私はもともと登山が好きでした。学生時代は低い山にしか登っていませんが、会社に入ったとき同期生の中に登山が好きなS君がいて、その人に教えてもらって本格的に登山を始めました。日本アルプスや東北の山など、一緒に登りました。しかし、その人がやがて結婚し、しかも転職をしてからは、一緒に登る人もあまりなく、しばらくは単独行を続けていましたが、それも次第に足が遠のいてしまいました。
その後、車に興味を持ち、今度は車で林道を走る楽しみを覚えてしまいました。安細錬太郎さんの書かれた林道コースガイドをむさぼるように読み、そのコースガイドを参考に、近畿はもとより、中部、中国、九州、北陸、東北の林道を走りました(残念ながら四国と北海道の林道はまだ走っていません)。このとき、大自然のふところの中を走る喜び、時にはスリルを味わい、そして峠を越えることがいかに楽しいかを知ってしまいました。「あの峠の向こうには、どんな雄大な風景が広がっているのだろう」とわくわくしながら、いくつもの林道を走り、峠を越えました。
その林道ドライブも、今度は自分の結婚によって続けることができなくなりました。休日は自分のことより家族優先になります。そして、仕事も次第に忙しくなり、休日は平日の睡眠不足解消の日となってしまいました。運動もまったくしなくなって体重も増え、年齢を重ねるにつれ、体調がおかしくなって来ました。そのような生活をしていては当たり前ですよね。「このままではいけない」と思い、休日には近所を歩くなどしたのですが、コースがワンパターンとなってしまい、続けることができませんでした。
そんなときに出会ったのがマウンテンバイクです。漠然と「自分の自転車が欲しいなぁ」と考えていたら、ある雑誌でマウンテンバイクの記事を見つけ、「これだ!」と思いました。マウンテンバイクなら短時間で遠くまで行くことができます。野山を思う存分駆け巡り、自然を満喫することができます。短時間で、大好きな風景をいくつも楽しむことができます。自分が住んでいる地域の中で、いままで知らなかったいくつもの発見がありました。それに、大変運動にもなります。坂道を登るときは結構体力を使いますから。気分も大いにリフレッシュされます。
それからというもの、休日にはマウンテンバイクで野や山に出かけるようになりました。
この中でも私がやっているのはファンライドと呼ばれるものです。つまり、野山を自転車で駆け巡って楽しむわけです。
競技のほうは私はやったことがないのでよく知らないのですが、テレビなどでたまに見ることがありますね。MTBの雑誌などでかっこいい姿を見ると、年甲斐もなく競技にあこがれてしまいます。中でもクロスカントリーには興味があるのですが、腕が上がれば、いつかはレースもやってみたいなぁとは考えています。
私は街乗りは好きではありません。車や人が多く、いろんな気を使いすぎて、マウンテンバイクに乗ることを楽しむことができないのです。私には野山で乗るのが性分に合っていると思っています。何より自然に触れ、いろいろなすばらしい風景を楽しむことができますから。
私は自然の風景を見るのが好きです。「自然」とは言っても、純粋な自然だけとは限らず、長い時間の中で人間が自然とともに築き上げてきた、いわゆる「里山」に足を踏み入れ、その田園風景を眺めるのも大変好きです。私が四国の山の中で生まれ育ったせいかも知れません。野山の中にいると、それだけで心が和みます。
マウンテンバイクに乗るまでは、ときどき散歩をしていました。しかし、1〜2時間では、遠くに行くことはできません。目にする風景も大して変わらず、また、あまり運動にもなりません。しかし、マウンテンバイクを手に入れてからは、約2時間でいろいろなところに行き、いろいろな風景を楽しむことができるようになりました。山道を走りますので、けっこう運動にもなります。萎えていた足だけでなく、心も鍛えられる感じです。
自分の好きな風景を次々と目のあたりにし、体を動かして運動して、心身ともにリフレッシュできる。それが、私のマウンテンバイクなのです。
私はサラリーマンですから、ほとんど週に1回、日曜日にしか自転車に乗ることができません。夏場であれば、たまに土曜日の出勤前の早朝にも走ったりしますが、この1週間の間の1日ないしは2日がMTBに乗って自然の風景に触れることができる貴重な時間です。
それにしても、風景は季節の中でいろいろな姿を見せてくれます。これまでほぼ毎週朝、約2時間くらい野山を走ってきましたが、季節の移り変わりが本当によくわかるようになりました。特に天気の良い朝走ると、目にするもの全部が輝いていて、命の息吹を感じます。とても気持ちがいいです。「朝は“新しい日”の始まりなのだ」ということも実感しました。
私がホームグラウンドとしている場所は、「当尾の里」と呼ばれているところが中心です。当尾の里は京都府相楽郡加茂町にあり、山に囲まれ、自然がいっぱい残っている静かな山里です。加茂町は京都府の最南端に位置し、奈良市のすぐ北側に隣接しています。ですので、当尾の里だけでなく、奈良市の東側の山中にも足(車輪?)を踏み入れています。
加茂町には今から約1250年前(天平12年)に作られた都(恭仁京=くにきょう)の跡が残っていたり、山の中腹には観光地として有名な浄瑠璃寺、岩船寺があります。また、多くの石仏がひっそりとたたずんでいます。季節を問わず、とても魅力的なところです。
この当尾の里をちょっと走ったら、そこはもうマウンテンバイクのコースです。いろんな道を気ままに選んで楽しむことができます。木々に囲まれた山道を走り、青い空の下、風を切り、山頂付近の尾根道を走るのは格別ですね。
なお、私はハイカーが歩く道は原則として乗り入れません。自転車は排ガスも騒音も出さず環境にやさしいのですが、静かな山里をゆっくり歩きたい人にとって、自転車は異質な存在であると思うに違いありませんから。