D×D

第7話
ー静かな時間ー


「な・・ななんだお前はっっ。」

振り向いた先にいたのは岡崎さんだった。

「さ、、さとるっっ。」

「え・・岡崎さん見えんのか?」

かろうじて冷静を保っていた俺の疑問。

岡崎さんの見たのは俺と虎之介。

なんだお前は。

俺達にそんな言葉言われる筋合いなど全くない。

見えているのか?

悪霊の彼女を。

「・・・。」

彼女は何も言わずに虎之介に近づいた。

すべてが幻のように見えていて、それよりなによりも、全身言う事が聞かなかった。

「近づくな!」

俺はその言葉さえも言うことができなかった。

「ねぇとらちゃん、うちのお母さんがさぁ、お仕事なんだって。だから、また明日迎えに来るね。」

「えー?そうなん?」

「だから、明日行こう?ね?とらちゃんのお父さんとお母さんにはもう伝えてあるから。」

「そうなん?ほんなら明日また来るからね。」

「うん。」

無邪気にはしゃぐ虎之介。

対照的な彼女の笑み。

俺達に見せた笑みが怖かった。

 

 

「で・・・どういうこと?」

「それはこっちが聞きてぇよ。岡崎さんになんで霊が見えんだよ?」

「ああああれ霊だったのか?えーっっ、えーっ、ええっっ?」

・・・なにも叫ぶ事ねぇじゃねぇか。

その一瞬の悲鳴がとらを恐怖に陥らせた。

「お、、おかざきさんっ、これ以上とらの信用落としてどうすんだよ?」

「あ、わりぃわりぃ。」

そんな岡崎はさておき、悟がにっこりと笑顔で虎之介に近づいていく。

「・・・なぁ虎之介?」

それは、子供と接するように。

「なんやぁ?」

・・・。

今の彼に深刻な話ができるわけがない。

そんな話したとしても、きっと理解できないであろう。

「お腹すかねぇ?」

「すいた。」

「何食いたい?」

「んー・・・。」

その悩んでるしぐさがえらく可愛らしくて、今までのとらを知ってる俺には・・奇妙だった。

「うどん。」

「あそー。じゃあ今から作ってあげるから待っててねー。」

「うん!」

「悟・・お前不気味だぞ。」

「しゃぁねぇだろ?相手は幼稚園児だぜ?」

「図体は大分でかいけどな。」

「・・・どうすりゃいいんだよ。」

「俺に聞くなよ。」

「霊見えるんだろ?」

「見えるわけねぇだろ?偶然だよ偶然。」

それだけ、彼女の霊力が強い事に気がつくのは・・もっと後のこと。

 

 

「なぁとら。」

「んー?あぢっっ。」

「あーもー大丈夫か?」

うどんをすすりながら食うとらの箸使い。

食べ方。

どれをとっても、俺の知ってる木原虎之介ではない。

「とらにとってちぐちゃんってどんな人?」

声をかけてみたものの、何を言っていいかなんてわからない。

ただ、咄嗟に出てきた言葉がこれだった。

彼女は一体どんな人なのか?

そして、とらにとってどういう存在なのか?

「んーと。」

どうやらその質問に悩まされているらしい。

「わからへんっ。」

きっぱりと言い放つ彼はウソ偽りはない。

けど、それじゃ困るんだよ。

「わからないって・・・」

「だってな、一言やったらあらわされへんねん。」

「え?」

「むずかしいねんなぁ。えーっと・・なんてゆうたらええんやろうなぁ?」

それだけ、虎之介にとってちぐちゃんとやらは大きな存在だったのだろう。

・・・それだけ、成仏するのが難しいことも意味している気がした。

 

 

「とーらー。」

そう言いながら現れたのはサキさんだった。

「あのねーいい話あるんだけど、協力してくれない?」

「おばちゃん誰?」

・・・。

一瞬の沈黙がすげー怖く感じた。

なんら悪気のない人1名。

あっけにとられ怒りを感じた人1名。

・・・恐怖のあまり逃げたくなった人2名・・・。

「だれー?」

そう笑顔で返す彼に更に恐怖は増す一方。

「あ、あのなとら・・・」

「とらのすけーっっ。」

「あー、ちょっと待ってくださいよサキさんっ、事情事情をね、聞いてくださいよー。」

「おっちゃんこのおばちゃん怖いわー。」

「あー、ごめんなー。」

怒りのおさまらないサキを押さえる悟と怖がる虎之介をなだめる岡崎。

「話せば長くなるんだけどっ、ちょっと聞いてる?サキさんっ。」

目が怖ぇー。

「だからなんだって言うのよっ、虎之介が私のことおばちゃんって言ったことは確かなのよっ!」

「だっておばちゃんやんかぁー。」

「なんですってぇ?とらのすけーっっ!」

「おっちゃん怖いー。」

「俺にふるなよーっ。」

子供の時もこんなんだったんだろうか?

変わってない。

ケンカが始まるといつもと同じ光景に見える。

なんでそれが懐かしく感じる?

「ちょっと悟、何笑ってんのよ?」

「え?」

「笑ってないでなんとかしてよー!」

「いやだから話を聞いてくれれば・・・」

いつもと・・同じなのに。

つい昨日まで・・ついさっきまで・・こんな光景があってもおかしくなかったのに。

「なんかよくわかんねぇけど幼児化しちまったらしいんだ。」

「はっ?」

「だからー、とらの今の年齢は大体幼稚園児くらいなの。」

「・・はいっ?なんでよー。」

「知らないっすよ、俺に言わないでください。」

「なんで?」

「いや、俺にもふらないでくれる?サキちゃーん。」

「・・・虎之介?」

「なんやおばちゃん。」

なんて笑顔で返している虎之介は、どう考えてもいたずらっこのようだ。

きっとさっきのケンカで警戒心を解いたのだろう。

「おばちゃんじゃなくて、おねえさん。」

サキさん、笑顔引きつってんの怖ぇーよ。マジで。

「ふふふ。」

凍りついた笑顔は・・・当分消えることはないだろうな。

「いや、サキさん怖いから。」

「いやーねーもう悟ちゃーん。」

勢い的に酒入ってねぇか?

「俺ちょっとあの・・そう、明日の朝食買って来なきゃいけないから。」

そういう悟の袖を思いっきりひっぱり自分の方へよせる岡崎。

「逃げる気か?」

「はい。」

「俺も帰る。」

「ちゃんと見張っててくださいよ。サキさん怖いんですよホントに。」

「それは俺の方がよく知ってる。」

「お願いしますっ。」

「なっ。。」

「なにしゃべってんのよ?」

ドキっ・・・。

「行ってきます。」

「さとるっっ。」

 

 

出てくるのはため息ばかり。

なんだってんだよ一体。

もう俺やだよ。

「さーとるさん。」

「あーっ。」

買い物袋をさげた俺に声をかけたのは最近見なかったりかさんだった。

「りかさんっ。」

彼女はにっこりと笑顔をかわしてくる。

「久しぶりですねー。元気ですか?」

「うん。まぁ。」

けど。

「なんで来てくれないんですか最近。」

「うーんちょっと虎之介と顔合わせづらいんだよねー。」

またアイツなんかやらかしたのかよ。

「虎之介、元気?」

「それが・・・。」

 

 

「とーらちゃんっ。」

「ねぇちゃん誰?」

「ちょっと、なんでこの人にはねぇちゃんで私にはおばちゃんなのよーっ!」

「だっておばちゃんはおばちゃんやもん。」

「姉ちゃんねぇーりかちゃんって言うの。」

「ふーん。」

「とらちゃん今いくつ?」

「5さい。」

この雰囲気にすっかり慣れた虎之介が手をぱーにしてしっかりと答える。

「ふふふ。」

「りかさんの笑顔怖い。」

「女って怖いな。」

そう嘆き合うのは1歩引いて見ていた男組。

「ねぇとらちゃん、いとこにりかちゃんっていない?」

んー。

彼はちょっと考えた様子を見せた。

両親が死ぬ前まではしっかりとした子供だった。

つまり1人で生きていかなきゃいけない。

そんな肩書きなどない。

無邪気そのものな子供。

となると友達と呼べる子の数は多い。

考えた末に出た答えは

「わからへん。」

だった。

「そっかー。」

「でもな、おとんとおかんに聞いとった。なんか同じくらいの年で女の子おんねんて。その子のことかなぁ?」

「たぶん、そうやないかな。」

「そっか。ほなその子がりかちゃんやな。どしたん?その子なんかあったん?」

「ん?別になにもないよ。」

「そっかー。」

「ねぇ悟さん。」

「なに?」

「ちょっと虎之介借りるね。」

「えっ?」

「ねぇとらちゃん、お外行こうか。」

「ん?ええよー。」

「え・・あ・・。」

 

 

外は曇り空だった。

さっきまでの晴れていた空がウソのように。

誰かの心の中のように。

「明日は晴れるかなぁ?」

「なんで?」

「だってちぐちゃんとおかんとおとんとおでかけすんねんもん。」

「・・・そぉ。」

明日になれば・・嫌でもちぐに会うことになるんや。

「ねえちゃんちぐちゃんのこと知ってる?」

「え?」

「めっちゃええ子やねんでー。」

「うん。知ってる。知ってるよ。」

すっごく・・・よく知ってる。

「そっかー。」

突然虎之介が頭を押えてうずくまったのはその直後だった。

「い・・たい・・。」

「思い出せへんの?」

かたん。

悟が外に出てくる。

・・・と・・ら?

りかさん?

「思い出されへんのか?」

「い・・たい・・・。」

いつのまにか少し出ていたはずの太陽が消えていた。

変わりに現れた黒い雲達。

「逃げんなや。」

「ね・・ちゃん?」

「りかさんっ、なにやって・・・」

金縛り?

身体が動かない。

声が出ない。

・・・これは・・霊?

ちぐ?

・・・りかさん?

「力ずくでも、思い出してもらわな困んねん。」

「な・・んで?」

「大人の虎之介にはゆうたはずや。時間がないって。」

「お・・となの・・ぼく?」

彼女はにっこりと1つ笑みをかわした後、虎之介の目を隠す。

「行ってらっしゃい。」

それは・・・今までに見たことのないりかさんの姿だった。

to be continue