D×D

第8話
ー過去と現在と事実ー


人はここを異次元の世界という。

無の世界という。

幻の世界という。

しかし、彼の場合、過去の世界と呼ぶ。

ここは、白の世界。

 

 

「とらちゃん、ちぐね、とらちゃんのことだぁーいすき!」

「ぼくもちぐちゃんのことだぁーいすきやで!!」

「ホンマに?んじゃぁおっきくなったらちぐ、とらちゃんのお嫁さんになる!」

「ええよ、じゃぁ約束やで!!」

「うんっ。でも、どうやったら結婚できるのかなぁ?」

「うーん。」

「ゆびわ?」

「・・・ゆびわ?」

「けっこんゆびわ。」

「けっこん・・ゆびわ?」

「あんねー、おとんとおかんは一緒の指輪してんねん。」

「そうなん?」

「そうなの。」

「ふーん。そーなんだぁ。」

「でも高いんだって。」

「えー、ぼくらお金持ってへんやん。」

「こまったねー。」

悩んだ2人に、少年がぽんっ。と手をたたく。

「ゆびわっていっても気持ちの問題やろ?」

「え?」

「これで十分やないのん?」

そう言って少年はジュースの缶のノブを2つはずした。

「おっきくなったら、もっとええのん、僕が買ったる。」

「ほんとに?」

「ほんまやで。」

「じゃぁ、ちぐは赤いのがいい。」

「ほな僕は青いのんにする。」

筆を片手に少年は赤、少女は青を塗る。

「ぱんぱっかぱーん、ぱんぱんぱぱーん。」

「なんの曲?」

「結婚式の曲。コマーシャルでやっとった。」

「へー。」

「はい、とらちゃんに。」

少女は少年の指に青いものをはめてみる。

「ほんなら、これはちぐちゃんに。」

少年もまた少女の指に赤いものをはめる。

「へへ。」

お互いに笑いながら結婚を誓い合う。

そんな日のこと。

 

 

ここはどこや?

少年少女をよそに、その光景を夢のように見ていた人物がいた。

木原虎之介。

その姿は青年の姿。

逃げることは・・許されない。

 

 

「とらちゃんなんか・・だいっきらいだ。」

そこには少女の泣いている姿。

「なんで泣いてんのん?」

 

 

木原虎之介。

現代の姿は過去に存在せぬ人物。

よって、彼の記憶もなければ、彼の存在もない。

過去の映像はすべて空想のものである。

そして、木原虎之介。

すべては彼の記憶であることは事実である。

 

 

「とらちゃんは、ウソついた。」

「どんなウソついたんや?」

虎之介は少女に近づいていく。

「なんでも話してくれるって約束してくれた。」

「うん。」

「でも、私はとらちゃんのこと・・なにも知らなかったよ。」

「そんなこと・・・ないよ。」

「なんで?だって霊が見えちゃうなんて知らんもん?そんなこと聞いたことないもん。りかちゃんだって、そんな人知らへんもん?なんで?とらちゃん何も話してくれんかったで?」

「それは・・・」

「あなたにはわかんないよっ。」

 

 

言葉と共にまた白の世界に戻される。

ウソついてるつもりはなかった。

ただ。

怖かった。

嫌われてしまうのが怖かった。

子供心に悩んだ結果だった。

それが彼女を傷つけていた。

気がつかなかった。

 

 

「こんにちわ。」

「・・・ああ?」

そこには中学生という過程を終えた少年の姿。

商売ということを徐徐に覚えている。

そんな真っ最中。

仕事のためならなんでもする。

そして、声をかけた彼女もまた同じ年の少女。

「あなたですよね?木原虎之介さんって。」

「そうやけど、あんさん誰や?」

「お願いしたいことがあるんです。」

「・・?」

「探してください。クッキーを。」

「はっ?」

「犬がいなくなっちゃったんです。」

「俺は探偵やない。」

「お金なら・・あるから。」

少年はまた、金のためならなんでもする者だった。

「いくらや?」

「いくらがいい?」

「・・・知るか・・・んなもん。」

「30万。出すから。」

彼女の言葉に一瞬ぎょっとした表情を見せた後、我に返って考える。

「・・・あんさん、どこのええとこの女や?」

「え?」

彼女もまた、予想外の言葉に動揺する。

「ゆうたやろ、俺は探偵とちゃう。もっとちゃんとしたとこに依頼せぇ。そんだけの金あんねやったら、十分引きうけてくれるわ。」

「子供が相手してくれるわけないでしょ?」

「世の中金や。金見せたら誰だって引きうける。」

「じゃぁ引きうけてよ。」

言葉とともに、彼は自ら墓穴を掘っていたことに気づく。

商売の仕事を覚えたとはいえども、結局はまだまだ子供だった。

「・・なんで俺にかまうんや?」

「引きうけてください。」

「今度は命令口調かいな。」

「お願い。」

・・・。

「30万の出所はどこや?」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「盗んだ金やったら引きうけるわけにはいかん。」

「いろいろ。親からとか。貯金とか。」

「そーか。」

彼は少し考えた後こう言った。

「30万もいらん。」

「え?」

「10万でええわ。」

 

 

クッキー。

ここは僕の過去?

なんや・・これ。

喉が乾いているのがわかった。

うまく考えることもできなければ、うまく言葉もでない。

知らんで、こんなん。

そんな思いだけがよぎった。

 

 

そこには必死で探す少年。

何日も・・何日も。

何に対してこんなにムキになってるのか?

今の俺には考えられへん。

「ごめんな。見つからへん。」

「いいえ。」

「どこ行ったか・・心当たりはもうないんか?」

「たぶん。」

「・・・そっか。」

 

 

時は数日前にさかのぼる。

 

 

「ねぇねぇりか、知ってる?」

「なにが?」

「最近おない年の男の子で霊が見えるヤツ見つかってんて。」

「うっそーマジで?」

「りかも見えたやろ?」

「うん・・まぁ。」

友人の一人がりかと呼ばれた少女に声をかける。

少女はどうやら霊とやらが見えるらしかった。

そして、それはクラス中に知られていた。

気味悪がられたのは最初だけ。

今ではすっかり普通だった。

そして彼女はそれを時に商売とする。

「別にそんなやつ、おらんくてもよかったのにな。」

「なんで?」

「商売敵。なーんてね。」

自分と同じ境遇であるならば興味や好奇心がわかなくもない。

しかし、彼女にとってはどうでもよかった。

「はは、相変わらずちゃっかりしとるわ。」

「世の中金で動いとるからなー。」

「それが15歳の言う台詞とは思えへんし。」

「うちも思われへんわ。」

「そうそうその子。確か東京に住んでて、えっと名前はなんやっけなー・・・」

「別にうち、興味ないんやけど。」

「あ、思い出した。確かその子・・・」

え?

 

 

「ちぐっっ。」

「あれー?りかどしたん?あ、聞いたで。この前の事件、お手柄やってんてなぁ。すごいやんっ。」

「いたで、アイツ。」

のんびりに言う彼女に、少し興奮ぎみで言った。

「え?」

「なにボーっとした顔してんねんな。ずっと探しとってんやろ?」

そう言われると少女の表情が変わった。

「・・・おったん?」

「おった。おってん。同姓同名、同じ年。極めつけはうちと一緒。」

「霊が?」

「そうや。霊見えるんやって。」

少し戸惑ったが、そう簡単に信じることなどできやしない。

「ウソや。」

「ホンマや。」

しかし、彼女もまた、ここで引き下がるわけにはいかない。

「ウソやで・・・そんなん。」

「なんでやねん、間違いない。正真証明木原虎之介やで。間違いない。」

彼女の目は真剣だった。

「ウソや・・ないねんな?」

「当たり前や。そう簡単に霊が見えるやつおってたまるかいな。」

「・・とら・・ちゃん?」

 

 

あれは・・・りか?

ちぐちゃん?

 

 

「もういいよ。」

言葉と共に現れたのは少年と少女だった。

「なんでや?」

「一ヶ月、これだけ探したのに見つからない。もう無理だよ。」

「なにゆうてんねん。」

「だって・・だってさ・・・」

「お前の犬に対する愛情ってそんなもんなんか?勝手に死んだって決めつけられるクッキーはどないすんねん?まだどっかで、あんさん探してるんちゃうんか?」

「・・・。」

彼は泣きそうになってしまった彼女の手を引いて歩きだす。

それはどこか・・・懐かしいような・・・。

 

 

「どうすんの?」

「どうしよう。」

後ろから少女2人の会話が聞こえた。

「そろそろ・・ばれてくるんやない?」

「やっぱり・・あかんかな?」

そういうと、一人の少女が大きなため息をついた。

「あんたもようやるなー。関西人やってばれんようにするために、わざわざ標準語勉強して、東京の女になりすまして、んで、極めつけは金まで出して・・・」

「ごめんっ。」

金の出所は親と貯金と言った。

けど、実際は違った。

もちろん、後者は一理あった。

しかしそれは、親友と名乗る少女の今まで依頼された金だった。

「別に最初から関西の女でもよかったやんか。埼玉ってなんやねん、行ったこともないくせに。」

「だって、だって、全然違うのに覚えてるって言う方が感動しない?」

時に女は夢を見る。

「そうやけどさ。結局気がつかへんな。アイツ。この調子やと、関西弁でも気づかれへんな。」

「そうやな。」

言われた彼女はため息をもう1つ。

何気ないため息が、彼女にとって大きくのしかかる。

「ごめん。」

「別にええけどな。こんだけ金あったって、やることないし。」

世の中金で動いてる。

彼女の口癖だった。

彼女もまた、商売を学んでいた。

どこで身につけたかは知らないが、しっぽを出せばすぐに切られる。

簡単に言えばそんなたぐいだった。

弱みは決して見せない。

そんなイキオイだった。

「クッキー・・・どないすんの?」

「わからない。」

「飼ってた犬ネタにして。まだ霊でおったらのっとられんで。」

「・・・マジ?」

「冗談やって。」

「りかが言うと冗談に聞こえないんだけど。」

「ははは。」

彼女は苦笑いしかできない。

「どうせつくんやったら、もっと難しいウソにしとけばよかってん。ほら・・例えばさ、今探されてる指輪とかさー。」

「実はうちのもんやったってか?」

「まぁな。」

「そんなん・・・」

そう言うと、彼女は悲しそうな表情を見せた。

「そんな大きなウソ・・つかれへんよ。」

今までウソをつきとおして依頼した彼女の、本当の涙だった。

「あー、わかったわかった。わかったから。」

なだめてやるのは、いつも彼女だった。

「どうすんの?クッキーはもう死んでしもてんねんやろ?」

「うん。」

「なんで思い出されへんかなぁ?あんだけクッキー、虎之介に懐いとったのにな。」

「そうやな。」

「頭おかしいんちゃうかあいつ。」

「とらちゃんのこと悪く言わんといてや。」

「はいはい、わかってますよー。」

「なんかないかなー。」

「んー、そうやなー。」

「んー。」

考え込む二人。

これが大人だったらどうだろう?

もっといい考えがあったかもしれない。

所詮は15歳だった。

知識だけじゃ解決できないものがあった。

最初からついたウソは、最後まで責任を持たなくてはならない。

だけど、2人の予定は違っていた。

本当なら、出会った時点で気づいてもらえるはずだった。

唯一の誤算は、虎之介がいつまでたっても心を閉ざしたまま、彼女を思い出さないことだった。

「やっぱ虎之介が悪いわ。」

「・・・。」

「はぁーあ、ロミオとジュリエット見てる気分やわ。」

「ははは、じゃぁりかは手紙届ける友人?」

「なーんや、つまらん役やなー。」

そう言って笑い合う。

正直な話、もう笑うしかなかった。

 

 

「パパとママにね、とらちゃんのお嫁さんになる!ってゆったら、ダメってゆった。。」

「ぼくもいわれてん。」

「ちぐのパパとママと、とらちゃんのパパとママは仲良しじゃないんかなぁ?」

「でもぼくはね、パパとママ達が仲良くなくっても、ぼくとちぐちゃんはずーっと仲良しでいような!」

「うん!それでいつか2人で結婚すんねんな!」

 

 

「友人役ねー。まぁそれも、重大な役目か。」

「そうそう。」

「簡単にゆーなぁ。」

「でも、もう十分すぎるくらい果たしてくれたよ?」

「いーや、ここで終わったらつまらん役や。しっかり見届けたるからな。2人の結婚式。」

「できっこないよ。」

「なに弱気なことゆうてんねん。好きなんやろ?」

「・・・だけど。」

俯く少女にイライラ感があった。

確かにこんな状態になってしまうのは当然だろう。

だけど、彼女の中でそれは気にくわなかった。

「ちぐっ。」

「なに?」

「うちの性格一番よー知っとんのはちぐやんな?」

「・・・たぶん。」

「それやったらわかっとるやろ?うちはウジウジしとるヤツは嫌いや。」

こんなこと言っても解決するはずではなかった。

このままいけば確実に揉め事になる。

わかっていた。

イライラしているのはお互い同じ。

そんな状況の中穏やかにしている方がおかしい。

けど聞かないわけにはいかない。

たかがこれくらいで壊れる友情なら、本物ではない。

「わかってるよ・・・だけど・・どうしようもないじゃない、とらちゃんから見てうちはただの依頼人やねんで?昔結婚しようゆうたことなんて忘れてる。りかには・・わかんないよ。」

考え込んでしまう彼女を見て切なくなる。

気持ちはわからないでもない。

しかし、その反面わかるわけがない。

こんな大きな恋愛自分にはなかった。

彼女の気持ちがわかるわけがない。

だけど、確認したいことはこんなことではない。

「うちが聞いたんは今の虎之介ちゃう。ちぐの気持ちや。好きなんやろ?どうなんや?キライやったらうちもう協力なんてできへんで?」

その言葉に反応した少女はしっかりとした意思をした目をして言う。

「好き。うちは、とらちゃんのこと好き。」

そういうと、少しいたずらっ子く笑う彼女。

「ほーらひっかかった。」

「あ・・・。」

「1回引き受けた大事な大事な依頼や。このりかさんがついとんねんから任しときぃ。」

「頼もしいこと。」

「あったり前やで。ロミオとジュリエットの友人は頼りないねん。うちの方がしっかりしとるわ。」

「ははは。」

表面上は強い。

内面は弱い。

いつものことやんか。

ちゃんと受けとめなあかん。

なんとしてでも思い出してもらわなあかん。

大好きな2人のためやから。

 

 

白の世界の空気は冷たかった。

まるで、彼女達が彼に示す温度のように。

 

 

「クッキー、ちゃんと成仏できたかな?」

ここは大阪。

「なんや今更。もう何年前の話やねん。」

「そうやな。」

彼女達は空を見上げる。

「りかに任せればよかったな、クッキーが未練持ってたら。」

「持ってへんかったよ、クッキーは。」

「なんでわかんの?」

「うちの前に現れへんかったから。」

「そっか。」

それは、悲しいほどの青い空。

 

 

「どこにおんねん。」

相変わらず街を駆け巡る少年が一人。

息を切らしながら走る彼は、どうみても焦っていた。

もともとは心やさしい少年であり、それは今も変わっていない。

たった一匹でありながらも、犬の健康を願う彼の気持ちだった。

誰かが拾ってくれていてもいい。

誰が見つけて餌を与えてくれてもいい。

死なないでほしい。

ただ、それだけだった。

だけど、あることに気がつく。

「ここって・・・。」

すべてがおかしかった。

彼女の言葉と、地図が一致していなかった。

「ここ・・どこや?」

彼女の言った場所。

東京の複雑な地図。

「なんでや?」

駆け巡る疑い。

おかしい。

「東京に住んでる。」

言った。

「生まれたのは埼玉だから、まだよく知らない。」

そうも言った。

だけど、初歩的なミスだった。

住んでる場所から遠くない。

知ってなければおかしいくらい。

ぴっ。

トゥルルルルル・・トゥルルルルル・・・

「もしもし。」

「もしもし、どちら様でしょうか?」

携帯電話の向こうからは、いかにも主婦といった声が聞こえた。

番号は大阪。

彼女の実家といったところだった。

「あの、娘さんにちぐと言う方、おられますよね。」

「え・・ええ・・まぁ。どちら様でしょうか?」

相手はどっかの勧誘かと勘違いしてるようにも思えた。

だけど、今の虎之介にはどうでもよかった。

確かめたいことは1つだけ。

「失礼ですが、ペットの方は飼ってらっしゃいますか?」

「どちら様ですか?」

「例えば・・・犬、雑種で・・名前は・・クッキーとか。」

「いや、ですからあの・・」

「お願いします、答えてください。」

「ええ、飼ってましたわ。雑種で名前はクッキー。でもそれは、もう数年前に死にましたけど・・・」

ぴっ。

虎之介は相手が言い終わらないうちに連絡を切断した。

「ふふふふふ・・はははははは・・・」

笑かすな。

笑うしかないゆうねん。

なんやねん・・これ。

俺は・・なんのためにっ。

街路樹には捜索用の犬の写真がばらまかれた。

 

 

「もしもし。」

「もしもし、虎之介さん?」

「悪いけど・・この依頼、もう引き受けられへんわ。」

「え?」

「金は返す。」

「そんな・・っ・。」

「ウソ・・・やろ?」

「え?」

「あんさん、東京の女ちゃうやろ?」

「・・・。」

「生まれはどこか知らんけど、実家は大阪か。大阪人か?」

「・・どうして?」

「地図とな・・・一致せぇへんねん。」

「だって・・知らないから。まだよく、東京のこと。」

「あんさんの・・近所やったとしてもか?よう行く店があるゆうたよな?その・・その・・近くやったとしてもか?」

「・・・それは・・」

「契約破棄や。金は返す。それでええやろ?」

「・・・。」

「じゃぁな。」

「あ・あの・・とらのすけさ・・・っ・・」

ツーツーツー・・・

 

 

少女が少女に泣きつく姿があった。

「とうとうばれた・・・か。」

「・・っ・・うん・・」

「そっか。」

もともと計画には無理があった。

それは承知のはずだった。

虎之介が思い出してくれれば、なんの問題もなかった。

こんなことにはならなかった。

「どうしようか。」

「もう・・会ってくれへんわ。」

「そうやな。」

「でもさ、悔しいから。」

「そらな。」

「待ってるだけのジュリエットじゃないよ?行動起こさなきゃ、始まらないもんね。」

 

 

あるビルの屋上で景色を眺めている少年がいた。

はやとちりしてしまったような気もしていた。

なにか理由があったのではないだろうか?

けど、そんなもん聞く権利、俺にはない。

あったとしても、どうしようもない。

そんな時だった。

何かが俺の頭に感じる。

霊や。

振り返ると・・・そこには見慣れたヤツがいた。

「クッキー?」

そうつぶやくと、どうしていいかわからなくて、足が固まった。

彼は未練を残した様子はあったが、まだ悪霊になってはいなかった。

もう数年前に死にました。

さっきの電話の声がこだまする。

ずっとこのままだったのだろうか?

「きゃんきゃんっ。」

そう鳴きながら俺の方に寄って来る。

それは、今までみた動物の霊とは違って。

のっとろうとするわけでもない。

攻撃してくるようでもない。

そんな未練やない。

まるで、ずっと俺を探していたかのように。

「くすぐったいわっ。」

クッキーは俺の顔を舐めてくる。

それもまた、いつかあったような。

最後にもう1回俺の頬をなめると、にっこり笑ったように見える。

ご主人をよろしく・・と。

そんな風に伝えて空へと上がって行った。

これが、アイツのやりのこしたことか?

どういうこっちゃ?

だけど・・すべてが懐かしかった。

なんでや?

 

 

クラクションの音が鳴り響く。

「待てやっ。」

数日後、虎之介は既にこの依頼のことは頭になかった。

サキと行動を共にしていれば当然のことだろう。

彼の目的は金。

ヘタな同情は、裏切られた時につらい。

そう学んだ依頼でもあった。

だからすべてを忘れよう。

今はその犯人の追跡中だった。

そして、彼を追う人影があった。

それは、彼に見放された少女だった。

彼女は反対歩道にいた彼を追うために横断歩道を掛けていた。

赤だった。

信号機が赤く染まっていた。

「待ってっっ!」

 

「危ないっっっ。」

そんな彼女を見て、虎之介は思わず声が出た。

しかし、過去の彼は未だ犯人を追跡中だった。

彼女には目もくれず。

 

キキーッッ。

一瞬、すべてが真っ白に変わった気がした。

そして、彼女も次第に赤く染まっていった。

気がつかなかった。

少年からすれば、毎日起きているただの交通事故だった。

それが彼女ということに、気づくことはなかった。

 

 

うそやこんなん。

うそやろ?うそやろっっ?

自分の目の前で起きていた事故が彼女だった。

大事なことをすべて忘れていた。

こんなに苦労してまで俺のところに来てくれたのに。

見てしまった・・1つの事実と現実だった。

うそや・・こんなん・・うそやろ?

・・・うそ・・ちゃうんか・・・?

 

 

「とらちゃん、ちぐね、とらちゃんのことだぁーいすき!」

「ぼくもちぐちゃんのことだぁーいすきやで!!」

「ホンマに?んじゃぁおっきくなったらちぐ、とらちゃんのお嫁さんになる!」

「ええよ、じゃぁ約束やで!!」

「ねぇとらちゃん、いくつになったら結婚できるのかなぁ?」

「うーん、僕のおかんは20歳で結婚したゆうとったなぁ。」

「じゃぁちぐが今5歳だからぁ・・・えっと・・15年後?」

「15年後かぁ。。」

「まだまだだね。」

「そうやな。」

「そのころも一緒にいれるんかなぁ?」

「僕、ちぐちゃんのこと迎えに行く。」

「えー?」

「たとえ、どこにいてもちぐちゃんが20歳になったら迎えに行くよ!」

「ほんまに?じゃぁ約束ね!!」

「うん!」

 

 

いつもの公園で・・・待ってるね。

to be continue