昔から拾い物って嫌いじゃなかった。
キラキラ光る石とか、片方だけのピアスとか
犬や猫なんかもよく拾って両親を困らせていたのも覚えてる。
流石に人間を拾ったのは初めてだけど、
なにか一つでも良い方に転がったら嬉しいでしょう?
<3>
予想はしていた。
昔からこういうのは当たる方だと自覚していたのだが、要はぶちあたらなければいいのだと軽視していたのは事実――
だけど、神様。
もしもいるなら恨んでしまいそうだよ。
厄介事はいつでもこちらの都合に構わず突撃してくるなんてこと、こんな時まで思い知らせてくれなくたっていいじゃないか。
カガリに見せれるものだけ見せてシェルターの一つに押し込んだ後、キラは肝心のMSへの接近方法を考えていた矢先に先程声を聞いた女性士官に呼ばれ、これ幸いとキャットウォークから飛び降りそちらへ向かった。
近づく間に銃で撃たれ、蹲る女性に小さく息を吐くも、放っておけなくて駆け寄り、なにやら大振りのナイフを振りかぶりながら向かって来る紅服を、
(民間人の僕の前で人殺しなんかしたら絶対何かしら報復してやる)
と恐ろしげなことを考えながら睨みあげてみると、そこにいたのは――
「キ・・・・・・ラ?」
ナイフを振り上げたまま硬直するザフト兵。不審さいっぱいに自分の名を囁かれたキラは、そのバイザー越しに見える目に不審や驚愕、そして躊躇いの色が過ぎった後、最後に浮んだ色を視認してしまい――
(うわぁ・・・)
フリーズしていた思考回路を光速回転させ、見知った相手であれ決して名などは呼ばず、キラは見開いた目をそのまま振り翳されているナイフに向け、顔面に悲愴さを貼り付けて口を開いた。
「っうわぁああああああッ!殺されるぅううう!!!」
肺活量を目一杯使っての大絶叫。年頃の少年が上げるものとしては些か情けないものだったが、民間人がこういう場合にする対処としては上出来だといえよう。
じりじりと何故か両手を広げてこちらに向かってくる相手の虚を衝けたし、自分が支える女性士官が正気づいて上手く遠ざけてくれたのだから、一石二鳥。MSの中に突き落とされて背中を打ったのは痛かったが、これで一石三鳥になった。
パイロットシートに座り、女性士官は次々とMSの電源をオンにしていく。手際の良さから技術将校なのかもしれない。
一応、服装はモルゲンレーテのものだし。
「私にだって、動かすことくらい・・・!」
声に滲むのは決意と焦燥。きっと彼女も何か誇りを抱いてこれの開発に携わったんだろう。今回のことは代表首長も知らないところで行われた内部分裂によるものだったが、恐らく地球軍側はオーブがこれに協力している、もしくはそうして当然だと考えているのかもしれない。
地球軍の圧力と、惑わされてしまっているモルゲンレーテの職員。そんな内情も知らず、ただ任務をこなす使命感に囚われている。軍人とはなんて単純で面倒で厄介な生き物なんだろうか。
(これは、なにがなんでもオーブに持ち帰らなきゃならないけど・・・状況次第ではちょっとくらい優しくしてあげてもいいかもしれない)
匙加減は任されている。問題は、天秤の量皿にどれ程の情を乗せてやるかだ。
だから、とキラは立ち上がるMSの中でモニターから外を見やりながら、モルゲンレーテの作業着を引っぺがして今すぐ彼女を放り出したい衝動を抑えた。
ただし、
「ああっ!あんな所に!」
「な、に・・・!?」
これ以上、地球軍がこの機体に触れることは我慢できそうに無かったが。
どさり、腰を浮かせた女性が再びシートに座り込む。首へのちょっとした打撃で気絶させるのはキラの兄の十八番である。
「君だけでも連れて帰るからね・・・ストライク」
愛おしむ仕草で機体に触れ、古典的な方法に引っかかって意識を飛ばしてくれた彼女の体を横に押しのけ、OSをチェックする傍らでモニターを見る。
「・・・イージス・・・」
もうもうと上がる土煙の向こうで立ち上がる機体に目を留める。それに乗っているだろう人物を思い浮かべてキラは思わず眉根を寄せた。
(さっきので誤魔化されてくれれば良いんだけど・・・アスラン・・・にしても)
パトリック・ザラは何をやってるんだ!
根深い苛立ちを含めながらキラは内心で三年前に別れた一応幼馴染の名を呼び、当時とあまり精神構造が変わってないらしいと解る先程の様子を思い返して思い溜息を吐いた。
さっき――ナイフを振り上げた体勢のまま、彼の目に最後に浮んだのは、
この上も無く状況に似つかわしくない、
歓喜だったのだ。
『キラも・・・プラントに来ないか?』
三年前の別れ際。プレゼントとして手渡された絶望的なネーミングセンスとおかしな鳴き声のロボット鳥への反応に困っていたら、じっとこちらを見つめるアスランに誘われた。
この時、既に大切な事情から“地球とプラントが戦争をすることなんて無い”ということは有り得ないと知り得ていたキラは、必死で頬の筋肉を酷使して微笑み、首をゆっくり振った。
『父さんも母さんもいるからね・・・僕は行かない』
ナチュラルの父母とはなれる気は毛頭なかったし、二人を強引にプラントに連れて行っても入国審査で即行国外退去になるのがオチだ。キラの柔らかな拒絶に不満そうなアスランがもし父親の権力を使ってごり押ししても、今後の情勢がプラントから彼らの居場所をなくさせるだろう。
他にも色々と問題があるのだが、それを差し引いたとしてもキラの決意は固く、揺るぐことなど無い。アスランとプラントに行くことなどまず間違いなく有り得ないのだ。
そんなキラの意志を他所に、アスランは更に言い募る。
『だが俺は・・・っ、キラと離れるのが寂しいんだ。キラだって・・・』
そうだろう?と続きそうな台詞。涙すら浮かべそうな哀惜の目。母親似の緑は嫌いではなかったが、キラにとってアスランにはそれを振り切っても余りある不安要素があった。
『アスラン・・・トリィ、ありがとう。大事にするから』
否定も肯定もしない。こんな返事を幼馴染がきっと自分の良い様に勝手に脳内変換するだろうこともキラは熟知していた。というか、この7年と言う月日で嫌と言うほど体感させられていた。
シャトルの時間はすぐそこに迫っていて、これ以上別れを惜しませる暇も無く、何度も振り返るアスランの後姿を手を振って見送った。
バイバイと言った時ちゃんと笑顔を浮かべられていたか自信は皆無だったけれど。
(キミとの7年間・・・特に終わりの3年は、何故か僕にとって孤独でしかなかったんだよ・・・何故か、ね)
飛び立つイージス、こちらにカメラを向けるジン。そしてすぐ脇で倒れる地球軍士官を眺めて、キラは操縦用グリップをぎゅっと握り締めた。
(・・・そういやデュエルどうなったかな)
これ以外で唯一直接触った機体を思い出し、ついでそれを持っていったパイロットを思い出す。あの紅服が仕込んだプログラムに気付かなければいいのだが。
一度デュエルのものをいじった所為か、いつの間にやらOSの書き換えが終わっている。この子に関してはもう少し時間と愛情を掛けたかったのに、と1人ごちて、サーベルを振り翳すジンを見やりながらフェイズ・シフトをオンにし――
(実戦は、流石に初めてなんだけどね)
死なない気持ちと生き延びる覚悟だけはいつも胸にある。
シュミレーションの時から兄に何度も教え込まれた心掛けを確かめ、キラはジンのサーベルを腕で受け止めて体当たりを仕掛けた――
――どうしたものか・・・
無事機体をガモフへ持ち帰ったイザークは、報告に行くでもなく、セットしたプログラム用のキーボードを叩くでもなく、ひたすらプログラム画面を睨みつけて考え込んでいた。
機動系のプログラムだけ見てもその造りは簡素なようで複雑怪奇な代物で、組木を取ったつもりが実は知恵の輪を掴まされたような。
小さな子供を押し付けられた気分だ。
しかも、組み換えを失敗すれば、反応が鈍くなったり不具合を起こすだけならまだしも、おかしな回路と繋がって暴走しだす危険性もある・・・という。
(まったく・・・じゃじゃ馬に仕立ててくれたものだな)
頭の中で色々とパターンを考えながら組んでみたが、どうにも上手くいかずにイザークは溜息をつく・・・しかし、それでも何故か全部やり直す気にはなれなかった。厄介なことに、普通に自分たちが組んでしまうよりも、遥かに優れたプログラムなのだ、これは。
足りないのは恐らく戦闘データだろう。パイロット個人の特性に合わせたデータで組み込んで、少しずつ馴らしてやればこれ以上無い相棒になりそうだった。
誰か1人のための専用機。そのためのOSというところか。
「まだ・・・俺のものと決まったわけじゃないからな」
OSのバックアップを取って軽くロックを掛け、長時間コックピットにいたくせに結局は何もせず出てきたイザークに、特異なOSを食い入るように見ていた整備クルーが声を掛けた。
「お疲れ様です。・・・これ・・・」
ザフトのアカデミーで習う従来のものとは明らかに違う組み方に訝しんでいる――しかし内容が突出して優れているので目が異様に輝いていたが――様子に答える気にはなれず、
「先に隊長に報告する。後でできれば説明するが――・・・すまんが今はこのままにしておいてくれ」
隊長の名前でそれ以上の追及を避けたイザークは、疲れも露な溜息を吐いて、ディアッカとニコルがいるはずのパイロット控え室に向かった。
その背を、夜にも奇妙なものを見たと言いたげな面食らった表情の整備クルーたちが見送っているのを完全に無視して。
「・・・俺、イザーク・ジュールが人に気ぃ使ってるの初めて聞いた」
誰だよあれ。
技術職の人間としては垂涎物の初めて見る形式のOSに対面した時とは比較にならない衝撃を受けたクルーの1人が呆然とした様に呟いた。
イザーク・ジュールといえば、最高評議会議員の女傑を母に持ち、天より高いプライドとクールな顔立ちに反した熱い気性の持ち主で、時折起こす癇癪には誰も手が付けられずに幼馴染だというエルスマン家の1人息子がとばっちりを喰らって廊下に浮んでいるのは良く見かける光景だった。
良く言えば気位が高く、悪く言えば高飛車、間を取ると母親譲りの女王様気質な彼が、常々格下と見ているらしい整備クルーに「すまん」とは。
はっきり言って異常だ。
「帰ってからずっと様子がおかしいし」
「溜息ばっか吐いてるしな」
「しかも結局はOSそのままにして行っちまったぜ?」
コロニー内で一体何があったんだ。
謎だ、と彼らはお互いの顔を見合わせたが、答えが解るはずも無く。
気を取り直して眼光を煌かせ、デュエルのOSの解析に乗り出した。
弄るわけではない、中身を知りたいだけなのだと言い訳して。
その数分後――よってたかって解析に夢中になっている彼らを発見した整備主任から叱声をもらうことになるのだが、彼らは知る由も無かった。
フェイズシフトに物を言わせてジンを下がらせふとカメラを回すと、キラは妙な違和感を感じてある一点でズームさせた。
映っているのは先程出てきた工場区。
砂塵が舞って視界も霞む埃っぽさの中、倒れている1人の紅服。正面の陣に注意を払いながらそちらを見ると、微かに胸が・・・上下している、気がする。
「・・・・・・うっそぉ・・・」
自分の仲間を見棄てて行ったのかあの男は。名義上は幼馴染の薄情さに大分呆れながら、否、あの状況では生死を確認するのも難しかったろうと一応考え直す。流石にそこまで人間性を疑っちゃいけないだろう。
・・・頭の片隅で、自分に飛び掛ってくる時間を確認に割けばよかったんだとか言う囁きは敢えて無視して。
兎も角、折角生きているのだし、踏み潰してしまっては後味が悪い。足元にも気をつけないと・・・と考えていると、ジンは力押しで来るつもりらしく、またもサーベルを振り上げてくる。
「動きは悪くないんだけど・・・ビームライフル街中で使ってこないだけマシかなぁ」
ギリギリでかわしながら一歩一歩後退する。受けても力で押されれば敵わないだろうし、返しても周囲に被害が出る。小さく零す口調は極々呑気なものだったが、実はキラは内心焦りまくっていた。
そして、その焦燥を助長させる人影がまた目に入る。
「うっそぉ・・・」
本日二度目の呟きは、先程のものよりも遥かに切羽詰ったものだった。
そこにいたのは、別れたばかりのトールとミリアリア、それにラボで合流したと予測できるサイとカズイがいる。
サイの姿を見て咄嗟にフレイを思い出したが、彼女は街のほうに行ったようだったし、お嬢様育ちな割りにしっかり者なので大丈夫だろう。ちょっとした切り札もある。
それよりも。
こちらの動きが予想外にいいことに驚いたのか、ジンはビームライフルとサーベルを両手に向かってくる。
「わっバカッ!そんなの撃って・・・っ!」
流れ弾やビルの瓦礫が彼らに飛んだらどうするのだ、と最後まで言えずにライフルの衝撃に歯を食いしばって耐えた。
パイロットスーツも着ていないのにこの衝撃は辛い。足元を見たら、動き回る方が危ないと察したのか、ビルの陰に隠れてこちらを伺っているようだった。
その判断は正しい。だが、自分の傍らには気絶する地球軍士官が居て、カガリを押し込んだ時のシェルターへの避難状況を考えると――
「っ、仕方、ない・・・!」
サーベルの大振りをかわしてジンを殴り飛ばし、キラは素早く装備武器を検索する。
そして出てきた結果――アーマーシュナイダーしかない乏しさに舌打ちして、それを一本ずつ両手で掴んだ。
「できれば・・・死なないで、ね」
と呟き、こちらを狙ったライフルの射線をかわしながら突進して――一瞬、
「う・・・・・・ん・・・」
「えっ!?ああっ!」
間の悪いことに気絶していた士官が上げたうめき声につい気を取られ、ほんの一瞬だけ気を逸らせてしまったせいで、両腕の連結部を狙ったはずのナイフの刃は、コックピットのエンジン部分と、首の連結に突き立ってしまい――
「うわぁああっ!」
ギリギリで逃げようとコックピットを脱出したパイロットが爆風で吹っ飛ばされるのを視認しながら、キラは至近距離でのMSの爆発による衝撃に悲鳴を上げた。
ドォンッ!!
一際派手な爆音に身を寄せ合って戦闘の様子を伺っていいた4人は、それ以来、漸く止んだ争いの気配にほっと息を吐いた。
「ねぇ、あのザフトの機体倒したやつって・・・」
「多分、あれだろ。キラが言ってた新型・・・」
いまいち状況を把握しきれていないカズイが、吹っ飛ばされたトリコロールカラーの機体を見ながら気弱に訊ねると、キラの近くで最もその仕事の事情を聞いていたサイがさらりと応える。
「もうすぐ出来るって言ってたし、そこを狙われたのかも」
「でもここってスパイとかにはかなり厳しいんだろー?それがザフトにばれてたなんて・・・」
「モルゲンレーテの辺りにマシマ寄りじゃないやつがいたとか」
「警備の穴を突かれたとか?」
「あり得る〜。・・・そういえばキラ、OSにはこっちから手を出せないって悔しがってなかった?」
暴れまわっていたジンはいなくなったし、地球軍の動きは止まっているしで、束の間できた休息の時間で、4人はキラから教えられたアレコレを思い出しながら話し合い、ミリアリアの指摘に
「「「あ」」」
と男3人が顔を合わせ、全員でビルの陰から飛び出した。
キラが腹を立てるようなOSで、あんな機体をスムーズに動かし、あまつさえジンに勝つなんて、到底不可能だ。
もしかして、と考えながら、サイやトールを先頭にして片膝を着いた状態で灰色に変わった機体に彼らは駆け寄った。
まさか、まさか――
懸念を抱き駆け寄る間にも、コックピットのハッチが開き、中からは彼らの予想通りの人影が飛び出してくる。
「「「「キラぁ!!?」」」」
「みんなっ!ごめん、お願いッ!手を貸してー!!」
4人の呼びかけに答えた顔は今にも泣きそうに歪んでいて、声には焦りが滲んでいる。友人が見せる初めての必死な様子に、四人は躊躇いもせず頷き返した。
ストライクの装甲を伝って身軽に降り立ち、合流した4人と再会の喜びを交わした後、彼らの無事を確認して安堵したキラは浮かべていた涙を引っ込めて、
「ちょっとね、地球軍とザフトに恩を売っておこうと思うんだv」
と爽やかに言い放った。対する彼らは一様に首を傾げながら、ちらっと視線を上方に流したキラの動きを追って察したサイが口を開く。
「・・・もしかして、あれ届けるつもりなのか?」
「おしいっ!届けるのはまぁ間違いじゃないけどね〜」
あれ、と言ってストライクを指したサイに首を振り、キラは手を服の上・・・丁度ペンダントがある位置に押し当てた。その動作に彼等がはっと表情を引き締めると、
「ザフトが外にいて、ここに地球軍がいる。父さんたちには避難してもらったし、カナード兄さんはいない。これだけでもオーブに持ち帰るつもりなんだけど、この機体のエネルギーじゃオーブに直接降りられないからトンズラもできないんだ。だから・・・僕、あれに乗り込もうと思う」
「あれって戦艦だろ!?オーブ製でも地球軍が乗ってるし・・・それこそザフトに狙われるんじゃ・・・」
「うん、わかってる。だからちょっとした恩を売るんだよ」
彼女の命の代償に、是非とも丁重に保護してもらおうじゃないか。
にやりと人の悪い笑みを向けて地球軍に与える被害を髣髴させる発言をしたキラは、「でも・・・」と打って変わって表情を曇らせた。
「本当は・・・みんなには軍なんかに関わって欲しくないんだ。だから、」
できるだけすぐに避難場所探すからと続く声は、全くの不意打ちで抱きついてきたミリアリアに止められた。
「ああもうキラったら可愛いっ!!」
「ふぇ!?み、ミリィ!?」
いや可愛いって言われても話繋がってないんですけど。
心の中で突っ込みを入れつつ彼らを見ると力強い笑顔を向けられていて、続きを言わせないために抱きつかれたのだと悟った。
「手伝えることがあったら手伝うって言っただろ〜?」
「もっちろん、俺たちも一緒に行っていいんだよな?」
「だって!・・・戦場に行くんだよ?そんな、危ない・・・」
「なら余計、みんなで行った方がいいんじゃないかな」
「いざとなったらちゃんと逃げ出すしさ、大丈夫だよ」
「手がいるんでしょ?私たち、キラの助っ人くらいできるわよ♪」
決意に満ちた言葉に慌てて反論するキラを4人がかりで説得する。キラが手を貸して、と言い出す前に・・・機体から姿を見せたとき、すでに彼らの心は決まっていたのだ。
戦場に行くことは解っている。そこがどんなに危険で、いつ命を落としてしまうことになるかも解らないところだということも。だが、そんな場所にキラ1人で乗り込ませるなんてこと、友達としても見過ごせるわけは無かった。
自分たちは学生で、ただの民間人でしかないのは自覚しているが、それでもキラが“影”の一員で、しかも“芙蓉”であることを知った時から、いつかは必ず力を貸せるようにと色々やってきたのだ。
そんな彼らの姿も近くで見てきていたキラは、握りこんでいたペンダントを放し、一つの決意を新たにして友人たちに頷き返した。
「わかった・・・・・・ありがとう」
君たちは、命に代えても僕がオーブに返すから。
口に出さない思いを深く胸に刻んで。
一緒に居て、支えようとしてくれる心が嬉しかった。こんな時に実感するのは不謹慎かとも思ったが、無条件でかけがえない友情をくれる彼らと友達になれてよかったと思う。
「それで、上の人下ろせばいいのか?乗ってるんだよな?ザフトって言ってたのは?」
早速これからのことを聞いてくるサイに、滲んだ幸福感を噛みしめていた気をさっと引き締めて、キラは小さく頷き、指示を出し始めた。
「そう、ザフトの人もいるんだ。多分まだ気を失ってるんだけど、このままここにいて何かあったら死んじゃうかもしれないから。ついでに一緒に連れて行こうと思って」
「それで両方に“恩を売る”わけね」
「オーブの立場を少しでも良くしたいからね。1人はそこら辺に吹っ飛んでると思うんだけど、もう1人は工場区の中に居るんだ。サイとカズイとトールは上の人下ろしてからそっちも回収してくれるかな。ミリィは・・・僕とちょっと家捜しに付き合ってくれる?」
「了解っ」
「わかった」
「うん」
「キラ、家捜しって?」
覚悟を決めたキラはさらさらとサイやトールの質問に答えながら指示を出し、最後に未だ抱きついていたミリアリアから体を離して顔を合わせた。極々至近距離だが誰も気にすることはない。いつものことである。
「ザフトの彼らを連れて行って、“捕虜”にしちゃったら恩を売ったことにならないでしょ?万が一地球軍基地なんかに入って移送されても厄介だし。だからはじめっからモルゲンレーテの職員で、ついでに僕らの友達だったことにしたら丁度良いと思って」
取り敢えずの必要な物資も確保しないといけないし。
そう言うキラに彼らは納得顔で頷いて、早速力仕事担当の男三人は段取りを決め始め、キラとミリアリアは工場区へと駆け出し・・・それぞれが、目的のために慌しく動き出した。