「すいませーん、お花くださーい。」
毎週日曜日の12時になると彼女の声が聞こえる。
「今日はなんのおはなにしましょうか?」
「・・・なにがいいと思いますか?」
「そうやなぁ・・・今日は、かすみ草かな?」
「んじゃぁかすみ草ください。えと、量は・・・いつもと一緒で。」
「はいよ。」
この子は花のことをよく知らへん。
だからいつも僕にまかせられる。
この子は僕の担当の子になってる気がする。
「はいどうぞ。」
「ありがとぉー!」
お金を払って走って行く彼女。
いつも笑顔でやってきて、楽しそうに走って行く。
そんな彼女に、僕は恋をした。
僕は3ヶ月前からこの小さな花屋のバイトを始めた。
そして、それから少しして、彼女に出会った。
「ねぇねぇ、あの子、准のこと好きなのかなぁ?」
「えっええ??なにゆうてんねん健くん。」
「だって、いつも来るし、絶対准に声かけるしぃ・・・。」
「・・・僕以外おらんやん、健くんいつもこの時間花出しやろ?」
「じゃぁ准があの子のこと好きなんだぁー♪」
「な、、そんなことあれへんわぁっ!!」
「きゃきゃ、准顔まっかー♪おもしろいおもしろーい。」
「相変わらずやな健くん・・・。」
ほんま、こんな話大好きやなもう。
ばっくに花が似合う男No2やわ。
「あれ、2人組はどうした??」
ほらきた、お花の似合う男No1、店長の長野さんが。
「まだでーす。」
「・・・ったくもぉ。」
「すいませーん、寝坊しましたぁーっ!!」
走ってきた女の子2人、さくらちゃんとみゆりちゃんや。
「2人とも??」
「昨日うちお泊まりやってん、なぁーっ♪」
相変わらずな2人のペースには、店長も負けっぱなしやな。
「・・・もういいから着替えて来い・・・。」
「はぁーいっ♪」
女の子って、強い・・・。
かすみ草を持った女の子がついた場所は、このへんでは1番大きな病院。
そして、いつもの個室へ入っていく。
「おじゃましまーす。」
彼女はなにも言わずに花瓶を探す。
けど、この部屋にはもうない。
そう、少量の花がたくさん飾られてある。
「うーん。」
悩んだ末にこの前に買ってきたチューリップと添える事にした。
「ちょーきれー♪もう春だね。。」
そのまま彼女はベットの近くまで歩きながら話しだす。
「この花選んでくれるお兄さんねぇ、花のこといっぱい知ってるんだよ!だから今日は何?っていつも聞いちゃうんだぁ。・・・ん?これ前からずっと言ってたっけ??あれ??忘れちゃったよ。。まいっか。」
相変わらずだね。
「ねぇ剛くん、季節はもう、春だよ。」
閉まってるカーテンに気がつく彼女がシャーっと音をたてて開ける。
「いい天気だよ、今日も。ねぇ、見て。あそこにうぐいすがいるよ。あ、ちゃんと聞いてる??」
彼女はベットの上の彼の胸に耳をあててみる。
聞こえる。
心臓の音が聞こえてる。
ちゃんと、聞いてるね。
普通すぎるから。
眠ってるだけでしょ?
わからない。
あなたは、いつになったら目を覚ますのですか?
春の日差しにあたりながら、彼の手を握ったまま彼女が眠ってしまう。
2人で眠る、2人だけの時間。
平和な、日々。
かちゃり。
ドアの開く音が聞こえる。
それは、眠ってる2人には聞こえない音。
入ってくる青年は自分の着てるコートを眠ってしまってる者にかけてやる。
「剛、元気か?」
幸せ者だよ、お前は。
その時だった。
青年の携帯が鳴る。
やべっっ。。
「もしもし・・・はい・・・はい、わかりました。・・はい・・失礼します。」
ピッっ。
・・・まだ寝てやがる。
けど、お前何回怒られてるんだよ、夕方頃まで寝てやがって。
「わっっ!!」
・・・なっ・・??
「きゃきゃ、昌行兄ちゃんおもしろーっ!びびってるびびってる♪」
「起きてんなら素直に起きとけよっ!!」
「だって、電話中はやばいやろ??」
・・・ふぅ・・・。
「剛は??」
「元気。」
「そっか。」
昌行はそっと胸に耳をつけてみる。
それは、確かに彼の生きてる音が聞こえる。
「だな。」
「うん。」
「こうやって見てたら、普通に眠ってるだけなのになぁ・・・。」
「もうすぐ起きるよ。そん時は2人でびっくりさせてやろうな。」
「あったりまえじゃん!」
「かよこ、寂しくない?」
「うーん、寂しいけど、しょうがないや。そんだけ好きだから。」
「ほんっと、剛は幸せなやつ。」
「でも、剛くんはうちのことは好きじゃないだろうな。」
「どうかな?」
「まぁいいや。剛くんが生きてるから、それでいいよ。」
昌行はかよこの頭をくしゃくしゃってして出て行く。
「じゃぁ、仕事行ってくるから。」
「いってらっしゃい。」
「ちゃんと帰れよ!」
「わかってまーす。」
静かに、ドアの閉まる音がなる。
聞こえる?剛くん。
「みんな、待ってるんだよ。」
いつもと変わらない無表情が辛かった。
「ありがとうございました!」
「あの人で最後なんかなぁ?」
「うーん、最後ってことにしとこうや♪」
「さくらちゃん、相変わらずやな・・・。」
「じゃぁ今日は上がりで。」
「はーいっ♪」
「・・・。」
「准、どうした?」
「いえ、なにもやいです。」
まさかかすみ草が売りきれになるとは思ってへんかった。
うーん、春やなぁーっ♪
「じゅーん、4人でご飯食べにいこーっ!」
「お、健くんのおごり??」
「なにいってんのよ、准のおごりでしょ?」
「やですよ、みゆりさんこそ。。」
「わりかんでええやんかぁもぉ・・・。」
1人暮らしをしてる僕にとって、バイトの水・土・日曜が好きや。
晩御飯みんなで食べに行って、夜遅くまで遊んでる。
いつも帰っても誰もおらんし、1人が寂しい時だってある。
だから楽しいねん。
いつも1人やから、ちょうどバランスとれてるんや。
こうやってバカやって遊べる友達が。
けど、不思議なことがある。
それが、日曜日に来る彼女やった。
どうしていつも花を買いにくるのか?
どうしてそんなに楽しそうなのか?
デートにしては絶対おかしいと思う。
ちょっと、きになる存在。
それが今のあの子やった。
なんでかわからへんけど、なぜかひかれるんや。
好きやと、思った。つづく。