恋のメロディ

第2話

−暗闇の世界−

自分の体が動かない事に気がつくのに時間はかからなかった。

意識はあるのに、目が開かない。

ただ、誰かが俺に触れてる感覚しかなかった。

だけど、声が聞こえる。

かすかなんだけど、静かな時しかわからないんだけど、声が聞こえる。

だけど・・・誰なんだろう?誰だっけ?

忘れた。

 

 

ここは一体どこなのか、触れているのは誰なのか?

そして、今俺はどのくらい眠っているのか?

わからない。

ただ、この暗闇の世界と共にすごすしかない。

こういうのってさぁ、植物人間ってゆうんじゃねぇの?

なんか、テレビとかで見た。

俺って今そういう状態じゃねぇの?

意識不明ってわりにはさぁ、意識あんじゃん。

あ、俺まだマシなほうってことか?

だったらさぁ、早く返せよ、元の体によぉ・・・。

 

 

「だからねぇー、そん時さぁー・・・。」

まただ。

この声。聞きなれてるはずの声なんだけど・・・。

「お前またそんなことやってんのかよ。ガキっ。」

知ってるはずなんだけど・・・思い出せない。

だれ?

 

 

キーンコーンカーンコーン。

いつもは1番最初に教室を出る彼女が出遅れたのは、こんな呼ぶ声だった。

「ねぇねぇ、かよこさぁ、まだ森田くんとこ行ってんの?」

「そうだけど?」

「でもさぁ、森田くんってさぁー・・・。」

「なに?」

「あのね、わかってる?森田くんってね、植物人間なんだよ?」

「うん。だから?」

「あんたそれで平気なの?」

「えー、だって死んだんじゃないもん。そのうち目覚ますよ。」

はぁー・・・。

大きくため息つく彼女の次の言葉は決まってこういう。

「そんなこと言ってるから彼氏できないんじゃん。」

「いらないもん、彼氏なんて。」

 

 

「今日さ、友達に剛くんとこ会いに来てばっかだから彼氏できないって言われた。」

「当たり前じゃん。」

「昌行兄ちゃん普通に言わないでよー。なんで女の子はそんなに彼氏ほしがんのかなぁ?」

「お前はいらないわけ?」

「別にー。だって剛くんいるしさぁ。」

「あー、お前等もうそういう関係?」

「違うけど・・・。違うけどぉー。好きな人って自然にできるもんじゃん?なんで作りたがるのかなぁ?」

「俺にきくなよ。」

「昌行兄ちゃんはさぁ・・・そろそろ結婚とかないわけ?」

「ねぇよ。」

「なんでぇ?昌行兄ちゃんかっこいいじゃん?その気になればいくらでも・・・」

「いらないよ・・・彼女なんて・・・。」

ふと思い出したのが、忘れかけていた亡くなった彼女のことだった。

この家はどうしてこんなに不幸なのかと・・・不安になる。

どうして、こんなに寂しいのかと・・・不安になる。

誰かが死んでしまうのは、もう嫌なのに・・・。

「そのうち・・・な。」

「結婚式には呼んでねー。」

「・・・やだよ。」

「なんでぇ??」

「どうせちゃかしにくんだろ?」

「そんなことないよー、めでたいことは祝わなきゃでしょ?」

「・・・。」

「呼んでよー、結婚式って1回見てみたいんだもん。」

「結局それかよ。しゃぁねぇなぁ。」

「いいの?」

「そんな日はきっとこねぇと思うかんな。」

「そんなことないって!!」

「・・・剛と2人で招待してやるよ。じゃぁな。」

「あれ?仕事??遅いね。」

「ちょっとヤボ用。」

「・・・そぉ。」

剛くんと2人で招待するなんて言われて舞いあがっちゃってたけど、

よくよく考えると、今日は昌行兄ちゃんの亡くなった彼女の命日だった。

そのことに気がつくのは、もっと後のこと。

 

 

「あの・・・。」

「はい?なんにしましょ?」

「墓参りの花ってあります?」

「あ、ありますよ。」

「はい、どうぞっー♪」

「あ・・・どうも・・・いくらで・・・?」

「400円になりますー♪」

「は・・はぁ・・・。」

「ありがとうございましたぁー。また来てくださいねーっ!!」

「ええ・・・。」

「じゅんー、今の人めっさかっこええやん!!」

「さくらちゃん、ああゆう人がタイプ?」

「だってさぁ、影がありそうな感じやん?めっさかっこええがな。」

「影がありそうな・・・ねぇ・・・。」

「そういや、今日彼女けぇへんなぁ。」

「え??」

「ほら、准の好きな子。」

「だって今日水曜日やん。」

「うわ、ひっかかった。好きなんやーっ。」

「あ・・れ。」

「准アホやな。」

「さくらちゃんに言われたないわ。」

「けどさぁ、あの子もどっか影ありそうやんなぁ。」

「そぉ?」

「だって、いつも日曜は花買いに来るし、ちょっとずつやし、時間決まってるし・・・」

「そうやけど、それとなんの関係があって影あるんっすか?」

「普通に考えておかしいやん、そんなん。」

「でも彼女楽しそーに走っていきますよ?」

「彼氏・・・にしてはおかしいやんなぁー・・・。」

「こら、そこ2人、さぼってんじゃねぇぞ!」

「すいませんっ!」

「あのー・・・このお花ほしいんですけど・・・。」

「はい、550円になりますー!」

 

 

もうすぐ・・・目・・覚ますよ。

だから、忘れないで。

俺のこと。

絶対、元の世界戻るから。

誰でもいいんだ。

覚えていて・・・。

俺のこと。
 

つづく。