We're alive
No.26

アマゾン 4

 警察もFBIも当てにならないと踏んだヘンリーは、独自の捜査を始めた。多数の私立探偵を雇い、アメリカだけでなく、世界中に捜索の網を張った。ただし探す対象はノーマン・グリーンウッドではない。フランク、そしてティムである。誰も消えたボディガードのことなど眼中にないようだが、ヘンリーはそこに着目した。著名人のノーマンは拉致されているにせよ、しないにせよ、動けば即刻、情報が入ってくるはず。それがないとすれば少なくとも傷が癒えるまで人目に付かない場所にいるのだろう。フランクとティムがノーマンと同時に消息を絶ったということは、二人は今こそノーマンの手足となって身の回りの世話をしているに違いない。そう考えるのが自然だ。

 ヘンリーは忍耐強く二人を捜し続けた。
 フランクにしろティムにしろ、元々はノーマン個人が雇っていたので会社に詳細なプロフィールは残っていなかった。普段から無口な二人だったから、ヘンリーは彼らの声どころか、くしゃみすら聞いた記憶はない。年齢も出身も家族構成も不詳。おおよその身長と体重、そして無表情の似顔絵だけが手がかりである。
 たいていの探偵事務所は「発見は無理だ」と言った。しかしヘンリーには確信があった。
 フランクとティムは一緒に動いている。だから二人組もしくは病人連れの三人組を捜してくれと依頼した。それならばと十数社の高名な探偵事務所が腰を上げた。捜査規模が大きいため、莫大な調査料を要求されたが、ヘンリーは金に糸目をつけなかった。
 ノーマンが見つからなければ、今までの人生は無駄になってしまう。なんとしても発見しなければならない。
「よく似た人間がいる」との情報は毎週のように飛び込んできた。そのたびにヘンリーは出かけ、面通しを行い、がっかりして帰ってくるのだった。出かける先はアメリカ国内は言うまでもなく、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、インド、日本……。さらにはアフリカ大陸や中近東諸国へも足を運んだ。どんなに無駄足に終わろうともへこたれず、次の情報が入ると、またすぐ出かけていった。
 一年が過ぎ──。
 三年が過ぎ──。

 五年後──。
 ヘンリーは三十四歳になっていた。
 この日、入ってきた情報はサン・パウロに支部を持つ探偵社からだった。探偵の一人が捜査対象に極めて似た二人組を目撃したというのだ。二人は互いに会話を交わすことなく、他人とのコミュニケーションは筆談で行っていたという。
 ヘンリーは直感した。
 間違いない。フランクとティムだ。
 彼は電話口に向かって、発見場所はどこかとせっついた。
「ベレンです」
「ベレン……それは、どこなんですか?」
「ブラジルの北部、赤道直下の港町ですよ」
 ブラジル──。南米大陸からは初の情報である。
「どうやら二人は買い出しに出てきたようです。このまま追跡します。行方が判明次第、続報をお伝えしますのでお待ちください」
「は、はい、待ってます!」
 逸る気持ちを抑えつつ、受話器を置いた。
 ヘンリーはすぐさまインターネットで検索した。
 南米。ブラジル。ベレン。あった。
 アマゾン川の河口に位置するパラー州の州都。
 北部ブラジルの重要な港町。
 彼はすぐ旅支度を始めた。とはいえ日頃から旅装を解いたことなどない身。現に先週、日本から帰ってきて、リュックを部屋の片隅に放り出したままだ。下着などを適当な枚数だけ放り込めば今すぐにでも出かけられる。
 彼は続報を待った。ひたすら待った。

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