TOYS
〜それぞれの輝きへ〜

「これとこれと・・・あと・・・これもかな。」

ゆみこの部屋の真ん中には大きなダンボールの箱があった。

そして、その周りを囲むように小さな箱がちまちまとある。

「君も一緒に行こうね。」

持ち上げられたのは剛だった。

「あ、もちろん、お父さんも一緒だよ?」

・・・俺はコイツの父親か。

そう思いつつ次に挙げられたのは坂本。

「それと・・・」

知っていたのは二人だけだった。

知らないものにはわからなかった。

この行動が何を意味しているのか。

まだ、ガムテープが貼られないように。

それだけを願った二人だった。

 

 

「引越し?」

「ああ。」

ゆみこが部屋から出て行ったあと、まだガムテープの貼られていない箱から飛び出した。

「えー、ウソやん。」

「お前なぁ、今までの行動見てたんだろ?」

その言葉にぐっとつまったのが准一だ。

「・・・見てた・・けど。」

それは、1つの別れを意味していた。

認めたくない現実。

「いややで。僕はいややそんなん。」

「んなこと言ったところで、なにも変わんねーだろ?」

「そうやけど。」

「で、いつなんですか?それは。」

「来週くらいかな?」

「来週・・・ですか。」

「来週?・・そんな、急に・・・。」

今にも泣き出しそうなのは准一。

「准一、泣くなって。」

博のなぐさめに顔をしかめる。

「な・・ないてへんもん。」

「・・・ねぇ井ノ原さんはどうなるの?」

配置された場所は剛や坂本とは違う場所にいた。

「もう・・年ですからね。」

「ウソ・・やろ?」

「仕方ないですよ。」

誰もその言葉に返せる者はいなかった。

そして、やりとりを見ていた剛はなんとも言えない顔をしていた。

「・・・剛くん・・知っとったんか?」

坂本が剛を見る。

そして、全員の目が彼にむけられた。

「それは・・・」

知っていた。

偶然出た時に知ってしまっていた。

「・・・ああ。」

「ならなんでもっとはよゆってくれへんかってん。」

准一の声が響いた。

「なんで・・もっとはやく・・・」

だんだん声の調子が変わっているのが自分でもわかる。

「いつ言ったって変わらねーじゃねーかっ。」

その声を振りきるように言いきった。

「なんやねん、それ。」

「変わらないよ。どーせいつかはバラバラになるんだ。それは最初からわかってたことだろ?」

「そうやけど。寂しくないんか?剛くんは、みんなバラバラになんの、寂しくないんかいな。」

「うるせーよ。」

それだけを言い残して彼は元のダンボールに身を潜めた。

「・・・剛くんは・・強いから。」

悔しかった。

「俺も知ってた。」

口を開いたのは坂本だった。

「黙っててわるかった。」

一瞬の沈黙。

「勘違いだと思いたかった。俺も。剛も。」

一言一言、はっきりと話していく。

「ウソだと思いたかったんだ。」

言っている表情が寂しかった。

 

 

「なんでだよ。」

「俺に言うなよ。」

夜。

静まり返った後。

「なんで・・こんなことになっちまうんだよ。」

その声は今にも泣き出しそうだった。

「なんで・・・」

寂しいのはみんな一緒だった。

このまま同じ時を過ごすことができたらどれだけいいか。

「やだよ。」

言葉より先に坂本はその手を伸ばした。

そして、彼の頭をくしゃっとなでてやる。

いつのまにか大きくなっていた。

人形の大きさは変わらない。

だけど、精神的に大きくなっていた。

「大丈夫だよ。向こう行ったって、一緒だ。」

「健の場所が・・・ないよ。」

彼がいつ戻ってきてもいいように。

彼の居場所がなくならないように。

彼の存在を忘れないように。

「昼間お前言ってただろ?いつかはみんなバラバラになるんだって。」

「そうだけど。」

言いきかせるように。

寂しい気持ちが少しでもなくなるように。

自分たちの運命をすんなり認められるように。

「俺達は人間じゃないんだ。選択の余地もない。それは、産まれた時から知ってるだろ?」

剛が小さくうなずく。

「わりきらなきゃいけないんだよ。」

「井ノ原さんと別れることも?准一だって、花が咲いたらいなくなる。みんな・・みんな俺の前から消えて行く。」

「・・・。」

「俺は割り切ることなんてできない。」

「じゃぁどうしろっていうんだ?俺達に何ができる?どうやってアイツらを助けることができる?」

久しぶりの彼の怒鳴り声だった。

「どうしようもないじゃないか。俺達にはなにもできないんだよ。」

その目には、涙が出そうだった。

そして、最後に静かに言った。

「それは、本人が一番よくわかってるよ。」

「え?」

「俺達がいくら心配したって本当に元気だとわかるのは最後は自分だ。誰も心配しなくたって、もうだめだと思うのも自分だ。」

「・・うん。」

「それを止める権利、俺たちにはないよ。」

「・・・。」

「健がそうだったように。」

「健が?」

「そうだ。健は誰にも言わなかった。だけど自分で最後だってわかってたんだ。だから別れを選んだ。違うか?」

剛は首を横に振った。

「井ノ原さんも、博も、准一も。みんな最後だと思ったら気づくよ。どこで言うか。言わないか。それは、個人の自由だ。」

「・・・。」

「きっと、井ノ原さんは一緒に行けない。」

「・・・。」

「でも、それは井ノ原さんが一番よくわかってることだ。」

言った表情が妙に切なかった。

 

 

次の日から、剛はなぜか走りまわっていた。

井ノ原さんと遊んだり、博のところへ行ったり、准一とじゃれあったり。

すべてを忘れるように。

すべてを忘れないように。

「これってさー、何色なわけ?」

もうすぐ咲きそうな准一の蕾を覗きこむ。

「なんやろーなー?僕もよくわからへん。」

「赤いな。」

坂本が言う。

「確かに赤色だよねー、これ。」

そう言って蕾をつついてみる。

「やめぃっ。」

「おお、赤色かー。いいねいいねー。」

そんな喜ぶ剛の後ろで博が何気につぶやいた。

「黄色じゃないかな?」

「な、、なんで?」

「それって月見草じゃない?」

「それってどんなの?」

博の画面に剛と坂本と井ノ原が食いつく。

「僕も見せてやー。」

「ダーメっ。」

「ちぇ。いじわる。」

「へー、結構キレイじゃん。」

「准一とはちょっとイメージが違いますねー。」

「井ノ原さん、僕にどんなイメージ持ってるんですかっ。」

「どんなって・・・」

4人が目を合わせる。

「・・・こんな。」

わかるかいな。

全くもー。

・・・だけど、

「黄色かもしれへん。」

「ええ?」

「なんか・・・そんな気がする。」

「黄色・・ねー。」

「なんか准一らしいな。」

「なんやそれ?」

「なんか・・おおらかというか・・・」

坂本が言おうとした後ろに剛が発する。

「はっきりしねーってことだよ。俺みたいに赤が似合うヤツにはかんけーねぇけどな。」

なんてニヤリと笑ってやる。

「ごーくーんっ。」

そんな空間が好きだった。

当たり前のはずの時間が。

 

 

「明日・・・か。」

「あ・・・」

准一の声に皆の目が開かれた。

それは、一夜だけ咲く月見草。

花言葉は・・自由な心。

「白だ。」

そして1時間後、彼らの前にキレイな白の花が開花した。

一番驚いたのは准一本人だった。

「すっげー。」

見たことのないような白だった。

「よか・・った。」

「え?」

「みんながいるうちに咲いて。」

それは、今にも涙がこぼれそうだった。

「僕、みんながおらんかったらここまで咲かへんかったよ?みんながいなくなってからじゃ意味がない。」

言葉がでなかった。

「よかった。みんながおって。よかった。」

忘れたかった事実を思い出させるように。

「今日は准一で花見でもすっか。」

「坂本さん、それただ騒ぎたいだけでしょ?」

剛は准一に近づいて、

「泣くんじゃねーよ。」

と葉っぱを一つひっぱる。

「な、、ないてへんわぁっ。」

そんな准一が妙に笑えた。

「ばーか。」

「へへ。」

「おっしゃぁ最後の夜だぁっ。」

静かな夜、剛の声が響いた。

 

 

朝、それは予測通りに准一は姿を変えていた。

みんなが寝静まったあと、じっと自分の姿を見ていた。

花びらは次第にピンクに染まり、しぼんでいく。

どんどん色が濃くなり最後は紅色になった。

目の前ではみんなが眠っている。

「ありがとう。」

みんなが、幸せになれますように。

寝顔を見てそう思った。

そして、窓の外を見てみる。

それは、もうすぐ朝日が顔を出そうとしていた。

「健くん、見ててくれたかな。僕、花咲いたで。」

空に向かって投げかけた。

そして、ゆっくりと目を閉じていった。

「じゅん・・いち?」

その姿を最初に見たのは剛だった。

そんな彼を見て、剛は何を思ったのか、今となっては謎である。

ただ、流れた涙だけは、事実だった。

「ありがとな。」

つぶやいた時、すべての記憶が繰り返された気がした。

 

 

昼、あるものには別れを告げ、

あるものと共に行き、

最後を遂げたものもいた。

数年後、きっと彼らはどこかで会っているだろう。

またあの時間を過ごすために。

 

 

どこかで、あの6人の笑い声が聞こえた。

 

おわり。

 

この話を書き始めて丁度1年ですね。あ、7日に更新すればよかったかしら(笑)最後はねー、剛様が「ありがとな。」って言った後BGMに「太陽のあたる場所」が始まるイメージ?(笑)です。なんだか中でいっぱいひっぱったわりに終わりはあっけないですね。どーせ私の書くお話はそんなもんです。最後がはっきりくっきりしないのさ。月見草だってこれって育てるものなのか疑問になるしさー(爆)っていうか俺旅のセリフぱちってねーか私、いつかバラバラに・・・ってやつ(自爆)ごめんなさい、脚本家さん(爆)

途中で書いた白と黒の結末なんですけど(気になってる人がいると悪いんで)この場で書きますが(ここじゃなきゃどこで書くんだおれ(死))白は健ちゃんが去ったあと、新しいラジカセで健くんが帰ってくる。みたいな感じでした(笑)んでハッピーエンドなの。ってかそれでお話終わりなの。きっとほのぼの読んでくれてた人にはその方がよかったかもしれないっすね。黒はねー・・徹底的に黒かった(爆)博さんにコンピューターウィルスにかかってもらうこと(爆)しかし真剣に考えてたんだこれはっ。だって最近ようexeファイル送られてくるし・・・。あとは火事にするとか。でもそれって燃えて終わりやんっ、と普通にあっけなかったんで(笑)←笑いでいいのかっ。

とりあえず終わりました。このお話を読んでくださったみなさんはどんな感想を持つでしょう?所詮ものはものだ。と思いますか?それとも、もうちょっと大事にしようかな?って思いますか?どう思うかはもちろん個人の自由です、私が口を出す権利は一切ありません。ただ、私は、そう簡単に飽きたら捨てるという人間の考えをちょっとでも考えてくれたらうれしいかなって。ほら、使い捨ての時代だから今(爆)お花だって、育てると決めたら最後まで愛を持って育ててください。なんとなくで始めて途中で投げ出してしまう気持ちはわかります、私もそうでした。だけど、その花はそれでしかないのであって、頼るのはアナタしかいないはずです。・・私は花じゃないんでわかりませんが(爆)心のどっかに置いておいてくだされば、書いた甲斐があったな。と思います。長いお話にお付き合いいただき、本当に心から感謝しています。ありがとうございました。