アラン・ベネットの遺体は、翌日の昼頃になって発見された。警察の発表によると、死因は車に撥ねられたことによる内臓破裂。すぐに搬送されていれば助かる可能性があったが、零下五度の中に一晩放置されたことで凍死したともいえる。 警察は轢き逃げ車を捜している。どうやら車に乗っていた連中が人目につかないようにアランを引きずって路地に隠したのだと疑われているらしい。発見が遅れるよう、手前にゴミバケツを並べる念の入れようだ。 ヘンリーは気が気ではなかった。 そういえば、無意識のうちにゴミバケツを動かしたような気がする。さいわい、手袋をしていたのでどこにも指紋は残らなかったろうし、未明まで降り続けた雪が足跡も含めて、すべてを真っ白に消してくれた。 しかしヘンリーの心中まで真っ白とは言えなかった。 “アランを見殺しにした”。 “お前は自分の目的のために、アランを見殺しにしたのだ”。 囁きが耳について離れなかった。 ノーマンはNYPDに対して、全力を挙げての捜査を求めた。アランはノーマンの腹心の部下であり、警察としても、今をときめくVIPの片腕を殺害した犯人を挙げなければメンツにかかわると、全署をあげて捜索に奔走した。だが犯人は一向に尻尾をつかませなかった。 アランの葬儀が行われた翌日、ヘンリーは、ノーマンから社長室へ来るようにと呼び出された。 緊張の面もちで社長の前に立った販売部長は「このたびは誠に……」と悔やみの言葉を述べかけたが、ノーマンが手を挙げて制止した。 「葬儀は終わったのだ。あとは警察の仕事だ。もう忘れよう」 「は……」 ノーマンは立ち上がって窓辺に寄り、ガラス越しに朝日を浴びる摩天楼を遠望した。 「君は私の話を覚えているかい?」 「………」 「私は約束を守る男だ。ようこそ、ハンス・マグワイア君、今日から君が私の片腕だ」 「──ありがとうございます」 ヘンリーは表情を隠すように深々と頭を下げた。 「警察は公にしていないが、アランはどうやら酩酊状態にあったようだ。日頃から過ぎる傾向があったからな。私も再三注意していたのだが……。おっと、忘れようと言っておきながら愚痴っぽいことを。私らしくもない。その点、君はあまり飲まないらしいな。いいことだ。私と君は芸術を愛でながら、心で酒を飲める人間だ。 今後のさらなる活躍を期待しているぞ、ハンス君」 「ご期待に添えるよう、がんばります」 |