We're alive
No.21

ニューヨーク 11

 警部は周囲の警官隊に目配せした。
「ようし、撃たないから、ゆっくり降りてこい」
「降りていく。その前にひとこと言いたい!」
 犯人は姿を見せないまま、言葉を続けた。
「俺の妻と子はな、ノーマン・グリーンウッドに殺されたんだ。──俺の家はグランドセントラル駅の裏で代々レストランを営んできた。駅員に“フレッドの店”って聞いてみな。誰でも知ってる。──そんな俺の店をグリーンウッドの奴ぁ、立ち退けって迫ってきやがったんだ。それもあくどいやり方でな、チクショウ。俺のご先祖様があの場所に店を構えたのは不法行為だったと言いがかりをつけやがった。おとなしく土地を明け渡さねえと不愉快な目ェ見るぞと脅しやがったんだ!」
 警部がトランシーバーに向かって何やら話している。
「──その日から嫌がらせの連続だ。それだけなら我慢のしようもあった。奴らはな、俺の妻を轢き殺しやがったんだ! 逃げていく車を見た人間はいっぱいいたさ。でも犯人が挙げられないってどういうこった? おまけに今度は息子がハドソン川に浮かんじまった。体ン中からドラッグが検出された? そんなわけはねえ! あいつはそういうの一番嫌ってたんだぜ! おかしな話ばかりだ。あるとき俺の仲間が教えてくれたんだ。息子を拉致した奴はグリーンウッドの手下だってな。それでようやく合点がいったってわけだ。
 あいつは、ノーマン・グリーンウッドは人殺しだ! ならば俺が仇を討とうが文句を言われる筋合いは──」
 ビシッという音がして、犯人の独白が途切れた。
 警官隊が警部の合図で駆け上がっていく。
 向かいのビルからSWATによって狙撃されたのだ。
 それが駅の名物男フレッド・モースの最期だった。

 ノーマン・グリーンウッドは一命を取りとめた。しかし全治三ヶ月と診断され、入院を余儀なくされた。
 ヘンリーは取締役会と病院のあいだを、日に何度も往復するはめになった。グリーンウッドには何人もの重役たちがいたが、あくまで形式上で、実質はノーマンの独裁企業である。ノーマンが判断し、命令を下さねば、グリーンウッドグループはすぐにも立ち行かなくなる。
 長い手術を終え、面会謝絶の札が取り払われて初めてヘンリーが病室を訪ねたときに、ノーマンが発したのは、
「エレノアはどうなった?」
であった。即死であったことを告げると、ノーマンはしばらく黙祷するように目を閉じていた。
「犯人について、お聞きになりたいですか?」
 いずれ誰かが伝えるだろうが、ヘンリーとしてはノーマンの反応が知りたかった。
「うむ。教えてくれ」
 ヘンリーが話しているあいだ、ノーマンは眉一筋動かさなかった。看護士が活けたのだろう花瓶の花を見つめたまま、ひとことも口をはさまなかった。
 ヘンリーは疑問点をたださずにはいられなかった。
「犯人がしゃべったことは、本当なのでしょうか?」
 ノーマンはようやく眉を開いた。
「聞いてどうする?」
「いいえ……」
「よけいなことは訊ねなくていい。それよりもエレノアの葬式への代理出席、よろしく頼むぞ」
「はい」
 病室の外では、数人の警官が廊下に等間隔で立っていた。フレッド以外にも、この機会にノーマンの息の根を止めようと狙う人間がいるのかもしれない。この厳重な警戒を見れば、警察が裏情報をつかんでいるのは明白だ。
 病室の前で、フランクとティムを姿を見かけたのが、何やらホッとさせられた。

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