《特車二課・課長室》

「ふぅ・・・やっと終わったか。」

この課長室の主となった篠原遊馬は先日課長になったばかり。
古巣である特車二課に配属され今やっと
荷物整理が終わったようである。

「さすがに疲れた・・・一休みするかぁ」

ぐーと体を伸ばしながら椅子に座ったその時に
一本の電話がかかって来た。

プルルル・・・・・・プルルル・・・・・・

カチャ・・・
「はい。特車二課」

遊馬は休憩を邪魔され少し機嫌を損ねたのだろう
いつもよりぶっきらぼうに電話を取ったが電話の相手が
一番最初の上司にして
現在また上司になった人だとわかるとすぐに対応を変え椅子に座りなおした。

「お久しぶりです!隊長。・・・あ、今は本部長でしたね。
えぇ、今やっと荷物の整理が終わったんですよ。
ここもさすがに変わりましたねぇ・・・
野明ですか?元気にやってますよ。
来月には現場復帰するんだって言ってましたよ。
・・・はい3人目です。・・・そうですね、野明も喜びますよ。」


話し相手の本部長。昔は”昼行灯”として通してきたが
結婚して家庭を持ち子供ができてからは仕事一辺倒。
出世街道を大幅に外れていたのにどう言う訳か現在部長職にいる。
周囲の人々は「頭を打った」だの「狂った(笑)」だの
悪い噂(?)が出回ったが当時の隊員たちは隊長の仕事振りが
変わった理由を正確に察知している・・・ひとえに奥さんのおかげであると・・・・・

しばらく昔の話やお互いの近況に話が咲き
大体の話が終わった頃、遊馬は次の用件に入った。

「・・・ところで本部長、今日は仕事の話じゃ?
はい・・・・・はい・・・」

仕事の話に入ったとたんに遊馬はノートPCを開き
一生懸命メモを打ち込んでいる。
が、しばらくして一瞬手が止まった。

「は?・・・・本気ですか!?隊長!!!」

自分の耳を疑ったのか、上司を昔の呼び名で呼んでしまっている。

「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
相変わらず無茶な注文出しますね隊長。
わかりました。それなりに対処させていただきます。
えぇ・・・それで良いんですね?
綾波の第二小隊ですね?
本当に”それなり”にしか対処しないですからね!
知りませんよ隊長、俺が課長になっての初仕事に
こんなことしてどうなっても。
俺達の二の舞のようなことにならないと良いんですけどね。
ま、あの太田でさえ今じゃ教官ですからね。
ある意味エリートコースかもしれないっすね。」

昔のことを思い出しながら冗談を言いつつも
上司の言ってる事に無茶があるため
顔色はあまり良くない。

「・・・・・いえ、そう言うわけじゃ・・・
はい、はい!わかりました。
それでは赤木、綾波両名を明朝0800に出頭させます。
えぇ・・・それでは本部長もお体に気をつけてください。
奥さんにもよろしく言っておいてください。
・・・失礼します。」

カチャ






受話器を置いた遊馬はPCに打った内容をじっくりみて内容を整理する。
しばらくしてから遊馬は再び受話器を取り内線をかけた。



「・・・赤木君か?・・・綾波君と一緒に課長室まで来てくれ。」

用件を伝えた遊馬は隊長達がくるまでの少しの間の休憩を
楽しむこともなく心の中で泣いていた。


(はぁ〜俺も課長早々減俸かぁ・・・ここ数年減俸なんか食らったこと無いのになぁ(TT)
 カミサンの稼ぎに期待するかぁ)

まだ減俸と決まったわけではないのに自分達が昔やった行為とダブらせたのであろう
本人は疑う余地もなく近いうちにしばらくの減俸になることを予感していた。














PATLAYBOR -New Laybor《EVA》

File Name/人事異動







「ま、お茶でも飲んでくれ。」
ついさきほど課長室に入ってきた二人に遊馬は接客用のテーブルに座らせて
自分でお茶を入れ二人の前に置きながらお茶を勧めた。

「はい。頂きます。」

遊馬から見て左側に座る女性の名は赤木リツコ
特車二課第一小隊の小隊長である。
小隊長に就任してからの戦績は優秀であり
指揮能力も優秀である。、と遊馬のもらった資料には書いてある。
遊馬が就任してすぐの出動でも短時間で事件を解決している。
髪を金色に染めているが違和感が少なく
知的な容姿に見えるが遊馬は少し苦手だな、と思った。

(知的な人って南雲さんに見えちゃうんだよな(^^;)



「お茶菓子・・・・・無いのね・・・・・・・。頂きます。」

変わって右側に座る女性。
名は綾波レイ。
昨年小隊長に抜擢された若干27歳。
本部長のお勧め(秘蔵っ子)との噂がある。
就任前まではエリートそのものだったが
就任してからの仕事は部下任せの昼行灯。
昔の本部長そのまんまだそうで
課長就任早々第二小隊の部下に泣きつかれたので
要注意人物としてチェックしている。

(隊長と違って美人ってだけでも部下は救われるよな。
そんなに仕事しないんなら部下が辞職しちまうよ。)

遊馬の思ったとおりだろう。
いくら上司がひどくても辞職願いが出ないのは容姿のおかげである。
それに第二小隊の戦績もなかなかのものなので
上層部からのクレームも少なく隊長職を上手くこなしているように見える。



「ところで課長、ご用件は?」

ふたりの顔を見ながら資料と自分の印象を照らし合わせていた遊馬に
リツコが質問した。

「あぁ、一服したことだし本題に入ろうか?
先ほど上から急な人事異動が入った。異動は一週間以内。
本当に急な話だが各小隊長は速やかに準備をしてくれとのことだ。
・・・ちなみにこれが異動のリストだ。小隊まるごと入れ替えだが君らの腕に期待している。
よろしく頼むよ。あっそれと二人とも明朝0800に本庁に出頭してくれとのことだ。
内容は私も分らないがま、今回の件に関してだろうな。」

人事異動と出頭の説明をしながら資料を手渡す。
リツコのほうには数枚の紙切れを、
レイのほうには分厚いマニュアルと数枚の紙を・・・
リツコはいきなりの事態に呆れた顔をしながら目を通す。
レイは別に気にしていないようでパラパラと概要をみて
またお茶をすすっている。

レイと違って書類を真剣に読んでいたリツコがいきなり声を荒げた。

「か、課長なんですかこれは!!!」

リツコが読んでいた文にはこう書いてある。



第一小隊

小隊長:赤木リツコ
小隊員:第二小隊のメンバーをそのまま第一小隊へ
第一小隊の隊員たちは新設される特車四課へ配属。
                                  以上




小隊員丸ごと入れ替えの辞令である。
急な上に小隊丸ごとの入れ替え普通の隊長ならやはり驚くであろう。
しかしリツコには小隊入れ替えによって起こることに驚いたのである。

「・・・・・小隊入れ替えってことはマヤ・・・伊吹巡査部長も
私の受け持ちになるんですね?」

リツコは神妙な表情で遊馬にたずねた。

「もちろんそうなるな。何か不満でもあるのかい?
伊吹巡査部長は我が課の中でも優秀な部類に入るじゃないか。」

伊吹マヤ巡査部長。
現在第二小隊にある篠原重工製レイバー
00-1(ダブルオー・シングル)のパイロットをしていて
特車二課の中での検挙率No1を誇っている優秀な女性である。

「仕事に不満は無いです。・・・・・しかし。」

仕事に不満が無いのにリツコの顔色は良くならない。
遊馬が理由を聞こうと思ったときに今までお茶をすすっていたレイが
お茶を飲むのをやめてにやりと笑いながら遊馬に話しかけた。

「課長、なぜこのばあさんが伊吹巡査部長のことが嫌なのか教えてあげるわ。」

「レイ!!!ばあさんはやめなさい!・・・ってあなた何をしてるの???」

レイにばあさんと言われて怒ったリツコだがレイが自分の腕に腕をからめてきたので
怒りより疑問が出てきた。そして腕をからめたレイは顔を上気させ目をウルウルさせて

「せんぱぁ〜〜〜い(はぁと)」

と言ってリツコの腕に頬をこすりつけた。

「あが?・・・・・・・・・・・・・・・・・(−−;;;;;;;;;;;;;;;」

遊馬は一瞬わけがわからなかった。
レイが何をしたのかがわからなかった。
しかし次のリツコの行動で全ての理由がわかった・・・ような気がした。

「いやぁーーーーーーーー!!!!マヤ、やめてーーーーーー!!!!
私は違うのよ!ノーマルなのよーーーーーーーー!!!!!!!!!」

「ふっ、あなたにはズーレーがお似合い( ̄ー ̄)」

伊吹巡査部長はアブノーマルでリツコがお気に入りなんだと・・・

(それにしても赤木君がここまでとりみだすなんて・・・仕事中は問題を起こさないでくれよ。
ただでさえ第二小隊の編成は・・・・・・・はぁ(−−;;)

リツコがまだマヤの幻影につかまっているのを尻目に今度はレイが質問してきた。

「篠原の御曹司の課長・・・ばあさんの隊に私の部下をあげちゃうとなると私の新しい部下は誰?」

「篠原の御曹司って・・・・もう御曹司ってガラじゃないだろ。
それにそれを言ったら君だって碇の姫君じゃないか。それに君の部下についても資料に書いてあるし
ついでに新しいレイバーの資料にも目を通しておいたらどうだ?今年から碇重工製だぞ。お姫様。」

「私は美人だけどお姫様じゃないわ・・・・・」

美人のところを少しだけ強調して資料に目を通すレイ。
遊馬は実子、レイは養女の違いこそあるが、ともにレイバー産業界の重鎮
篠原重工、碇重工のご子息、ご令嬢なのである。
今回の大幅な異動でレイバーも篠原重工製から碇重工に鞍替えするとレポートの書いてあった。
だいぶ前から新型レイバー納入の予定だったがやっと納入に踏み切ったようである。
仕様書を見て少しだけレイの顔色が変わる。

(EVAシリーズ・・・納入になったのね。・・・・・ばあさんやズーレー、
それに養母さんや養父さんの作品。それにしても、あんなに乗り心地の悪いレイバーに
乗れる人がいるのかしら・・・今思い出しても・・・・・・気持ち悪い。)

EVAシリーズ・・・レイがまだ警視庁に就職が決まってなかった頃
義父であり碇重工の社長でもある碇ゲンドウの以来で
テストパイロットをしていたことがある。レイがパイロットをしていた頃は
テスト機ということもありショックアブソーバー等も良くなく
歩くたびに振動に絶えなくてはならくてレイバー酔いを何度も体験させられた。
仕様書を見る限りでは今度納入されるレイバーは大丈夫なようである。

昔より格段の進歩を継げているレイバー産業界だが
人が乗って扱うものなのでどんな機能よりもまず
人間の乗り心地が優先される。
篠原重工製の初期型警視庁レイバーは乗り心地には多少の難があったが
最新機種ではその点も改善されている。
乗り心地も改善され、乗りやすくなったレイバーだが
機体の大きさ自体は昔と全然変わっていない。
普通に考えればもっと大型の機種が出ても良いものだと思うが
なにぶんレイバーというものは現在も金食い虫。
普通のレイバーみたいにディーゼルやガソリンを動力にしたり
警視庁新鋭レイバーみたいな充電式の電動レイバー
高級レイバーになると水素エンジンと
いろいろ燃料に違いがあるが全てにおいて一致しているのは
燃料代がばかにならないくらい高いこと・・・。
今でさえ燃費が悪い上にただでさえ高額の機体、
これ以上機体が大きくなったら買い手がつかなくなる。
と、いうこともありレイバー産業界での人型レイバーのサイズには暗黙の了解があるようである。
もちろん今回納入予定のレイバーも通常の大きさのようだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

レイも今回の人事に少し興味が沸いてきたのか資料をまじまじと見始めた。
リツコはショックから立ち直れなかったのかさきほど席をはずしている。
安定剤をもらいに行ったのか外の空気でも吸いに行ったのか・・・そのうち戻ってくるだろう。
遊馬は・・・・・お茶をすすっている。

レイはレイバーと武器の仕様等をずっと見ていたが
自分の部下に誰が来るのか気になったのだろう
人事発表の紙を見てみた。



第二小隊

隊長:綾波レイ

隊員:
   碇シンジ
   霧島マナ
   ・・・・・・・
   ・・・・・・・
   ・・・・・・・
                以上第二小隊5名残り一人は後日

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後日ってなに?その前に碇シンジって・・・)

”碇シンジ”という名前と”後日”にしか目が行ってないレイ。
しばらく碇シンジという名をじっくり見ていたが急に顔を上げると

「この碇シンジって私の義理の弟のことですか?」

と、遊馬に顔を近づけて聞いてきた。

「ぶっーーーー。ごほっごほっ。」

「汚い。何してるのじーさん。・・・それより早く答えて。」

急にレイの顔が間近に来たため遊馬は飲んでいたお茶をそのままレイに吹きかけてしまった。

「スマンスマン。急に顔を上げるからビックリしたよ。・・・碇シンジ君の詳細かい?
まだ細かいデータは来てないんだ。もうちょっとしたら詳細ファイルがプロテクトメールか
何かで送られてくると思うぞ。」

「まっていられないわ。課長、ノート(PC)借ります。」

レイは遊馬にかけられたお茶をハンカチでふき取りながら
遊馬のノートをネットにつなげ名にやら打ち込み始める。

「綾波君、何やってるんだ?」

「警視庁のホストコンピュータに接続してデータの参照をしているんです。」

どうやらレイはその碇シンジの身元を調べるようである。

「綾波君はホストのパス知ってるのか?」

「知ってるわけ無いわ。今まで見ようとも思わなかったもの。」

とたんに遊馬の顔色が真っ青になっていく。

「ま、まさか。ホストにクラッキングかけてるんじゃ!?」

「・・・課長、時には知らないほうが良い時ってのもあるわ。
私は何もしていないし課長は何も見てない。・・・・・でしょ?」

レイは「フッ」と微笑むと遊馬のほうを見て言った。

「(・・・だてに後藤さんの懐刀だったわけじゃないな(−−;
ばれたらクビだぞ。・・・・・・・それにしてもクラッキングもお手のもんだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(−−;;;
これならばれないだろう。ばれなきゃ良いよな。・・・・・・・よし!見なかったことにしよう)
分った。じゃ、お茶でも飲んでるよ。」

さきほどまで顔が青ざめていたとは思えない対応である。
さすがもと特車二課・・・普通(?)のことでは驚きも少ないようである。

しばらくするとレイの打鍵の音が途切れた。

「シンちゃん。」

ぼそっとレイがつぶやく
遊馬がノートのディスプレイを覗き込むと一人の男性が映っている。
名前は碇シンジ・・・配属先は第二小隊特車二課。
こんど来る”碇シンジ”に間違い無いだろう。

「シンちゃんってことは綾波君の義理の弟ってことだな?
碇の御曹司もここに来るってことか。(向こうの家も上手く行ってないのか?)」

自分の家庭事情とレイの家の事情を比べてみる遊馬。
自分も昔家を飛び出したクチなので同じ境遇なのだろうと思ったのである。

レイはコクリとうなずくと、いきなりPCの画面に抱きついた。

「シンちゃーーーん、シンちゃーーーん。やっと二人きりになれるのね。
さぁ、ふたりで愛をはぐくむのよーーーー(TT)。」

(な、泣きながら抱きついてる(−−;;;あぁーーーー俺のノートが濡れちまう。)
「あ、綾波君。碇君とは義理の姉弟なんだろ。まるで恋人同士みたいだな。」

愛を・・・ってセリフが気にかかったのだろう。
遊馬は話を振る・・・たんに自分のPCが亡き者になるのが困っただけであろうが・・・

レイはぱっと顔を上げ少し頬を赤く染めると遊馬の質問に答える。

「私とシンちゃんは義理の姉弟は仮の姿、本当は永遠の愛を誓い合った仲なの(*・・*)」

「えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

数瞬後の課長室ではどよめきが起こっていた。









《同時刻・某宅》


若い男女が床にねそべっている。新婚なのであろうお互いの左手にある指輪が初々しく光っている。
周りの状況を見てみると引越しの片づけが終わったばかりなのであろう、
部屋の隅に片付けたダンボールとごみの山があった。

「ハックシュン!!」

「どうしたのよシンジ風邪でも引いた?」

「ん?誰か噂でもしてるのかな?」

「な〜に?もしかして他の女だなんて言いたいんじゃないでしょうね。」

「え?・・・そんなこと無いよ(^^;;;」

「ちょっと!なによ、今の間は!!」

「いや、何でも無いよ!」

「シンジ〜〜、こんなに可愛い奥さんもらっておきながら
浮気なんてしようとしたらわかってんでしょうね。」

「もちろん!分ってるよ。」

「ん、ならよろしい。・・・・・ねぇ、明後日からね。私達。」

「そうだね。特車二課・・・・どんな所だろ?」

「私達なら大丈夫よ。がんばろーね♪」

「うん、そうだね。・・・・あっ、そろそろ夕飯の買い出しに行かなくちゃ。」

「あ、アタシも行くわ♪」



特車二課第二小隊に明後日配属される者たちの幸せな一幕であった。
















どこか矛盾していたような気もするが・・・










久々に作品書きました。皆様ごぶさたしておりましたアルフです。
冬場はウィンタースポーツ三昧なのでネットから離れてます(^^;
仕事が忙しいけど2ヶ月以内に一話づつ書きたいと思います。
次回は二課勢ぞろい・・・・になるかな?




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