TOYS
〜くもりぞら〜

「・・ごーくーん?」

彼の反応はなかなか返ってこない。

最近になってよくあることだった。

それまでの過去を振り帰ってみると、そんなことは一度だってない。

「ごーくーん。」

「・・えっ、なに?」

「もー剛くんどしたん?ボーっとしちゃってさぁ。」

「春だなーって。」

窓辺に座っていた剛が空を見上げて言う。

「あったけーなーって。」

今までの寒い冬とは打って変わり今ではすっかり暖かい春になっていた。

「准一もうすぐ咲くのか?これ。」

そう言って小さな小さな蕾と思われるものをつついてみる。

「やっ、やめてやーっ、僕はデリケートやねん。落ちてしもたらどないすんねん。」

「うひょひょ。だいじょーぶだって。」

冬が過ぎ春になる。

相変わらずぽっかり空いてしまった穴は埋まらない。

代わりのやつは来ないままだった。

理由は簡単でもあった。

ゆみこがほしがらなかったからだ。

なんだか不思議なこと。

その変わりに、彼等の知らないところでは慌しく動いていた。

それを知るにはそう遠くない後のこと。

 

 

剛がボーっとしているのは春のせい。

そう思っていたのは周りの者。

気付いていたのは坂本だけだった。

それだけじゃないことくらいわかってた。

「剛。」

「なに?」

「ちょっと散歩しねぇか?」

そんな坂本の突如なアイディアに剛は呆然とする。

「なっ、何言ってるんっすか。俺達が出歩くなんて聞いたことねぇよ。」

「大丈夫だって。今日は帰ってこねぇよ。」

それは・・・わかってるけど。

 

 

庭に出ると誰かがいつも手入れしている花がたくさん並んでいる。

准一の話によると意外にもそれは姉貴だった。

「きれいだな。」

「うん。」

2人の間に流れていた風は心地いい。

「元気にしてるかな?」

「ああ。」

健。

「アイツにも見せてやりたかったよ。」

「もうちょっと右右。」

「見えるか?」

「あとちょっと・・・」

がしゃんっ。

「うわぁーっっ、健大丈夫かぁっっ!!」

「健くんしっかりしてやぁー。」

「健っ、健っっ。」

「・・だいじょーぶ。」

人一倍彼は花が好きだった。

そして、見たことがない者も彼だけだった。

窓は高くて健が上に上がるにはなかなか困難だったこと。

「そうだな。」

たまには・・・いいよね。こんな話。

「どーやったら見えるのかなぁ?」

真剣にそんな話をしたこともあった。

「ごめんね、僕なんかのために。」

「いいよ、どうせやることねぇーから。」


照れ隠しだった。

花はキレイだ。

それはみんな知っていた。

「このピンク色のかわいいねー。」

「本物はもっときれいなんだよー。」


博の絵で健が感動していた。

一度見てみたい。

その発言からみんなで願いを叶えてやろうと思ってた。

本物を見せてやりたかった。

けどそれも、叶わなかったみたいだ。

「運ばれてる時に見たんじゃないか?」

「そうだね。」

これだけ、庭にたくさん咲いているんだから。

健は感動したんじゃないのか?

きっと、寂しさとうれしさとまじりあった涙を流したんじゃないのか?と。

 

 

「もうすぐ咲くんかなぁ?」

「そうだねー、来週くらいには咲くんじゃないかなぁ?」

「楽しみやなー。どんな花が咲くんやろう?」

「そうですねー。まぁ准一のことですからそんな大きい花は咲かないでしょうけど。」

「・・・それどういう意味なんですか?」

「いやいや、小さい方がかわいいですよー。」

なんて、自分の花が小さいことにケチをつけられる姿を想像するとゾっとした。

「・・・剛くんにバカにされてまうやん。」

あははは。

魂胆はバレバレで。

「ええもん。かわいらしい花さかしたるわっ。」
 
一番最初には・・健くんに見せたりたいな。

健くんやったら、きっと感動してくれるんかなぁ?

花見たことなかったもんな。

僕が一番に見せたかったのにな。

どっかでちゃんと見ててな。

「准一が花咲かすの、楽しみにしてるからね。」

どこからか、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

「准一ももうすぐこんな風になるんだろーなー。」

「そうだな。」

たくさんの花を見ながら言った。

「ちいさかったらバカにしてやろ。」

大きな白い花を目の前に剛が言う。

「おいおい。」

昌行が苦笑いする。

「白・・か。」

「准一は何色が咲くんだろうな?」

「・・・真っ赤がいいな。」

「え?」

「どうせだったら。真っ赤な花がいい。」

「健はピンクに感動してたよな。」

「俺は赤がいい。」

その目には何か強いものがあった。

「お前らしいよ。」

近くのもうすぐ咲きそうな大きな桜の木の下に腰を下ろす。

「それが・・最後になるもんな。」

ずっと言えなかったこと。

「知ってたのか?」

「そっちこそ。」

「たまたま通りかかっただけだよ。」

「俺もだ。」

お互いに沈黙があった。

どちらも次の言葉を待っている。

「俺、最近ずっと考えてた。自分がどうやったら死ぬんだろうって。」

先に口を開いたのは剛だった。

「健がいなくなった。アイツは機械だから、壊れるし。それで死んじゃうってことでしょ?」

「まぁな。」

「じゃぁ博さんもいづれ死んじゃうってことじゃん。同じ機械なんだから。」

「・・・そうだな。」

「東山さん見てたから、准一だって花が枯れてしまったらもう終わりってこと。」

「・・・ああ。」

見上げた空は雲1つない真っ青な色をしていた。

悲しいくらい。

「俺達の最後っていつだよ。」

横を見ると太陽の光がまぶしい。

なにも見えなくなる。

「坂本さん、あんたの最後っていつだ?」

いつか、ちゃんとした結論が出る日が来てしまうのだろう。

でも、それを自分の目で納得して知っておかなければ気がすまない。

そういう性格だから。

「俺の最後か。」

考えた事がないわけではない。

それは、何度も考えた事で、いつも答えが見えなかったもの。

「俺の最後・・か。」

もう1度繰り返してみる。

「最後は・・・なくなった時だよ。」

そうやって笑顔で返してやる。

やさしい・・・顔。

どこか寂しそうな。

「なにが?」

坂本は座っていた木の下から立ちあがる。

「お前等だよ。」

「えっ?」

坂本の表情は丁度太陽と重なる。

見るに見えない。

けむたそうに座ったまま答えた。

「どういうこと?」

「大事なヤツらがいなくなった時だよ。」

・・・。

「健がいなくなった時に1つココロ死んでんだ。誰もいなくなって、誰も相手にされなくなったら・・寂しいだろうな。」

・・・。

「その時じゃねーか?」

昌行が剛の方をまっすぐみる。

さっきまでの笑顔はもうない。

「もし・・そうだったら・・」

お互い見つめあったまま険しい表情は消えなかった。

 

つづく。

さて。次で終わりにしましょうか(笑)なんだか結末考えようと思えばいろいろ出てくるんですね。どれが一番の得策なんだろう?と考えた上結局は「どうでもいいや。」なんて手を抜いてしまいこんなことになっちまいました。こうやって書いてたら、すごく寂しいことですね。なんか。うちの部屋のおもちゃも動いてんのかなぁ?(笑)だったら、一緒にお話がしたい。・・・これだけ見たらなんか寂しいヤツみてー私(爆)いや、そんなんじゃないんだけどさぁ。