ガタン、ガタンと規則正しい感覚で電車が揺れる。
開け放たれた窓の外に目を向けると、嘘のように空は晴れ渡っていて、少し鬱々としていた私の心は幾分マシになった。
「――良い景色でしょう?」
突然声をかけられたので、視線を車内に戻す。見れば、向かいの座席には上品な身なりの老人が座っていた。長い顎鬚と眉毛がどことなく仙人のようである。
私がええと頷くと老人はそうですかそうですかと何度も頷いて、
「何十年もこの電車に乗っとりますが、いつ見ても良いものですな」
ところで、と老人は私の足下に目を向ける。そこには私たちの唯一の手荷物である四角い鞄が置いてあった。
「ご旅行――この方向だとXXのほうですかな?」
老人が言ったのはこの辺りで有名な観光地の名前だった。
私はまぁそんなところですと曖昧に答える。
――どこにいくか、まだ考えている最中だったから。
老人はそうですかそうですかと何度も頷いて、
「お二人にとって素晴らしい旅行になると良いですな」
私の傍らで眠る灰髪の少女と私の顔を交互に見ながら何度も何度も、それはそれは嬉しそうに頷く――。
――そんな夢を見た。
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