Electromagnetism and Relativity
Electromagnetism and Relativity(電磁気学と相対性)
[これまでのヴァージョンでは初歩的な誤りを犯していたので訂正する。末尾注を参照。Oct. 30]
アインシュタインの1905年の論文、「運動している物体の電気力学について」は、マクスウェルの電磁気学における奇妙な非対称性の指摘から始まる。
現在行なわれている普通の解釈によると、マックスウェル(Maxwell)の電気力学を運動物体に適用した場合、現象そのものには本質的でないように見える、非対称な結論が導かれる。たとえば、磁石と導体の間に起こる電気力学的相互作用をとるとしよう。この場合、観測される現象は導体と磁石の相対的な運動のみに依存する。ところが従来の考えによると、これら二つの物体のどちらが運動しているかによって、明確な区別がなされる。というのは、もし磁石が運動し、導体が静止しているなら、磁石のまわりに一定のエネルギーをもつ電場が生じ、この場に入った導体の部分には電流が流れる。しかし、磁石が静止し、導体が運動しているなら、磁石のまわりに電場は生じないで、導体のなかに起電力が生じるからである。この起電力は、それに対応するエネルギーをもたないにもかかわらず、この二つの場合の相対運動が等しいと仮定すれば、最初の場合の電気力によって生じたと同じ方向に同じ強さで電流が流れる。(中村誠太郎訳、『アインシュタイン選集1』、を参照したが大幅に改訳。訳がおかしいと思ってチェックすれば案の定の結果。末尾の原文と中村訳とを比較されたい。)
導体の代わりに電磁誘導を利用した検流計でも同じことなので、二つの状況を図示してみれば、次のようになる。アインシュタインは、これらの記述は同等でなければならないと考えたわけである。
この指摘に引き続いて、光の媒体(エーテル)に対する地球の運動を検知する試みの失敗(これをマイケルソン-モーリー実験の結果と同一視してはならない、と広重1980、267-8*、は注意している)が言及され、相対性原理と光速度一定の原理が導入されるが、これは有名なので省略する。See Comments on the 2nd Assignment (2000)
*・・・対エーテル運動の影響の問題から議論が展開されるのではないのである。この問題は2番目の段落ではじめて言及されるが、しかもそこでは、1次の量に対して諸現象の性質には絶対運動を反映するようなものはないことが示されている、と述べられている。いうまでもなく、マイケルソン−モーリーの実験は2次の効果の探求だった。ローレンツとポアンカレも、この2次の効果がみつからぬわけを説明することに長年の努力を傾けた。それをアインシュタインは無視している。
・・・アインシュタインは、マイケルソンらの実験のことを知ったのは1905年より後だと明言した。・・・
[内井注]1次の量とは、v/cのオーダーの量、2次の量とは(v/c)(v/c)のオーダーの量のこと。当然、2次の効果の探求の方がむずかしい。See Michelson-Morley Experiment.
なお、広重によればアインシュタインが「無視した」マイケルソン−モーリーの実験とローレンツらの探求については、アインシュタインは1910年の論文で比較的丁寧な取り扱いを与えている。ローレンツ理論に対するアインシュタインの見解が展開されていて有益である。Einstein, "The Principle of Relativity and its Consequences in Modern Physics", Archives des sciences physiques et naturelles 29 (1910): 5-28; 125-144. The Collected Papers, vol. 3, Doc. 2.
Appendix テキスト
German original
Dass die Elektrodynamik Maxwells---wie dieselbe gegewaertig aufgefasst zu werden pflegt---in ihrer anwendung auf bewegte koerper zu Asymmetrien fuehrt, welche den Phaenomenen nicht anzuhaften scheinen, ist bekannt. Man denke z. B. an die elektrodynamische Wechselwirkung zwischen einem Magneten und einem Leiter. Das beobachtbare Phaenomen haengt hier nur ab von der Relativbewegung von Leiter und Magnet, waerend nach der ueblichen Aufffassung die beiden Faelle, dass der eine oder der andere dieser Koerper der bewegte sei, streng voneinander zu trennen sind. Bewegt sich naemlich der Magnet und ruht der Leiter, so entsteht in der Umgebung des Magneten ein elektrisches Feld von gewissem Energiewerte, welches an den Orten, wo sich Teile des Leiters befinden, einen Strom erzeugt. Ruht aber der Magnet und bewegt sich der Leiter, so entsteht in der Umgebung des Magneten kein elektrisches Feld, dagegen im Leiter eine elektromotorische Kraft, welcher an sich keine Energie entspricht, die aber---Gleichheit der Relativbewegung bei den beiden ins Auge gefassten Faellen vorausgesetzt---zu elektrischen Stroemen von derselben Groesse und demselben Verlaufe Veranlassung gibt, wie im ersten Falle die elektrishcen Kraefte. (The Collected Papers, vol. 2, 891)
English translation
It is well known that Maxwell's electrodynamics---as usually understood at present---when applied to moving bodies, leads to asymmetries that do not seem to be inherent in the phenomena. Take, for example, the electrodynamic inteaction between a magnet and a conductor. The observable phenomenon here depends only on the relative motion of conductor and magnet, whereas the customary view draws a sharp distinction between the two cases, in which either the one or the other of the two bodies is in motion. For if the magnet is in motion and the conductor is at rest, an electric field with a definite energy value results in the vicinity of the magnet that produces a current wherever parts of the conductor are located. But if the magnet is at rest while the conductor is moving, no electric field results in the vicinity of the magnet, but rather an electromotive force in the conductor, to which no energy per se corresponds, but which, assuming an equality of relative motion in the two cases, gives rise to electric currents of the same magnitude and the same course as those produced by the electric forces in the former case. (Stachel 1998, 123-4)
中村訳
現在行なわれている普通の解釈によると、マックスウェル(Maxwell)の電気力学は、運動物体にあてはめた場合、現象の種類には無関係に、対称的でない結論を導く。たとえば、磁石と蓄電器のあいだに起こる交互の電気力学的作用をとるとしよう。この場合、観測される現象は蓄電器と磁石の相互の運動だけに依存して決まる。ところが従来の考えによると、これら二つの物体のどちらかが他に対して運動している場合と、その逆の場合とで、明確な相異があるとされていた。もし磁石が運動し、蓄電器が静止しているときには、磁石のまわりに一定のエネルギーをもつ電場が生じ、そのために蓄電器のある場所に電流が流れる。その反対に磁石が静止し、蓄電器が運動しているときには、磁石のまわりに電場は生じない。しかし、蓄電器の中には最初の場合の電気力によって生じたと同じ方向の強さの電流が生じる。もちろん、この二つの場合に相対運動は等しいとする。(『アインシュタイン選集1』、19)
References
『アインシュタイン選集1』湯川秀樹監修、共立出版、1971年。
The Collected Papers of Albert Einstein, vol. 2, Princeton University Press, 1989; vol. 3, 1993.
Stachel, J., ed. (1998) Einstein's Miraculous Year, Princeton University Press.
広重徹『相対論の形成』みすず書房、1980。
『アインシュタイン、相対性理論』内山龍雄訳・解説、岩波文庫、1988年。[1905年の論文の邦訳と、内山氏による懇切な訳注と解説。特殊相対性理論については、これ一冊をマスターすればまず十分。ただし、電磁気学の基本は自分で補わなければならない。しかし、一般相対性理論については、日本人が書いたもののうちに、このレベルの本、すなわちアインシュタイン自身の思考をたどって、一般相対論の基本線を懇切丁寧に解説したものは見あたらない。もちろん、一般相対論の内容が格段に難しいという理由はあるのだが、このやりがいのある仕事を誰かやらないかぎり、一般相対論のおもしろさは一般読者には伝わらない。物理学者が誰もやらないのなら、わたしがやるか?]
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