うっすらと空を染める曙色が、瞼のあいだを通して、彼の眼を刺激した。 いつの間にか、眠りに落ちたらしい。こんな極限状況にいるというのに。 刻々と高度を上げる太陽は、彼を取り巻く絶望的な状況を容赦なく照らし出した。 夜目に見た以上に、川の両岸は遠い。 大声を張り上げれば届きそうな距離ではあるが、間に横たわる河はとてつもない急流で、泳ぎ渡ることなど到底不可能だ。 助けを呼ぼうにも、岸辺ははみ出さんばかりに茂ったジャングルであり、誰かが通りかかるなんて見込み薄だ。 目を転じる。 月の下では悪魔の使者にも見えた水上の木々が、太陽の下では、大蛇のごとき濁流のうねりに必死に耐える、ひ弱な存在にしか見えなかった。 彼の目が、木々と水面が接する部分に吸い寄せられた。 あちこちにさまざまなものが引っかかっている。 船の積荷、浮き輪、樽。誰かの野球帽もある。 そして……人だ。 屍体が目に入ったとたん、彼は吐いた。 あれだけの事故だ。予想はしていたものの、やはり衝撃的だった。 数えたくはないが、気づいただけでも五体はある。 ──助かったのは自分だけなのだろうか。 絶望感と疲れが肩にのしかかる。 彼は我が目を疑った。 屍体と思っていたひとつが動いたのだ。生きている。 距離は五、六メートルぐらいだ。 「おーい!」 彼は水音に負けない大声で叫んだ。 「おーい、こっちだ!」 呼びかけられた男は、その白髪頭を上げた。 男の顔がこちらを向いた瞬間、世界がグルグルと回転を始めた。 最後まで隠れていた激情の記憶が呼び覚まされ、すべてのパズルが置かれるべき場所に収まった。 その男こそ──。 ヘンリーを苦しめ、彼から肉親を奪った男。 どんなに憎んでも余りある、この世で最も許すことのできない男。 「……ハンス……ハンスか?」 男は苦しげな声で、ヘンリーのもうひとつの名前を呼んだ。 |