再び電話が鳴ったのは四日後だった。 「ご連絡が遅くなりました」 「で、それで家を、隠れ家を見つけましたか?」 「いえ、ただ良いニュースと悪いニュースがあります」 「……悪いニュースから聞きましょう」 「──申し上げにくいのですが、彼らを見失いました」 「見失った……」 「順を追ってお話ししましょう。ベレンで発見した二人組は、そこからアマゾン川をさかのぼる船に乗りました。うちの探偵も乗船し、二人組を見張り続けました。そして彼らが船を下りたのは、マナウスでした」 「マナウス……」 ヘンリーは受話器を持ったまま、壁の地図に近づいた。そこには南米大陸の巨大な地図が貼ってあった。ベレンには赤いピンを刺してある。 「ベレンの近くには、そんな名前の町はありませんが」 「地図をご覧ですね? 近くじゃありません。ずっと内陸です」 「内陸の……」 「アマゾン川に沿って、ずっと西の方角です」 言われるままに指を動かしていくと──あった! マナウス。なんとそれは──。 「ジャングルのど真ん中じゃないですか?」 「そうです。まっただ中です」 ジャングル。密林。アマゾンの奥深く。 「そんな人里離れた場所なら、なかなか見つからないわけだ……」 「マグワイアさん、それは誤った先入観です。人里はありますよ」 よく聞いてみると、マナウスは人口百四十万を有するブラジルでも指折りの都会なのだそうだ。十九世紀の終わり、空前のゴム景気に沸いたマナウスは、一攫千金を夢見た人間が、ヨーロッパから大挙して押し寄せたという。 「巨大な産業都市であり、重要な貿易港を擁していて、いわゆるアマゾン観光の拠点にもなってます。まあ旅行会社のパンフには大抵そう書いてありますよ」 「そうなんですか。これは偏見を捨てなきゃいけないな。……で、お話の続きを」 「はい。じつはそのマナウスなんです、ウチの者が二人組を見失ったのは。ベレンから四日がかりの船旅で到着したのはいいけれど、人混みに紛れてしまったのだというのです」 なんとも残念な話だ。見失った場所が都会の中とは。 「それで、良いニュースは?」 「ええ、それがですね」 船を下りた二人は、そのまま港近くの大衆食堂に入ったのだという。非常に小さな店だったため、尾行に気づかれるのを恐れて探偵は中に入らず、向かいの店先でガラナという炭酸飲料を飲みながら、出てくるのを待っていたらしい。そのうちに別の客が店の入口で足を止めた。男は挙動不審気味に左右に目を走らせ、戸口で待っていると、中の二人がすぐに出てきた。三人はそのままひとかたまりになって歩き出すと、店の前を通りかかった団体ツアー客の群れに混じってしまった。あわてて追いかけたが、すでに三人は影も形もなかったという。 「気づかれたのでしょうか?」 「かもしれません」 「町中で尾行するのが一人ではそもそも無理だったのでは」 「とんでもない。先回りして船の到着する場所ごとに数人ずつの探偵を配置しておりました。そのときマナウス班には他に四人おりましたので、都合五人。それが巻かれたのですから」 「巻かれた……」 「ええ、彼らは忍者のように消えた。言い訳がましいですが、あれは常日頃から逃げ慣れている動きだったと、ウチの者は言っておりました」 なるほど。あり得ることだ。 「ところでその話、ちっとも良いニュースではないんですが」 「失礼、申し忘れていました。その三人目の男というのがですね」 ヘンリーはハッと身が固くなるのを感じた。 「ま、まさか!」 「そうなんです。ノーマンさんに酷似していたと」 後はろくに聞いていなかった。 ついに……ついに! 久々の朗報だ。五年間の捜索がついに報われた。 今度こそ。本当に今度こそ逃がしはしない。 地の果てだろうが、密林の深奥だろうが、とことん追いつめてやる。 |
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