ヘンリーはハイと答えると、胸の前で腕を組んだ。 「泳いで渡るんです。最短距離の岸辺まで一直線に」 「バカな! ワニの餌食になるだけだ」 「泳ぐのは私か社長のどちらか一人です。もう一人はここに残って、泳ぎ手に近寄るワニを撃つんです」 「なるほど、援護射撃か」 「そして渡った方が救援を呼びに行くという寸法です」 「………」 「いかがですか?」 「悪くない考えだが──」 頭の上の暗がりで、ノーマンが身じろぎした。 「どちらが泳いで行くんだね?」 「朝までに決めましょう」 ノーマンが笑い声を漏らした。 「君のことだ。その先も検討済みだろう?」 「一応は」 「フフフ、もったいぶるじゃないか。それなら私が答えてやろうか。 まず私が泳いで渡る場合。うまく岸辺にたどりつけば、ジャングルの中とはいえ土地鑑のある人間だ、人里を探し当てる自信はある。だが問題点が二つある。一つ目はこの脚だ。体重を支えて長距離を歩くのは無理だろう。二つ目は援護する君の射撃だ。ライフル銃など扱った経験はあるまい。となると援護してもらえるかどうか。下手をすれば私の背中に穴が開く。もっとも敵討ちの目的は達成されるわけだが……」 ノーマンはわざと話を中断させると、枝に吊したペットボトルの水をぐいと飲んだ。 「さて逆に、君が泳ぎ渡る場合。私より若い君のことだ。成功率は高い。そして私は射撃の腕に自信がある。そこまでの話なら、こちらの組み合わせを選択するのが妥当だろう。ところが問題点。君はアマゾンを全く知らないときた。いきなりジャングルに入っては、道に迷ったあげくに、のたれ死ぬか、猛獣の餌食になるのが関の山だろう。それ以前に、もし私が泳ぐ君を背後から撃ったりしたらどうする?」 「ありがとうございます。問題点を浮き彫りにしてくださって」 間髪入れず、ヘンリーは答えた。 「どちらのオプションを採用するかは、明日決めましょう。でも明日、決行することだけはOKしてもらえませんか?」 「いいだろう。君がそこまで主張するなら」 ノーマンはあっさりとゴーサインを出した。 ヘンリーも軽い口調で、 「朝になったら、マナウスまでの地図を書いてください。私は子供の頃から初めての町でも平気で歩けるぐらい、勘のいい子だったんですよ」 するとノーマンも負けずに、 「君には銃でワニどもを脅して一列に並ぶよう命令してもらおうか。私は奴らの背中を渡っていくよ」 また流れ星が一筋、空に軌跡を描いた。 「社長、質問があるのですが」 「今度はなんだ?」 「あなたは元秘書であるアラン・ベネットを消すよう、“組織”に依頼したのでしたね。私を手許に置くため」 「ああ、昨日話したとおりだ」 「あなたは今でも自分の行いが正しかったと信じていますか?」 |
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