なんと二人はグリーンウッド子飼いの人間ではなく、“組織”との連絡係だったのか。それともお目付役か。 「彼らの力は恐るべきものだった。彼らにできないことはおよそ無かった。 たとえば情報収集能力だ。ある企業間が極秘裡に進行中の合併・買収計画、土地開発や企業の誘致計画といったものから、A社のS部長はどこそこに愛人を囲っているだとか、市役所の出納課長は使い込みが露見するのを恐れて日々びくびくしている、などという、個人の弱みに関するものまでな。そしてどの情報も、私の計画を邪魔する者を消すには、絶好のネタばかりなんだ。 私は驚かずにはいられなかったよ。そして得られた情報は有効に使わせてもらった」 「──お教えください」 「なんだい?」 「裏の仕事はすべて“組織”の手によって?」 「そうだ。私が直接、手を下したことはない」 「実行するかどうかの判断は誰が?」 「それは私だった。……言い落としたが、最初の頃は彼らの方から計画書仕立てで情報を持ってきていたが、慣れてくると、私の方から、どの社の誰に弱みはないかという注文を出していた。それに対して彼らは求める以上に重要な情報を持ってきた。 いわば私が立案し、決断して、彼らが遂行する。もっとも細かな点はおまかせだったがね」 ヘンリーは腕が小刻みに震えるのを抑えることができなかった。 いまここでノーマンを撃ち殺したい! 奴の心臓に鉛の銃弾を浴びせたい! これは父の分、これは母の分、そしてこれは姉の分と一発ずつ数えながら……。 しかし、しかしまだ確認することが残っている。 「社長はそうやってロンドン一、いやイギリス一の企業にまでグリーンウッドを発展させたのですね」 「そうだ」 「そして、更なるステップとしてニューヨークに乗り出した」 「そのとおり。世界への足がかりとしてアメリカへ進出。たかがイギリスの一企業がアメリカという大市場に挑戦したのだ。最初は誰もが私の失敗を予想していた。なのにどうだ! 数年後にはアメリカ流通業界のトップに躍り出たのだ。 君はこの偉業を“組織”のおかげだ、と言うかね?」 「………」 「とんでもない。彼らはあくまで道具だ。使い道を決めたのは私ノーマン・グリーンウッドだ。私という傑出した人物の頭脳があったからこそ、“組織”の力を有効に活用することができたのだ」 有効活用。まさにノーマンの口癖だ。 「──裏返せば、彼らに自分たちの力を使いこなす頭脳はなかったのだ。いわば我々は、世界一優秀な指揮官と世界一強力な軍隊の組み合わせだ。誰が攻めてきたって太刀打ちできるわけがない。この世に敵なし。君に判ってもらえるかな。指先一本で気に入らない人間を消すことができるということが」 ハハハとノーマンは笑った。しかしその笑いには少しも力がこもっておらず、どこか自虐めいた響きがあった。 「──すべてがゲームに思えたよ。某研究所の研究業績を発表直前に奪い取ったのもゲーム。某社の社長に濡れ衣を着せて自殺に追い込んだのもゲーム。判らないだろうな、この気持ち」 さらに冷ややかに笑い続ける。 聞いていたヘンリーは胸が悪くなり、面を伏せて顔をしかめた。しかし閉じた瞼の裏に突然ある人物の顔が浮かび上がった。夜のパブで赤い顔を寄せてきたあの男。 「社長はまさか、アランを……」 「ふふふ、アラン・ベネットか──そうだよ、彼を事故死に見せかけて亡き者にしたのは私だ」 |
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