恋のメロディ

第4話

−愛をください。−

外は雨だった。

びしょびしょになった。

服はぼろぼろかもしれない。

あれ・・・私泣いてるのかなぁ?

泣き止んだのかなぁ?

わかんないほどの強い雨。

しばらくは近くの公園にいたんだけど、耐えれなくなった。
 

 

ピンポーンっ。

「・・・。」

昌行兄ちゃんは私の様子を見て唖然としてるみたいだった。

「殴られた。」

あえて私は激しい雨にはノータッチでこう言った。

「見りゃわかるよ。」

濡れてるシャツにはかすかだけど赤いものがあった。

「そっか。」

「何しに来た。」

「・・・ダメ?」

親とケンカしたら私はいつもここにくる。

最初はなだめてくれた昌行兄ちゃんも今ではあんまり干渉しなくなった。

寂しくはないけど、置いてくれるのは本当にありがたい。

「客が来てんだ。」

「・・・そっか・・・。」

「別にいいよ。お客さん?」

後ろからは暖かい声が聞こえた。

その人はびしょびしょの私を見てタオルを投げてくれた。

「悪いな長野。」

ありがとう・・・と、心の中でしか言えなかった。

ふぅーと1つため息をついてから昌行兄ちゃんが口を開く。

「入れよ。」

と。

いつものことだよね。

ほんとに、迷惑ばっかりかけてるよね。

 

 

お客さんというのは、昌行兄ちゃんの友達だった。

めずらしいって思った。

なんとなく。

「こんばんわ。」

彼は、私の傷とぼろぼろになりそうな姿を忘れるくらいの笑顔でそう言われた。

こんな気分だけど、笑顔に負けてしまって、こっちも笑ってしまった。

「こんばんわ。」

と。

なんだか、優しい人。

昌行兄ちゃんとは違ったやさしそうな人だった。

「ほら。」

「ありがと。」

とりあえず水。

いつもそうやって対応してくれるのが、昌行兄ちゃん。

それだけでも十分なんだけどね。

今の私にとっては。

「顔洗ってこいよ。あ、適当に剛のシャツとか取ってきたら。」

「・・・うん。」

できれば着たくなかった彼のシャツ。

雨の日にこうなったのは、結構多くはない。

もちろん、着るのは初めてじゃない。

だけど、着れば着るほど、私が彼の居場所を奪ってる。

そんな罪悪感でいっぱいになる。

きっと昌行兄ちゃんもわかってるんだろうな。

 

 

黒の少し大きいシャツを着た私は彼らの会話に入ってしまった。

邪魔するつもりはなかったんだけど、邪魔・・だよね。

お友達の『長野さん』は私の顔を見てくるなり笑ってくる。

元気付けてくれてるのかよくわからないけど、なんだか不思議な人だ。

「知り合い?」

昌行兄ちゃんが興味深そうに聞いてくる。

それはこっちも聞きたいよ。

「日曜日の12時の子。」

「えっ?」

「いつも来るよね、この時間。僕の店。」

ボーっとしてたから、この人の顔をちゃんと見ようとしてなかった。

そうか、この人。

「店長さん?」

「あったりー。」

「昌行兄ちゃんの友達ですか?」

彼はくすっと笑って昌行兄ちゃんの方を向いた。

「どうなの?」

「さぁな。」

どんな関係だったのかはよくわからなかった。

昌行兄ちゃんの『さぁな』にはいろんな意味がある。

否定しないとこみると仲はいいのだろう。

現にこの人はここにいる。

2人の話してるとこみたら、仲悪いとは思えなくて、親友にも見える。

けど、興味はあったけど、干渉はしない。

こんなとこに首つっこんじゃいけない。

けど、花屋の店長さんと昌行兄ちゃんとどういう関係があるのかすごく気になった。

聞けないよねー。

「あのさ、岡田って知ってる?」

「あの店員さんのですか?」

「そう、准一。気に入ってたよ、君のこと。」

「そうなんですかー?うれしいなー、あの人すごいいい人なんですよー。」

「そっか。」

「誰?」

「ほらいつも剛くんに話してるあの店員さん。」

「あー、いつも選んでもらってる奴?」

「そう。いい人なんだよー。」

ふーん。

「もしかしてさ、いつも花買っていくのは剛くんの所にいくため?」

「剛くんのこと知ってるんですか?」

「まぁ・・ね。」

「剛くんお花ってキライじゃないんです。だからね、お花飾っておくの。目覚めた時きっとさわやかに起きれるように。」

「そっか。」

「うん。」

「剛くんのこと、好き?」

「大好き!」

・・・。

「俺ちょっとベランダ行くわ。」

「どしたの?」

「別に。」

「そぉ。」

 

 

長野さんはいい人だ。

楽しい人。

心が落ち着く。

ふとこんなことを聞いてしまった。

「昌行兄ちゃんとどこで知り合ったんですか?」

って。

「いつのまにか知り合ってたんだよ。」

そんな風に流された。

そっか。

そうなんだ。

「剛くんは?」

「うーん、彼も一緒かな。」

「ふーん。」

 

 

「そんなとこで泣いてんじゃないよ。」

私が眠った後に昌行兄ちゃんと長野さんがお話していたことは、知らなかった。

「泣いてねぇよ。」

「愛されてるね、剛は。」

「そうだな。」

「言えねぇよ。アイツには。」

「悲しむよ。」

「わかってるけど。」

「医者の方だって見こみあるって言ってたじゃん。もうちょっと待ってみたって・・」

「金がねんだよ。」

「だからって・・・。」

「・・・。」

わかってる。

わかってるよ。

俺だって剛を死なせなくないよ。

ましてやそんな形で。

待っていたいよ。

でも、限界なんだ。

俺にとっても。

「俺も出すからさ。」

「それは断る。」

「言い出すときかないからね、坂本くんは。」

「・・・でもな・・・」

「よく考えてみなよ、まだ考える時間はいっぱいあるんだし。剛だってきっともうすぐだよ。」

「・・・そうだな。」

失うものがある彼は、今まで以上にもろかった。

失うものがない者は強いと言うが、彼の状況は全く逆だった。

なんとかしなくちゃだめだと、それは友達としての考え。

そして・・・。

つづく。