『約束しよう、必ず――』
『私は、いつでも君を・・・』

それは、遠い日の約束。
貴方がまだいた頃に交わした、かけがえのない言葉たち。








<1>



世の中は理不尽に満ちていると思う。

いつだって、どんなに考えて考えて動いたとしても

やっぱり上手くいかないことばかりで。

何かしようとするたびに厄介な邪魔が入ったりする。

どうしてこんなに思うとおりにいかないことばかりなんだろう。





日差しの明るい、麗らかな午後――作り物の日と空と、穏やかな風の中、キラは無意識のうちに彷徨わせていた視線をモニターに戻し、作業を再開させた。

ここはヘリオポリスの工業カレッジだ。キラはキャンパス内の中庭の一角にある東屋で、パソコンとプリントに向かっている。ニュースを掛けっぱなしにした画面の傍らには、その手の動きに沿って目まぐるしく暗号めいた文字の羅列が流れており、見るものが見ればプリントにあること以上の作業をしていることが解るはずだ。

『ザフト軍は先週末、華南宇宙港の――』

ニュースのアナウンサーの言葉の向こうで響く“ドオンッ”という爆音に、ピクリと反応して軽やかに動いていた手が止まる。
数度の瞬きの後、キラは細い指で首もとのチョーカーに触れ、小さく嘆息して再び手を動かし始めた。

(・・・オーブ、連合、ユーラアシア、プラント――・・・ザフト、か・・・オーブには、いなかった。でも――)

考え事をしていても、作業の手は止まらない。だが、モニターから聞こえてくる爆音に、キラは次第に表情を曇らせていった。

「キーラッvv」

ネガティブ思考になりそう、とまで考えた時、不意にやわらかくて暖かい手に目を覆われ、楽しそうな声を背後から掛けられた。

「・・・ミリィ、見えないよ?」

こちらまで元気になれそうな弾んだ声に口元を綻ばせ、ゆっくりと背を壁に凭れさせながら、目隠しをする手を軽く握って振り向くと、

「あ、わかった?」
「もちろん」
「よ、キラ」
「トール」

ぺろっと舌を出して笑うミリアリアと二人を眺めて笑うトールが揃っていた。いつ見ても仲睦まじい二人に微笑みつつ、身を乗り出して抱きついてくるミリアリアを受け止めながら、

「どうしたの?まだ集合まで時間あるよね?」

とトールに訊ねる。傍から見ると、キラとミリアリアが恋人であるかのような光景なのだが、トールもキラもいつものじゃれあいなので全く気にする様子は無い。

「カトー教授が呼んでた。また何か頼みごとだって」
「え〜〜!?今やってるヤツも昨日貰ったばっかのやつだよ?・・・やだなぁ、メンドクサイ」

膝の上にあったパソコンをテーブルに置きなおし、むう、と眉を顰めて画面端のプログラムを睨みつける。元々、キラは頼まれごとを嫌うタイプではないし、教授から渡される“頼み事”も、結局は必要になるから手を貸すのに異存はない。
ただし、今は時間に余裕がなかった。

「至急、だってさ」

キラの心情に呼応するように、トールはやや声のトーンを落として、伝言の最後を伝える。

「・・・本格的に急かすようになってきたな・・・」
「予感、的中?」

そろそろって、言ってたよね?
ゆっくりとミリアリアが体を離しながら囁く。その声に一つ肯定の首肯を返し、そういえば、と二人を見上げた。

「二人とも、親御さんたちに連絡網回せた?確か本土出身だったよね?」
「前に言われた時にな〜・・・うちの親から、他にも回ると思う」
「僕の父さんと母さんからも回ってるはずだから・・・本当は、何もないのが一番なんだけどね」

ふう、と小さく息をついて肩をすくめる。何もしないわけにはいかない。きっと、平穏のままには終われないという確たる予測と、何かが起こる気がする予感。どちらも明度は違えど、嫌な不確定要素がずっと胸中に渦巻いていた。
心配事もやるべきことも沢山ある、――もう少し、時間があればいいと思うのだが。

ドオンッ!モニターからまた爆音がして、キラは数度瞬いた。音に反応した二人が窓から身を乗り出し、キラは二人が見やすいように身を避ける。

『こちら、華南から七キロ地点では・・・』

「・・・今度は、華南?結構近いよね、大丈夫かな、本土」
「大丈夫さ、中立だぜ、オーブは。本土が戦場になることなんて、まずないって」
「・・・そう、よね。キラたちもいるものね」
「うん。・・・今、ウズミ様もすごく頑張って下さってるから・・・みんなが、皆を守るよ」

ミリアリアの不安を除くためにも、トールの明るい声に言葉を足して、キラは手早くモニターを閉じた。

「・・・私たちにもできることがあったら、言ってね?」
「皆には、もういっぱい助けてもらってるよ?」
「それでも!・・・ね?」
「そうそ、遠慮なく声かけてくれよな」
「・・・うん、ありがとう」

“事情”を知っている彼らとだからこそできる、主語無しでもしっかり通じる会話。焦りばかりが歩みを急かす状況の中で、向けられる心遣いの言葉が嬉しかった。
暖かい思いのままにふんわりと微笑みかけるキラに、二人がついつい頬を赤らめてのけぞったのは・・・無理もないことかもしれない。






















「そういや、カナードさんは?あの人がキラを1人にするって珍しくないか?」

というかいつもならありえない話だ。
レンタルエレカポートに向かう道すがら、トールは通りすがりの外野から刺さる痛い視線を無視しつつ、最近見かけないキラの兄の事を聞いてみた。

「別にいつも一緒って訳じゃないよ。今はお友達と一緒にお仕事」

終わったら合流するんだ、と付け加え、キラはいつもボディーガードよろしく一緒にいてくれる兄を思う。お仕事の行き先は聞いていないが、彼に関してだけは心配する必要も不安になる余地もないと解っているので、安心していられるのだ。
もっとも、兄の方が安心できないらしく、彼が単独で外で仕事をするようになったのもつい最近のことだったが。

(何かあったら解るし、必ず駆けつけてくれるって知ってるから)

『トリィ!』

カリダに続く第二の母と化しつつある兄の日常に苦笑を零すと、“散歩”から帰ってきたらしいメタルグリーンのロボット鳥が、名前通りの個性的な鳴き声を上げてキラの肩に降り立った。
これを組み立ててくれた友人の存在を思い出し、兄といい彼といい、本当に色んな人に守られていると思う。同時に、もっとしっかりしなくちゃと思うのもいつものことだが。

「キラ、1人で大丈夫?」
「大丈夫だよ〜、子供じゃないんだし」
「心配だわー・・・キラ、しっかりしてるけど時々抜けてるし」
「そうそう、天然だしすぐ迷子になるしよく転ぶし」
「そんなこ、とっ・・・!?」

更には同年の彼らにまで子ども扱いするような心配をされてしまい、思わず反論しようとしたら拍子に足元が留守になったらしく、何もないところでつまずいてしまった。

「うお!?・・・大丈夫か、キラ」
「ううう・・・ありがと」

突然真横で体勢を崩したキラをトールが咄嗟に支え、ほっと一息つかれてしまい、否定するなりやってしまった失態にちょっと恥ずかしくて俯く。これでは子供扱いされてもおかしくないではないか。

「トール、ナイスよ!」
「キラのおかげで反射神経良くなったもんね、俺」
「・・・返す言葉もないデス」
「んじゃ、キラはもっと俺らを頼るように!」
「は~い」

タイミングよく腕を掴んだトールにミリアリアが手を叩き、トールの茶化しに応じたキラが殊勝な振りをして軽い敬礼を返す。妙に似合わない自分たちの様子に三人は顔を見合わせ、弾けるように笑った。
箸が転がっても楽しい時代である。気負いのない友人とのじゃれあいが心地よかった。













もうすぐポートに着くというところで、女の子が三人、既に並んで待っているのが見えた。その内の1人は良く見知った存在だ。

「あれ、フレイ?」
「ほんとだ。どうしたんだ?」

ミリアリアとトールも気付いたらしく、何かで二人にからかわれ、怒った素振りで言い返しているフレイの様子に、三人は顔を見合わせる。
すると、向こうの二人がこちらに気付いたらしく、ミリアリアに声を掛け、サイがフレイに手紙を渡したらしいことを楽しげに教えていた。
友人の恋話に盛り上がっている三人に困った様子で小さく溜息をついているフレイを眺めながら、キラとトールは一歩離れて

「サイの手紙って、自前かな」
「どうだろ?ちゃんとラブ・レターとかだったら祝ってあげたいけど。親からの言伝とかだったらフレイが可哀想かも」

この状況。

「メッセンジャーの役割だけってんなら、サイもちょっとヘタレだよな〜」
「もうちょっと思い切ればいいのにね。傍から見たら微笑ましいけど」

この場合、「微笑ましい」は「面白い」と訳す。
などと勝手に予想しながらボソボソ言い合っていると、やや顔を赤らめたフレイが堪らずといった感じで二人を振り返った。

「ちょっと二人とも、聞こえてるわよ!」
「あはは、ごめん。でも、フレイ嬉しそうだからさ」

満更でもなかったんじゃない?
照れ隠し七割怒りが三割のフレイに軽く謝罪しながらキラが微笑みかけると、柔らかい眼差しにフレイは更に頬を赤く染め、じっと上目遣いにキラを見上げた。
トールはその甘えるような仕草に、傍から見たらこっちのが恋人同士っぽいよな〜とサイに対して酷いことを考えていたが、やはりいつものことなので何も言わない。言ったら今度はフレイの三割分の怒りがトールにぶつけられるのを知っているので黙っている、というのが正しいが。

ただ、周囲にまで本気で誤解されるとサイが不憫なので、今度一言言ってみようか、などと考えていると、チカッとトリィの目が赤く光ったのが見えた。

直後、コホンッというわざとらしい咳払いが背後から上がり、『トリィッ』とトリィが鳴き声を上げてキラの肩から飛び立つ。

「・・・乗らないなら、先によろしい?」

先頭に立つ妙に似合わないサングラスを掛けた女性がキラたちに声をかけた。慌ててその場を退くと、4人組はきびきびした動作でエレカに乗り込み、すぐに走り去って行った。

その彼らの背中を、珍しく眉間にしわを寄せて見送ったフレイは、友人とのやり取りに戻り、「もう知らないっ」と言い放ち続いて来たエレカに向かって歩き出す。

硬い雰囲気と、妙に揃った足並み。
何よりも、神経を逆なでする類の違和感。
・・・そして・・・

「・・・キラ?」
「うん。――フレイッ!」

トールですら気付いた“嫌な感じ”に一つ頷いて、キラはさっさとエレカに乗り込んだフレイに声を掛けた。

「ねえ、さっきの人・・・」

知ってるよね?

丁度ポート側に腰掛けるフレイに囁きかけると、同じぐらいの声音で「地球軍よ」と嫌悪を含んだ即答が返された。

「バジルール家の長女。第8艦隊所属だったと思う。後は知らないわ」
「ありがと。・・・気をつけて」
「キラもね」

ほんの微かな吐息のみで交わす短い言葉に、予感を確信に変えながら彼女らを見送り、飛び立っていたトリィを呼ぶ。
空気を掻く羽音をさせながら舞い降りたトリィを指に止め、フレイの友達に誤解されてなきゃいいんだけど、とふと思う。
それにしても、とフレイが“地球軍”だと断定した人物が乗るエレカが走り去った方向を眺めて、思いがけず出会った見知った顔に眉を顰めた。

「・・・なんか、サイが不憫になってきた」
「・・・やっぱ、まずかったかな」
「仕方ないわよ、急ぐんでしょ?」

ポツリといつの間にか隣に立っていたトールに呆れ半分に呟かれ、一つ年上の奥手な友人を思ってキラが落とした肩を、励ますようにミリアリアがポンッと叩く。

「うん。ちょっとモルゲンレーテのほうに行くよ」
「あれ、ラボじゃねぇの?」
「終わったらすぐ行く。教授のお願い、聞いてる場合じゃなさそうだし。ミリィたちも、何かあったらすぐ逃げるんだよ?サイたちにも伝えて」
「キラ!・・・もしかして、もう会えないなんてこと、ないよね?」

これが最後、という風にエレカに1人乗り込みながらも口早に告げるキラに、別の面で不安になったミリアリアはきゅっとキラの手を掴んで訊ねた。
彼らとキラの付き合いはここ一年半程度のものだが、キラの事情をしっかりと聞かされている分、本土に共に帰れないかもしれないという不安にも駆られてしまう。
だが、キラはそんなミリアリアの心情にもあっさり首を振って見せた。

「ないない、大事な友達だもの、絶対会いに行くよ」

買い物とか、甘い物巡りとか、いっぱいしようね。
嘘偽りのない満面の笑顔を彼らに向けると、ミリアリアはほっと安心したように手を放し、キラに抱きつき、トールはくしゃくしゃっと鳶色の髪を撫でた。

「私も、絶対会いに行くわ!」
「俺も!・・・でもその前に、手がいるんなら・・・俺らに何かできるなら、絶対呼べよ!」
「うん、ありがと・・・トール、ミリィ。じゃあまたね!」
「気をつけてね、またね!」
「また、な!キラ!」

ただの別れとしては大げさに――しかし彼らにしては真剣極まりない――惜しみ、運転を手動に変えて、キラは彼らの前から颯爽と去っていった。
ほんの数十分後に再会することになるとは、三人とも全く予想していなかったが。
























警備システムに引っかかる手前ギリギリの速度で、キラはエレカを手動で突っ走らせる。他車との接触と速度だけを考慮に入れた走り方は、自車の安全性だけはキレイに無視していたが、鳶色の髪を靡かせてぐんぐん周囲の車を抜き去るエレカの運転手の手つきに危なげはなく、最短時間で目的地に到着しつつあった。
体に巻きつくような圧力と、轟々と吹き抜ける風が耳に痛い。屋根をつけてから走り出せばよかったと少しばかり後悔したが、忘れてしまったものは仕方ないと即座に割り切った。

(軍の名門ってことは多分士官だよね・・・あの子達の中身の調整はまだ終わってないはずだけど・・・もしかして)

パチパチと風で乾いた目をしばたかせ、助手席に置いたパソコンに視線をやる。携帯を出して掛けてみるが、呼び出し音すら鳴らない。繋がらない、とかそういった問題じゃなかった。

(電波妨害?・・・一体何が・・・)

「トリィ、ちょっとおとなしくしててね」
『トリィ?』

ぐんぐんと高まる嫌な予感にキラは肩に止まったままのトリィに声を掛けて更にアクセルを踏み込むと・・・
ドオンッ!!モニター越ではない、リアルな爆音が乱暴に鼓膜を打った。ヒュッと息を止め、体を強張らせて思わずブレーキをかけようとしたが、その前に視界に入って来たトレーラーと車の列に目を見開く。
今の爆発がなんだったのか、なんていう疑問は頭から吹っ飛んでいた。合流地点からこちら側の車線に入ってくるトレーラーの運転手はモルゲンレーテの作業着を着ており、一見するとただの荷運びにしか見えないが・・・

(地球軍は何考えてんの!?アレのOSはまだ仕上がってないのに・・・出航を早めたのか!?)

トレーラーの真後ろにエレカを着けながら、キラは苛々と唇を噛み締めた。
あのトレーラーの中身の開発に携わっていたカトー教授を通して、色々なプログラムを仕込んできたが、肝心なOSは教授の関与の範囲を超えていて手付かずなのだ。
教授から上げられるプログラムのレベルから察するに、アレはまだ未熟児のようなものでしかない。何らかの治療を施さなければ碌に動くこともできないような。

(持ち帰るのは無理って解ってるけど・・・これをこのまま渡しちゃダメだよね)

面倒な・・・と溜息を吐いて、そっと胸元に触れる。服の下にあるネックレスは、自分がここにいることを示し、自分の行動をある面で縛り、それ以上に自由にするための大事なもらい物だった。
キラは手早くパソコンの中身を確かめた後、表情を引き締めて少しだけエレカをトレーラーから離し、トリィの鶏冠を一撫でする。

「・・・トリィ。一番前のトレーラーのフロントへ」

『命令』を出して嘴部分に触れると、『トリィ!』と愛用のロボット鳥が高々鳴いてふわりと飛び上がった。キュピーンと目が紅く光っているのが解る。

「GO!」

命令を認識したのを確認して力強い合図を送ると、トリィは風を切って真っ直ぐ前方へ飛んでいった。
耳を澄ませていると、そう時間が経たない内にトリィが窓ガラスを貫く音と野太い悲鳴が聞こえ、列を成していたトレーラーが一番前から順に停止していく。

「トリィ、ナーイスv」

(ギナ君も、ね)

見事に獲物を仕留めたトリィと、そのトリィにあれこれ面白便利機能を付けてくれた本土の友人に感謝を捧げ、トレーラーの後方にエレカを止めた。止めたのはいいが、見つかる前に潜り込まなければ意味がない。
キラは素早くパソコンを持ってエレカを降り、背の高いトレーラーを見上げた。助走距離を取って、小さく息を吐く。梯子が側面にしか付いていないのが辛い。

(要は、飛び箱と思えばいいんだよね)

えらく大きい上に踏み切り台もないが、仕方ない。

(大丈夫、できるっ!)

強く自分に唱えて、キラは駆け出した。短い距離でもできる限りスピードを上げて、トレーラーに迫る。そして、

「よっ・・・・・・・と!」

小さく掛け声を上げて全身を使い飛び上がると、思った以上に高く上がれてそのままトレーラーの上に着地した。足元には思った通りまだ仕込みの終わっていない灰色のMS――デュエルが横たわっている。

「あれ、僕って意外と運動神経良かったのかな・・・?」

じゃあなんでこけるんだろう。
上手く成功した今の成果と常日頃の自分の行動のギャップを不思議に思って首を傾げる。
キラが普段頻繁に転ぶのは、様々な方向に思考を飛ばし、しかも没頭してしまう所為で足元がおろそかになる上、同時にいくつも無意識にこなせるほど器用ではないからなのだが、その事を説明してくれる友人や兄はここにはいなかった。
そもそも、彼らはキラのそんな特性を好ましく思っており、元々誰も指摘するつもりがなく、しかも本人が無自覚なので知る由すらない。
トレーラーの上をてくてくと歩いていると、一仕事済ませたトリィが特有の鳴き声をあげて戻ってきた。パサパサと軽やかな羽音をさせて肩に降り立ち、ちょこんと首を傾げる。

「おかえり、トリィ。お疲れ様」

馴染んだ肩の重みに柔らかく微笑みながら告げる。しかし、ほっと息を吐いた途端大きな爆音が響き、今度は工場区の影からずんぐりと動きにくそうなMS――ジンが姿を現した。思わずMSのコックピットの側にしゃがみこみ、レバーを引いてコックピットのハッチを開く。足元からはマシンガンの音がしていたが、それに気付く余裕もない。

「嘘・・・なんでザフトが!どっから情報が・・・」

と思わず声に出してしまう。ヘリオポリスはオーブでも地球軍寄りのマシマの領域で、内部の結束やらあれこれとられる手段は警戒心のないゆるゆるなものだが、半地球軍やスパイなどを避けるため、コーディネイターへの入国審査は妙に厳しい。
それに、足元のMSについてはヘリオポリス外のネットワークから完全に情報が遮断されていて、外部に漏れることはまずない、はずだったのだが・・・

(オーブからプラントに移籍せずに移ったスパイの所為かな?それとも・・・内部告発?どっちにしろまた面倒臭いなぁ)

必死になって思考を巡らせ、キラは必死で応戦しようとしている地球軍の地上部隊を凝視していたが、先程からの爆音の正体にばかり気を取られていて、すぐ背後にそのザフトの人間が迫っていることに気付けなかった。









NEXT

影法師Top