中国映画「山の郵便配達」を見ました。すばらしい映画です。ぜったいにお薦めです。
出てくるのは中国奥地の山の風景ばかり。しかし、美しいだけでなく、妙に懐かしいのです。外国の山であることはわかっています。なのにそれは、自分が子供のころ、何度も見た風景なのです。また、山の中の林道を走ったり、山に登るようになってから見た日本の山の中の風景なのです。私は自分の原風景を見ていたのかも知れません。スクリーンに映る美しい山々や山村の風景を見て、図らずも感動のあまり目頭がジーンと熱くなったことが何度もありました。
この映画を見ようと思っている方は、これ以降は読まないでください。余計な情報を入れないまま、とにかく見てください。このホームページをご覧いただいている野山の道愛好家の方なら、感動されること間違いなしです。
この映画のストーリーは、実に単純です。しかし、奥が深いのです。時代は1980年代、舞台は中国奥地の湖南省の山また山が連なる奥地です。そこで、長年にわたり郵便配達をしていた初老の男が、その仕事を息子に引き継ぎ、今日は初めて息子が父親に代わって郵便配達をするということで、男は息子と一緒に郵便配達に出かけます。郵便配達と言っても、郵便物がいっぱい詰まった重いザックを背負い、山のまた山を1日に約40キロも歩いて2泊3日で集配するという、ちょっと日本では考えらない仕事です。その3日間の山の中の郵便配達を通じて、父親と息子そして家族の心の交流を描いています。
父親はそのような仕事をしていましたから、普段家にいることがほとんどありません。そのためか、息子は父親になじめず、かつて「父さん」と呼んだことがないほど、息子は父親の存在を希薄に感じていました(しかし、もちろん父親はそうではありません)。
その息子と父、そして父といつも一緒だった「次男坊」という名の犬が山の郵便配達に出かけます。息子はこの山旅(仕事)を通じて初めて父親と二人きりで話すことになります。最初はぎこちなかった二人ですが、美しい山々の間を縫うように付けられた険しい道を歩きながら、自然といろいろな話をするようになります。そして、行く先々でいろいろな村人に会い、いろいろな体験をし、その中で、父と子はお互いを、そして母親を深く理解し合うようになります。息子は、ついに「父さん」と呼ぶようになりました。
何でもないような父と子の会話の中に、含蓄のある言葉がちりばめられていました。たとえば、山の尾根から遠くに見える自動車道を走るバスを見て、『バスを使って郵便配達はできないのかな』と尋ねる息子に、父は次のように言います。
『道は自分の足で歩け。楽をしようと思ってもいいことはない。』
新しい方法を提案する息子に対して、父親のこの言葉は時代錯誤的な内容かもしれませんが、私は別の意味で感銘を受けました。
また、山中の粗末な宿泊先で息子が父親に言います。『昔からここに住んで、山以外に何もない人たちだ』。 すると、父親はこう言って息子を諭します。『何もないと?自分でものを考えている。苦しみがあれば、考えることで乗り越える。考えることなしに人生の喜びはない。』
ああ何という言葉…。そうなのです。考えなければなりません。どこにいても、考えなければ、人生なんてあり得ないのです。
主人公の父親がいい味を出しています。一人の人間として、父親として実にいい表情をしているのです。父親は、過酷で見返りの少ない山の郵便配達の仕事に誇りを持ち、精を出して働いてきました。そしていつも家族の事を思い、大切に思って来ました。私もあのような顔の人間になれたらと思いました。この映画を見て、父親とは何かを学んだように思います。
息子も若者らしい、いい表情をしています。実にすがすがしいのです。 (笑った顔がメッツの新庄にちょっと似ていました。)
母親がこれまた良かった。スクリーンにはあまり出て来ませんが、すごく存在感があります。父親にも負けず劣らず、求心的な大切な役割を果たしていました。
それから忘れてならないのは、「次男坊」という名の犬です。すごくいい演技をしていました。最初と最後のシーンで、この犬の行動を通して大変重要なことが表現されています。最後のシーンに胸打たれました。この犬のおかげで、映画にふくらみが増したと思います。
この映画を見て、人生はいいものだと思いました。山の郵便配達という単純で過酷な仕事をしてきた人生を、外から見たら、何でもない面白くもない人生だと思うかも知れません。しかし、実はものすごく深く、豊かなのです。自分の人生を良く思うのも自分、悪く思うのも自分。自分の心がけ、考え方次第です。中国の壮大で美しい山の中の風景とあいまって、普通の生活の中で繰り広げられる喜怒哀楽こそが、人生そのものだと思いました。
この映画は、山好きの人間にはたまらないものだと思います。大好きな山々の美しい風景が、次から次へと出て来るのです。しかも、昔懐かしい「身近な」風景として。。。
私はいつしかスクリーンに映る山の風景に入り込み、二人が歩く山道を、マウンテンバイクに乗り、二人の後から走っていました。しかし、すぐに気がついたのですが、そのイメージはこの映画に対する冒涜でしかありません。それほど、この映画に出て来る山々の風景に圧倒されました。そして、いつかきっと中国に行ってみたいと真剣に思い始めました。
【追記1】 映画「山の郵便配達」について
【追記2】 映画の話題なので驚きましたか?