TOYS
〜ずっとみんなで〜

「ここはどこなんだよ・・・ったく。」

普段2階にしかいない剛にとって、1階というところはわけのわからないところとも言える。

「あれ、さっきもここ来なかったっけ・・・?」

元々方向音痴な彼を先頭に立たせたのは誰だろうか?

「あははははっ。」

声が聞こえた。

きっと両親の声だ。

笑ってやがる。

彼らの笑い声が剛の気を苛立たせる。

ふざけんじゃねぇぞ、健が明日いなくなるってのに・・・。

腹立つ。

明日死刑執行になったも同然の、あいつの気持ちも考えてやれよ・・・。

どこにいるんだよ・・・健・・・。

 

 部屋の大きさは半端じゃなくでかかった。

人間にとっては小さいものも、俺達おもちゃにとってはバカでかいものがあった。

ここはどこなのか?

すぐに迷子になってしまう。

帰れなくなるかも。

そんな心配を抱いた時だった。

前から足音が聞こえる。

ヤバイ。。

「おやすみなさーい。」

姉貴の声だった。

・・・まじっすか?

ぱたん・・・ぱたん・・・ぱたん・・・

足音が近づいてくる。

大慌てで入ったのは1つの寝室だった。

誰も居ないことに安心したのはいいが、階段にいる彼らは大丈夫なんだろうか・・・?

ちょー・・・怖いんだけど・・・。

そんな時に聞こえたのがこの声だった。

「ゆみこー、あんたこんなとこちらかしてんじゃないわよ。」

・・・あちゃぁー・・・。

そして彼らは部屋に逆戻り。

 

 

「ご・・・ぉ??」

これを運命というのだろうか?

偶然入った部屋には健がいた。

だけど、コンセントが抜かれていて、彼の音楽はもう聞けない。

「・・・けん・・・。」

「ごーぉーっっ。。」

ただ涙を流す彼に、俺は何をしてあげられらだろうか?

なにもできないままだった。

そばにいるしかなかった。

優しい言葉の1つもかけられないままの時がすぎる。

こんな時みんながうらやましい。

みんなだったら、彼が悲しまない言葉を言ってあげられるんだろうな。

だけど、俺には言えない。

口を開くと、俺も泣いてしまいそうになる。

「・・・つかれた・・・。」

そう言って現れた仲間たち。

「ゆみこのやろうちゃんと寝てやがれよ・・ったく。」

「ホンマありがとうなぁ坂本さん。」

「井ノ原さん大丈夫?重いのにありがとう。」

「い・・いえ・・なんのこれしき・・・。」

「だ・・だいじょうぶ?顔色悪すぎ・・ちょー青い・・・。」

「それはもともとです。」

「って、けんくーん、何泣いてんねんっ!!しっかりしてやぁー!!」

「じゅんいちぃー。。」

「健、泣いてばっかじゃわかんねぇだろ?」

「さかもとさぁーん・・・。。」

 

 

「結局僕さぁ、捨てられること決定しちゃったんだ。」

泣き止んだ彼が話を進める。

「CDさぁ、聞けないんだ。もう・・・。」

「けど、ラジオだってカセットだって聞けんじゃん。全然健は壊れてなんかねぇよ!」

「剛・・・・。そうなんだけど・・・そうなんだけど・・・ね・・・。」

「なんで・・・なんで健が・・・。」

きっと1番辛いのは剛かもしれない。

一緒に来た仲間。

1番のライバルであって、1番の親友であって、1番の・・・あこがれだったから・・・。

「なんでだよぉー・・・。」

こらえていた涙。

泣かないと決めていたはずの涙。

なのに・・・。

「けんくーん・・・。」

剛の涙が准一の目をうるつかせる。

「泣かないでよ・・・泣かないで。しょうがないよ。機械だもん。いつか壊れる日は来るんだよ。それがたまたま今だった。それだけだよ・・・。」

「それだけって・・・寂しくねぇのかよ!!寂しくねぇのかよ!!」

「寂しいよ!!だけど、そんなこといったって変わんないじゃん!!」

寂しいのはみんな一緒だった。

そのくらいわかってる。

健だってわかってる。

そのことは、みんなもちゃんとわかってる。

わかってるんだけど。

わかってるんだけど。

それは理屈じゃなくて。

「剛。そんなこと言いに来たんじゃないだろ?」

「・・・坂本さん。」

「ちゃんと言うんだろ?」

うん。

「健。」

「はい。」

ぶっっ。。

「はい・・って。」

この言葉でみんなが笑い出す。

こうでなくっちゃ。

「いや、なんか改まった方がいいのかなって。あ、、あれ??変だった??」

「変なやつだよ、健は。うひゃひゃ。。」

「そんなに笑わないでよー!!」

それからは『普通』だった。

普通な会話で、何もかもが日常だった。

変わらない。

いつもと変わらない、平和なこと。

彼らが望む、1番の幸せな時。

この時間がずっと続けばいい。

誰もが望んだ・・・健の・・・最後の日・・・。

 
つづく。

結局は最後がきちゃうんですよねぇ。ただ書きやすかったのが健くんだった。そういうことです。。うちのラジカセもヤバイんだけど、ラジオ聞けるし、役に立ってるし。いいのよこっちは。ラジオ大好き人間ですから。ゆみこはあんまりラジオを聞かない人だった。それだけと言ってしまえば寂しいけど。けど、結局今の人は最低限の必要なものがなくなってしまうと「捨てる方向」に走ってしまいませんか?うちはそう思います。だから、典型的な「今」の人なのです。彼女は。
捨てられないものシリーズ。てゆうか、この大掃除の時期はがんばってものを捨てます。涙流しながら。本気で。たまたま天井に1番近い棚におかれたなかなか遊ばないゲームを見てなんだか切なくなりました。捨てられない。けどあれは、捨てられないものなんです。うちのちらかった部屋にいる権利は十分ある。いてほしいね、彼らには。まだ捨てる時期じゃないよ。ボロボロだけど。