恋のメロディ

第3話

−憧れの人−

「森田剛さんの保護者の方来てください。」

昌行は彼の保護者だった。

だけど・・・

「坂本さん・・・ですか?」

「はい。なにか?」

「いえ。」

初めての人には疑わしいこの違った名字。

私も、最初友達に「森田くんが・・・」と普通に話された時には違和感があった。

彼らの両親は最後の旅行の前に実は離婚していた。

離婚しても仲がいい2人だったみたいだ。

子供の私にはわからない。

どうして別れてしまったのか。

父親側についた坂本昌行。

母親側についた森田剛。

お互いそう遠くには住んでなかったため、亡くなったと知らされた時に2人の出した結論は、

家に帰ること・・・だった。

とりあえず剛の住んでいたマンションを出て昌行の住んでる家に転がり込んだ。

数年前までは当たり前だった場所に。

表札にはもちろん「坂本」と書かれている。

剛も坂本に戻してもよかったんだけど、彼の最終的な結論は「森田」だった。

「なんとなく・・・」

そう言ってごまかすけど、結局は母親を忘れないためのことかもしれない。

そうやって2人で生活していた。

平和な矢先にあった事件。

バイク事故。

最近少年犯罪が増えているというが、彼は被害者だった。

学校の帰り、自転車通いだった彼に向かって3人乗りのバイクが激突。

意識不明の重体。

増えてきたこういった事件。

だけど、どこか他人事のような気がしてた。

それが・・・近く・・・それも、こんな近くで起こってしまったから・・・。

 

 

「ただいまー。」

帰ったって返事なんてないよね。

かよこの両親は共働き。

家に帰っても誰もいない。

寂しいんだけど、居ない方がいい。

私は2人とも好きなのに。

2人がお互い好きじゃない。

いつも聞こえる口ゲンカ。

もうしんどいよ。

なんで坂本さんとこ離婚しちゃってんの?

先にすんのはこっちじゃん。

けど、離婚しちゃったらどうするんだろ?

やっぱり・・・このままでいいのかなぁ?

よくわからない。

 

 
「ただいま。」

「お帰りー。ご飯できたよー。」

毎晩の日課だった。

晩御飯、洗濯、掃除。

なんだか花嫁修行なんて必要ないくらい。

「ありがと。」

「今日も1日、おつかれさまでしたぁ。」

先に帰ってくるのは母の方。

父は、ほとんど帰ってこない。

残業なんて言ってるけど、ほんとんとこどうなんだか。

別に興味ないけど。

「あんねー、今日学校でね・・・」

「ごめん、悪いけど疲れてるの。」

「・・・そ・・だよね。」

また・・聞いてくれないんだ、私の話。

「明日、お弁当いる?」

「ええ。」

「じゃぁ、作っとくから。」

「あと、今月のこづかい。」

「あ・・ありがと・・・。」

いらないのに。

ほしいものなんて、お金じゃ買えないもん。

「お父さんいつ帰ってくるかなぁ?」

「さぁ。」

「ただいま。」

「あ、噂をすればだね。」

「悪いけど先寝るわ。」

「あ、ご飯もういいの?」

「ありがと、おいしかった。じゃぁおやすみ。」

逃げてどうすんのよ。

「お帰りお父さん。」

「ただいま。」

「おやすみなさい。」

「もう寝るのか?」

「ええ。疲れたの。」

「そうか。」

「お父さんご飯。」

結局今日も、なんだか夜はうるさかった。

 



「かーよーこー?」

「なにー?」

「寝不足。」

「誰が?」

「あんたに決まってんじゃん。」

「マジで??」

「目にクマできてる。」

「うっそー。。」

「何してたのよー?」

両親のケンカがうるさかった・・・。

「CD聞いてた・・・。」

「なーにやってんだか。」

「今日のノート取れるかなぁ。寝ちゃおうかな。」

「また?あんたもうテスト前よ?大丈夫なの?」

「・・・なんとかなるっしょ。ってことでさぁ・・・」

「アイスおごりね。」

「なんでもおごらせてもらいます。」

母からもらってるこづかいは高い。

金だけ与えておけばいいんじゃないか。

そんなんで子育てできると思ってるみたいだ。

いいじゃん。ぐれないだけましとおもってよ。

こんなたくさんあるお金なんて使えないに決まってんじゃん。

剛くんの花代だって高くないし、こうやって友達と遊んだって全然大丈夫だし。

もう・・・やだな・・・。

けど、私昌行兄ちゃんみたいなしっかりしたお兄ちゃんとか・・・兄弟いないから。

1人になったら苦労するんだろうな。

後悔するんだろうな。

そう思うとかなり悔しい。

 

 

「こんにちわー。」

「あ、今日はなんにします?」

「なんにしよ・・・。」

「もうすぐ秋ですよねー。」

ほんとだ。気がつかなかったけど、お花屋さんのお花が変わってる。

「あー、あのピンクのがいい!」

「あ、あれ高いよ?ええのん?」

値札を見ると、確かに高かった。

けど、別にどうでもよかった。

「いいですよ。今日は奮発しちゃいます♪」

「そぉ?」

包んでるいつものお兄さんは心配そうな顔してる。

いつもより高いこと気にしてくれてるのかなぁ?

「なんかあった?」

「えっ?」

なんだかびっくりした言葉だった。

「あ、いや、別になんでもないねんけど。いつも笑顔でくるやん?今日は暗いなぁーって。寝不足とかちゃう?目にクマできとる。」

あ・・れ。

私そんなに疲れてるように見えたかな?

「そんなことないですよ。」

軽く笑って逃げるしかなかった。

「そう?」

それでも心配してくれるお兄さんはいい人だ。

ほんとに。

「大丈夫ですよー。元気元気です♪」

だけど、ちょっと辛いんだ。

「・・・あのさ。」

「はい?」

「なんか、あったら相談乗るよ?」

「いい人ですね。」

「え?」

ほんといい人だ。

「気が向いたら相談乗ってくださいねお兄さん。」

「あ、僕岡田准一ゆうねん。だからさ、これから准一って・・・」

「准一・・さん?」

「あ、君なんてゆう名前?」

「かよこ。」

名字はきっと・・・もうすぐ変わるかも。

「かよこちゃんゆうんや。そう呼んでええ?」

「いいですよ?・・准一さんって、おもしろい人ですね。」

「なんで??」

「だって顔赤いもん。」

その時の私は子供だったから、赤くなった理由なんてわからなかった。

あがり症なのかな?

 

 

「准一が進歩したー。」

「けんくーんっっ。。」

なんやめっちゃうれしかった。

「めっちゃうれしいねんけどー。。」

「はいはい、よくがんばったよくがんばったよ准。」

「今日な占い1位やってんやん。だからがんばれる気がしてん!」

そんな理由かいっ。

 

 

「顔が死んでる。」

「3人目。」

「帰れば。」

「帰りたくない。」

「また?」

「また。」

「親が居るだけでもましだと思えよ。」

「あんな親いらない。」

「普通に言うな。」

「どうでもよくなってきた。」

「どうでも・・・ねぇ。」

「ご機嫌とりはもうつかれました。なんで結婚したんだろ?わけわかんない。」

「大人ってのは難しいの。」

「子供の私にはわかりませーん。」

はぁー・・・。

「ごめんなさい。」

「いいけど別に。慣れてるから。」

「こんなことばっか言ってるから剛くん嫌がって目覚めないのかなぁ?」

「そうかも。」

「昌行兄ちゃん最低。。」

「早く帰って寝な。お前マジでやばいぞ。」

「そぉ・・・。」

 

 

「ただいま。」

「遅かったね。」

「ごめん。」

「別にいいけど。」

「夕飯買って来た。」

「ありがと。」

私が帰ってきた時は誰もいない。

めずらしい光景だった。

2人が家にいたこと。

逆に緊張もしてた。

「なにしてたんだ?」

いつもはそんなこと聞かないくせに、なんで父親ぶられなきゃいいけないのか。

「別に。」

「病院か?」

「そうだけど。」

「まだ行ってたのか。もういいじゃないか。」

「そんなの私の勝手じゃん。お父さんに関係ない。」

「そんなこと行ってないで勉強しなさい。」

「してるよ。この前の模試だって悪くなかったじゃん。」

「この前はこの前だ。お前にはあの学校に行ってもらいたいんだよ。ランクBじゃわからないじゃないか。」

大学まで勝手に決めないでよ。

「・・・。」

「わかったらご飯食べて勉強しなさい。」

「・・・。」

「かよこ。」

「・・・たしだって・・・」

「なんだ?」

「私だって行きたい大学だってあるもん!まだ決まってないけど、やりたいことだってあるもん!お父さんとお母さんに勝手に進路なんて決められたくないよ!!学校だって友達と一緒にいろんなとこみたいもん!」

溢れ出した涙の意味がわからなかった。

「大体、お父さんもお母さんも自分のことばっか考えてさ、お互いの事ちゃんと考えてんの?なんでお父さん夜遅いの言わないのよお母さん。お父さんだって、なんでそんなに残業ばっかなのよ・・・。」

今まで我慢してたことが全部出てきたきがした。

「ふざけんじゃねぇよ。こんなとこだけ親の格好しないでよ!」

ぱんっっ。。

お父さんからの平手打ちは痛かった。

言い返す事もできないくせに。

もうやだよ。

私は勢いで家を飛び出した。

 

つづく。