「うわっ!」 「がはっ!」 弾着が川面に水柱を立てる。 二人は樹の幹を盾に、間一髪で攻撃をかわした。 黒ヘリは座礁した船の上を悠々と飛んでいく。 レニーを乗せた捜索隊のヘリは、梯子を伸ばしたまま、空高く飛び去っていった。 「ゴホゴホッ……社長、ライフルを!」 「ダメだ」 「どうして?」 「巨大ワニで、弾丸を撃ち尽くした!」 ヘンリーは唇をかみながら、樹にもたれかかった。するとメキメキメキと音を立て、唯一の命綱であったパンナムの樹が、真ん中からぽっきりと折れてしまった。 ヘリは背後の雨雲に溶け入りそうな黒い機体を反転させた。 「また来るぞ、くそっ、もう隠れるところがない!」 「──社長、あれは誰でしょう?」 「なに?」 ヘンリーが指さしたのは、高度を下げつつある黒ヘリの手前、座礁船の傾いたデッキの上だった。のそりと人影らしきものが現れたのである。 「あれは──」 「もしや──」 現れた大男は、空に向かって吠えた。距離はかなりあるのに、声の一端が二人の耳に届いた。 「フランクは声が出せたのですか?」 「そんなはずはない」 大男はフランクだった。しかし四日間どうやって……。 「生きていたのか」 「でも彼は大怪我をしているんじゃ──」 フランクはもう一度吠えた。その時ようやく気がついた。彼はただやみくもに吠えているのではない。太い鎖を両手でつかみ、力一杯引き上げようとしていたのだ。 「彼は何を」 「黒ヘリが来る!」 “組織”のヘリコプターは、今まさに座礁船の上を、フランクの頭上を通り過ぎようとしていた。 「………!」 思わぬ光景がそこに展開した。 それは一瞬の出来事だった。 フランクがあらん限りのパワーで引っ張り上げたものが、宙に躍り上がったのだ。 錨(いかり)だった。 本来なら停泊時に水底に落とされて役割を果たす巨大な重りが、空中に放りあげられたのだ。 重さにして一トンはあるのでは……という疑問は、フランクの行動を前にして意味をなさない。 そして──! 空中の錨は、黒ヘリと交錯した。 |
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