私が愛車で走るときは、あらかじめコースを決めて走る場合と、車輪の向くまま気ままに走る場合があります。コースを決めて走る場合は、だいたい長距離を走ることが多く、そんなときは時間が気になりますので、だいたい予定のコースどおり走ります。寄り道はできません。
しかし、気ままに走るときは違います。いつものコースを走っていても、突然脇道が見えてくるときがあります。そんなとき、面白そうな脇道だったら、すぐに脇道に逸れてしまいます。
脇道って面白いですね。自分の第六感にピンと来る脇道を見付けた瞬間、「どんな道だろう」と確認したいと同時に、ワクワクした楽しい気分になります。脇道に入って、すぐに期待どおりのすばらしい風景が展開されていようものなら、もうたまりません。自分だけの秘密の道を見つけたように思ってしまいます。
山の中の脇道の多くは、途中で途切れています。 山の中の脇道を、急な下り坂になっていても気にしないでどんどん下って行ったら、谷底の畑や田んぼに着いて、そこで道が途切れ、またもとの道まであえぎながら戻るということがよくあります。 でも、それは苦になりません。それが楽しいのです。
ある6月の日曜日、私はJR加茂駅を過ぎて木津川を渡り、和束方面への道を走っていました。左へ折れると海住山寺に通じる場所に来たとき、ふと、それとは逆に右に向かってついている脇道に入りました。それは、田植えが終わったばかりの、青々とした水田の中の道で、なんとなく気持ちよさそうに思えたからです。
思ったとおり、その道はなかなか快適な田んぼの中の道でした。緑に溶け込んでしまいそうな風景を楽しみながら走ることができました。 その向こうには山が見えました。上のほうは茶畑になっています。その茶畑の方に道が続いているように思えたので、どんどん山に向かって走り、山の裾野にたどり着きました。
するとどうでしょう。山の中腹を這うようにつけられた細い道が見えます。近づいてみると、田んぼに水を引くための疎水に沿って付けられた道でした。普段は草に覆われているのではないかと思われるような道ですが、きれいに草刈りがなされていました。水田に十分な水を流すための作業が必要な時期だけ通れるようにしているのでしょうか。
その道に入ってみると、木立の中、疎水に沿ってどこまでも続いています。シングルトラックとはこのような道のことを言うのでしょう、自転車1台がやっと通れるほどの道幅です。だんだん高度が上がって行って、谷川の斜面が切り立って、落ちたら30mほど下までまっさかさまというスリル万点の場所もありました。
木々に囲まれた静かなすばらしい景色を楽しみながらどんどん登って行くと、やがて道が途切れていました。どうやらここが終点のようです。しかし、水はもっと先から流れ来ています。本当は愛車をそこに置いて、なおも先を行ってみたかったのですが、その日は止めました。
この道は、たまたま6月に訪れたから、通れたのでしょう。ほかの季節だったら、見逃していたかもしれません。この道は、私の忘れられない道となりました。
先日も、いつも通勤で通っている道から、気になる脇道が見えていたのを思い出し、走ってみました。その道は、低い山々を切り拓いて作ったいくつもの畑に向かって続いています。きっとすばらしい景色が楽しめるだろうと思ったのですが、正解でした。それは、車道の下を走っているとは思えないほど静かな、山と畑に囲まれた道でした。心が和む道でした。
脇道は、ともすれば平凡になりがちなコースに、さまざまな味付けをしてくれます。いろいろな楽しみを与えてくれます。 それらのすばらしい脇道は、私のなくてはならない大切な宝の道になっています。