We're alive
No.61

アマゾン 39

「うわっ!」
「がはっ!」
 弾着が川面に水柱を立てる。
 二人は樹の幹を盾に、間一髪で攻撃をかわした。
 黒ヘリは座礁した船の上を悠々と飛んでいく。
 レニーを乗せた捜索隊のヘリは、梯子を伸ばしたまま、空高く飛び去っていった。
「ゴホゴホッ……社長、ライフルを!」
「ダメだ」
「どうして?」
「巨大ワニで、弾丸を撃ち尽くした!」
 ヘンリーは唇をかみながら、樹にもたれかかった。するとメキメキメキと音を立て、唯一の命綱であったパンナムの樹が、真ん中からぽっきりと折れてしまった。
 ヘリは背後の雨雲に溶け入りそうな黒い機体を反転させた。
「また来るぞ、くそっ、もう隠れるところがない!」
「──社長、あれは誰でしょう?」
「なに?」
 ヘンリーが指さしたのは、高度を下げつつある黒ヘリの手前、座礁船の傾いたデッキの上だった。のそりと人影らしきものが現れたのである。
「あれは──」
「もしや──」
 現れた大男は、空に向かって吠えた。距離はかなりあるのに、声の一端が二人の耳に届いた。
「フランクは声が出せたのですか?」
「そんなはずはない」
 大男はフランクだった。しかし四日間どうやって……。
「生きていたのか」
「でも彼は大怪我をしているんじゃ──」
 フランクはもう一度吠えた。その時ようやく気がついた。彼はただやみくもに吠えているのではない。太い鎖を両手でつかみ、力一杯引き上げようとしていたのだ。
「彼は何を」
「黒ヘリが来る!」
“組織”のヘリコプターは、今まさに座礁船の上を、フランクの頭上を通り過ぎようとしていた。
「………!」
 思わぬ光景がそこに展開した。
 それは一瞬の出来事だった。
 フランクがあらん限りのパワーで引っ張り上げたものが、宙に躍り上がったのだ。
 錨(いかり)だった。
 本来なら停泊時に水底に落とされて役割を果たす巨大な重りが、空中に放りあげられたのだ。
 重さにして一トンはあるのでは……という疑問は、フランクの行動を前にして意味をなさない。
 そして──!
 空中の錨は、黒ヘリと交錯した。

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