羽根
〜BEGINNING〜

第8話
〜悲しみを超えて。〜

家に帰りたくない。

こんな気持ちになったんは初めてやった。

怖かった。

 

 
「行ってらっしゃいっ。」

全員が見送ってくれた今日の日。

「行ってきます。」

胸を張って背筋を伸ばして、緊張してたんやけど。

「准一しっかりな。」

快兄が声かけてくれた。

「お前上がり症なんだから気をつけろよ。」

剛兄も後押ししてくれる。

「がんばってね。」

健兄が笑ってくれる。

「しっかりやれよ。」

昌兄の言葉が・・一番強く感じた。

「はいっ。」

 

そんな・・1ヶ月前の出来事。

 

はぁー。

ため息が出る。

11798・・・111810・・・111819・・・11121・・・

111820。

なかった。

名門の私立の高校に行きたかった。

学費の少ない都で一番の公立に行きたかった。

そしたら、きっとみんな喜んでくれる。

そう思ってた。

けど、僕にはとうてい無理な話。

昌兄が言ってくれた。

「私立でも公立でもどっちでもいい。自分に合った高校見つけろよ。」

って。

なかなかそう簡単にはいかへんかった。

元々学校は好きやない。

誰だって一緒やと思う。

やってみたいことはたくさんある。

でも、ホンマにやりたいことってなんやろう?

それが見つからなかった。

 

 

剛兄が言ってくれた。

「やりたいことなんてよぉ、高校行ってから見つけりゃいいんだよ。」

剛兄は見つかった?

兄ちゃんはちょっと困った顔しとった。

「んー、やりたいことっていうか、、職業とか、将来のこととか見つかんなかったからよ、俺が今一番やりたいことをちゃんと正直にやってみようと思った。」

だからバイト始めたん?

「まぁ・・な。今不景気だからさぁ、そう簡単に仕事見つかんないからねぇ。やっぱちゃんと兄妹仲良く暮らすためには金が必要ってわけ。」

って。

確かに兄妹は大事。

僕だってバイトとかもやってちゃんと支えたい。

だけど、どっかでひっかかってた。

僕はそんな学校辞めて働く事はできへんってこと。

剛兄は強い。

僕なんかより全然強い。

だから、僕にはそれができるかどうか?

できへんに決まっとる。

そんな度胸ない。

 

 

見つけた。

見つけたで?

バイトとかもええって。

部活とかもいっぱいある。

きっと、僕に合った環境や。

でもな、私立やねん。

うちの兄貴達は金のかからん公立。

僕だけかかったら、すごい悪い。

どうしよ。

でも行きたい。

絶対行きたい。

なぁ、どうしたらいい?

 

 

この高校に・・行きたい。

ゆうたんは結局3者面談の前日やった。

「なんでもっと早く言わなかったんだ?」

「やめろよ、私立なんか。」

そんな言葉が来ると思ってた。

でも、昌兄は批判するようなことは一切言わなかった。

ただ、僕にいくつかの質問をしてきた。

「この家からだと、通学時間結構かかるぞ?お前朝弱いだろ?それに体力とか大丈夫なのか?ちゃんとできんのか?」

やるっ。

絶対大丈夫。

朝は・・博兄には迷惑かけるかもしれへんけど、できる。

僕は体力だけが取り柄やん?

「ここ行ってなにすんの?」

・・・わからへん。

でもな、僕この学校で見つけたいねん。

部活とかもいっぱいあるし、じっくり考えてやりたいこと見つけたい。

ここなんか催しもんとか多いやん?だから見つけれると思うねん。

「もし俺が行くなって言ったらお前どうする?」

え・・・

「・・あ・・あかんかな?」

「どうしても行きたいんだな?」

「どうしても行きたいっ!!」

昌兄は少し考えさせてくれ。

そう言って前日は保留にした。

結論としては、行くなとも言わなければ、行っていいとも言わなかった。

そして、3者面談。

僕達はお互いそのことにはふれなかった。

きっと、面談になったら決断下してくれる。

先生の前でちゃんと言ってくれる。

信じてた。

先生は「ここに行くならもうちょっと成績上げなきゃだめだよ。」と答えた。

そして、昌兄に尋ねた。

「お兄さんはどう思ってますか?」

その言葉には、僕の将来と、私立の金のこと。

全部ひっくるめて入ってる気がした。

少しの沈黙の後に、こういった。

「本人のやりたいようにさせようと思ってます。」

と。

「しっかりやれよ。准一。」

「はいっ。」

 



「准一遅いねー。」

それだけを言って彼の帰りを誰もが望んでいた。

不安。

それだけがよぎった。

合格なら思いっきり喜べばいい。

だけど、不合格なら・・・

どうすればいいんだろう?

・・・。

「俺ちょっと出かけてくるわ。」

言い出したのは剛だった。

「ああ。」

出かけてくる。の意味はきっと准一を探すため。

発表時間から家に帰ってくるまでに時間がかかると言っても遅すぎる。

あえてそれにふれないのは、すべての暗黙の了解。

「行ってくる。」

「ああ。」

昌行の声が、響いた気がした。

 

 

「・・・やっぱりここにいた。」

なにかあると、必ずこの公園にいたのがこの兄妹。

「・・・。」

彼はなにも言わなかった。

ただ、ベンチに腰をおろしてボーっとしていた。

「なぁ知ってるか?」

なに?

剛は准一の隣に座って話しかける。

「今日の晩御飯。俺の好きな肉じゃが。」

・・・?

「あー、お前も好きなんだっけ?」

・・うん。

「あ、健も好きだったよなぁ。」

昌兄も好きやね。

「ってことは今日はすげー戦いになりそ。俺その前にちゃんと飯食って鍛えとかなきゃな。快兄にはぜってぇ負けねぇ。」

剛兄、それやったら腹いっぱいなってまうやん。

「だいじょーぶだって、俺の胃袋無敵だから。」

・・・そう・・やな・・・。

他愛もない会話が繰り広げられていた。

剛はどこかでわかってた。

准一の結果を。

だからふれなかった。

帰って来いとも言わない。

彼が言ってくれるまで、なにも答えなかった。

「でもさぁ。」

ん?

「かよこ肉じゃがヘタなんだよな。食うの好きなくせに。」

火加減がなっとらんねんな。

「じゃがいものくずれが甘いんだよなー。」

剛兄はそのへんうるさいからなぁ。

「・・ここにいたらぶっとばされっけどな。」

少しの笑顔と、ひとつひとつの言葉。

どれを取っても力がなかった。

不意に、彼の目の涙に気がついた。

剛兄のさりげないやさしさが・・・なんかすごい・・・

「・・・おい。」

「・・っく・・ぼく・な・・っ。」

「ああ。」

「落ちちゃったわ。」

「・・・うん。」

「僕の番号だけが・・ないねん。」

置いてかれた気がした。

「うん。」

「なかった。」

剛は弟の頭をなでてやる。

でっかくなりやがってよぉ。

いつのまにか身長も抜かされて。

けど、もっと甘えていいんだぜ?

心だけいっちょまえに大人ぶりやがってよぉ。

「なぁ、2年前・・・覚えてる?お前がまだ中2ん時だっけ?」

・・・うん。

「俺も、お前と一緒だったんだよな。」

・・うん。

「あんだけやったのに。あんだけ一生懸命やっても合格できなかった。俺、みんなの前じゃ笑ってたけど、結構へこんだな。あれは。」

剛兄が?

「剛兄がって・・お前、俺をどんな目で見てんだよ。」

え、だっていつでもちゃんと自分の意見とかしっかり言えて、んでから、すごいなんでも強いし、えっと・・・

指折りで数える准一がちょっと可愛いくてつい笑ってしまう。

「なんやねんなぁ。」

「俺だって人間なんだからな?わかってんのかよ。」

「そうやけどさぁ・・。」

 

お前達がいたからだよ。

 

えっ?

かっこわりぃとこなんて、弟と妹に見せられっかよ。

・・・。

お前等学校あったから知らないだろうけど、あん時結構俺荒れてて、高校落ちたこと、今までやってきたこと否定された気がして、すげーショックで・・・

・・・。

部屋とか閉じこもっちゃったりしてよぉ。

笑い話のように続ける剛兄の声が痛かった。

でもさ、兄貴達がさ・・言ってくれたんだよね。

なんて?

ん?お前がしっかりしないでどうする・・・って。

・・・。

弟と妹にそんな顔して会うのかお前は?

って。

でも・・僕はそんな強くない。

グッときたね。でもそれは俺に対しての言葉。

え?

准一にだったら、もっと優しい言葉かけてくれるよ。昌兄は優しいから。

じゃぁなんで?

俺?俺はさぁ・・・

「俺はさ、バカだったからっしょ。普通は言われなくてもわかってるはずなわけ。でも、荒れてたし、いきなりどん底だろ?全部見失っちゃって、言ってもらえないときっと・・大変だっただろうなぁ・・・今。」

「そう・・なん?」

「そーう。」

にっって笑った顔は、ここにきてから僕に見せてくれた本当の最初の笑顔だった。

「つまり・・な、俺が言いたいのは・・・帰ってこいよ。」

兄ちゃん・・優しいよな。

「もっとさぁ、甘えていいんだぜ?そりゃ頼りねぇ兄貴だけどさ。落ちたからって1人で落ちこむことねぇよ。」

そっか、不器用やもんな、うちの兄妹。

「なんのための兄妹だと思ってんだよ?そりゃさ、認めてほしいとか、そういう気持ちもわかんなくない。俺がそうだったから。でも、その前に、壊れちまったら素も子もねぇじゃん。用は癒しの場所っての?そんなとこなんじゃないの?」

僕には・・・もったいないくらいの・・やさしくて・・最高の兄妹や。
 

 

「ただーいまー。」

「あ、お帰り。」

一斉に注目浴びたのは言うまでもなかった。

「ご心配おかけしましたっ。僕は公立に行く。ぜーったい行ったんねんっ。」

「おっしゃぁ、晩飯っ。博兄肉じゃができたぁっ?」

もー、剛兄は。

でも、やっぱり・・みんな優しいから。

もう、心配かけない。

 

 

ふぅー。

「あれ、博兄おつかれ?」

「ん?ちょっとね。」

「できることはなんでもやりますからね?もうちょっと料理も勉強するし♪」

「うん。ありがと。」

悩み事・・・かなぁ?

「ねぇ博兄。」

「なに?」

「私も・・勉強しなきゃね。」

「どしたの急に。」

勉強なんてキライだ。

テストだっていつも一夜漬けのかよこの急な発言に驚きを隠せなかった。

「だってさ、准兄あんだけ勉強してたんだよ?すっごい夜も遅くまでやってたんだよ?なのにさぁ。」

「そうだね。」

「次は私の番だもんね。」

「無理しないようにがんばれよ。あ、家事はそんな無茶しなくていいからね。」

だって・・無茶しないとできないんだもん。

「わかってるよー。」

 

 

ふぅー。

「あれ、昌兄どうしちゃったの?お疲れ?そんなため息ばっかじゃしわ増えるよー。」

「うるせーっ。」

「あ、マッサージしたぁげよっか?10分100円。安いっしょ?」

にっこり笑う快彦の笑顔の裏には・・なにかある。

「お前なんでここにいるんだ?健はどうした?健は。」

よくよく考えてここは昌行と健の部屋。

どうして快彦がいるんだ?

「健は剛とかよこんとこにおでかけ。」

「・・・准一は?」

「かよこの次に風呂入るって。今博兄の片付けの手伝い。」

「お前は?」

「入ってきたらぶっとばすかんね。って言われた。」

「ははは・・・。」

「きらわれてんなー俺。」

そんなしょげた顔すんなよ。

「で、マッサージはさせてくんないの?」

「なにがいいたい?」

「ん?」

「たかが100円でなにムキんなってんだ?」

「あ・・いや・・学校に財布忘れ来ちまってさぁ。。はは。」

「ばーかっ。」

「あれ、ダメ?」

・・・いい訳がバレバレなんだよお前は。

心配かけたな。

 

 

「なぁ、お前は俺のことどう思ってるんだ?」

・・・。

「ご・・に・・ぃ??」

「だからぁ、俺のことどう思ってんのか?って聞いてんの!」

「え・・・。」

お風呂上がりのかよこがドアを開けて最初に目の当たりにした光景がこんな言葉を発する剛だった。

「ごーにーのばかぁっっ!!こわーいっっ。。」

「ちょっ、、ちょかよこ待てよ、びびってんのはこっちなんだって。」

その言われた相手が非難の声を上げる。

「どういう意味だよ剛兄っ!!」

「え・・・?」

よくよく自分の声を繰り返してみるとなんか・・変・・・。

そして気がついた時にはもう真っ赤だった。

「びびった。」

「健兄もてるねー。」

「なっ・・・。」

「こりゃ彼女どころじゃないかな。健兄が彼女になっちゃうよね。」

「ちょっ・・お前なに言って・・・」

「あーあ、やだなぁもう快兄も剛兄も。一応ここにも列記とした女がいるんですけどねー。」

「ばかやろーっ!!」

「あはは、健兄が怒鳴ったー♪」

「そうじゃなくてっっ!」

そう言ったのは剛だった。

「そうじゃなくて・・えっと・・だから、俺は2人にどんな風に映ってんのかって。」

うーん。

ちょっと考えた後に2人は同時にこう言った。

「口うるさい兄貴っ。」

きっぱりと言い放つ2人に剛はあっけにとられていた。

「あ、やっぱり健兄もそう思う?」

「あれ、お前も?」

「だってねー、剛兄ってさぁー・・・」

「そうそう・・。」

・・・俺の弟は准一だけだと、どこかで真剣に考えてしまっていた。

「ねーっ。」

でも、ホントはちゃんとわかってるからね。

やさしくて不器用な兄ちゃん。

 

 

今日の夜は上弦の月の見える夜。

ベランダから眺めてみる。

もし・・・もしも今自分がいなくなったら・・・どうする?

 

つづく。

受験生のみなさまおつかれさまです。うちも来年受験生。なんだか不思議ながら私不合格体験をしていないので、ちょっとわからないんですけど、英語検定とか漢字検定とかは落ちる事あるし、テストだって必死でやったんにこんだけしか取れへんかったらこんな気持ちやなー思って書きました。しかし・・・なぜかこの話准さん中心に回ってる気がするのはきのせいか?そしてトニセンの出番はどうした(笑)いや、なんか岡田さんが思いつきやすいのです・・はい。あ、最後のんですが、誰の言葉でしょうね(笑)それは次回ってことで・・(本当か・・・?)