Bare Angel

第6章

−傷だらけの人生−

「よぉ。」

「・・・おはようございます。」

「気になって眠れなかったって顔してんな。」

「・・・。」

「わかりやす。」

「ほっといてください。」

「何に対して眠れなかったんだ?」

「・・・。」

「健か?それとも・・・」

「何が言いたいんですか?」

「別に。」

ムカツク。

この人の企んだ顔がすげームカツク。

「・・・よしひこ・・・。」

「そっか。」

言わせたかったって顔してんじゃねぇよ。

「マサユキってアイツだろ?悪魔。」

「なんだ、覚えてるじゃないか。」

「・・ああ。」

「知りたいか?」

俺の・・人間時代か?

「別に・・・」

俺の・・天使になった理由か?

「ならいいけど。」

マサユキのことか?

「・・・。」

健のことか?

「気が向いたらまた来いよ。」

俺は小さく頷くことしかできなかった。

ホントは・・・わすれたかった過去。

知りたくない・・・事実と現実。

天使の羽根。

 

 

「なぁ健。」

「なに?」

「あのさ、お前は死んだら天使になるわけじゃん?」

「うん。」

なんの迷いもない目で俺を見ている彼に、言えるわけなくて・・・。

人間になれる最後のチャンスだなんて。

「ほんっとにそれでいいんだな?」

「何回も念押さなくても、僕は天使になるの。だから安心してね、GO。」

「ばっ、だーれが。」

「もう1人ぼっちじゃないよ。」

そう言われた言葉が妙に切なくて。

逃げたくて。

言葉を避けて続けた。

「・・・今日と明日の境目の時間に記憶消しにくるから。」

「えっ?」

「俺との記憶。」

「GOとの・・記憶?」

「元々天使なんて存在しなかった。そういうことになるだけ。」

「・・・そっか。」

「大丈夫だよ、健が天国に来たら俺1番最初に声かけてやるから。」

「うん。」

「1番最初にお前迎えてやる。1番に友達になってやる。」

「うん。」

「だから、ちゃんと12時までに眠っとけよ。」

「わかった。」

でも・・なんだか納得できなくて・・・。

「じゃぁ、僕がGOの背中に乗って飛んだことも忘れちゃうんだ。」

「・・・うん。」

納得いかねぇよ。

「初めて会ったことも忘れちゃうんだ。」

「・・・うん。」

何に対して?

「ずっと一緒に話してたことも忘れちゃうんだ。」

「うん。」

俺との記憶がなくなること?

「GOが・・・最初からいなかったことになっちゃうんだ。」

「・・・。」

そうじゃなくて・・・。

「GO?」

そんなことじゃ・・・なくて・・・。

「あれ・・・?」

彼は僕に倒れこんできて、小さな寝息をたてる。

「寝てる?」

みたいだった。

忘れちゃうんだ。

GOに会ったことも。

ホントに・・ココロの底から楽しめたことも。

最高の友達だってことも。

・・・けど・・・ダメだよね。

やっぱり。

人間やになった?・・・か。

だって・・・ほっとけないんだもん。

1番好きな友達だから。

大事な大事な・・・友達だから。

ずっとずっと・・探してた・・・ホントの友達だから。
 

 

「教えてください。」

「やっと来たか。」

「俺の天使になった理由。」

「そこ座れ。」

「はい。」
 

 

両親と姉貴。

3人の家に俺が産まれた。

・・・母親の命とひきかえに。

そして、姉貴にはうっとうしがられて、親父とは、まともに話した記憶がない。

そんな幼児時代。

母親の存在がなかった・・・幼児時代。

寂しいと思ったこともあった。

どうして俺はこんなに辛いんだと思った事もあった。

だけど、泣いたら負けてしまう。

そう言い聞かせて。
 

 

結局つっぱったままの幼児時代から小学校へ入学。

当然、友達なんかいなくて。

1人で。

でもそれが辛いと感じたこともなかった。

1人の方が楽だとおもってた。

いらないよ。

友達なんて。

「うっせぇばーかっ。」

誰かとケンカするなんて日常茶飯事で。

「んだとてめぇっっ!!」

どっちが勝つわけでもないんだけれど。

「どうせ俺様が死んだってなぁ、誰も悲しまねんだよ。」

悲しんでくれる奴なんて・・・いるわけねぇじゃん。

泣いてほしいのか?

俺が死んだ時って。

誰か・・・泣いてくれるかな?
 

 

「ただいま。」

誰もいない家の中。

いたって、返事なんか返ってくるわけねぇよな。

チーン。。

何も言わないあんただけだよ。

俺を信じてくれそうなのは。

「なぁおふくろ、俺が死んだらさぁ、悲しいか?」

答えはない。

でもそれは・・いつも言ってることかもしれない。

なんで俺を産んだんだよ?

そんなに俺に苦労してほしかったのか?

教えてくれよ。

涙がでる。

あんたの前だけだよ、俺が涙流すのは。

寂しいよ。

1人って・・・寂しい。

・・・やだよ。
 

 

「えー、なんで?お父さんなんで仕事なの?前から言ってたじゃない、この日は懇談あるからって。私受験生なんだよ?」

姉貴の怒鳴り声が聞こえる。

「こんな時お母さんがいてくれたら・・・。」

・・・俺のせい・・・なんだ。

「あんたさえ産まれてこなければ。」

けど、もう聞きなれちまったよ。

慣れすぎて・・おふくろがいないことに慣れすぎて・・・。

「人間は腐ってる。」

小さい頃親父がそう言った言葉が・・ずっと残ってた。

本当にそうなのか?

答えさえもわからなかった。 


 

 

「転校生を紹介する。」

事の発端は中学2年生。

俺のクラスに転校生が来た。

「井ノ原快彦くんだ。」

「よろしくお願いします。」

「じゃぁ森田の席の横に・・・」

クラスからのブーイングを浴びた。

そう思うんだったら、俺からもブーイングしてぇよ。

「よろしく。」

「・・・ああ。」

にこにこした奴だった。

俺はなんだか余計に腹がたった。

別にコイツのせいじゃないのに。

「森田くんってどこに住んでんの?」

「なんで?」

「俺学校から遠いんだよねー。」

俺の質問にはおかまいなしで続けた。

奴の話によると、実は近所ってことがわかった。

「一緒に帰ろう。」

うざってぇ。

でも・・・なんかこの笑顔が憎めなくて・・・。

「いいけど。」

そう言っちまう。

「なんで俺にかまうんだ?」

そう聞いたこともあった。

「友達じゃん。」

「俺様はそう思ってないって言ってもか?」

「うん。俺はそう思ってるから。」

「そぉ。」

「森田くんってなんで俺様って言うの?」

「別に。」

「ふーん。かっこいいねそれ。」

「そぉ?」

「うん、なんか森田くんにしか言えないって感じかな。」

「そぉ。」

「だって俺が言ってもおちゃらけにしか聞こえないでしょう。」

「そんなことねぇよ。」

ちょっとうれしかったり。

でも、素直にありがとうなんて・・言えなかったり。

優しさに慣れてないから。
 

 

「休み?」

「ああ。お前なんか聞いてないか?」

「いえ。」

「そうか。」
 

 

アイツが休むなんてめずらしいな。
 

 

ピンポーン。

「はい。」

「あの、快彦くんのクラスメイトの森田といいますけど。」

「あ、ちょっと待ってくださいね。」

ちょっとというわりには、なぜか結構待たされて。

「ごめんごめん、今日学校休んじゃったよー。」

なーんて、普通な会話から始まった。

「よかったら上がっていってよ。」

「ああ。」
 

 

快彦の目ははれてて。

昨日泣いた感じがしてて。

それでも普通に話すから・・・切なく思えて。

「なんかあった?」

「ないよ。」

「泣いた後・・残ってる。」

「そんなこと・・ないよ。」

「なら・・いいけど・・・。」

「・・・っ。」

俺は涙を流す彼になにもしてやれなかった。

優しくする術を知らなかったから。

「昨日な、ばあちゃん死んだんだ。」

えっ・・・。

「なんかな、寿命じゃねんだよ。通り魔とかそんなんに殺されてんの。」

返す言葉が見あたらない。

「ふざけんじゃねぇよ。俺のばあちゃんなんだと思ってやがるんだ。すげーいいばあちゃんで。すげー優しくて・・・。」

「快彦・・・。」

「悔しくてさ、俺。すげー悔しくて・・・」

今の俺に、なにができただろう。

ただ・・涙を流す彼を見つめることしかできなかった。

「生きててよ。死なないでよ・・・。」

少しでも優しさを求めた彼と、優しさを与えることを知らなかった俺。

もっとその術を知ってたら・・・

彼の涙を減らすことができたかもしれないのに・・・。

「悲しい?」

「当たり前じゃん。もう会えないんだよ。ありがとうって・・まだちゃんと伝えてねんだよ。」

死んだら・・・会えない・・か。

「じゃぁお前は・・・。」

「え?」

こんなこと言うはずじゃなかったのに。

「お前は俺が死んだら悲しいか?」

「何言ってんだよ。」

ほんとは・・・

「泣いてくれる?」

ずっと誰かを・・・

「当たり前だよ、友達じゃん。」

優しさをくれる誰かを・・・

「そっか。」

俺をまるごと愛してくれる人を・・・

「死なないでね。生きててよ。」

信じてくれる人を・・・

「わかってるよ。」

ほしかった・・・。
 

 

「じゃぁな。」

「俺、そこらへんまで送っていくよ。」

「おお。」

俺にとって初めての友達だった。

彼は、俺の今までのことすべて、なにもかもを受け入れてくれるようだった。

「ありがとう。」

「なんで剛が言うんだよ?」

「なんか・・初めてなんだ、俺。快彦みたいな友達。」

その誰かが・・・

「そ・・なの?」

「ああ。」

初めての友達が・・・

「そっかー。じゃぁ俺喜ばなくちゃだね。剛のようないい奴の1番最初の友達なんて。」

「俺様っていい奴か?」

「いい奴だよー。わざわざ見舞いにきてくれんだもん。」

「それは・・お前だからだよ。」

「それでも、俺はうれしかった。」

あんたでよかったよ。

「そっか。」

うれしい。

「実は俺もさぁー。」

「なに?」

「俺・・友達って結構多い方だと思うんだけど、なんか・・中途半端で・・・。」

快彦で・・・

「こうやって弱いとこみせちゃったりとか、本音言い合ったりする友達って・・・いないんだよね。」

「そう・・・なんだ。」

よかった。

「俺にとっても・・・最高のダチだと思ってる。」

ありがとうって言わなきゃいけないのに。

「だから、ずっと一緒にいような。」

「当たり前じゃん。」

言わなきゃいけないのに。

「ずっと、一緒にいようぜ。」

素直になれなくて。

「じゃぁ、約束な。」

「ああ。」

子供心に指きりした小指が、やっとつないでくれた。

俺の・・生きる意味。

「俺このへんでいいから。」

こらえきれない涙を必死で落とさないように彼と別れた。

そして、家に帰って涙を流した。

うれしすぎて。

ああ、友達って、こんないいもんなんだ。

今まで人のやさしさにふれたことのない俺。

だから・・・ありがとう。

面と向かってはなかなか言えないんだけど。

ありがとう。

最高の友達だよ。

そう・・ずっと思っててくれる?
 




「井ノ原が、昨日、通り魔に殺されました。」

翌日のHRだった。

「昨日・・・今騒がれている通り魔に殺されました。」

何言っちゃってんの?

「午後6時30分頃だそうです。」

俺と別れた後だった。

昨日会ったばっかりで・・・。

「森田がやったんだろ?」

誰かがそう言った。

「なんで俺なんだよ?」

「俺見たぜ?お前昨日井ノ原ん家行ったんだよな?ちょうどその時間の前くらいに近所の公園らへんで一緒にいるのみかけたもん。」

「人殺し。」

「お前が殺したんだろ?」

「んなわけねぇだろ??」

なんでだよ?

なんでこんなことになっちまったんだよ?

「なんで・・・なんでだよ??」

なに殺されちゃってんの?

俺の前から消えないでよ。

泣いてくれるって・・約束したじゃん。

俺まだ・・言ってないこと・・山ほどあんのに。

ありがとうって・・・ちゃんと言ってねぇのに。
 

 

涙が止まらなかった。

だけど俺だけじゃない。

こいつのためにたくさんの人が泣いている。

ちょっとだけ・・・うらやましかった。

葬式の写真は笑ってるのに。

アイツはずっと笑ってるのに。

・・・笑ってたのに。

俺を置いて逝くなよ。

置いてけぼりにすんなよ。

なんでだよ?

約束したじゃねぇかっ、一緒にいようって。

指きりしたのに。

一緒に・・・ずっと一緒にいようって・・・。
 

 

「なぁ、俺がお前のところに行ったらさぁ、悲しいか?」

快彦。

「・・・っ・・・悲しいか?」

俺も・・・連れてってくれればよかったのに。
 

 

初めて、人を失う事の悲しさを知った。
 

 

そして、事件は俺の目の前で起きていた。

その事を思い出せなかっただけだった。

俺は見ていたんだ。

彼が殺されるところを。

見ていたんだ。

アイツだ。

俺の知ってるアイツ。
 

 

知らない間に俺はそいつを殺していた。

快彦を返せと。

そんなことしても、快彦が悲しむだけなのに。

わかってる。

そんなことはわかってたんだけど・・・どうしようもなかったんだ。

俺の手がアイツの血の色で真っ赤に染まる。

忘れられないあの光景。

泣きながら・・・アイツを殺した。

腐ってるのは・・あんただよ、親父。

金なんて・・いらねぇじゃねぇか。

俺は・・・金より大切な者を見つけたのに。

簡単に奪ってんじゃねぇよ。
 

 

・・・助けて・・・。
 

 

誰かに助けを求めたかったんだ。

信じたくなかったんだよ、快彦が死んだ事を。
 

 

「お前が森田剛か?」

「ああ。」

「海の前の家に住んでんのか?」

「んなわけねぇじゃん。ここ都会だぜ?東京湾も逆方向だって。」

「・・・でも森田剛なんだな?」

「ああ。あんた誰だよ。」

「マサユキ。」

「何の用だ?」

「お前はもうすぐ死ぬんだ。」

「ああ、そうかよ。」

ボロボロに成り果てた俺は家を飛び出した。

そして、最後に快彦に会ったあの公園で。

「死ぬのが怖くないか?」

「・・いや、快彦のとこに逝くのが早くなるだけだよ。」

「そっか。」

今頃なにやってんだろうな。

でも、俺様と違って・・・あいつはどこ行っても大丈夫な奴だから。

心配ないと思うんだけどな。

にこにこ笑って。

「笑わないな。」

笑えねぇよ。

「忘れちまったよ、笑うことなんて。」

快彦の前だけだったな。

まともに笑う事ができたのは。

「うひゃひゃ、おっかしー。お前バカじゃん。」

「剛お前笑い方のほうがおかしいよ。」


もう1度笑わせてくれよ。

「その快彦は今なにやってるか知りたいか?」

「・・・。」

どこにいようと俺には関係無い。

だけど・・・もう1度会いたいっていうのは事実で。

「ああ。」

そう答えた。

「人間だ。」

「えっ?」

「生まれ変わったんだよ。快彦は。」

生まれ・・・変わった?

「んなことできんのかよ。」

「死後の世界ってのはな、俺みたいな悪魔になるやつ。天使になるやつ。そして、人間になるやつがいる。」

「天使と悪魔の違いってなんだ?」

「そうだな・・・良く言えば天使はいい奴の魂をとる。悪魔は悪い奴の魂をとる。。」

「難しいか?」

「慣れればそうでもないさ。」

「良く言えば・・・か。悪く言えば?」

「天使は名前の通り天使。悪魔は何をやっても悪者ってとこだな。」

「ふっ。自分でんなこというなよ。」

「悪く言えって言ったろ?やっと笑ったな。」

「こんなの・・・笑ったうちにはいんねぇよ。」

もっと口思いっきし開けて笑いたいよ・・・快彦。

「そうか。」

「・・・快彦は・・・人間があってるよ。」

いいことばっかでもなくて・・・わりぃことばっかでもねぇ。

失敗あって大きくなる人間。

快彦には・・・ぴったりだ。

「名前は・・三宅健。」

「へぇー・・・。なんか、イメージが全然ちげーな。」

「性格はちょっと控えめってとこかな。」

「はっ、あいつがぁ?」

「いろいろ手違いと間違いってのもあんだよ。」

「けど、アイツが控えめなんて信じらんねぇよ。」

けたけたと笑う俺を見てマサユキは満足そうだった。

本気でなんて笑ってねぇのに。

わかってるんだろうな?あんたは。

俺を思いっきり笑かすことのできるやつはただ1人。

快彦だけなんだってこと。

「けど・・・。」

「なんだ?」

「あの笑顔だけはきっと・・変わんねんだろうな。」

「そうか。」

誰にでも優しくて。

不器用で。

変わんねんだろうな。

誰をも幸せにするあの笑顔は。

「お前はなんになりたい?」

「どういうこと?」

「死後の世界。」

「ああ。」

「死んだら人間になりたいか?」

「快彦にもう一度会えるって保証はねんだろ?」

「当たり前だ。」

「人間になんて、なりたくねぇよ。」

快彦に会えない人間生活なんて・・もうまっぴらだ。

「じゃぁお前の道は2つだ。天使か、悪魔か。」

「あんたは?」

「・・・悪魔だ。」

「そうじゃなくて、なんで悪魔になったかってこと。」

「言えねぇな。」

「そっか。」

「その悪魔がなんで天使を薦めてるわけ?」

「どういうことだ?」

「なんで俺に天使の道があるのか?ってことだ。」

「人を殺す事は犯罪だ。でも、お前の意思じゃなかった。」

「俺は俺の意思でアイツを殺したんだ。悪魔だろ。」

「違うな。快彦のためだったからだ。」

「・・・快彦のため・・・か。」

「ああ。」

わりぃけど、俺、いい事なんてできっこねぇよ。

「悪魔かな。」

「悪魔・・か。」

そう、悪魔しかきっと道はないんだ。

「理由はなんだ?」

「ムカツク奴ら全員殺してやる。」

「それはできないな。」

「やっぱりな。」

わかってるんだけど。

いい奴の魂が俺の手に渡ること考えると、ぞっとする。

悔しくなるから。

「お前は天使の方が向いてるかもしれないな。」

「俺は悪魔だよ。犯罪者とかの魂取るんだろ?のん気に天使のような奴の魂なんて取りたくないね。」

だって・・俺は優しさをあらわす術を知らないんだ。

「そうか・・・。」
 

 

しばらくはボーっとした日々だった。

飯を食ってない俺はやつれてる。

俺・・・食わずに死ぬんだ。

そういう死に方なんだ。

でも、よく半年ももつよな。

3週間が限度だよ。

俺もう、明日には死にそうだ。

「こんなところにいた。」

・・姉貴。

「帰るわよ。」

なんだよ、お前。

遠ざかる記憶の中で、長い時間車に乗せられ、姉貴に看病されていた。

「なんで助けたんだ?」

「弟じゃん。」

「今更なんだって言うんだよ。」

「井ノ原さんってとこの奥さんが心配してたわよ。」

「そっか。」

「ありがとうって。」

「感謝なんてされたくねぇよ。俺の親父が殺して、俺が親父殺したんだから。」

「仲良くしてくれてありがとう・・・ってことじゃない?」

それは・・・こっちの台詞だよ。

ずっと言えなかった・・・ありがとう。

「いつまであそこにいるつもりだったの?」

「死ぬまで。」

「簡単に言わないでよ。」

「もう限界なんだ。」

「指名手配が?」

「生きることに。」

生きる意味を亡くしてしまったから。

「けど、公園にいたら見つかっちゃうでしょ?」

「いいよ、見つかっても。」

「面倒に巻き込まれるだけじゃん。」

「それでもいいよ。」

「ここにいときな。」

「え?」

「退学手続きしておいたから。」

「・・・すぐにばれるじゃん。」

「気がつかなかった?引っ越したんだよ??」

だって、ベットの中は変わってなかったから・・・。

・・・もしかして・・・

「家の前って海か?」

「よくわかってるじゃん。」

だってマサユキがそう言ったから・・・。

「大丈夫だよ。なんとかなる。」

「今頃おせぇよ。」

「これからだよ。」

「そうじゃなくて・・・優しくすんなよ。」

「ごめんね。」

「謝んなよ。親父殺して怒ってねぇのかよ。」

「あの人が先に殺したんでしょ?気がつかなかった私がバカなの。」

「金なんて・・いらなかったよ。」

「剛・・・。」

「親父の愛がほしかった。」

この愛情がもっと早くにあったら、俺はこんなことにならなかったのに。

「おふくろの愛もちゃんとほしかったのに。」

ほしかったのに。

「金なんかいらなかった。金で買えない愛がほしかったよ。」

「生きようね。」

小さく頷く。

姉貴が・・・俺に愛をくれた。

もっと早くほしかった。

金を出しても・・・

どんなに大金積んでも買えなかったもの。
 

 

「今日俺との記憶消すから。」

「そう。」

「12時には必ず眠っておけよ。」

「わかった。」

「じゃぁな。」

「あのさっ・・・」

「なんだ?」

「・・・人間には、なれないのか?」

「今更何言ってんだ。」

「もう・・・無理か?」

やっと・・優しさを手に入れて気がついたから・・・。

俺・・人間になりたかったんだ。

ほんとはずっと・・・こうやって幸せな空間をすごしたかったんだ。

「なれない。」

当たり前・・・だよな・・・。

「そ・・・か・・・。」

遅すぎたよ・・・。
 

 

午前12時。

夢をみた。

4つの羽根。

黒い羽根。

マサユキ・・・だよな?

白い羽根。

天使?

お前誰だよ。

「お前は悪魔でいいんだな?」

どっちでもいい。

必要としてほしい。

俺を・・・必要としてほしいから。

「必要としてくれる場所がいい。」
 

 

半年がたった。

遂に・・・この時が来ようとしていた。

「姉貴・・・。」

「なに?」

「ありがとな。」

「なによイキナリ。」

「ありがとう。・・・言いたくなったんだ。」

「もう、変な事言わないでよ。どっか行っちゃうのかと思うじゃない。」

「行かないよ。ずっと側にいる。」

「うん。」

「あ、果物きれちゃったね。買い物行ってくるよ。」

家には俺様ただ1人。

気づかれたよ。

アイツらに捕まっちまう。

あんたまで罪かぶるこたぁねぇさ。

これ以上・・・迷惑かけないよ。

だから・・・帰ってくんな。

これが・・・弟としての、最後のお願いだ。

姉貴。

なまえ          森田 剛

ねんれい        15

せいべつ        男

しょくぎょう       無職

しぼうじょうきょう    自殺(首吊りによる)

にちじ          1995年12月25日 午後6時30分

じゅうしょ        海の前の家

すきなもの      家族 友達

きらいなもの     辛さ


俺が死んで泣いてくれた姉貴。

誰かに泣いてほしかったよ。

そうすれば、俺様でいられる。

1つの価値があったと俺も泣けるから。

あんたがいてくれてよかった。

うれしい・・かも。

ありがとう・・・。

なぁ親父・・・人間は・・腐ってなんかなかったよ。

きっと生きてたら・・・快彦も泣いてくれたと思うから。
 

 

「あんた誰だよ?」

「・・・HIROSHI。」

「マサユキは?」

「これからお前の名前は『GO』だ。」

「GO?マサユキはどうしたんだ?」

振り向いた先には羽根がついていた。

真っ白な・・・羽根。

「GO・・・お前は天使だ。」

「天使・・・。俺・・・悪魔になるはずじゃ。」

「手違い・・でな。」

「・・仕組んだ?」

「ああ。」

「バレたらやばいんでねぇの?」

「大丈夫だよ。」

「俺・・天使になっても・・・。」

「大丈夫。なんとかなるって。」

「無理だよ。」

「ココロの問題だよ。天使と悪魔の違いなんて。」

「ココロの違い?」

「天使が剛を必要としたんだ。」

誰かに必要としてほしかった。

「・・・マサユキはいい奴だったよ。俺より、天使に向いてる。」

「変わってるからねぇ、あの人は。好きなんだよ、悪魔って仕事が。」

「誰が好んでやるもんか。」

「じゃぁ、楽しんでやってるからね。君みたいな標的がいることに。」

「・・・。」

「天使に・・なれるよね。」

「人を・・・救うのか?」

「うん。できるよね?」

「・・・ああ。」
 

 

もう・・迷わないから。

俺を必要としてくれる場所。

だから、俺が俺様でいるために、人を救う。

きっと天使なら、あんたに会えるよな?

快彦。

 

 

そしてそれから5年後、俺は三宅健・・いや、井ノ原快彦と出会うことになる。

TO BE CONTINUE