竹宮ノ詩

執筆
任那伽耶
分類
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ガタン、ガタンと規則正しい感覚で電車が揺れる。

開け放たれた窓の外に目を向けると、嘘のように空は晴れ渡っていて、何とも今の気分には相応しいものだった。

「――良い景色でしょう?」

突然声をかけられたので視線を車内に戻す。見れば向かいの座席には上品な身なりの老人が座っていた。長い 顎鬚 あごひげ と眉毛がどことなく仙人のようである。

私がええと頷くと老人はそうですかそうですかと何度も頷いて、

「何十年もこの電車に乗っとりますが、いつ見ても良いものですな」

ところで、と老人は私の足下に目を向ける。そこには私たちの唯一の手荷物である四角い鞄が置いてあった。

「ご旅行――この方向だとXXのほうですかな?」

老人が言ったのはこの辺りで有名な観光地の名前だった。

私はまぁそんなところですと曖昧に答える。

どこにいくかはまだ考えている最中だ。雫とともに、この世界を隅々まで満喫したい。――理由はただそれだけだ。

老人はそうですかそうですかと何度も頷いて、

「お二人にとって素晴らしい旅行になると良いですな」

傍らで眠る灰髪の少女と私の顔を交互に見ながら、何度も何度も、それはそれは嬉しそうに頷いた。

「ええ、そうですね――」

雫さえ側にいるなら。

それはとてもとても幸せな日々だろう。

私は雫の髪に指を差し入れる。雫は薄く目を開けて私をぼうっと見つめ、そして柔らかな笑みを浮かべた。

「きっと、良い旅になると思います」

夢は終わった。

それでも、多分。

私たちの旅は、まだ続く。

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化石が見る夢

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