TOYS
〜モノは何でも恋をする〜

「ねぇねぇおかーさん、これ買ってー!約束したやつ、ラジカセ。」

「はいはい、どれがいいの?」

「えっとね、これなの。青いの。」

「ふーん、いいんじゃない?じゃぁ買ってあげよう。」

「わぁーいっ!!」

 

 

「お母さんね、ちょっと買い物してるから、ゆみこここのおもちゃ屋さんから離れないでね、約束よ。破ったらさっき買ったラジカセ取り上げるからね。」

「はぁーい。」

初めて俺がゆみこに会ったのはこのおもちゃ屋さんだった。

俺ははっきり言ってこの時ぐれていた。

だってそうだろう?

俺と同じやつがみんな次々に子供達の手に渡っていくのに、姿形のなんら変わりのない俺だけがバーゲンのカゴに取り残される。

どうせ処分されるんだ。

そんな気持ちでいた。

どうでもいい。

もういいや。

だって、つまんないじゃん。

子供とかって結構乱暴って噂だし、俺ボロボロになるくらいならもう捨てられた方がましだよ。

・・・ん?

なんだこいつ。

なに、俺のこと見てんの?

え、マジでマジで?俺??

・・・なわけねぇよな、隣のやつだよきっと。

そう思ってると目の合った少女が俺の方に近づいてきた。

そして、抱きかかえられたのは俺だった。

彼女は俺の顔を見るなりくるくると俺を回転させ品定めしているようだ。

だけど、俺は結局はカゴに戻された。

いつもそうだ。

いつも俺は戻されるんだ。

「けいちゃーん。」

「あー、みゆりちゃんだぁ。」

「何見てたの?」

「んー?この人形、かわいいなぁって思ったんだけど、私いっぱい人形持ってるからきっと買ってもらえない。」

「そっかぁー。でもこれかわいいねぇ。」

「でしょでしょ?」

「えー、あたしもほしいー。」

「じゃぁお母さんに聞いてみなよ。」

「けいちゃんはいいの?」

「うん、みゆりちゃんが買ってくれるんならなおさらうれしいよー。」

好き勝手なこと言いやがって。

どうせ最後は捨てていくんだ。

そういう奴らを、俺は何人も見てきたよ。

こんなこと言われるくらいなら早く捨ててくれよそこの従業員さんよぉ。

惨めなだけじゃねぇかよ。

「ごめんね。」

結局それかよ。

俺に雇い主なんてどうせ来ないんだよ。

うわっ・・・。

なんだよ、お前。

ちょっっ、俺をどこ持っていく気だよ。

 

俺は誘拐されたかのように彼女の手の中にすっぽり入りうれしそうに彼女は他のおもちゃを見てまわる。

なんなんだよ一体。

どうせお前もあいつらと一緒だろ?

「あっ、おかーさーん。」

「ゆみこ、あんた何持ってんのよ。」

「ねぇお母さん、これほしー!!」

「何言ってんの。あんた前にこれよりおっきい似たやつ買ってあげたでしょ?」

「違うよ、似てないよ。これはこれ。だから買って!」

「もうー。じゃぁ1つだけよ?」

「やったぁー。」

 

 

何が起こったのかわからなかった。

俺・・・買ってもらえた?

 

 
ゆみこと遊ぶのが楽しかった。

他のおもちゃと遊ぶ彼女が腹ただしくも思えた。

そして、かまってもらえない自分が逆に惨めだった。

同期とも言えようか、あのラジカセは生意気にも名前があった。

「KEN・・・W・・??」

長い名前なので省略してKEN、健だ。

俺にはなかった。

名前がなかった。

あいつは毎日ゆみこと遊んでる。

幸せそうな顔をするゆみこ。

あいつがうらやましい。

そしてねたましい。

そして、友達なんて、いなかった。

ゆみこがかまってくれれば、それでよかった。

1人でもよかった。

好きだった。

本気だった。

 

 

だけど・・・俺は・・・人間じゃない。

人形だった。

 

 

「いつまで1人でいる気だよ。」

こいつか?俺と似てるって言ったやつ。

こんなやつと一緒にされたくないね。

「しかとこいてんじゃねぇよ。」

「んだよ。」

「目障り。」

「なんだと?」

「同じおもちゃ箱にいんのになんもしゃべらない。そのくせガンとばす。目障りだ。」

「それはあんただって一緒じゃねぇか。」

「俺がいつお前にガンとばしたんだよ?」

「今だよ。」

「何言ってんだよ、お前が小さいから見下ろしてるだけじゃねぇか。」

「なんだと、うるせぇよっ!!」

がちゃ。

ゆみこだ。

帰ってきた。

俺に気付いて欲しくてずっと見てたのに、彼女はいってしまう。

「お前、ゆみこに惚れてんのか?」

「・・・。」

「そうなのか?」

「・・・るせぇよ。」

「そうか。」

「笑いたきゃ笑えよ。どうせ人間と人形なんて結ばれるわけねぇって笑えばいいじゃねぇかよ。」

「笑わないよ、笑わない。」

「なんでだよ?じゃぁなに?あんた俺達が結ばれる可能性があるかもしれないって言いてぇのかよ。同情なんていらねぇよ。」

「そんなこと言ってないだろ?」

「じゃぁなんなんだよ。」

「別に・・・。」

「・・・好きなんだよ。ゆみこがめちゃめちゃ好きなんだよ。バカだって言ってくれよ。人形なんかが恋するなんてバカだって言ってくれよ。」

「そんなことねぇよ。人形でも心はあるんだから。」

「ないよ、人形だよ?あんただって人形じゃねぇか、心なんてないんだよ、からっぽだ。」

「じゃぁなんでお前はゆみこが好きだってわかるんだ?なんで好きになれるんだ?心があるからだろ?だから好きだって思うんだろ?」

「・・・そう・・なのか?」

「いいじゃねぇか、誰かを好きになるって、いいことじゃん。」

俺はなぜか涙が出た。

理由はわからない。

いつも無愛想で何考えてるかわからなくて・・・だけど、本当はゆみこじゃない。

ゆみこを好きだったけど、こういう感じに憧れてたのかもしれない。

かまってほしかった。

俺も仲間に入れてほしかった。

だから、ちょっとうれしかった。

それだけだよ。

「なぁ、お前名前なんて言うんだ?俺達とさ、一緒にバカみたいに騒ぐ気ないか?」

「バカみたいに・・・騒ぐ?」

「所詮おもちゃ。なんもできない。それに、いつかは捨てられる。そんな日にびくびくするよりも、その日までみんなで楽しまないか?」

「でも・・・」

「でも?」

「でも俺は・・・みんなを敵だと思ってた。ゆみこが好きだから、みんなを敵だと思ってた。」

「じゃぁ、これからは仲間だ。」

「仲間?」

「敵も案外仲間にしてみると楽しいもんだぞ?」

「そ・・・う??」

「そう。で、名前何?仲間になろうよ。」

「ない。」

「ない?ないっていうのか?」

「違う。俺には名前なんてない。」

「ない・・・のか・・・。」

「うん。だから、仲間になれないよ・・・。」

「じゃぁお前は今日から剛だ。」

「剛?」

「そ、なんか強そうだろ?」

「どっからまた・・・。」

「これですよ。」

「だれ??」

「井ノ原といいます。ゆみこさんの使ってるこの辞書に「質実剛健」という文字がありました。あのラジカセは健。だから同期のあなたは剛。それだけです。」

剛・・・。

「俺は坂本。よろしくな、剛。」

剛・・・か。悪くない。

「よ、、よろしくおねがいします。」

「なに改まってんだよ、よろしく!だろ?」

「お、おう!」

 

 

「坂本さーん。」

「どうした剛?」

「俺ってさぁ、大人になった?あの頃に比べたら。」

「なにいってんだよ。まだまだだよ。」

「やっぱり、そっか。」

「今のほうがお前らしいよ。恋してる剛は似合わない。」

「何言ってんだよ。」

「剛が人間だったらきっとゆみこは剛にメロメロだなきっと。」

「んなことねぇよー。」

「あ、照れてやがる、ばーか、冗談だよ。」

「んだとぉーっ!!」

 

 

恋なんてもうしないとは言わないけど、だけど、今は友情だけでいいよ。

この瞬間が結構いいんだ。

なぁ、そうだろ?みんな。

つづく。

今回は剛さん特集ということで(笑)いや、書くなら今かなって(爆)せっかく健ちゃんが過去を掘り出したから使わない手はねぇなと。。。結局おもちゃは飼い主を好きになるんです。だから、その気持ちに答えてあげたい。そう思いませんか?
うちの部屋の捨てられないものシリーズ(?)
不思議なものは大量。でも捨てられないものも大量。ってことで大体捨てられないのがもらいもの。特似小学校のお誕生日会でもらった誕生日カードとかはなかなか捨てられるもんじゃありません。なんか字とか当たり前だけどうまくないんだけど、それでも気持ちがいっぱいこもってて、そう簡単には捨てられないんです。そういうもんでしょう、もらいものというのは。。