守ること 探すこと
どちらも大事、どちらが優先かなんて
選べない 選べるはずない
<2>
自分たちが仕掛けた時限爆弾や、応援のジンに突かれて出てきたトレーラーの列の元に降りて、早速自分の受け持ちのトレーラーに取り付いたイザークは、コックピットのすぐ脇にしゃがみこむ人影に思わず足を止めた。
普通ならこんな状況で出会った不審者は問答無用で射殺するべきだと解っているのだが、鳶色の髪とほっそりした体つき、明らかに私服と判る衣装に身を包んだ人物はどう見ても軍人には見えず何故か躊躇してしまう。
その人物は遠く工場区に見えるジンを一心に見つめており、一向に自分に気付く様子はない。
(なんだ、こいつは!?)
軍人とは到底思えないが、民間人であるならこんな所にいる理由がわからない。銃を向ける選択ができないなら一刻も早くトレーラーから放り出すべきだったが、銃撃戦をしている地上に下ろすこともイザークを躊躇させた。だが、
「嘘・・・なんでザフトが!どっから情報が・・・」
という小さな叫びに驚き、誤らずその背に銃口を向ける。すると、イザークの動きに反応するようにその人物の肩に止まっていたロボット鳥が飛び上がり、「トリィ!」と鋭く鳴いた。
「っ!?」
その鳴き声につられるように持ち主が振り返り、軍で訓練を受けたイザークですら反応できない速度でぴたりと銃口を向けてきた。一般にも出回っている、護身用の短身銃だ。銃身が切ってあるため命中率は下がるが、この距離なら外しようはない。
普通なら命の危険性を感じる所だが、イザークは振り向いた人物の容姿に思わず息を呑んだ。柔らかそうな鳶色の髪に、鋭くこちらを射る大きな紫の瞳。幼さを残す小作りな顔立ちは、美形が多いコーディネイターの中でも群を抜いて整っていて、
同胞なのかもしれない、という考えが浮ぶ。しかし、なら何故ザフトの自分に銃を向けるのか、と自分も同様に構えているのを棚に上げ、つい激情のまま怒鳴った。
「お前っ何者だ!?」
少なくともザフトではない、しかしやはり軍人でもないだろう。それだけは身のこなしから判ったが――
「オーブの民間人だよ、なんか悪い!?」
と怒鳴り返され、逆に疑わしく思えてしまう。
民間人にしては隙がなさ過ぎるだろう、とかなんでこんな所にいる、とか情報がどうのと言っていたのは一体なんだ、とか聞き出したいことは山ほどあったが、任務を優先させなければならない。
「民間人ならこんな所にいないでとっとと避難すればいいだろうが!」
「うっさいな!民間人にだってそれなりの事情があるんだよ!避難しなきゃいけないような状況を作った本人が偉そうに言うな!」
「何を!?そもそも中立のクセに地球軍なんぞに味方している貴様らが先に裏切ったんだろうが!コーディネイターなのに何故プラントに敵対する!?」
「ちょっと何も知らないくせに勝手な妄想でおぞましい誤解しないでくれる!?なんで僕らが地球軍なんかに味方しなきゃならないのさ。それにコーディネイターだからってプラントに付かなきゃならない理由にはならない!」
怒鳴り合いながら一歩一歩コックピットに近づくと、自称民間人も銃をこちらに向けたまま立ち上がってコックピットに寄っていき、最後の科白と同時に相手のほうがコックピット内に飛び込んだ。
――“ユニウス・セブンの悲劇”以降、多くの同胞がプラントを守るべくザフトに志願した。イザーク自身も、プラントで守られているだけでは地球軍の攻撃やナチュラル共の差別から、プラントを・・・引いては同胞を守れないと考え志願した一人だ。
だからと言っては何だが、あんなことをしたナチュラルの中で平和に生きていて、しかもプラントを拒む目の前の人物の行為は酷い裏切りにも思えて苛々する。
「この、腰抜けめ!」
ときつく吐き捨てながら、ハッチをロックされる前にイザークも中に飛び込むと、同時にコックピットのハッチが閉じて、起動されたプログラム画面の明かり以外の光源がなくなり、一気に暗くなった。
なにやら機体にパソコンを繋いでいたらしい不審人物が苛烈な視線をこちらに寄越す。何をしに来たのかと言わんばかりだ。
「貴様、何をして・・・!?」
咄嗟に銃を構えて言及したが、撃たれると思っていないのか、それとも相当肝が据わっているのか、気にした様子もなくプログラム用のキーボードを取り出し、滑らかに手を動かし始めた。
「・・・コーディネイターだったら、ナチュラルと戦わなきゃいけないの?」
「・・・は?」
些か自分でも間抜けだと感じる声で返したが、自分の質問に答えが返る気配はなく、更には自分の作業を一切止める事無く返された声は深くて冷ややかなもので。
「地球軍と仲良くしたいなんて微塵も思ってないけど、コーディネイターはナチュラルと戦わなきゃいけないものなの?コーディネイターが共存と平穏を望んじゃいけないの?親子揃って生きられる唯一の場所を守って何が悪いの?・・・人の住んでるコロニーにテロ仕掛けといて大きな口叩かないでよ、強盗犯ごときが」
「ザフトの軍人を強盗なんぞと一緒にするな!」
数々の疑問符つきの科白に、イザークは目の前の人物が第一世代らしいことを悟り、ナチュラルを親に持つ彼らを巻き込んではいけないというプラント内の不文律に触れている、という罪悪感が湧き上がったが、聞き捨てならない不名誉な認識に思わず声を荒げた。
「どこが違うっていうのさやってることは同じじゃないか。腰抜けって言ったよね。“戦いを避けて”“平和の国”で暮らす“コーディネイター”だから?自分は戦ってるのに逃げてるやつは許せないとでも言うわけ。物事の大局も詳細も知らない、考えないで上司の命令にほいほい従って他人の平穏を壊しに来る狭量な人間の方がある意味よっぽど腰抜けじゃないか。オーブの平穏の裏でどれだけの人間がそれを守ろうと暗躍してるのか知りもしないくせにふざけたことをぬかすなよ」
なんという口の悪さだ。
一言一言にザフトとしての――今回の奇襲作戦に携わっているものとしての誇りや使命感が傷つけられている気がするが、いつものように相手の台詞で頭に血を上らせる前に、この言葉も違う見解での一つの真実なのだと理性が告げる。
だから、民間人だというくせに自ら厄介事の中に入ってきているおかしな人物に対し、殺意は勿論、不思議なことに敵意すら抱けなかった。
そして、忙しなく動く手と連動して流れるプログラム画面の文字列に何気なく目をやり、息を呑む。
荒削りだが、精密に組み立てられていくプログラムは、MSのOSを独自のそれに作り変えたもので。
早さ、正確さ、作業をこなしながらもこちらに向けられる容赦のない言葉と、それらを並行で行う余裕に、こいつは本当に何者なんだ、と不信感と警戒心が半々の割合で募る。
いっそこのままこの機体と一緒にガモフに連行してやろうか、とも考えていると不意に視線を感じて、その主を見やる。今までは碇に似たものばかり宿していた紫の瞳には、静で揺るぎのない、炎のような強い感情が滲んでいた。
「無知な事は罪じゃないけどね、無知であることに気付きもしないのは酷い罪だよ」
怒りに任せた暴言やザフトの責を厳しく突くものではなく、何か思いを伝え、自分を悟らせようとしている言葉だった。
自分の舌がいつもの3倍以上は回っているのを自覚しつつ、キラは内心焦っていた。ここにはMSのトレーラーが3台しかなかった。モニターの右端に流れるトリィのメカアイが映した情報によると、肝心な機体がまだ出てきていないことが解ったのだ。
もしスパイが潜入していて、今これ用の紅服が機体分侵入しているとしたら、相当まずいことになる。
(こっちにデータ取らないまま全機ザフトに奪取される・・・なんて最悪すぎるよ)
横目に見上げた軍人はコックピットに入った時点で銃を下ろしていて、何を考えているのか解らなかったが、そんなことより一刻も早く工場区に回らなければならなかった。
パッとパソコンの上のほうに小さなランプが灯り、キーボードの上を躍らせていた手も止める。完全にOSを整えてやることは癪だったので、未熟児からじゃじゃ馬な健康優良児くらいにOSを育てておいた。
これからどう育てるかは乗る人間によるだろうが、一つだけ絶対に必要だと思える仕込みは済ませられて、小さく息をつく。
何故だか大人しく突っ立ったままの紅服を今度は顔ごと見上げると、機体のモニターに視線を釘付けにしていた。
ただの民間人がMSのOSを組んだら驚くのも無理はない。キラ自身としては仕事に必要と判断したことをなしただけなので、相手の心境など知ったことではなかったが。
こちらに気付いたらしい男が視線を合わせてくるのが解る。薄暗い上にバイザー越しでこちらからは難しかったが、伝わってくる真っ直ぐな気配は嫌いではない・・・が、さっきからの口調や態度にコーディネイターだから自分は優れていると思い込んでいる人間特有の不安定な傲慢さが垣間見えていて、一言言ってやりたいと思った。
「無知な事は罪じゃないけどね、無知であることに気付きもしないのは酷い罪だよ」
そう言う自分も大概無知だ。だから良く失敗するし、今回のことも気付けなかった。しかし、それを認識した上で清濁合わせた泥水を呑むように情報を集め、人に会い、沢山知ろうと思っている。
守りたいもののために、今の自分の目的のために、どこまでだって貪欲になれるつもりだ。
自分がすべて知っている、自分の考えが真実だと思い込んでいる類の人間が一番厄介で、できれば関わりたくない。
だが、民間人と知った時点で明確な殺意を消し、自分の言葉に考える素振りを見せている彼は、まだこの戦争の泥沼を考えられる許容があると思えるのだ。
(ここで会ったのも、何かの縁だし、ね)
軍人は嫌いだし、無駄に高そうなプライドはぱっきりへし折ってやりたいと思う片隅で、キラはそんな風に考えていた。
さて、と小さく声を上げて居座っていたシートから腰を上げ、パソコンを抱えてコックピットのハッチを開いた人物に、思考に沈んでいたイザークははっと顔を上げた。
「おい、どこに行く?」
咄嗟に今にも出て行こうとハッチの端に足をかけるその手を掴む。片手で手が回ってしまう腕は酷く細くて、先程自分に銃を向けていたのが信じられないほど頼りない。
外ではまだ銃撃戦が続く音が聞こえてきて、その中に出て行こうとする民間人を止めないわけにはいかなかった。しかし、
「・・・僕には僕のやるべき事があるから」
いくら外が危なかろうと、行かなきゃ行けないから引き止めるな、と強く拒絶されて、イザークは眉を顰めた。いつものイザークならば、この人物がいなくなれば厄介払いができたと考える所だが、今日は少し違っていた。
「貴様が民間人なら・・・俺には保護する義務がある。何より外に出して死なれては後味が悪い」
不器用な言葉の中の本音と建前の境界があやふやになっていることを自覚していたが、それでも言わずにはいられなかった。
「・・・大丈夫、僕は死なないよ。君は君の任務を遂行しなよ」
心配だからここにいろ、という決定的な言葉を言えないイザークに、逆光を受けた人物はふと穏やかな気配で微かに微笑み、やんわりと掴まれていた手を放させて通信画面を指差した。
イザークがその仕草につられて画面に視線を向けると、他機からの通信電波を受信していることが確認できた。恐らく既に機体に乗り込んでいたディアッカからだろう。
そうだ、今は任務中なのだから、遂行のために一刻も早くこの場からこれを持って立ち去らねばならない。
通信の合図に気を取られていたイザーク見ていた民間人は、今度こそ行こうとハッチに足をかけ、何かを思い出したように彼を振り返る。そして、
「いい?これは本来オーブのものなんだから、オーブやそれに連なるものを撃ったりしたら容赦しないよ」
とだけ言い残してひらりとコックピットから姿を消した。
「おい!?」
身軽に素早く消えた動作に驚いて外を見ると、鳶色の髪の人物を乗せたエレカが遠く・・・工場区へと走り去っていくのが見えた。
引き止めても無駄と気付いていたが、尋常でないこの足の速さはどうだろう。いや、その前にあいつは何者なんだそういえば名前すら聞くのも忘れていた。オーブの“民間人”――全く信用できない主張だ――という以外は何も聞きだせず、この自分が口を挟む暇もなく言い負かされた上、奪取予定の機体を弄らせてしまうなど・・・普段からはありえない失態だった。
しかも機体のOSに関しては――
ハッチを閉じ直し、シートに腰掛けてOSを確認しつつ通信を開くと、そこには予想通りディアッカの姿が遭った。
「こちらイザーク。ディアッカ、解除は終わったのか?」
『とーっくに。そっちこそ出るの遅かったじゃん、何かあったのか?』
「いや・・・こちらも――完了だ。ニコルは」
『あと、少し・・・完了です』
あのおかしな人物はOSを書き換えただけでなく、ご丁寧に自爆装置まで解除して行ったらしく、このまま動かすのになんら問題はなかった。
・・・そうだ、機体に関しては――何故か、不易なことはしないと直感したのだ。軍規を重んじる軍人としてのイザークにはらしくない直感だったが。
「アスランは、まだ中か・・・まぁいい、この3機、先に持ち帰る」
トレーラーに降り立つ前に別行動になったアスランとラスティからの通信がないのを確認して、イザークは二人に合図を送り、その場を飛び立った。
その動きは当初予想していた以上に滑らかなもので、それを可能とするOSの出来と――あの時掴んだ腕の感触を思い出しながら、深い溜息を吐いた。
(こんな予想外なこと・・・報告せねばならんだろうが・・・)
果たして、どのように報告するべきか、と嵐のように強烈な印象と面倒な足跡をつけて去っていった人物を思いながら、イザークはガモフに着くまで延々と頭を悩ませていた。
今日はなんてびっくりする日なんだろうね
嬉しいサプライズなら兎も角、ザフトといいさっきといい今といい、
こんな鬱陶しいサプライズなんてお断りだ
しかもどんどん運が削れてる気がするんだよね、この先が思いやられるよ
こんな非常時に法定速度もないだろうと性能の限界ギリギリの猛スピードでエレカを突っ走らせ、辿り着いたあちこちから爆音のする工場区。
流れ弾に当たるのは真っ平なので、キャットウォークに上って目的の機体を探してうろうろしていると、研究棟に連結する廊下の辺りでキラはあまりに意外な人物と鉢合わせした。
金の髪に琥珀の目、相変わらず少年のような格好をした姿は――
「カガリ!?」
「キラ!?おまえ、どうしてこんな所に・・・それにその格好・・・!?」
「それはこっちの台詞だよ!なんだって君がこんな所にいるのさ!」
肩書きにオーブの姫なんて重いもの背負った人間が。
驚愕と一緒に吐かれるどこか責めるような口調に返しながら、キラは立場の異なった双子の姉の手を引いた。
供の1人もついている様子がなく、大方ウズミが何かやっているのに気付いたが何も教えてもらえずこんな所にまで飛出してきたのだろうとあたりをつけ、同時に苛立たしさも感じた。将来国のトップに立ち人間が、こんな時こそ現代表の采配を間近に見て学ばないでどうするというのだ。
行動力があるといえば聞こえはいいが、こういうのは立場をわきまえず腰が軽すぎるというのだ。
「だって、父さまが・・・ここで・・・!」
そんな涙ぐんで主張されても。
苛めてるみたいでイヤだなぁと思わないでもない。軽率だと思う気持ちは微塵も変化しないが。
仕方ないか。キラは内心面倒臭く呟き大仰に溜息を吐いた。
相変わらずそこここから爆音は聞こえているし、キャットウォークの下からは銃声が聞こえている。とっとと納得させて作業に掛からなければ、本当に取り返しがつかなくなってしまうのだ。
「それで、どこまで調べたの。ちゃんと調べて証拠突きつけて説明を求めた?ウズミ様の言葉を聴こうとしたの?あの人の行動を理解したの?君は時期代表首長になる人間なんだ、オーブで、椅子に座って、報告を待つことも上に立つものとして大事なんだよ」
お転婆なのは嫌いじゃないけどね。
ドオンッ!一際大きな爆音に眉を顰める。近くで爆発したのか、爆風がこちらに吹き抜けてくる。MSが置いてある場所よりも少し奥まった所にある通路にいるおかげで銃弾が飛んでくることはまずないが、階下の銃撃戦は激しさを増していて、いい加減に時間が無いことも解った。
「お父様が・・・裏切ったんじゃ・・・?」
キラの台詞に呆然としていたカガリの呟きに、キラは今度こそ頭を抱えたくなった。もし本当にそうならば、自分がこの場にいる意味だってなくなるというのに。
「あのね、オーブの理念を叫び続けてるのは誰だと思ってるのさ。娘の君が信じないでどうすんの」
「だったら、なんでキラはここにいるんだ!?」
「僕にはその権利がある」
「何!?」
階下から女性の声が聞こえる。銃声に混じった命令形の口調。今の所ザフトには滅多に女性は士官クラスにつけないというから、恐らく地球軍だろう。
カガリはキラの言葉を追及したいようだったが、今はそんな手間を掛ける暇がない。キラは徐に距離を取り、ずっと服の下に隠してあったペンダントを引っ張り出し、カガリにそのプレート部分が良く見えるように持ち上げてみせる。
銀のタグに彫られた黒い文様。名前も何も記されておらず、裏には同じく黒でオーブの国旗が描かれている。文様が示すものは――
息を詰め、食い入るようにカガリはそのプレートを凝視した後、動揺を露に声を震わせてキラに問いかけた。
「――・・・“芙蓉”、の・・・?」
「解った?」
「お前っ、何で、“影”なんかに・・・!?」
「必要だったから。もういいね?」
銃声の中でも、彼女がキラをなじる声は不思議と良く透った。聞こえはしてもダメージは無いので全く意味など無かったが。キラが言った“権利”やここにいる意味を漸く察したらしいカガリの更なる追求をぶった切り、コーディネイター特有の聴力で“X”だの“起動”だのという言葉を聞きつけたキラは、がっちりとカガリの手首を掴み極上の笑顔で微笑んで見せた。
「見るだけなら見せて差し上げますよ?ただし、本当に見るだけ。そしたら速攻で本土に帰って、現代表に質問でも何でもなさればよろしい。先程私にしたような愚問以上のものならば」
平坦な声音と慇懃無礼な口調。輝くばかりの笑顔なのに、目だけは一切笑っていない。
あの印を持つ者が、こんな所にいて、何か――恐らくは“任務”をしようとしているところに保護対象の自国の姫が現れた、なんて
(お、怒ってる・・・しかもかなりマジで)
しかも怒らせたのは間違いなく“彼ら”の上に立つべきカガリ自身で。その迫力に気圧され、カガリは会ったときの威勢も忘れて逃げ出したくなった。自分の片割れは怒らせると下手したら父より怖いことを身に染みて理解しているからだ。
それでも何とか――というかこの状況で逆らえるわけが無い――頷くと、キラは手首を掴んだ手でそのままカガリを引っ張り、さっさと通路から飛出してまだ直に触れていないMSがあるはずの場所――特に上から見やすい位置へと走った。
削られてるのは寧ろ、堪忍袋の緒なのかもしれないけど