一週間後、店を若いチーフに任せたヘンリーとレニーは二人の子供を連れて、空港から一路ロンドン目指して飛び立った。 フライト時間はたった八時間である。二十四年前、何日もかけて密航したヘンリーにとっては感慨ひとしおであった。 ロンドンに到着すると、彼は一人で警視庁におもむいた。担当の人間に会うと、すぐに研究棟の方に連れて行かれ、血液などを採取された。厳密な結果が出るには数日を要するという。 ヘンリーは妻子を連れてイーストエンドに行ってみた。さすがに昔の面影はどこにもなく、ショッピングモールが軒を連ねていた。 彼はだいたいの見当をつけて歩き、有名ハンバーガーショップの軒先に立ち止まった。 「ここだ……」 ヘンリーは呟いた。 「あなたのお家のあった場所?」 レニーが問いかける。 「そう。あの辺に窓があって、母さんがいつもミシンを踏んでいた」 ヘンリーは耳をそばだてるようにして、しばらくその場に立ちつくしていた。そのうち退屈してきたのか、幼い次男のフレッドがヘンリーの足に絡みついてきた。 「判った、判った。そろそろ行こうか」 そう言って小さなフレッドのご機嫌をとると、お澄ましの長女メアリーの腕をとり、レニーを促してその場を離れた。 「結果が出ました。あなたのご両親に相違ありません」 ヘンリーは担当医師の説明に、軽い眩暈を覚えた。 「どうぞ、こちらへお越しください」 医師はヘンリーを別室に連れて行った。そこには二つの箱が置かれてあり、被せられた布をめくると、その下には白骨が入っていた。 ふいにヘンリーの眼に涙があふれ出した。こらえきれず彼は床に膝をついた。 「父さん……母さん……やっと会えたね」 医師は何も言わず、じっとそばに立っていた。 姉の墓は、当局の手によって市営墓地の中に作られていた。父母の遺骨は、姉の隣に納めることにした。 三つの墓の前に、あらためて親子四人で並ぶと、ヘンリーは何かしら深い安堵感に包まれた。 ニューヨークへ帰ろうという前日、再び警察を訪れ、担当医師らに礼を述べた。 「ところで父と母は、どなたが発見してくれたのでしょうか?」 ヘンリーは捜査に当たった警部補に訊ねた。 「あの山の所有者が雇ってる労働者たちだよ。新しい畑を作ろうと耕していたら偶然出てきたんだそうです」 「良かったら、所有者の方の連絡先を教えてもらえませんか?」 |
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