザフトの二人を残して来ることには多少の不安はあったが、彼らと一緒に出ようとしていた二人を「怪我人なんだから動くな!」と怒った医師がベッドに引き戻し、だったら小まめに様子を見に来ることにして一先ず別れたのだ。

こんな所で、彼等がコーディネイターで――これはオーブ国民にはあまり問題じゃない――しかもザフトなんて――これは人種的にも国家問題的にも大問題だ――知れたら洒落にならない。
いざという時、フォローに入る役を“本物の民間人”である自分たちが担わなければならないのだ。
年の近い彼らが軍人なのに気さくで友好的な所為か、地球軍の印象がザフトのそれより遥かに悪い所為か、学生たちの方針はとっくに“自分たちはオーブへ、彼らはザフトへ(地球軍のむかつく野郎どもを出し抜いて)無事に帰る”という方に固まっている。
ちなみに

「気に食わない奴らを出し抜けたらかなり気分良いよな〜」

と楽しげに言い放ちザフト軍人を絶句させる偉業を成したのは、彼らにすっかり馴染んだトールだ。裏表のない笑顔を爽やかに振りまきながら医師が来る前にミリアリアと医務室から色々必要なものを調達していた。
今医務室からは特定の睡眠薬や麻酔薬やちょっとした劇薬が消えている。準備万端でやる気は十分である。

しかし閉じこもっていられる作業場が無くなってしまい、他の人たちの場所が決まったらどっかの一部屋を丸々占拠しようか、だったらどの辺がいいかと時々ドアのほうを伺いながら算段を立てていると、

「あ、いたいた。探したよ〜」

と待ちかねた人物がのんびりした声を上げてひょっこり姿を現した。

「「「「キラ!!」」」」
「ただいま〜」
「おかえり!遅かったじゃない、心配したんだからね!!」
「ごめんごめん、ちょっと拾い物してた」
「拾いものって・・・?」

ずっと待ち構えていたミリアリアが真っ先に飛びつき、そういえばあの発信機の持ち主は誰だったのかと思いながら、あっけらかんと笑うキラが指す背後を見ると・・・

「サイ!!」

鮮やかなピンクと赤が飛出してきた。

「フレイ!?」
「ねぇ、一体なにがあったの?キラがいるからなんとなく予想はつくけど・・・“ヘリオポリス”は?私ジェシカたちとはぐれちゃって・・・・・・とっても心細かったのよ!」

残像しか見えないスピードで驚いた様子のサイに抱きつき、いつもの1,7倍(当社比)猫被った高い声でまくし立てている。

「ありゃ〜・・・もうちょっとか弱そうにしたらいいのに・・・」

にこにこ笑って呟く友人の姿で何となくフレイの異常の原因を悟ったトールが、一応サイには聞こえないように小声で確かめた。

「あれ、キラの入れ知恵だよな?」
「せっかく滅多にない非常事態なんだし、吊り橋効果狙って一気に進めてみたらって・・・さすがにあそこまで勇ましく抱きつきに行くとは思わなかったけど」
「まぁ、フレイだしなぁ・・・」
「あら、抱きつくの勧めたのはキラじゃないの?」

ああ見えてフレイは本命には奥手だから。

「そういうところも可愛いんだけどね〜」

こそこそっと混ざってきたミリアリアの指摘に、仕方ないなぁ、と肩をすくめていたキラが実は一番フレイを勇ましくさせている。
だっていい加減にサイもはっきりさせた方が良いし、早く進んで二人が安泰になるし、こっちも見ていて飽きなくて面白いし。
にこやかに笑うキラの笑みは明らかに一番最後の科白が本心なのだと暴露していたが、それはそれとして。
ちらっと件の二人を見れば、抱き合うような体勢のまま、目に眩しい親密オーラを垂れ流している。あそこだけピンクだ。
パソコンの前から離れ損ねて煽りを受けているカズイがいっそ痛々しい。
が、傍から見ていると、フレイの積極的なアプローチにサイも満更でもないらしい。

そりゃあ、男としちゃそうだよなぁ〜
今更だったが、自分の女友達の美形率の高さを思って遠くを見やる。自分の恋人のミリアリア然り、フレイ然り、男装しているといってもキラだって当然その範疇に含まれる。
その分、虫退治も大変だったりするのだが、これもやっぱり“幸せな悩み”なんだろうなと、遠めに顔色が悪くなっている気がするカズイを眺めながら苦笑を一つこぼした。







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