羽根
〜BEGINNING〜

第9話
〜断固反対:男女交際〜

「はい・・・はいわかりました。じゃぁ日曜日に。はーい。」

かちゃ。

電話を切った彼女は、スケジュール帳片手に、スキップでもしてしまいそうな勢いで階段をかけていく。

その様子を見ていた彼は不機嫌だった。

「おい。」

「なによー。」

そんな不機嫌な言葉には強い言葉で返すべし。

でなきゃ負ける。

ただでさえ迫力のある兄貴には、言葉の強さでしか勝てないことをよく知っている。

「誰だ?」

「誰だっていいでしょ。」

またやってるよ。

遠くで見守るのは他の兄達だった。

「彼氏か?」

「わかってるんだったら聞かないでよっ。」

・・・。

よくよく聞けばもっともな言葉だった。

彼は何も言わず彼女に背を向けて、近くにあった空のごみ箱を蹴飛ばした。

「・・・ちゃんと戻しといてよ。」

そう言って先に部屋に戻るのは妹だった。

 

 

「相変わらずだね、剛兄は。」

先ほどの争いの後、こたつでテレビをみながらみかんの皮をむく。

「うるせーよ。」

「別にええやんか、彼氏の一人くらい。」

「そうだよ、気にしすぎなんだって。」

妹に彼氏ができたのは最近だった。

相手はこの前定期を拾ってくれた人。

お礼を言いにいったら息投合したらしい。

らしい。というのは、妹以外、真相は誰も知らないからだ。

最初は誰も興味がなかった。

誰が誰とつきあおうが、そんなことはどうでもよかった。

快彦の一件でもうこりていたからだ。

しかし、妹に溺愛・・・というか、ただ甘いというか・・・子供を見る親父心を人一倍持つのが彼。

剛だった。

「・・・っ。」

「・・・剛兄イライラしすぎやって。」

「うるせぇよっ。」

さっきっから焦っているのか動揺しているのか、うまく皮がむけずボロボロになっている。

「もういいっ、寝るっ。」

「あ、剛兄、僕の部屋使ってよね。上でやかましくしないでよ。」

最近剛とかよこのくだらない口ゲンカは絶えない。

「わぁってるよ。」

ぶっきらぼうの彼は、もう嫌ほどみていた。

残されたのは、呆れ顔の二人と、無残な姿のみかんだった。

 

 

なんで剛兄はわかってくれないんだろう?

すっごくすっごくいい人なのになぁ。

スケジュール帳にはさんである二人の写真を眺めてみる。

なにが不満なんだろう?

だって准兄とかすっごい仲いいもん。

・・・年が近いからかなぁ?

でも剛兄だってそんなに離れてないよねー?

話題が合わないことはあんまりないと思うんだけどなぁ。

だって、私でさえ合うんだもん。

なんでだよー。

がちゃ。

ドアの開く音に反応して振り返ると剛がいた。

「なに。」

「別に。」

そう言って彼は愛用の枕を持って部屋を後にした。

「なによーっ、あの態度はっっ。」

今なき相手を追うようにドアにクッションを投げつける。

なんか・・・すげー腹たつ。

「うー。」

なんとかして説得する方法はないものか?

・・・って、なんで私が付き合うのに兄貴の説得が必要なわけ?

別に親でもなんでもないのになんでよ?

別にいいじゃん。

ねぇ。

そんなの私の勝手だよねー。

・・・。

「どうしよう。」

そうは思ってみたのの、どうしても兄にも彼のよさをわかってもらいたい。

そう言った上で彼との付きあいを認めてほしい。

家族を大事にする彼女の考えだった。

「かよこー、入んでー。」

「んー?」

入ってきたのは准一と健だった。

「なにー?」

「剛兄は?」

「枕持ってどっかいっちゃった。」

「そ。」

行き先を知ってるだけに興味のない答えだった。

「日曜日デート?」

健の唐突な質問に迷うことなく答える。

「うん♪」

「あのさー、音符つけて言うんやめてくれへん?」

「だってさー楽しみなんだもん。」

「どこ行くの?」

「映画っ。」

「もしかして、あれっすか?」

映画好きの健が反応を示す。

「あれっす♪」

もちろんテンポはばっちし。

「あれってなんやねん?」

「あれっす。」

「あのなー。声揃えて言うんやめよーや。」

「楽しみだなー。」

「あ、パンフレット買ってきてよ。」

「おっけー。わかってるって。」

「なんやねんな。」

映画が好きなこの二人の会話はいつも「あれ」とか「これ」の代名詞がおおい。

通じているあたりが怖いのだが。

他の兄妹が聞くと暗号にしか聞こえない会話だ。

「なー。」

「なに?」

「つよしくんによろしくゆうといてな。」

「わかってるって。」

「おう。」

「だって絶対一回は准兄の話になるからねー。」

「なっ、勝手に話題にすんなや。」

「困ったときの准兄話だから。」

「なんやそら。」

「だって、すっごい盛り上がるんだよ。」

こんなにも幸せなのに。

 

 

「今日・・元気なくない?」

「えっ?」

結局その気持ちはひきづったまんまなデート。

「そんなことないですよー。すごい、感動したからボーっとしちゃって。」

「あの最後のシーンめっちゃ感動したよなー、もう泣けた泣けた。」

「涙ボロボロですよー。」

いい人なのになー。

あれ・・・?

いい人ってさぁー・・・?

「次どこいく?」

「お腹空きません?」

「おっしゃご飯食べに行こか。」

「行くっ。」

あれ・・?

何考えてたんだっけ?

ま・・いっか。

 

 

「剛兄強情すぎ。」

・・・。

「大体剛兄だけやで?そんなあからさまに反対してんの。」

・・・。

「何が不満なわけ?」

「幸せそうにしとるやんか。妹の幸せ考えたんの、兄の仕事ちゃうんか?」

・・・。

「聞いてるー?」

・・・。

「なに?シカトシカト?」

寝てるの。

・・・そう思ってるあたり、しっかり聞いてるよな、俺って。

ベッドの上で彼らに背を向けたままのたぬき寝入り。

ちくしょー、眠れない自分が恨めしい。

別に不満なんてないさ。

ただ・・・なんか・・・やだっただけだよ。

妹の彼氏に嫉妬してるなんて・・・ばかみてー。

でもなんか・・・寂しくねぇか?

これって親父の心境じゃねーか。

やっべー俺。

 



「今日は楽しかったです。」

「僕も。」

「じゃぁ・・・また。」

「うん。」

・・・。

「なんか・・・寂しいですね。」

「今までの元気はどこいったんだ?」

「あ・・・あはは。バレバレじゃないですか。」

「単純やなぁ、顔出てんで。」

「あ、、あれ??」

そう言って顔を隠すあたりがすごく子供に見える。

「あほー。」

「なんなんですかっ。しつれーな。」

「ええやん、帰ったらやさしい兄さんがいっぱいおるやん。」

「んー、やさしいかなぁ?」

「やさしいやさしい。僕には厳しいけどな。」

「あ、気にしないでください。剛兄のことでしょ?ただの意地っぱりですから。」

「そうかなぁ?」

「そうですよ。」

・・・。

「なぁ、今度、うちけぇへん?。」

「え?」

「あ、、いや、ごめん、忘れて。。やなくて、そうやなくって、深い意味とか、そんなんないからな。」

「あ、、そ、、そうですよね。」

びっくりしたぁ。

「ただ、ちょっと紹介とか・・・しときたくなってさ。」

家族を大事にしてるのは、彼女だけではないらしい。

「僕と付きおうてる娘さんは、こんなにいい子ですよって。」

「そんな・・・そんなことないですよ。」

「よう心配すんねん、うちの親。ほら、ワイドショーとかでようやってるやろ?いまどきの女子高生とか。顔が黒かったり化粧ばっかりして。」

「でもそういう人たち、根はすごいいい人だったりするんですよ。この前助けられましたもん。」

「そうやけどな、親は気にすんねん。」

「そういうもん?」

「そういうもん。」

「・・・私まだ中学生ですよ。それでも心配?」

「いや、僕はええねんけど。やっぱ・・な。」

私がつよしさんみたいな人じゃなくって、もっと不良っぽい・・・なんか・・そういう人と付き合ってたらお兄ちゃん達はどう思うのかなぁ?

「そんな子やなくて、なんか変に素朴な子とつきおうてますよって。」

「・・・誉めてるんですか?それって。」

「誉めてるよー。あれ、おかしい?」

「おかしくないですけど・・・すごい・・・照れるんですけど。」

「あ・・いや、ごめん。困らす気はなかってんけど。」

「そ、そうですよねー。」

どもっちゃったわよ。

「・・・だから。」

「今日のつよしさん、変ですよ?」

「そーか?」

「そうです。」

「なんか・・・ゆっときたくなってん。」

「へーんなの。」

私だって、ちゃんと家族に紹介したいよ。

でも、変な揉め事ってゆうか、言い合いになるのがオチだよねー。

剛兄のばかっ。

 

 

「そんなんゆうたん?」

「しーっ、声おっきいって。」

「つよしくんやるなぁ。」

「もうびっくりしちゃって、心臓ばくばくなんだけどー。」

ここは剛とかよこの部屋。

剛は今風呂に入っていて、准一に今日の報告を。

「なにかと思っちゃったよー。」

「うわ、かよこ顔真っ赤。」

「ちょっとー。」

「かわいいなぁもう。真っ赤なっとる。そら素朴ゆわれるわ。」

「なによそれ。」

「愛されてんなぁ。かよこは。」

「ほーんと。私にはもったいないくらい。」

「なーにゆうてんねん。」

 

「剛兄なにやってんの?」

ちょうど風呂上がりの剛が部屋の前で盗み聞き。

まんまと健にばれてしまったってわけ。

「・・・通りかかっただけだよ。」

「素直じゃないの。入ればいいのに。」

「お前は・・・気にならねーか?」

「気になるけど、別に・・・かよこが幸せだったらいいんじゃない?」

「そうじゃなかったら?」

「いらん心配して、余計傷付けたらどうすんの?子供じゃないんだからさ。やりたいようにやるよ。」

「・・・まぁ・・・な。」

「それより、自分の心配もしたら。」

「るせー。」

 

「ねぇ准兄?」

「なんや?」

言ったものの、次の言葉はゆっくりになる。

「あのね、いい人ってさぁー、誉め言葉かな?」

「えっ?」

「つよしさんにいい人って言ったら嫌味に聞こえないかな?」

・・え?

「ちゃんと好きなのかな?友達の延長じゃないよね?大好きかなぁ?」

初めて恋人同士な感覚の彼女にとっては、不安でたまらないことだった。

「かよこは、兄貴達のこと・・・好きやんな?」

准一が真剣な顔をして言う。

「え?」

「まぁ、僕は含めても含めんでもどちゃでもええけど。」

「好きだよ。もちろん、准兄だって大好きだよ。」

「つよしくんとどっちが好き?」

・・・。

「わからない。」

「どっちや?」

准兄の目に負けそうになる。

「どっちも好き。」

そういうと少し笑ってこう言ってくれた。

「ならええんちゃう?」

って。

「え?」

「こんだけ長い時間一緒にいた僕らと同じくらい好きなんやったら、大丈夫やで。」

「・・・そうかなぁ?」

「これからやん。これからもっと好きになるって。」

「・・・そう?」

「もっと自信持てや。」

「・・うん。」

「剛兄もええやろー?」

「えっっ?」

「なんだ、ばれてたんだ。」

ドアと開けたのは健だった。

「剛兄・・なんでいるの?」

「なんでって・・俺の部屋じゃねーか。」

「そう・・・だけど。」

「そろそろ認めたってもええんちゃう?」

「そうだよ。嫌われる前にいいって言ってあげなよ。」

・・・。

「じゃ、退散ってことで、准一いこうか。」

「あいよ。ほなおやすみなさーい。」

「おやすみ。」

「おお。」

ばたん。

・・・。

「なんか言ってよ。」

「言うことなんてなんもねーよ。」

・・・。

「なんでそんなにダメって言うの?」

「知らん。」

・・・。

「あのねー、わからないのに断らないでくれる?」

「うるせーな、お前に俺の気持ちがわかるかっての。」

「わかんないよ。わかるわけないでしょ?わからないから聞いてるのっ。」

「大体お前がいきなり彼氏とか作るからわりぃんだろ?」

「なによ?つよしさんが悪いっての?」

「ああそうだよ。」

「ちょっと、悪口言わないでくれる?大体剛兄だけでしょ?反対してんの。みんな別にいいって言ってくれてるのにさ。」

「周りがおかしいんだよ。」

「おかしいのは剛兄でしょ?なんでだめなの?なにがいけないの?人好きになっちゃだめなの?つよしさんすごい自分の家族とか大事にしててさ、こんないい人いないよ?」

「じゃぁなに?結婚すんの?いづれは。」

「知らないよ、そんなの。わかんないけど。」

「そ。」

「だから剛兄に彼女できないんじゃん。」

「なっ。」

「いちいちそんなくだらないこと言ってんじゃないわよ。いい加減にしてよ。」

・・・。

「お兄ちゃん達好きだから。好きだからちゃんと知っててほしいって思うだけなのに。好きだから・・好きだから言ってるのに。最初から言わなきゃよかったよ。こんなことになるんだったら。」

「お前さー。」

「なに?」

「いや・・・やっぱいいや。」

「なによ?気になるでしょ?」

「なんでもねーよ。」

「?」

「今度連れてこいよ。」

剛が持っていたバスタオルを被せるように投げてくる。

「え?」

「そこまでお前が薦めるつよしさんってヤツをよ。」

「え、いいの?」

「ああ。」

「じゃぁ・・認めてくれるの?」

「勘違いすんなよ。別にまだ認めたわけじゃねーからな。」

「じゃぁ会ってもケンカ売らないでね。」

「・・・わかってるよ。」

 

 

「剛兄ってほんっと意地っ張りだよね。」

「しゃーないやろ。兄貴ってそんなもんやで。」

「一番オヤジ心持ってるもんなー。」

「まぁ・・・しゃあないな。あとはかよこのがんばり次第ってことで。」

「そうだね。」

 

 

「剛兄も彼女できたら教えてね。」

「うるさいよっ。」

 

 

つづく。

兄弟がV6で彼氏がつよしくんて、こんな豪華な生活ないですよ(笑)悩みなどあるわけないさ。いいのかなぁ?こんな贅沢な妄想をしていて(爆)この話も終わらないよなー。過程を書くのは好きなんやけど、結末がいつもできないんだよねー。参った参った。でも、ちょっとこういう回もやりたかったんですよねー。カミセンのみになっちゃいましたけど。だって剛様って妹妹っていつもラジオとかで言ってたからさぁ、やっぱお約束でやっとかなきゃと思い。結婚式は絶対嫌がらせするとかさぁ(笑)やっぱやっとかなきゃでしょ。