Bare Angel

第4章

−涙の理由−

なまえ          三宅 健

ねんれい        20

せいべつ        男

しょくぎょう       大学生

しぼうじょうきょう    交通事故  即死

にちじ          2000年7月2日 午後6時30分

じゅうしょ        近くに大きなさくらのある家の一室

すきなもの      ネイティブアメリカンという人のもの

             犬を飼ってるらしいが、1人暮らしなので離れている

きらいなもの     血を見ると倒れるらしいので怪我は禁物

このメモは俺様がもらったものだった。

ほんとはもっとあったはずだった。

けど予想以上に標的はすぐに見つかってしまった。

ネックレスはたしかそのなんだネイティブっぽいものだと思った。

きっと彼ははずさない。

そう信じて、俺様はかけにでた。

信用を無くさないための切り札。

だけどそれはもう、必要ない。

天使が見えるのは、子供と・・・人間の死ぬ半年前以降。

ごめんな健。

俺様は、うそつきだ。
 
 

 

「7月2日ってなんの日か知ってる?」

単純な問題だった。

けど、それが答えなのか、僕にはわからなかった。

「・・・なんで?」

「あなたの誕生日。」

「なんで知ってんの??」

「天使はなんでも知ってるの。」

「ふーん。」

「それから・・・。」

「それから?」

「7月2日は、あなたの・・・命日。」

・・・えっ?

「命日って・・・?」

「2000年7月2日午後6時30分、あなたは死ぬのよ。」

「・・・。」

突然のことで言葉が出ない。

声が出ない。

なんで出ない?

何も言えない。

何を言っていいかわからない。

意味がわからない。

「ど・・・し・て??」

「それは、あたしが見えるからよ。」

見えるから?

だってそれはこのネックレスしてるからでしょ?

だけど、言葉にならずにネックレスを見る。

相変わらずキラキラと光るネックレスが怖くなった。

そっとはずしてみる。

・・・見える。

なんで・・?

GOは、ウソついたの??

「天使と悪魔が見える人。それは5歳までの子供と死ぬ半年前の人だけ。」

「うそだ。」

「運命に逆らわないで。」

彼女の目にはなぜかひきつけられるものがあった。

GOと同じ目をしている。

「ほんとうに??」

「私達天使は仕事をしにこっちへ降りてくるの。」

「仕事??」

「あなたの死後の生活について。」

「・・・なにそれ?」

「・・・やばっ、ごめんね、時間だ。」

「えっ?」

「もうすぐGOが来るわ。直接本人に聞いてみたら?」

その言葉を残して僕の目の前から消えて行った。

この一瞬の出来事はなんだったんだろうか?

僕は20歳で死んでしまうんだろうか?
 

 

もうすぐGOが、来る。
 
 

気配がする。
 

  
すぐにわかる、GOの足音。
 

 

ホントはわかってた。

絶対KANAは俺様よりも先に健に会いに行くと。

止められなかった。

いや、止める事はできた。

「俺様の仕事だから。」

そう言ってしまえばきっと、それで終わってた。

けど、言えなかった。

自分から言うのが辛かった。

健に嫌われたくないんだ。

今までとは違う何かを持った健。
 

 

この1ヶ月、ほんと短かったよ。

KANAには強がってた。

けど、辛くても健になら話せることができる、不思議な存在。

他の天使は知らないだろう?

ホントは俺、弱いんだ。

俺様って言ってるのは、自分を強く見せるため。

人から悪口ゆわれた時も強がってた。

だけど、本当は寂しかった。

1人になるのが怖かった。

自分は落ちこぼれだと思いたくなくても知らされる現実。

健は一緒に泣いてくれた。

最初はお前ばかじゃんって思った。

俺が泣いてんのに、なんでお前まで泣いてんの?って。

だけど、不器用なアイツの優しさ。

やさしいやつだから、健は。

かわいそうだって、同情じゃなくて、そんなんじゃなくて、友達として泣いてくれた。

健にとっては同情だったかもしれない。

だけど、俺にとっての大きな心の支え。
 

 

俺は、健のためになにもしてやれなかった。

最後の最後まで傷つけそうだ。

だから、この桜とも、もうお別れだ。

この1ヶ月、楽しかったよ。

だから、早いこと済まして、俺を楽にさせてくれ。

・・・記憶を、けしてくれよ、HIROSHIさん。
 

 

 

「よぉ。」
 

 

「・・・なんで?」
 

 

 

そんな目で見るなよ。

「なんで言ってくれなかったの?」

そんな質問わかってたはずじゃないか。

昨日一晩考えた。

どうやったら健を傷つけずにすむだろう。

すっげー考えた。

答えは出ない。

「ねぇ、どうして?」

言えなかったんだよ。

どうしても、言いたくなかったんだよ。

信じたくなかったんだ。

「今までのはなんだったの?」

答えられねぇよ。

「同情で遊んでくれてたの?」

そんなわけねぇだろ?

「もうすぐ僕死んじゃうから、かわいそうだからかまってくれてたの?」

そうじゃないんだよ。

「ねぇ、なんか答えてよ!」

泣きそうな俺を見てこう言った。

答える事なんて、できないよ。

「・・・仕事だから・・・。」

「そんな・・・。」

「これが天使の仕事なんだよ。」

「・・・。」

何も言わずにただ涙を流す健。

俺はその涙を止める術を知らない。

けど、止めさせてはいけない。

その時の俺の言葉はきっと、さらに事体を悪化させ、より深い傷をつけることになるから。

「最後くらい、幸せになってほしいじゃん。」

自分の口が勝手に動くのがわかる。

ここで健を傷つけてしまえば、これ以上深くなることはないと思ったから。

健が傷つくようなことを1つとまた1つ。

思いつくだけの言葉を・・・傷つくような言葉を並べた。

あいつはただ涙を流して、俺の目を見つめたまま動かない。

けど、俺はお前から目をそらさない。

ここでそらせば負ける。

「同情だったんだよ。」

そんな言葉で終わらせた。

自分の中でのすべてのウソをつききった。

俺は最低だ。

だけど、これでわりきれると思った。

これですべてが終わらせられると思った。

さよならになっても終われると思った。

なのになんで??

「じゃぁなんで泣いてんだよ??」

「わっかんねぇよぉ・・・。」

彼は俺より先に抱きしめてきた。

彼の前では涙が出る。

健の前では強がれない。

ウソがつけない。

素直になれた。

この時俺は初めて生きることがなんなのか?

そんな疑問を持った。

今まで失敗ばっかりしてきたからそんなこと思わなかったのかもしれない。

だけど、人が死ぬってことは、どういうことなのか?

そんな疑問を持った。

そして、どうして健は死ぬのか?

どうして健が死ななければいけないのか?

 

人間達は腐っている。
 

 
いつか両親がそんなことを言った。

そうだろうか?

だとしたらどうして死んでしまうのが健なんだろうか?

他にも死んでいいやつはたくさんいるんじゃないのか?

運命なんてさいてーだ。

さいてーだよ。

「GOはさ・・・僕が死んだら悲しい?」

「・・・。」

答えることが、できずにただただきつく抱きしめた。

止まる事のない涙と共に。
 

 

「うっせぇばーかっ。」

「んだとてめぇっっ!!」

「どうせ俺様が死んだってなぁ、誰も悲しまねんだよ。」

 

「なぁおふくろ、俺が死んだらさぁ、悲しいか?」

 

「あんたさえ産まれてこなければ。」

 

「生きててよ。死なないでよ・・・。」

 

「じゃぁお前は俺が死んだら悲しいか?」

 

「当たり前だよ、友達じゃん。」

 

「昨日、通り魔に殺されました。」

 

「人殺し。」

「お前が殺したんだろ?」

「んなわけねぇだろ??」

 

「なんで・・・なんでだよ??」

 

涙が止まらなかった。

だけど俺だけじゃない。

こいつのためにたくさんの人が泣いている。

ちょっとだけ・・・うらやましかった。

 

「なぁ、俺がお前のところに行ったらさぁ、悲しいか?」

 

・・・助けて・・・。

 

「お前の道は2つだ。天使か、悪魔か。」

 

「人間には、なれないのか?」

 

「なれない。」

 

夢をみた。

 

天使と悪魔がいる。

 

どっちでもいい。

 

必要としてほしい。

 

誰かに泣いてほしかったよ。

 

そうすれば、俺様でいられる。

 

1つの価値があったと俺も泣けるから。

 

 
「健の道は3つある。」

「道が・・・3つ?」

「そう。死後の生活だ。」

「死後の・・・生活。」

「1つは人間としてまた生まれ変わること。

 2つ目は、天使になること。

 3つ目は・・・悪魔になること。」

「天使と悪魔って、どんな仕事するの?」

「それは言えない・・・。規則だから。」

「掟・規則。天使ってたいへんだね。」

「そうだな。」

俺は心の中で天使になってほしいと思った。

天使になれば俺とまた遊べる。

だけど、そんなこと・・・言えないよ。

「決めるのは健次第だ。」

「GOは、どうしてほしい?」

健は、人間が向いてるよ。

「・・・さぁな。自分で考えろよ。」

「そっか。」

「今すぐとは言わない。あと1週間以内に決めてくれればいい。」

「それまでGOはどうするの?」

「俺か?」

そんなの、わからない。

「1つだけお願いがあるんだ。」

「なに?」

「毎日また、いつもみたいに来てよ。」

「無理だよ。」

「無理じゃないよ。僕平気だから。」

俺が平気じゃないんだよ。

「ねぇ、お願い。GOは、僕の友達だから。」

 

「当たり前だよ、友達じゃん。」

 

「わかった。」

 

どうして運命というものがあるのか?

答えは出ない。

けど、1つ気付いたことがある。

健の死がなければ、俺様は健に会うことはなかった。

俺様が健の担当にならなければ出会うこともなかった。

そう思うと、1つ1つの運命の間違いというのは不思議なものだ。

このへんの運命は信じてもいいかもしれない。

だけど、悲しいんだ。

誰かが死ぬってことは、誰かが悲しむんだ。

絶対に。

 

その夜、GOが泣いていた。

TO BE CONTINUE