Bare Angel

第3章

−言えない気持ち−


「けーん。」

ぱたぱたと黒い羽根を動かし上から降りてくる天使。

「あー、GO!聞いて聞いてよぉ!」

「な、、なに?」

「あんね、あんね、今日入学式だったんだよぉ!」

「へぇー。」

「すごい人数でびっくりしちゃったよぉ。」

「そっか。」
 

 

あんまりにも楽しそうに話す健を見て、俺様としたことが言えなくなる。

「けん、それまだつけてくれてんの?」

首に目をやると、まだキラキラ光るネックレスがあった。

「うん、これお気に入りなんだぁ♪」

あの時はあんなに警戒してたのによぉ。

「今日はGO何しに来たの??」

「え、いや、別に・・ただ、元気かなぁ?って。。」

「ん?元気だよ!あ、じゃぁ前もそんな用事だったの??」

「うん、、まぁな。」

「そっかぁ♪」

「お前、ほんっとうれしそうだよな。」

「そうかなぁ?」

「にやけっぱなし。」

「新しい生活に楽しくてしょーがないの!」

「そういうもんなのかぁ。。」

へへっと笑って健は俺に近づいてくる。

それからぎゅーってされてほっぺんとこにちゅうしてきやがった。

その後もへへって笑ってる。

・・・なにがおきた・・・??

う、、うわぁぁぁぁぁっっっ。。。。。
 

 

「な、、ななな、なにすんだよぉっっ!!」

「だってうれしいんだもん♪」

「俺そういう趣味ねぇかんなっっ!!」

「そんな深くとらないでよーっ!」

「・・・人間ってうれしいとちゅうするもんなのか?」

あいつは元気よく首を振る。

そういうもんなのか。。

俺様達の世界では非常識だ。

ちゅうするのは好きな者同士がすると聞いている。

「健は俺様にほれているのか?」

「な、んなわけないじゃん。だからぁ深くとらないでよー!」

・・・。

そうなのか?
 

 

そのまま訳もわからず帰ってきた俺様は早速うれしいこともなかったが誰かにちゅうしてみたいと思った。

「KANA!」

偶然通りかかったKANAに声をかけてみる。

「なぁにー?」

「あのさぁ、ちょっとこっちこいよ。」

「ん?あ、わかった、また仕事うまくいってないんでしょ。。」

「いいからはやくっ!!」

「なによぉ!」

「目とじて。」

「え??」

俺はほっぺんとこにちゅうをしてみた。

かと言って、俺様自身はなにも変わることはなかった。

うーん。

悩んでる俺様に平手打ちが飛んできた。

「なにすんのよぉっっ!!!」

「いってぇーなぁっっ!!」

「それはこっちの台詞よ、なんてことすんのよぉ!」

「人間はうれしいとちゅうをすると聞いた。」

「そんなの知らないわよ!!」

「じゃぁ健は騙したのか??」

俺様は不安になった。

ひょっとして騙して遊んでるんじゃないかって。

「GO?」

「健は、俺様のことがきらいなのか??」

「・・・人、それぞれじゃないの?」

「そうなのか??」

「そうじゃない。」

「そっかーっ!!」

「少なくとも、彼はうれしいとちゅうするんでしょ?じゃぁうれしかったんだよ。」

「・・・?」

「わかんないの?いいじゃん、いい意味でとっときなよ!」

「・・・そうか?」

「でも謝ってよ、あたし関係ないんだから!!」

「悪かったな。」

「やけに素直じゃん。」

「わからんことは試すもんじゃないな。」

「当たり前じゃん。」

「そっかー・・・。」
 

 

「あー、あいつだ、黒い羽根のやつ。」

「あいつかぁ、掟やぶったやつ。」

「ばかだよねぇー。」

どっかでそんな声がした。

「うるせぇよ!」

「うわ、ちょーこわっ!!」

「あのとなりに居る彼女かわいそう。」

「だよねぇー。あ、あれKANAじゃん。」

「うっそ、まじで??」

「KANAかわいそー、あんなんにからまれてる。」

「なんだよてめぇら、KANAは関係ねぇよ!!」

「あー怒った怒った逃げよ逃げよ。。」

「掟破りのくせにでかい口たたいてんじゃねぇよ!」

「あーゆうやつがいるから天使がばかにされるんだよねー。」

「KANAもかかわらないほうがいいよー。」

「うっせぇっつってんだろ!!」

そういって3つの白い羽根が逃げて行く。

「・・・悪かったな。」

「いつものことじゃん。」

「そうだけど・・・。」

「GOは、優しいだけだよ。」

「仕事できてなきゃおんなじじゃん。」

「今回も、また?」

「・・・。」

「そっか・・・。」

「KANAさぁ、今日から休暇だっけ?」

「うん。」

それだけの量の仕事こなしたんだよな・・・。

「KANA、もう呼びとめたりしないから、俺様に関わるな。」

「気にしてるのさっきの?別に、あたしだって慣れてるもん。」

これ以上、俺様の近くにいたら・・・お前だって嫌われんじゃん。

わかってんだろ??

「ここで1番成績優秀者が、落ちこぼれの俺様に関わってるとヤバイんじゃねぇの?」

「GOにそんなこと言われるなんて思ってなかった。」

「・・・。」

「なんだ、謝ってくれないんだ。」

・・・言ってしまった。

『成績優秀者』

この言葉は、1番KANAを傷つける言葉だった。

わかってたのに・・・。

今まで、言ったことなんて・・・なかったのに。

「さいてー!!」

そういって飛んで行く彼女を、俺様は見送ることしかできなかった。
 

  

本当はこんなこと言うつもりじゃなかった。

言う気なんてなかった。

KANAを傷つけたくなかった。

けど、このままだったらKANAまで嫌われちまうじゃん。

「あーあ。」

「・・・HIROSHIさん・・・。」

「KANA泣いてたぞ。」

「そう・・・ですか・・・。」

「どうすんだ?」

「なにが?」

「仕事。」

「あと、2ヶ月。」

「もう始まってるころなんだけど・・・。」

「・・・そうですね・・・。」

「1回くらい真面目な仕事しろよ。」

「1回はしました。」

「あとの4つは全部放棄。」

「・・・すいません。」

「6回目の仕事。5回放棄したら・・・わかってるな?」

「・・・はい。」
 

 

最初はわからなかったんだ。

どんな仕事かなんてわかんなかった。

20歳になったら始まる仕事。

小さい時から親が働いてて、うらやましかった。

すごい、仕事してるのがかっこ良く見えた。
 

 

KANAとは一緒に始めたはずなのに・・・。

あいつは俺様より優秀だった。

だから、もう何10回もの仕事をこなしてるはず。

だけど、なんでそんなことできるんだよ。

批判する気はさらさらない。

けど、俺様にはできない。
 

 

小さい頃、人間は汚いものだと思ってた。

だから親の仕事を見てられた。

なのに、なんで俺様の担当はみんないいやつなんだろうか?

人間は俺様の知らないことを教えてくれる。

・・・友達・・・なのに。

どうして俺様は人間じゃなかったんだろうか?

そうしたらここにはいなくて、もっといっぱい知ることができるのに。
 

 

それから何日たっただろうか?

終わらない仕事。

言えない。

健は、俺様が目の前に現れると煙たそうにするくせに歓迎してくれる。

「1人暮らしというものはそういうものなのか?」

「だって、やっぱりお客様来るとうれしいじゃん。」
 

 

俺様がまた木にひっかかってしまって怪我した時もあいつは笑いながら手当てしてくれた。

「GOばかだよねぇー、またひっかかってんやんの。」

「うるせぇなぁ、羽根で飛ぶってのは難しいんだよ、ってぇー。。」

「けど、相変わらず黒い羽根だよね。」
 

 

そして、あいつのおばちゃんに会ったこともあった。

「だからぁ、GOってゆうの。」

当たり前だけど、普通の人間には見えないんだ。

「健、大丈夫?」

そう言われて心配されてるあいつを見て俺様は大笑いだった。

「健、そのネックレスつけないと見えないんだよ。」

「えー、そぉなのー??なーんだ。」

「ちょっと、健、誰と会話してんのよっ!」

それでもあいつはこんな俺様に「友達と。」なんて言ってやがる。

ほんとは・・・違うのに。
 

 

健は、今までのやつと違う。

俺様の見せた夢を覚えててくれたんだ。

いつもは忘れられてた。

そいつにとって俺様はそういう存在だったんだ。

けど、健は違う。

煙たそうにしながらも、どこかで俺様を本気で歓迎してくれてる。

ウソをついた目じゃないこと。

そんな目で見られたくなかった。

誓ったはずなのに、もうちゃんとするって。

健だけは・・・。

俺様を本当の友達と言ってくれた健・・・。
 
  

あと6週間。

この日を超えると、もう時間ははっきり言ってない。

俺様の羽根もどんどん黒くなる。

もう白には戻れない気がする。
 

 

判断はお前の勝手だ。
 

 

わからない。

俺様には、判断ができない。
 

 

真っ白な羽根が下に降りていく。

あの、満開の桜の木の下に着く。

コンコン。。

「はぁーい、あ、GO??」

かちゃり。

「三宅健さん?」

僕の目の前には知らない羽根の持ち主がいた。

「そうだけど・・・君は?」

「GOの、幼なじみの天使。」

「・・・そぉ。」

「伝えないといけないことがあるの。」

「えっ?」

「GOには、言えないから。」

「GOが言ってた、用件って・・・。」

「それ。」

 

「あのさ・・・えっと・・・その・・・。」
 

 

「ごめん、もう1回出直してくるわ。」
 

 

「え、いや、別に・・ただ、元気かなぁ?って。。」
 

 
 

「入っていい?」

「どうして?ここで聞いちゃだめなの?」

「話せば長くなるよ。」

「・・・そう。」

 

 

動揺しながら、結局本当の用件はGOから聞くことはなかった。

ただ、僕は友達だと思ってたから、「元気?」って、ひょっこり現れるだけかと思ってた。

だって、友達って、そういうもんでしょ?

けど、やっぱりちゃんと用件があったんだ。
 

 

今日は、気が重い。

健に会いたくない。

言わなきゃいけないことなのに。

もう時間はないのに。

だけど・・・誰かが傷つくのはやだ。

裏切ってたって思われるのもやだ。

健に・・・嫌われたくないよ。

 

 

俺様は覚悟を決めて重くなってる羽根を動かし、桜の木を探して降りていく。
 

TO BE CONTINUE