TOYS
〜なーにやってんだろ〜

ふうー・・・。

ゆみこの部屋は静かだった。

それは、彼女がいるからだけじゃない。

ココロの問題。

あれから数日たった。

出るのはため息ばかり。

ふぅー・・・。

「ごーお。」

「・・・わぁってるよ。」

わかってる。

わかってるよ。

こんなんじゃだめなことくらい。

わかってる。

わかってる・・・んだけど・・・。

 

「剛くん元気ないなぁ。」

「当然と言えば当然なんだけどねぇー・・・。」

「1番寂しいんは剛くんなんやろうなぁー。」

 

「お前にとって、健はなんだ?」

「えっ?」

「お前にとって、健はなんなんだ?って言ったんだ。」

「・・・。」

なんだったんだろう。

「わかんねぇ。」

「じゃぁわかんねぇのにため息ばっかになんのか?」

「・・・っかんねんだよ。わかんねぇから・・・」

「そっか。」

だって、一緒にきて、初めてケンカしたのもアイツで、

初めて優しい言葉をかけられたのもアイツ。

不器用な俺のフォロー役で、

最初の友達。

尊敬した人とか、そういうのじゃなくて、

友達。

大事な・・・友達。

当たり前だったから。

この大きな部屋の真ん中で音楽奏でるアイツがいること。

くっだらねぇこと話すこと。

おもちゃ箱から出たら、アイツの笑顔が待ってんだ。

剛はおもちゃ箱を必死で上がり前を見る。

いつもの場所に・・あの笑顔がなくて・・・

存在自体もなくて・・・

まるで誰もいなかったかのような大きな場所。

「・・・ど・・して・・・」

気がつけば涙がこぼれた。

泣けなかったのに。

アイツが出て行く時は泣けなかったのに。

頭の上に置かれた坂本さんの手があったかくて・・・なにもしてやれなかった自分が悔しくて・・・

だから涙が止まらなかったんだ。

「当たり前・・・だったんだよな?」

何も言わずに・・ただ流れる涙がそれを証明していた。

そして・・・頷くことが精一杯のこと。

帰ってこいよ。

またいつもみたいに笑ってくれよ。

いつもみたいに、優しい曲流してくれよ。

いつもみたいにうるせぇくらい騒いでくれよ。

・・・俺を助けてよ。

「なんで・・・。」

「剛。」

 

 

俺にとっての初めての大きな別れ。

東山さんじゃない。

あの人は尊敬してたけど・・そうじゃない。

友達なんだ。

大事だったんだ。

「なぁ剛。」

「・・・なに?」

「形のあるもんはな、いつか無くなっちまうんだ。」

「・・・。」

「壊れちまうんだ。」

「・・・坂本さんは・・・慣れてるから・・・。・・・別れることに・・慣れてるから。」

「そんなことないよ。」

「じゃぁなんでそんなに平然としてんだよ。寂しくねぇのかよ。」

「寂しいに決まってるだろっっ!!」

久しぶりに聞いた彼の怒鳴り声だった。

「寂しくない奴なんていないよ。」

「じゃぁなんで・・・。」

「いいか、健は最後になんて言った?お前になんて言ったんだ?」

いつも笑っててほしいんだ。

「お前はなんて言ったんだ??」

健に会うまでちゃんと笑ってる。

「・・・笑ってる・・って・・・。」

「約束破るのか?」

「・・・守りたい。守りてぇよ・・坂本さん。」

「健にもう1回会うんだろ?」

「うん。」

 

 

明日からの生活はきっと元に戻してみせる。

俺は健との約束を必ず守る。

守ってみせるよ。

だってまた会えるんだから。

会いに行くんだから。

俺は、健にいろんなことを教わった。

それ全部忘れないから。

これからも、ちゃんとするから。

そしたら会わせてくれるよな?

神様さんよぉ。

信じてもいいよな?

形あるものはいつか壊れると・・知った夜だった。

俺が壊れた時には、アイツに誇れるように。

そんな奴になりたい。

 

 

「なぁ井ノ原さん。」

「なんですか?」

「・・・これでよかったのかな?」

「大丈夫ですよ。」

「機械ってさぁ、なんなんだろうな。」

「さぁ・・・なんでしょうね。」

「博もさぁ・・・いつか壊れんのかな?」

「わかりません。」

「なんで出会いと別れは紙一重なんでしょうね。」

「・・・。」

1つ1つの疑問は、きっと誰もが持つもの。

そして・・答えのないもの。

「誰だって避けたいですよ。特に別れは。けど、無理なんですよ。生きてる限り。」

「死んだ方が楽かな?」

「・・・今坂本さんが死んだら、私はきっと大泣きして、からからになって死んじゃいますよ。」

「井ノ原さんまで死ぬことねぇよ。」

「私達が死ぬ時っていつでしょうね?」

「・・・。」

「機械は死ぬってわかっても、わかりませんね。現に私は、ボロボロになった今でもまだ生きてるんですから。」

「きっと・・・相手にされなくなった時でしょうね。誰からも。」

「そうですか。」

 

 

一夜は長かった。

けど、目が覚めるまでに時間がかからなかった。

だって、不思議なことに夢には健が出てこなかったから。

毎日出てきて、俺を励ましてくれて。

でも、それが切なくて。

目を覚ました時に居ないのわかってるから。

それを夢だとわかってる自分がいて。

それがすごい悔しくて。

でも、それでも一緒にいたいと思って目を開けようとしなかった。

健が夢に出ないということは、無理に眠る必要がないということ。

・・・愛想つかされちまったかな。

うじうじしてる俺に。

そんなことないよ。

・・・健?

んなわけねっか。

元気だして。

確かに健だった。

這いあがっておもちゃ箱から抜け出すと、健の姿があった。

「健!」

そう叫ぶと彼は消えてしまった。

・・・幻覚だった。

それでも・・・ちょっと元気でたよ。

ありがとな。

 

つづく。

第7話でちょっとふれましたが、健くんをこういった形で(言い方悪いけど)お別れしようと思ったのは、実はこのTOYSを始めた時から考えていたことでした。ただ7話のような書き方をしたのは、確かに書きやすかったからといってしまえばそうなんですけど、ちょっと違う。1番書きやすいと感じたのは健くんではなく、ボロボロになって立ちあがる剛くんなのです(笑)まぁそれはさておき、健くんのお別れは考えたものの、その続きがどうしても思いつかず、適当にキーを打ってたら剛くんの語りでしめてしまおうという気持ちになった。それだけ友達が居なくなるってのが寂しいってことです。最近殺人事件とか起きてますよね?(話飛びますが))それと一緒なんです。あ、別にゆみこが殺人者ではないですよ(笑)でも、誰かが死んだら、誰かが死んだら絶対悲しむ人がいると思うんです。それをわかってほしいなと思います。さて次回ですが、実は2パターン考えているんです。白い結末と黒い存続です。表現変ですけど(笑)次書く時の気持ちにもよりますが、きっと私は黒い存続を選ぶことになると思います。ごめんなさい。