羽根
〜BEGINNING〜

第5話
〜いつもいつも・・ありがとね。〜

・・・。

「ただいま。」

・・・。

これだから夏休みの後ってやなんだ。

慣れたはずだった空間。

せまくも広くもない家に、1人だけとなると寂しい。

いつも大人数が詰め込まれてる家も、考えようによってはせつなさを見せる。

「誰か帰って来ねぇかなぁ。」

そして、寂しがりやの5男坊がつぶやいてみる。

「・・・たいくつ。」

玄関で靴を脱ぐ。

部屋にカバンを置きにいく。

手を洗ってうがいをする。

テレビをつけて、食べ物を探す。

何もない。

蛇口から水を出して一気に飲み干す。

そして大きなため息。

なにもかもをゆっくりこなしたはずなのに、予定した時間はまだまだ先。

「誰か帰ってきてよー。」

・・・1人って・・・やだ。

「こんなことならバイト入れたらよかった。」

いつもならうざい快兄の声も、今ではちょっと愛しく感じる。

そっけない剛兄の態度も恋しい。

准とかよこの笑い声が足りない。

昌兄のうるさいよお前等って言う声が聞きたい。

博兄が作るご飯の音がまだない。

はぁー。

なんでこんな1人って寂しいんだろう。

散歩でもしようかな。

 

 

「ただーいまーっ。」

・・れ・・誰もいない。

「今日健兄って休みだったでしょ?なんで家にいないのよー!」

学校から帰ってきたかよこが非難の声を上げる。

「なんでよー。」

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

・・・。

帰り道にいろいろ考えていた。

自己主張の激しいこの兄妹にとって、自分の話せる時間は短い。

今日はこんなことがあった。

簡潔にまとめていかに笑いをとるかがポイントである。

「・・・たいくつだなぁー・・・。」

いつも見てるテレビもつまんない。

お兄ちゃん達と一緒に見るから楽しい。

・・・なーにしよっかなぁー。

あんまりにも静かすぎるから・・逆に何もやる気が起こらない。

 

 

「ただいま。」

・・・。

「なんでこんなに静かなんだよぉ・・・。」

健は今日バイトないって言ってたし、かよこはもう授業終わってるはず。

うーん。

コンコン。

健とかよこの部屋から返事はない。

「おじゃましまー。」

そーっとドアを開けると健のカバンと眠っているかよこを発見。

「寝てんのかよ。」

いかにもつまんねぇという言葉だった。

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

つかれたんで寝てますねー♪ かよこ。


なんだ、ちゃんと書いてあんじゃん。

散歩かよ。

テレビをつけてみる。

画面からはさも楽しそうな笑い声。

・・・つまんねぇ。

なーんか・・ちげーんだな。

 

 

「ただいまー、ひろにー・・はまだやから、かよこ今日のご飯なにー?」

帰ってきた答えは実に冷ややかだった。

「・・あれ、、誰もおらんのん?」

・・・?

冷蔵庫に貼ってあるカレンダーとにらめっこしてみる。

「今日は・・・と・・・」

あれ、僕今日こんなに遅いわけ・・・あー、もう11月やねんな。

誰やねん、カレンダーめくるん気付かんかったん。

・・あ、それほとんど僕の仕事か。

えーっと。

健兄はバイトない。

かよこも結構早い時間に授業終わってるはず。

剛兄はも帰っててもええ時間やねんけど・・・。

もうすぐ快兄帰ってくるやん。

・・あれ?

健兄とかよこと剛兄どこいってん?

とてとてとて。

「・・・ドア開いてるやん?」

・・・寝とる・・・。

健兄のカバン・・・。

とてとてとて。

「ごーにー?」

・・・おらんのかいっ。

とてとてとて。

ふりだしに戻ってみる。

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

つかれたんで寝てますねー♪ かよこ。

出かける。 剛。


丁寧に書かれた文字。

えらくかわいらしい絵のついた書き置き。

そして・・・

実に端的な殴り書きのようなメモがそれを物語っていた。

なーんや、誰もおらんのかぁ。

つまらんなぁ。

 

 

「たっだいまー!」

・・・。

「おいおいおい、なんなんだよぉこの静けさは。」

勢いよく玄関を開けたものの、返事がない。

と、リビングに人影発見。

「おっ、じゅんいちー♪」

問い掛けてみるが既に彼は夢の中だった。

「んだよ・・つまんねぇなぁ。」

テレビもつけっぱなしにして。

寝冷えするぞってな。

彼に布団をかけながら考える。

何しよう・・・と。

ん?

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

つかれたんで寝てますねー♪ かよこ。

出かける。 剛。


・・・対照的だ・・・。

なんだこりゃ・・・。

そっかぁ。

誰もいねぇのか。

准一とかよこ寝てるからギター弾くわけにもいかねぇしなぁ。

テレビの笑い声を一瞬のスイッチで切った後に、彼は家を後にした。

 

 

「ただいまー。」

買い物袋を手にした彼が帰宅する。

誰もいない。

あれ、准一。

もー、またこんなとこで寝て。

風邪ひいても知らないからね。

そう言いながらも、誰かがかけた布団を見ながらくすくす笑ってる。

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

つかれたんで寝てますねー♪ かよこ。

出かける。 剛。

ちょっとコンビニまでひとっぱしり行ってくるわ。 快彦。


「まぁったく、うちの兄妹は。」

そう言いながら晩御飯の支度を始める。

 

 

「ただいまー。」

つかれた。

だけど、今日はめずらしく静かだった。

・・・なんで?

ぞっとする。

背中に寒気が走るのを感じた。

いつかあった時のこと。

それは、何十年も前のことであって、実はまだ数年くらいしかたっていないのかもしれない。

急いで2階に上がる。

俺の部屋には誰も居なくて。

あの時は空き部屋とされていた部屋はちらかったままだった。

きっと快彦と剛の仕業だろう。

そんなことを気にするひまもなく、彼は探しつづけた。

そして、2人の部屋にたどり着いた時に、胸をなでおろす。

それは、かよこの眠っていたことが証明していた。

よかった・・・と。

そうだったな。

あの時は、2人はいなかったんだよな。

もうここには居なかったんだよな、親父、おふくろ。

足音をたてないようにゆっくりと部屋に入って行く。

・・・でっかくなったよなぁ。コイツ。

あん時はまだちっちゃかったのによぉ。

「まぁにー。」

「なんだよ、起きてたのか?」

でも彼女はまだ夢の中で俺と会ってたらしい。

布団もちらかしやがってよぉ。

この兄妹寝相わりぃよなぁ。

みんな親父似かよ。

「まぁにー。」

もう1度言ったあと彼女は無我夢中なのか俺の服をひっぱっていた。

・・・なんだよ。

あん時と変わんねぇじゃねぇか。

「まぁにーまぁにー。おとさんとおかさんねおでかけなの。」

「おでかけ?」

それは、何1つちらかってない部屋にベットの上で座っていた幼い子供の言葉。

「そうやねん、なんかでっかばんもってったん。きっととおいりょこーやで。」

布団から除く目がそう言う。

怖くて・・・動けなかったあの日。

そしてそのまま彼等は帰らぬ人となるのは・・まだ先のこと。

「はいはい。」

彼女の手を布団にしまう。

おとなしく言うことを聞くとこをみれば、きっと夢の中で博や快彦、剛、健、准一。

みんなに会ってるんだろう。

 

 

「ただいまー。」

「お帰り。」

「あれ、帰ってたの?」

「ああ。」

「キャベツ売ってたか?」

「ああうん、買い忘れちゃってねぇ。お好み焼きをキャベツなしでやる気だったよ。。」

「今日はどっち?」

「准一好みかな。」

「あー。じゃぁ今日は逃げようか。」

「また今日は一波瀾ありそうだね。」

「ん。」

散歩してくるねー。ご飯の時間には帰ってきます。 健。

つかれたんで寝てますねー♪ かよこ。

出かける。 剛。

ちょっとコンビニまでひとっぱしり行ってくるわ。 快彦。

キャベツ買い忘れたんで買ってきます。 博。

「あはは、それね。」

「対照的・・・。」

「ばらっばらだね。」

「ま、ちゃんと書き置きは忘れていないようで。」

「そのへんは完璧なんだけどねぇ。」

 

 

「ただいまー。」

「ただい・・・ひっく・・・。。」

「あははは、剛ちょーかあいいっ。」

「なにやってんだ?」

「ちょっと昌兄聞いてよ、剛のやつしゃっくりしてやんの。」

「るせぇーひっく・・・。」

「ちょーかぁいい。いいねぇ、久々に見たよ、剛のしゃっくり。」

「博兄水ちょーだいっっ!!」

「はいはい。」

「あー、だめだよ剛。もうちょっとこのままこのまま。」

「やだよぉ・・・ひっく・・・」

「んー?みんなもぉ帰ってきたーん?」

眠気眼の准一が目を覚ます。

「おお、おはよ。」

「おかーり昌兄。あ、快兄も剛兄も帰ってる。博兄も帰ってるやん、今日のご飯なにー?」

「寝起き早々これかよ。」

「今日へねぇ、准一の好きなモノ。」

「えー?なんやろーなぁ。」

「博兄、准一の好きなものの数知ってんのか?コイツなんでも食う・・・ひっく・・・止まんねぇじゃねぇか。。」

「あははは。」

「笑うな快兄っっ!!」

「今日はお好み焼き。それも関西風でね。」

「えーホンマにぃ??」

「マジかよ博兄、お好み焼きはなぁ、もんじゃって決まってんだよ。」

「そーだよー!なんでだよぉ。」

「だってそんな気分だったんだし。はい、用が済んだらこっから出て行く。」

「なんで今日は関西風なんだよぉ。」

そう言いながらリビングで討論が始まる。

お好み焼きの日はいつもこんな戦いになる。

もちろん、他にもいろいろあるが。

なぜか1人だけ、准一だけは関西を好む。

もちろん他はみんな関東を好む。

食を大事にする彼等にとっては大事なこと。

「大体関西好きなのお前だけだろ?」

「ええやんか、めったに食べられへんねんからたまにはええやんかぁ!」

「なんでだよ、もんじゃのほうが・・ひっく・・」

「あははは、迫力ねぇーっ!!」

「快兄どっちの味方なんだよっ。」

  

 

「おはよー・・・昌兄・・これどしたの?」

「あー、今日の晩御飯関西風お好み焼き。で。」

「あー・・・じゃぁ私も手伝わなきゃ。」

「ご苦労なこった。」

「昌兄もやる?」

「じゃぁやろうか。」

「えっ、めずらしー。」

「んだよ、たまにやるって言ったらすぐこれだ。」

「だって・・お仕事たいへんじゃないの?」

「それとこれとは別。ほい行くぞ。」

「はーい。」

 

 

「ただい・・・」

「そんなにもめるんだったら自分で作れよ!!」

・・・ひ・・ひろ・・にぃ??

「すいません・・・。」

「もぉ・・・あ、健お帰り。」

「な・・な・ええ??」

「今日の晩御飯お好み焼き。」

「あー、じゃぁ今日関西風なんだ。」

「そゆこと。」

「あれー?なんで昌兄台所にいんの?」

「手伝っちゃ悪いか。」

「いや、めずらしいなぁって。」

「ほら、やっぱ昌兄手伝うのは珍しいって。」

「なんだよみんなして。」

 

 

「ただい・・・」

ヒュン。

彼の目の前を何かが通過する。

クッション??

「お前のせいで博兄怒っちゃったじゃねぇかよ、どうすんだよ!!」

「知らんわぁそんなん。剛兄がケチつけるんが悪いんやろ?」

「俺らの分なかったらどうすんだよっ!」

「知らねぇよっ!!」

・・・逃げるが勝ちっっ。。



 

「いただきます。」

「博兄これめっちゃうまいわー。幸せやー。」

「やっぱ博兄お好み焼きはおいしいよねー。」

「そうそう、俺関西風のも好きだしさぁ。」

・・・わかりやす。

「はいはい。」

なんとか自分達の分もあったことに安心しつつも、ちゃんとばればれのフォローは忘れない。

 

 

夜の更けた頃、そしてみんなが部屋に戻り、博の片付けの音が響く。

「上がった。俺最後でよかったんだろ?」

「片付けてくれた?ありがと。」

風呂上りの昌行。

いつも最後だから、きっと准一は他の2つの部屋のどちらかにいるだろう。

「あー・・・今日って11月1日か。」

「忘れてた?」

「ああ。」

「もう11年だよ。」

「早いもんだな。」

「遅かった気もするけどね。」

「両方か。」

「命日だもんね、親父達の。」

「墓参り忘れた。」

「3日行けばいいでしょ。毎年休みじゃない日はそうしてたじゃん。」

「そうか。」

「今年は・・・去年と一緒で誰かさんが抜け駆けしてたみたいだけどね。」

「なっ・・俺行ってねぇぞ。」

「昌兄気がつかなかったの?」

「えっ?」

「ほら、なんか線香臭かったじゃない。」

ホントは知ってたんだけど。

「さぁな。」

その間を見逃すわけもなくて、

「素直じゃないんだから。」

「なっ・・・。」

 

 

「なーんか・・不思議な夢みた。」

「どんな?」

「お父さんとお母さん、昌兄と博兄、快兄に剛兄でしょ?健兄と准兄が出てきたの。」

「僕も。みんなわらっとったわ。」

「へぇー。」

健とかよこの部屋にやってきた准一。

きっと快彦と剛はまたゲームでもやってるのだろう。

「変だよねー、私お父さんとお母さんの顔知らないのに。」

「僕も覚えてへんわ。」

「俺も・・あんまり覚えてない。」

「2人がどっかいっちゃうの。いなくなっちゃうの。」

「やっぱさぁ、寂しいよなぁ。今の生活に不満はないけど・・・寂しいよなぁ・・・。」

「2人がそんなに寂しがってたら、親父もおふくろも天国で寂しくなっちゃうよ。大丈夫!いつだって俺達見ててくれてるんだからさ。」

「そうかなぁ?」

「そうだよ、みんな元気にやってますってこと、ちゃんと伝えないと。」

「そだね。」

 

 

「もう11年ですか。」

「11年ですよ。」

「お疲れ様でした。」

「毎年それ変わらねぇな。」

「これからもよろしくお願いします。」

「はいはい。」

「一応言っておかないとね。」

「そっか。」

「まーったく、うちの弟達はえらく成長したもんだね。」

「そうだな。」

これからも、平和な日々が続きますように。

 

 

あれ・・なにやってんの?

お前こそ何やってんだよ?

って・・・なんで2人ともいんだよ?

俺は墓参りに来て・・・

俺だって・・・

え・・だって俺も・・・

・・・兄妹だよなぁ・・・俺達・・・。

考えること一緒だよ。

来年になったらきっと准一も来るんだろうね。

かよこは絶対に来させねぇ。

当たり前だよ。中学生のうちから大人ぶられてたまるか。

んじゃ、その次は休みじゃなくても、みんなでここに会えるのかな?

そだな。

考えることはみんな同じだからよー。

これからも、見守っててください。

 

ねぇ・・・花3つもいらないよ・・・。

・・・あ・・・。

うるせぇつめこみゃいいんだよっっ!!

・・・。

 

つづく。

V6・5周年記念おめでとうございまーすっっ!という記念で(笑)11月1日でこっちの7人生活も始まったってことで。年齢的に適当にV6の6と5周年の5を足して11にしただけなので、計算はしないように(笑)流してください。。一応は墓参りに行ったのは快彦・剛・健のつもりです。誰でもいいんですけど、うち的には3人ともばったり会っちゃうっていうのを考えました。・・最初は健くんだけやってんけど。んで、健くんは用事あるからってちょっと抜けてまんま快彦と剛が帰るという設定にしてます・・・まぁどうでもいいですが。とにかく、V6さんおめでとうです!!